【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第9分科会 子どもと地域社会~子どもの居場所をつくるのは誰?~

 田無公民館の講座から生まれた西東京の「子ども食堂」8箇所とそれをつなぎ、むすび、ネットワークするサークル「西東京わいわいネット」の活動の紹介。「子ども食堂」のボランティアとして関わってきた学生たちが主体的に声を上げて、公民館と協働して立ち上げた「学生子ども食堂&学習支援」の動きを通して、今、西東京市に起きている「子どもの貧困に向き合おう」とする市民、学生たちの活動を紹介したい。
 さらに、これら一連の「子ども食堂」の動きに連動して「子どもの居場所づくり」特に不登校の子どもたちの居場所づくりについて、具体的に地域の住民として出来ることを考える講座「このまちに子どもの居場所をつくるために」を2018年1月から展開した。
 本レポートでは、子どもの居場所づくりをまちづくりにつなげるための展望をふくめ、報告したいと考える。



「公民館の学び」をまちづくりにつなげる
―― このまちに子どもの居場所をつくるために ――
講座→「子ども食堂づくり」→「子どもの居場所づくり」へ

東京都本部/西東京市自治研究センター 松永 尚江

1. 公民館の講座から生まれた「子ども食堂」

 西東京市は、東京都の多摩地域に属し、2001年1月21日に田無市と保谷市が合併して出来た人口20万の郊外型都市である。都心へのベットタウンであるが、生活保護家庭の割合は多摩26市中6番と高く、子どもの貧困率も比較的高い。2014年7月29日に市内の都営アパートに住む中学2年生の男子が同居の義父に、暴行を受け自死してしまったという痛ましい事件が発生した。市民の中に(特に同じ地域に住む市民)「自分に何かしてあげられる事はなかったのか」という自戒の念が高まっていた。
 2014年にこうした現状を踏まえ社会問題講座「子どもの貧困に向きあう地域をつくる」を実施。定員25人の講座に47人の応募があり、市民の関心の高さに驚いた。
 受講者らが講座終了後立ち上げた市民サークル「西東京わいわいネット」は「自分たちの力で地域の子どもたちのために何かできることはないのか」を話し合い、子どもたちが無料で食べに来ることができる「子ども食堂」の活動を行うことを決めた。2015年度、2016年度田無公民館の主催事業として実習室(調理室)を利用して「わいわいクッキング」を実施しながら社会福祉協議会が展開する地域拠点事業(空き家を市が借り上げ、居場所づくりとして利用する)の中に「子ども食堂」をつくっていくことを2016年度の目標とした。現在、芝久保地域に「しばくぼーの」と「飯(めし)もり山」、緑町地域に「放課後キッチンごろごろ」、泉町地域に「木々(もくもく)」、田無町地域に「年輪(ねんりん)」、柳沢地域に「やぎさわ子ども食堂」があり「子ども食堂」を運営している。田無公民館では毎月第3土曜日に活動している「わいわいクッキング」の他、2018年度から「学生子ども食堂&学習支援」が始まった。どの子ども食堂も大人300円子どもは無料となっている。現在8箇所の子ども食堂が運営されている。「年輪」以外はすべて田無公民館の主催講座参加者によって立ち上げられたものである。また、サポートハウス「年輪」は高齢者のサポートを目的にしたNPOで、かつて公民館の講座を受講した代表が立ち上げたNPOである。そう考えると西東京市の福祉やまちづくりと公民館の講座(地域づくりの実践につながる学び)が深く関わっていることがわかる。


2. 発展を続ける「わいわいネットとわいわいクッキング」

 田無公民館の「わいわいクッキング」は2018年で3年目に入った。この活動は他の子ども食堂と違って、公民館の施設である広い調理実習のスペースを利用して、子どもたちと一緒に調理して、一緒に食べて、食後にお楽しみ(工作やゲーム、音楽など)を1時間行い、その後に学習支援を行うという流れになっている。子どもの滞在時間は最長で4時間と長い。やって来る子どもたちも平均して25人程度となり、定期的に参加する子どもたち(リピーター)がはっきりしてくるにつけ子どもたちが自分達のやるべき仕事に慣れ、大人が指示しなくても料理が出来るようになってきた。

 

