【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第9分科会 子どもと地域社会~子どもの居場所をつくるのは誰?~

 宇都宮市職労が2008年に誕生させた、官民協働まちづくり研究所「シティ・ラボ・うつのみや」。現在「子ども・子育て支援」に最も力を入れ、社会的養護活動を行う「子ども応援団・短足おじさんの会」、「ひとり親家庭学習支援・チャイルドシード」と活動を展開し、その中で出てくる発想を育み、結び、分かち合う「コーディネーター」役を担っています。今一番求められていると感じる、この役割の重要性についてレポートします。



子どもの「夢」と「標」と「的」を育む、
シティ・ラボ・うつのみやの実践活動
―― 「コーディネーター」の重要性 ――

栃木県本部/宇都宮市職員労働組合・書記 金子源太郎

1. 「子ども応援団・短足おじさんの会」から得る発想

 シティ・ラボ・うつのみや(以下、ラボ)は2015年3月、児童養護施設の入所児童に、社会に役立つ技術を習得してもらうためのボランティアグループ「子ども応援団・短足おじさんの会(以下、短足会)」の設立と運営に参画してきました(設立背景と趣旨、経過等については、第36回宮城自治研第1分科会報告書集「『子ども応援団・短足おじさんの会』の活動実績から見える市民支援による社会的養護のあり方に関する提言」を参照)。
 4年目を迎えた短足会活動は、子どもが将来に向けてより一層、「『夢』を抱き、『標(目標)』を見い出し、『的』を射る」ことができるように、そしてボランティア集団であるからこそ、会員に過大な負担がかからぬよう、運営体制を見直し地に足をつけた支援活動を展開しています。

栃木県公式HPより
(1) 短足の「あしなが」活動
 これまで児童養護施設の養徳園(さくら市)を中心とした活動でしたが、会員が増えたため県内を5つのブロックに分け、現在は児童養護施設だけでなく自立支援ファミリーホーム(以下、FH)にも活動を展開しています。
 児童養護施設とFHとでは、入所児童数・年齢、職員構成(FHは里親)など、性格は全く異なります。何より国をはじめとする各種補助金額に差があり、施設側から求められる物品や人的支援も違うことがわかりました。
 短足会は、真正面から入所児童と接し、子どもに夢と希望を与え、将来の社会生活のために必要な「技」(いわゆる「手に職」的なもの)を身に付けてもらうことを目的としているため、会員と子どもたちのコミュニケーションは、より密度が濃いものになります。ゆえに子どもたちの求めるもの(物品、イベント等)がいかに真剣であるかを肌身に感じるため、子どもの実になるよう会員間で情報交換をして、要望に応えています。
 これらの活動を内外に周知することで、会員はもとより活動に賛同する個人からの寄付や、他団体からの寄付も少しずつ集まるようになりました。大切な浄財の用途については、月に一度開催している事務局会議で議論し、適切かつ有効に効力を発揮できるような施設、イベントに使用させていただいています。
 寄付する側の一方的な思いやりではなく、子どもたちの要望に沿った寄付は、短足会ならではの「あしなが」活動として位置づけ、今後は退所児童支援も視野に入れた展開(例えば成人式の着物レンタルなど)を考えています。
2018年3月9日付 東京新聞(栃木版)

 

(2) 子ども食堂デリバリー
 短足会員に、宇都宮市の地域コミュニティーセンターに勤務されている方がおり、長年、月に一度の高齢者向けサロンを開催し、センターで昼食を調理し提供してきました。評判が上がるにつれ、農作物などの食材提供が増えたこと、そして子ども食堂が全国的に注目されてきたこともあり、サロン開催日の夕方にセンターでの「子ども食堂」をオープンさせました。
 しかし、それでも余る「もったいない食材・料理」を何とかできないかと考えていたところ、あるFHの施設長から「児童養護施設と違い職員数が少ないため、月に一度だけでも、夕食調理だけでもヘルプに来てくれると助かる」との声をキャッチし、「子ども食堂の料理をデリバリーする」発想に辿りつきました。
 この取り組みは2017年4月より実施し、現在3人の会員で月に一度、センターで子ども食堂とFH分の調理をし、できあがった料理をFHに運び届ける「夕食デリバリー事業」として継続しています。また時には、FHの台所にお邪魔し、調理人として腕を振るうこともあります。FH職員と入所児童と一緒に夕食を摂りながらコミュニケーションを図ることもでき、好評を得ています。

