【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第9分科会 子どもと地域社会~子どもの居場所をつくるのは誰?~

 西東京市では、子どものいのちと権利を守るため、児童虐待防止に向けた取り組みや関係機関の連携強化などさまざまな施策を進めています。2016年の児童福祉法改正により、「児童の権利に関する条約の精神にのっとり」子どもの権利擁護が児童福祉法の理念として位置づけられました。これらを踏まえ、市全体ですべての子どもが健やかに育つ環境を整えるために、(仮称)西東京市子ども条例の制定をめざしています。
 ここに、「西東京市の児童館」の、これまでの取り組みとこれからどのようなことをしていくべきかを提言します。



こころもからだも健やかに育むために
―― (仮称)西東京市子ども条例と西東京市の児童館 ――

東京都本部/西東京自治研究センター 増田 淳子・町田  宏・島崎 寛巳

1. はじめに

 西東京市の児童館・児童センター(以下、児童館)は、主に西東京市に住む、18歳未満のすべての子どもを対象とし、遊び及び生活の援助と地域における子育て支援を行い、子どもを心身ともに健やかに育成することを目的とした、児童福祉施設です。
 1965年に、はじめて西東京市(当時は田無町と保谷町。1967年にそれぞれ市制施行)に児童館ができました。当初から、住宅街の中にあったり、都営団地の1階部分にあったり、地域に見守られながら、いつも子どもたちの声があふれていました。
 順次計画的に館を増やし、2001年の両市合併後もしばらくはそのまま児童館数が保持されました。2010年から5年の間に3館が他の施設目的へ転用等されましたが、現在でも、約20万人の人口に対して、11の児童館があり、同じ東京都内市部の中で設置数が、人口50万人以上の八王子市に次いで、第二位となっています。おおよそ4km四方の西東京市の面積に対してこれだけの館があることは、より地域の身近に児童館があることを示しています。
 また、今年2018年度中に、西東京市では「(仮称)西東京市子ども条例」が整えられます。
 今回、この「(仮称)西東京市子ども条例」に基づき、「西東京市の児童館」が、これからどのような役割を果たしていけばよいのか、示していきます。

2. 児童館に求められる役割

(1) 「(仮称)西東京市子ども条例」より
 2017年8月23日付けで諮問のあった「(仮称)西東京市子ども条例の策定について」、2018年5月25日、西東京市子ども子育て審議会の設置する「(仮称)子ども条例検討専門部会」により、その答申がありました。
 その中で、「この条例で重視していること」として、
① 西東京市の子どもがいっそう自分らしく生きていくことができるように、前文で条例の理念を示し、「総合的な条例」として制定する。
② 子ども固有の相談・救済制度を設け、子どもがSOSを出しやすいような手立てを取り、それが効果的に、救済・回復に結びつくような仕組みを定める。
③ 子ども施策や子どもにやさしいまちづくりを推進するにあたって、虐待、いじめや子どもの貧困、子どもの居場所作りなど子どもをめぐる今日的な問題、子どもを取り巻く環境の整備、子どもの意見表明や子どもの権利の普及などについて、それらの原則をとくに定める。
④ 保護者・家庭、育ち学ぶ施設やその職員、地域と住民がその役割を十分に果たせるよう必要な支援を請けることができることを定める。
⑤ 市民をはじめ、関係者の連携・協働を強調し、まち全体で子どもの育ちを支えていく。
といったことを掲げ、その特徴としています。
 また、この条例では「前文」に、「わたしたちは、まち全体で子どもの育ちを支える、子どもにやさしい西東京をともにつくっていくこと」が第一に明記されています。
 次に、第1章「総則」で「3 市やおとなの役割」として、(3)育ち学ぶ施設の関係者は、子どもが主体性を持ち、学び、成長できるよう支援に努めること」、第2章「子どもの生活の場での支援と支援者への支援」で、「7 地域と住民への支援」として「(2)市民、事業者、市は地域において、子どもが安全に安心して過ごし、地域の一員として生活できる地域づくりに努めること」としています。
 児童館が、子どもたちの居場所及びその地域づくりの拠点のひとつとして、保護者も含めた市民や事業者などと一緒に協力して、どのようなことをしていくべきか、その根拠が示されています。