田無公民館の実習室

  高校生も参加

 食後に行うお楽しみ(音楽、ゲーム等)も、公民館の利用団体にお願いして演奏してもらったりマジックを演じてもらったりしてきたが、3年目になると見てきた大人を真似て、自分で演じてみたい子どもも登場してきた。学習もお互いに教えあう姿もみられ、たんに、受身だけではなくなってきているところがおもしろい。
 5月のクッキングでは、手作りの大きな蝶ネクタイ持参でテーブルマジックを披露する小学5年生が登場。よほど練習してきたらしく語り口もプロ並みだった。本人はもちろん楽しそうだったが、年下の子どもたちが食い入るように見つめていて、次々に演じたいと言い出すのではないかと予感させるものだった。
 子どもたちの成長や回数を重ねるごとに仲良く親密になって行く姿を見て、大人の役割は見守ることで、概ねは子どもたち自身に任せられると考えられるようになってきた。子どもの主体性、お互いの関係性がこの活動を通して、太く成長してきていることがなによりと思う。

 

いつも参加している5年生によるマジック


3. 動き出す学生たち

① わいわいクッキングにボランティアとして参加していた武蔵野大学の「社会福祉学科」平成29年度の卒業生がゼミで話合い、「9つの視点から」と題して、9人が「子ども食堂」と「子どもの居場所」の必要性を題材にして卒論を書き上げた。学生たちはスタッフや公民館、西東京市教育長にも卒論を進呈して卒業した。「母親と別れて暮らさなければならない女の子がいて、心的ストレスからマスクを外すことが出来なくなってしまった」という事例に衝撃を受けたようで、元気に見える子どもたちのデリケートな部分を感じ取ることで「食事をとることも大事だが子どもたちが安心して過ごせる居場所こそが大切なのだ」と結論付けている卒論が複数あった。学生たちが若い感受性で本質的なことを受けとめてくれたことを嬉しく思った。
 また、同じ武蔵野大学の当時2年生でボランティア参加していた学生3人が「学生だけで子ども食堂を展開したい」と申し出て来た。学生の気持ちを受けとめ、2018年度の田無公民館の主催事業として学生による「子ども食堂&学習支援」を行うことになった。
② 「学生子ども食堂&学習支援」始まる。
 武蔵野大学の学生がスペシャル企画と題して、練習を兼ねて2018年2月25日(日曜日)プレ「子ども食堂&学習支援」を開催した。
 当日は武蔵野大学の学生10人が参加(スタッフ3人、お手伝いの学生7人)。ゼミの指導者、熊田博喜准教授も子ども連れで参加してくれた。小学生の参加が9人あり、ちょうど良い規模と思った。

   
プレ企画の手作りポスター   武蔵野大学の3人組   学生による学習支援の様子

 プレ企画終了後、武蔵野大学の学生3人が不安な気持ちを打ち明けて来た。「3年生の年間計画を見たら実習が多くとても忙しいことが分かり、スタッフも増えなかったので自分達だけで出来るか不安になってしまった」ということだった。そこで「わいわいクッキング」にボランティアで参加している女子栄養大学の学生と一緒にやってはどうかと提案した。「是非一緒にやりたい」とのことなので、合同の打合せを行い、担当を決めた。この打合せに公民館専門員の知り合いの早稲田大学の大学院生も参加。スタッフも6人に増え、レシピ作りや調理は女子栄養大学の学生が頑張ることで話は落ち着き、4月22日(日曜日)に1回目を行う事となった。

 

大学生の手描きのポスター

  優しくて頑張りやの女子栄養大学の学生

 子ども食堂というツールは誰でも出来るボランティアとして、急速に広がっていった。そして、予想以上に、異世代交流という効果を生み出し、そこに参加することが楽しいという高齢者も登場し、新しい地域づくりへと発展していった。


4. 不登校の子どもの居場所をつくる

 「子ども食堂」の動きと連動して「子どもの居場所づくり」特に不登校の子どもたちの居場所づくりについて、具体的に市民として出来ることを考える講座「このまちに子どもの居場所をつくるために」(2018年1月6日~2月10日)を企画。25人の定員に38人の応募があり、申込みのメールには「娘が不登校になり3年目になります」などの悩みが添えられているものもあった。申し込んでくれた全ての方が真剣な思いで申し込んでいることが分かったので、当初「申込み多数の場合は抽選」としていたがだれも落とすことなく全員に受講していただくこととした。
 2017年度の主催講座「このまちに子どもの居場所をつくるために」では不登校の子どもたちの居場所づくりの必要性を共有したが、具体的に形として動き出すにはいたらなかった。2018年度も引き続きこの課題を取り上げ「子どもの居場所づくり」を具体化していきたいと考えている。
 西東京市の中学生の不登校者の数は平均すると1学校で15人を数える程多くなっている。(平成27年度調査で中学生計137人、小学校55人)こうした現状は表面的には嘆かわしいことではあるが、俯瞰して見ると現在の教育の有り方を、現場で子どもたちが問い返しているようにも見える。
 学校に行かない行為はそんなに嘆かわしいことなのだろうか? 不登校の解決は、子どもが学校にもどることだけなのだろうか?
 学校に行かなくても堂々と地域で生きて行く生き方を作り出すことはできないだろうか?
 地域の大人の学校観、子ども観を変え「学校に行かない生き方」を肯定的に考える地域づくりにつなげるための講座をどうつくるか……。講座の内容から紹介したい。