(3) 夕食デリバリーから発展する災害時対応力の育み
 夕食デリバリーを担う3人の会員は、大量調理に自信をつけていますが、好評に拍車がかかっているため、今再び余りそうな食材に悩みを持っています。
 ここで二つの発想が生まれました。一つは、この取り組みを他の施設でもできないか、ということです。ここで言う「他の施設」にも二つの意味があり、要望するFH施設が他にないか掘り起こしをするということと、夕方に調理できる施設を増やせないか、ということです。「できたて、作りたての手料理」をデリバリーするには、やはりできるだけ近隣の施設で調理した方が望ましいですし、デリバリーすることで、よりFH施設職員と入所児童とのコミュニケーションも育まれます。
 会員3人の発想は、ここからさらに「できれば各施設近隣に住む独居老人にも、月に一度でいいから夕食をデリバリーできないか」と発展しています。デリバリーの対象者や協力者は「自治会有志からのスタートでもいい」と。「地域の見守りにもなる」「その目を増やしたい」という思いが、背景にあります。
 この声を聞いたラボの発想が、二つ目になります。一昔に比べ、大量調理できる人材が少なくなってきています。これは自治体における学校給食調理員が減少しているということだけではなく、見方を変えれば自治会における「炊き出し」を伴うイベントが時代と共に少なくなり地域の調理人、そして調理器具すらもなくなってきている現状もあるからです。しかし、この事業が実現すれば、災害時に大きな力を発揮すると考えています。
 災害時に調理できる人材を平時から育むことができますし、さらにデリバリーを通じて地域住民自らが安否確認を行ったり、避難所におけるコミュニティ作りにも大いに役立つ要素があると思います。災害時に避難場所として指定されている所は、地域コミュニティーセンター、学校など大量調理ができる場所でもあります。それを平時に、用途と責任を明確にした上で地域にオープンにすれば、閉塞感漂う地域コミュニティに潤いを与えるだけでなく、行政からの情報伝達も含めた災害時における対応力も培われていくものと思います。
 そのためにも今後、現在実施している夕食デリバリー事業の発展と支援を行いながら周知し、現在抱く二つの発想が実現できる施設、地域、人材を探して行きたいと考えています。

2. 「チャイルドシード」本格始動に向けて

 児童養護施設等の入所児童は生活面や学習環境面で、ある意味恵まれているかもしれないと、短足会活動を通じ感じています。短足会だけでない他の多くのボランティア団体や個人、企業が関わっているため、少なくとも学校や施設職員だけではない、他の大人との接点や楽しいイベントに参加する機会があるからです。一方で、生活保護を受けながら子どもを養育する家庭に対し、教育・学習の平等化や学力低下の防止、コミュニケーション能力の向上に各自治体やボランティアが乗り出し、力を注ぎ始めています。
 これらの支援事業が徐々に広がりを見せる中、ラボはさらに一歩踏み込み「ひとり親家庭学習支援・チャイルドシード(以下、CS)」を2015年に設立し、無料塾の開塾に向け3年間、調査・研究を重ねてきました。対象は、生活保護といった公的補助を受けずに頑張る「ひとり親家庭」です。
 居住地近くに親類縁者もなく、ひとり親で頑張る家庭の子どもは、学力をはじめとして、学校の先生以外、他の大人との接点がないためコミュニケーション能力なども低い傾向にあること、また将来の夢があり、目標をしっかりと持ちながらも学習できない環境に「自ら諦めてしまう」子どもが実に多いこと、何より「ひとり親家庭」が年々増加傾向にあることが、これまでの調査で判明してきました。