(2) 西東京市「児童館再編成方針(素案)」より
 「(仮称)西東京市子ども条例」よりさかのぼること15年ほど前、2004年2月に策定された「西東京市子育て支援計画」について、その前年の2003年8月に出された計画案に対し、「児童館・学童クラブのあり方について検討していく」こととなり、そこで児童館(現場)の職員が、「児童館・学童クラブのあり方」について、みんなで話し合いを続け、利用者からの声を反映できるように、自治体職員として市民と一緒に検討委員会の一員として関わり、当初は「児童館再編成計画」として提案し、現在は2017年に「児童館再編成方針(素案)」としてまとめ、その中で、児童館にどのようなことが求められているか、次のように具体的事項を掲げました。
① 乳幼児の親子のみなさんにとって……
 乳幼児を持つ家庭が地域の中で孤立し、抱える問題も多様化する傾向がある現在、安心して安全に遊べる場所であることは勿論、心許せる信頼関係を築き、日常的に気軽に来館できるような存在であることが重要です。その中から、不安を抱える親たちの相談を受け、場合によっては保育園・子ども家庭支援センター等の専門機関との連携を行い、さらに子育て困難な家庭、若い年代の親への支援も含めた積極的な対応が期待されています。
② 小学生たちにとっては……
 児童館は、子どもたちが創意工夫し、自由な発想・創造力を高めていく場でもあります。子どもたちが事業を企画・運営・参加できるシステムづくりが必要となります。
 それは、自ら主体的に地域活動・児童館活動に参加していくために、子どもたちの考え・意見が尊重されるような環境を整えたり、子どもたちが行動しながらさまざまな体験を通じて、成長し自立していくことのできる場を作り、次年代の活動の礎を学ぶことを指しています。
 また、子どもたちの健やかな育ちを保障するために、家庭・学校・地域・青少年育成会等とのつながりを強め、児童館が、地域ネットワークの拠点となれるよう、その存在意義を高めていきたいと思います。
③ 中学・高校生の年代のみんなには……
 児童館は0歳から18歳未満の子どもを対象とすることから、長期間にわたって子どもの発達に継続的にかかわりを持つことができる児童福祉施設です。子どもの友だち関係や家庭環境などについての調整を含め、子どもの生活を援助する機能が児童館に期待されており、子どもたちが自立した大人として社会に巣立てるよう支援していくことが、ニートやひきこもりをつくらない社会をつくる一助となります。
 毎年、「中学・高校生年代イベントプロジェクト」や、地域や施設を考慮した中学・高校生年代に限定して利用できる夜間開館(18時から21時)を実施しています。
④ 相談が必要なときは……
 児童館は相談を待つ場ではなく、すべての子どもと保護者への積極的な支援ができる場になる必要があります。問題が現れる前に発生を予防するための情報の提供や講座の実施、さらに必要に応じて専門機関へ連絡・調整・連携を図る役割を進めるため、より一層の充実が求められています。
⑤ 学童クラブの運営を……
 西東京市の特性として、子育て世代のライフスタイルの変化(女性の社会参加や共働き家庭の急増等)により、学童クラブ入会希望者は増加傾向を続けています。
 また、保護者の学童クラブ事業に対するニーズは、年々多様化し複雑化している現状があります。
年々増加する要保護児童(児童虐待・保護者の疾病等)への安全な居場所として学童クラブを利用する子どもも増加しているため、関係機関との連携を図りつつ、要保護児童への受入れ支援が求められています。
 さらに、指導嘱託職員の質の確保のため指導及び助言の必要性が高まっており、児童館との連携(所管)についても見直しが必要です。市内34の学童クラブを、9児童館がそれぞれ統括して運営をしてきているのも西東京市の特徴です。
⑥ 地域のみなさんと一緒に……
 児童館はすべての子どもと親への支援を行うために、地域の子育てに関わる社会的資源とのネットワークを築く地域の子育ての中心的拠点を担う非常に重要な施設です。
 また、地域の子育て力を高め、子ども・家庭の安心・安全な居場所の充実を図るために、青少年育成会・関連団体や地域市民との参画を進め、子どもの遊びや活動を支える人材の育成を進めることや、子どもの声を地域へ発信すること、国の「放課後子ども総合プラン」を視野に入れた取り組みも児童館の重要な役割となります。
 そして、基本的な考えとして、次の通り、その方向性を示しています。
ア 次世代を担う子どもたちの健やかな成長を将来にわたって保障していくため、全ての子どもたちの健全育成と自立に向けての支援など子ども目線を重視し、安全な居場所づくりを図っていきます。
イ 児童館の再編成に段階的に取り組み個々の児童館についてその機能や役割を継承、充実させる取り組みをしていきます。
ウ 児童館の地域的な格差が生じないよう配慮します。
 そしてこれらに基づいて、次の項で、特徴的な取り組み(児童館キャンプ、ランチタイム)について、その一部を紹介します。