2018年1月6日~2月10日 全6回 現代的課題を考える講座
現代的課題を考える講座全6回 ~子どもの居場所をこのまちにつくるために~
 1回目に、子どもの疎外、子どもの自殺を研究テーマとしている、東京シューレ、しんぐるまざーずふぉーらむ等で活動中の木本ゆう氏に子どもの気持ちにより添うためにどうすれば良いか話を聞いた。
 木本氏からは、一般的な「社会」と子ども同士の「シャカイ」を区別し、「シャカイ」の厳しさは、大人が想像する以上であることが話された。特にSNSの中の厳しさ、同調性の強要は巻き込まれると抜け出せない苦しさがあるとの話であった。大人に出来ることは「子どもの本音を聴きぬく力を持つこと」との発言もあった。
 受講者からは今の子どもたちの置かれている「シャカイ」の厳しさを改めて知りました。マスコミで何となく知っていても一部の子どもたちのことだと思っていましたが、こんな息苦しさの中で毎日を過ごしている子どもを大人として日常的にどう受けとめるのか自分に問われていると思いました。
 ついつい大人の都合で支配的に接している自分を大いに反省させられました。「子どもに寄り添い」とか気軽に使っている言葉ですが「子どもと向きあう=自分と向きあう」を重く受けとめています。などが寄せられた。
 2回目に、市内で長年に渡って不登校の児童、生徒を含め学習指導を行ってきた私塾の塾長から、塾での子どもの様子を聞いた。「基本的に子どもは変わっていない。親の要求が高すぎるのではないか」といった話がされた。そして、どの子も「いい大人に出会いたい」という潜在的な要求を持っていると語った。
 また、適応指導教室(小学校)の経験者からは、子どもたちのやりたいことを自由にやらせ、自分たちで回復してゆくのを見届けることを大切にしてきたことが話された。
 受講者からは、思春期の息子との親子関係が息詰まる中、息子には親、先生以外の大人との関わりの必要性を感じて、この回に参加した。親の気持ちの余裕のなさや苦しさの方が大きい。という話にドキリとしました。母親としてより、自分の生き方自体を見直したいと思った。との感想が寄せられた。
 3回目は、市教育支援課の(臨床心理士)の話を聞いた。西東京市の子どもたちの教育相談を日々行う立場から、行政としてどのような支援が用意されているかを具体的にレクチャーしてもらった。また、人の心の内側の現象について、同じ事柄でもそれをどの様に受けとめるかはそれぞれ違う。また、そうした内心の現象を理解するのは大変に難しい。といった心理学的な内容も話された。
 受講者からは「ネガティブ(葛藤)を抱え込み続ける力」「今ある中で、どうしていったらいいかを考える力を育てるように支援する」など、なるほどと思う言葉がいくつかあった。私も教育相談を使わせてもらっている。答えがはっきり出なくて、最初はもどかしかったが、今日の講座で、その意図が少しわかった。
 今日の内容はすごく濃くて、専門性も高かった。「考えることは人を救う」この言葉が胸にしみました。拓く力がある。それを支える地域をつくりたいです。などの感想が寄せられた。
 3回目に入って、受講者が、主体的に、能動的に受けとめ始めたことが窺える感想だった。
 4回目には、不登校の子どもを抱える親や、子どもの不登校を体験しながら「居場所づくり」に取り組む、団体の代表らの話を聞いた。 
 13歳男子の母からは小学校の6年生から行き渋りはあった。担任や学校、教育相談が手厚く入り、何とか通い続け卒業することが出来た。しかし、中学には1年生の2学期から行けなくなった。小学校の時と違い、学校からはほとんど連絡が来なくなり、居ない者として扱われている気がした。それがとても辛かった。と話した。
 受講者から、だれもがちょっとしたきっかけで登校できなくなる余裕のない学校現場。集団になじみにくい繊細な子どもたち。やはり、縦でも横でもないななめの関係が作れる場が地域にあることの大切さを感じました。大仰な目的をかかげなくても「ただ、居るだけでいい」それがいいなあと思う。との感想が出された。更に、主体的に「居場所づくり」をイメージし始めていることが窺える。
 5回目に映画「さとにきたらええやん」を上映して、鑑賞後みんなで感想の交流をした。
 子どもたちは一人一人がたくさんのことを考えながら育っていて、それぞれが強い力を持っているのだということが分かった。私は、この映画を見て、子どもと接する時、一人一人を見ていく大人になりたいな、と思うようになりました。との感想を、20歳の学生の女性が寄せてくれた。彼女は「学生子ども食堂&学習支援」の担い手で、これも「自分がどう関わろう」というイメージと結びつけての感想となっているところが特徴だ。
 6回目最終回を、田無地域に子どもの居場所をつくり運営している先駆者の話を聞いた。 
 東京都の小学校の教諭として38年間働き、仕事の中で、何人か不登校の児童に直面して来た体験や、自分の息子の不登校体験を通し、学校以外の子どもの居場所の必要性を痛感してきた実体験が話された。そうした思いから、自身の退職金と夫の退職金を注ぎ込んで「猫の足あとハウス」を設立。生活困難な若者の宿泊施設を含んだ、子どもの居場所をオープンさせた。オープンしてから2年間の歩みと現在の活動の内容を語った。
 講座のまとめとして、全体で「子どもの居場所づくりのために自分たちに何が出来るか」を話し合ったが、「子どもの居場所も大切だが、まず大人の居場所も必要だと思う」という意見が多く出された。