 ゆえにCSは、ひとり親家庭において学習力を向上したいけれど、親の収入や働き方により学習の機会を奪われている(諦めている)子どもたちを対象にした無料塾の設立をめざしています。
 これまでCSの趣旨に合う家庭が多いであろう地域と小中学校の絞り込みや、開塾の場所、理解ある民間塾との連携を模索したりと紆余曲折の経過を辿ってきましたが、今秋、宇都宮市中心市街地にある民間教育施設の一室を借りることが決まったため、現在、入塾者向けの案内と講師スタッフの募集に力を入れています。

3. 障がい児支援に向けて

 短足会活動を通じて、もう一つ気づかされたことがあります。それは児童養護施設等には、心身に障がいを持つ入所児童が多いことです。このような子どもたちを支える活動を実践するためには、障がい福祉分野の専門知識や経験がなければ思うようにできません。そのため、この分野に力を入れる他団体を短足会として間接的にサポートしています。
 一方で、ラボにも「一番税金を使うべきところでもある障がい福祉分野に、まだまだ支援が足りない面がある」、「障がい児を持つ家庭における情報収集に偏りや不足がある」、「これらを補うため、家庭同士の情報交換の場が欲しい」といった多くの意見が寄せられています。
 今はその声を聞くことだけに専念し、具体的な取り組みを始めていません。例えば「情報交換の場」を実施するにも、車椅子を考慮に入れた駐車スペース、室内も含めたバリアフリーや寝転んでもいいようなスペースの確保、呼吸器等の器具をつなぐコンセントやトイレの問題など、健常者には気づかない様々な課題をクリアしなければならないからです。今はそのような視点や情報を吸収し続け、短足会を始めとして知り合った方々に相談し、要望者の期待に見合った形に少しでも近づけ具現化できることを目標に、調査・研究をし、また発信をしていきたいと考えています。

4. 結びに ~ 求ム コーディネーター ~

 ラボは短足会、CS、そしてゆくゆくは障がい児支援と「子ども・子育て」に軸足をおいた支援活動に取り組んでいます。その原動力は、「どんな境遇にあっても子どもたちが『夢』を抱き、『標』を見い出し、『的』を絞って人生を歩み続けてもらいたい」という思いしかありません。そのために何ができるかを考え、それぞれの活動に飛び込んで様々な視点や発想を育み、具現化しているに過ぎません。
 貧困の連鎖がクローズアップされた時、「どうすれば負の連鎖を止められるか。その顕著たる児童養護施設入所児童がしっかりと社会に旅立つことができれば、1つクリアするのではないのか」と立ち上がった短足会に、当初から関わることができたからこそ、入所児童に障がい児が多いことを知ることができました。「障がい児も何とかしたい」と思う会員も増えてきている中で、ラボに寄せられた「障がい児家庭支援要望」があります。この二つの思いを、何とか形にしたいと思っています。
 また、「ひとり親家庭」に着目し短足会とほぼ同時期に設立したCSも、視点は異なりますが貧困の連鎖を断ち切る新たな手法であると思っています。「子を持つ家庭への支援」という意味では、今後家庭に関わる場面も増えてくることから、「障がい児家庭支援」とリンクする部分が現れてくるような気がしています。
 短足会でもCSの活動でも、思いと発想のマッチングを見い出し、実践と運営に汗をかくのはラボの会員です。このコーディネーターの役割が今、一番求められていると感じています。
 ラボはこれからもコーディネーター役として様々な芽を育み、芽と芽を結びつけたりしながら、仲間と分かち合う「オリーブの木」になることをめざして活動を続けていきます。
 さらに、コーディネーター役の人材発掘、特に公務員に照準を合わせて声をかけていきたいと考えています。なぜなら他の職種に比べ、公務員は人(市民)の話を聞く耳を持ち、話がバラバラでも要点を押さえ、それを文章・ルール化し、他人に伝える術(対話やプレゼン能力)を持っているからです。ボランティアに携わる公務員も、年々増加傾向にあると思います。活動をより効果的に、かつ広範囲に展開するためにも、ぜひコーディネーター役を担っていただきたいと思います。
 「求ム コーディネーター」の声は、ボランティアの世界だけでなく、誰もが「困った時」に求める一番のニーズかもしれません。