3. 具体的実践例


写真1 児童館キャンプの様子
 

写真2 親子デイキャンプの様子
 児童館では各館で独自にさまざまな行事や活動を行っていますが、その他に市内の全児童館で協力・連携して行っているものもあります。その中から特徴的な取り組みを報告します。
① 「子どもが主体性を持ち、学び、成長できるよう支援に努める」・「異年齢の子どもたちが一緒に遊ぶことにより、様々な体験を経て社会生活におけるルールやコミュニケーションなどを学んでいく」場のひとつとして、「児童館キャンプ」を実施しています。
「児童館キャンプ」(写真1)
 西東京市の児童館では、通常の行事などのほかに、野外での体験活動を行っています。
 例年、夏休みに入った8月上旬、市内在住の小学4年生以上から中学高校生年代までを対象として、姉妹都市である山梨県北杜市で、二泊三日を過ごす児童館合同の宿泊キャンプを行っています。
 子ども達で何をするかを考える班活動を中心に、川遊びや野外料理、テントを張るところから始まるテント宿泊体験。2日目の夜は、歌やダンスを通して、みんなの一体感を高めるキャンプファイヤーをします。自ら考え、自ら行動をするために、子ども達自身の考える力と協力する力で活動が広がっていくプログラムになっています。
 小学3年生以下の子ども達には、親子で一緒に野外活動をする「親子デイキャンプ」(写真2)を行っています。西東京市内にある自然公園を活用し、例年、クイズラリーや工作、野外料理をしています。


写真3 児童館ランチタイムの様子
② 「地域において、子どもが安全に安心して過ごし、地域の一員として生活できる地域づくりに努めること」・「すべての子どもと保護者への積極的な支援ができる場」として、特に、虐待や貧困などの子どもに関わる問題を早期に発見できる場のひとつとして、3年前から「児童館ランチタイム」を実施しています。
(試行)「児童館ランチタイム」(写真3)
 夏休み期間中、保護者が就労等で不在の昼食の時間に、「孤食」になりがちな児童が増えていることから、「いっしょに食べる」「楽しく食べる」「食事のリズムがもてる」といった、子どもたちへの豊かな食の環境と夏休みの居場所をつくるために、「児童館ランチタイム」を実施しています。夏休み期間中の月曜日から金曜日(土日、祝日は無し)。利用時間は正午から午後1時までで、試行ということもあり2館のみで実施しています。地域の方と協力して、一緒に見守りながら、子どもたちがお弁当を持って、のんびり自分達の時間を過ごしている姿が見られます。今後は、実施する館を増やしていくなど、ひろがりが期待されています。
 他にも、中学・高校生の年代が、「より主体的・積極的に参画する場」として、特に高校生を中心にイベントの企画・運営をして、バラエティに富んだ出演団体を募り、当日進行から裏方まで自分達で行っている「中学・高校生年代イベントプロジェクト」(写真4・5)を実施しています。