受講者の講座全体の感想
* 本当に学校には行かないといけないのか……。最初から「行かない」と選択する世代がこれからどんどんでてくるだろうし、そのほうが健全だと思う。自分の中の考えがどんどん変わっている。
* 自分が場になる。
* 不登校など、今、私に起きているコトが特別なコトでないと分かり安心したコトと、娘に対する接し方も考えるコトができました。
* 子どもに対する気持ちを学ぶことが当初の目的でしたが、みなさんとのつながりから何か自分に出来ることはないかと考えるようになりました。
* 西東京市の公民館の役割のすばらしさを初めて体感できてよかったです。
  (講座参加者38人中26人が自身の子どもの不登校の経験者だった)

5. 地域の居場所づくりのための協働どうつくるのか。公民館の役割は?

 西東京市の中学校のPTAや民生委員、主任児童委員などの有志が、中学生たちの居場所をなんとかつくれないかと知恵を出し合うなかで、中学校の中にカフェをつくれないか……。と話合い、田無第四中学校の放課後カフェ、青嵐中学校のブックカフェ(図書室をカフェにする)を皮切りに、現在9ある市立中学校中7校が学校内で子どものために月に1回のペースでカフェを開催している。この動きは「放課後カフェ」という有志の集まりの提案に共感した市民が自分たちの住む地域の中学校のカフェづくりに自主的に関わり、オープンさせるというものだった。このような市民の行動力とエネルギーの基にも公民館は一役かっている。「放課後カフェ」の名で公民館の利用団体として登録し、公民館の事業のひとつである「市民企画事業」という、市民が企画して講演会や講座を開くことの出来る事業を使って、「カフェ」の必要性の理解を広げて来た。私たち公民館専門員はこうした市民の動きと連動して公民館の講座の講師を依頼することなどを通して、この活動を支援してきた。
 「放課後カフェ」の活動を広げている市民は、中学生に地域のおじさん、おばさんに接して、ホッと一息ついて欲しいという気持ちで生徒たちに接している。ただ、学校に来れない子どもたちにも何か出来ることはないのだろうか……。という気持を常に持っている市民たちでもある。
 学校に行くことの出来ない子どもたちが安心して毎日を過ごせる居場所の必要性が急務であることは今や、多くの市民の知るところだと思う。こうした、動きに連動させて「子どもの居場所づくり」を現実のものにして行くために現在講座を企画中である。
 11月より、「ぷらっとサロンきたまち」という居場所をモデルケースとし、具体的に居場所をつくるため講座を実施する。主役は常に受講者であり、地域の住民たちである。
 行政の「居場所づくり」への方向性を理解したうえで、それぞれの興味関心で集まった受講者たちが、主体的に「居場所づくり」「地域づくり」に参加できるための学びを引き続き提供したい。

 これからも西東京市の公民館専門員として、市の教育計画を基調とし、市民の「地域課題の解決」への意識を喚起し、能動的になるための学びを準備し提供し続けていきたい。
 そして、多くの関係者と協力、協働し、子どもの居場所を支える人づくりを、社会教育の現場で、自治体職員として、地域の人々と一歩一歩進んで行きたいと考えている。