 
写真4・5 中学・高校生年代イベントプロジェクトの様子

4. 課題とまとめ

 西東京市では、公共施設の適正配置等を推進するための実行計画において、児童館については概ね中学校区に1館(10館)の配置となるよう、近接配置の解消を中心に見直しが進められています。
 さらに、その運営主体は、公営としての3館が、それぞれのエリアを統括しその地域全体を把握することと、民間委託となる7館を含めた地域、の子ども支援を担っていく役割が期待されています。
 既出の「西東京市児童館再編成方針(素案)」の中で、基幹型児童館として、地域ニーズにあった最前線の子どもの育ち、子育ち支援の拠点役割(コーディネイト)を担う施設という位置づけで、
① 地域ニーズや地域資源の把握
② 企画、立案(子どもの居場所、相談事業の充実、支援の必要な子どもたちへの対応)
③ 関係機関及び部署、地域資源、利用者との情報共有・連携
④ 委託児童館、学童クラブの助言、指導(巡回指導、運営協議会など)
などについて具体的に取り組み、公営としての職員体制とし、その中に、虐待防止・早期発見、いじめ防止などの福祉的役割を担う、臨床心理士等の必要性も示されています。
 また、基幹型児童館の設置効果として、
① 基幹型の統括、調整機能を活用した円滑で効果的な連携・連絡体制の確立と必要な研修や支援体制を計画的に行うことができる。
② 実態に即した児童館運営、課題の発見と解決、改善や充実に結びつく。
③ 基幹型による専門的な実務指導や助言により、児童館間の格差の解消やレベルアップに繋がる。
④ 代表者会議により、地域型児童館が委託化されても定期的な情報交換や協力・連携ができる。
⑤ 基幹型が地域ネットワークを構築することによって多職種連携が可能となる。
といったことを掲げ、公として、地域の実情や最新の動向を把握し、地域力を高めるために、必要な場面で的確にコーディネートできるように、そしてそれらを着実に取り組んでいけるようにしていきたいと思います。

5. 最後に

 2018年3月に、「改正児童館ガイドライン(仮称)素案」が厚生労働省から諮問された、児童館ガイドライン検討委員会から示されました。9月にまとめられ、2019年4月に施行される予定となっています。
 その中で、児童館運営の理念として、児童館は、「すべて国民は児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。」という児童福祉法の理念に基づき、それを地域社会のなかで具現化する児童福祉施設である。と述べられています。
 そんな、地域の身近にある児童館で、日頃大切にしていることとして、
① 子どもが自ら選んで、ともだちと楽しく、安心・安全に遊べる。
② できなかったことができるようになる「成功体験」ができ、自信となり成長につながる。
③ 一人でもふらっと寄れる、何もしなくてもよい、くつろげる。
④ 子どもたちのありのままの姿を受け入れ、寄り添える。
⑤ 子どもたちとたくさん関わり、その声に気付き、受け止め、ともに考える。
と言ったことがあげられます。
 また、親子で一緒に乳幼児活動をしている、みんなでわいわいにぎやかに行事をしている、同じ思いを持っている人が相談や共感をしている、周りの大人と一緒にみんなで見守りをしサポートにつなげている……、そんな地域の中の居場所として、周囲の理解・協力を得ながら、日々、子どもたちと向きあっています。
 そしてこれからも、児童福祉の現場で、自治体職員として、地域をはじめ多くの大人たちと協力、協働ができるように、さまざまな機会を通して「子どもたち」また「子どもたちが心身ともに健やかに育まれること」を中心に据えて、その居場所となるべく、日常を大切に、日々努めていきたいと思います。




<参考資料等>
1. 「平成28年度東京の児童館・学童クラブ事業実施状況」東京都福祉保健局少子社会対策部
2. (仮称)西東京市子ども条例要綱(案)
3. 西東京市児童館再編成方針(素案)
4. 改正児童館ガイドライン(仮称)素案 平成30年3月28日 厚生労働省
5. 西東京市Webキッズページ http://www.city.nishitokyo.lg.jp/kosodate/kids/index.html