【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第9分科会 子どもと地域社会~子どもの居場所をつくるのは誰?~

 教育現場で求められていること、保護者・地域の方々が求めていることに、調理員が直接関わり、食を通じて食べることの大切さ、必要さ、喜び、楽しみを伝え、子どもたちの目線に立ち、保護者や子どもたちと一緒になって、給食をもっと身近に感じてもらう取り組みが必要です。そのための試みとして、児童館や学童保育所のお祭り「やんちゃフェスタ」や、成人の集いに、調理員が作った学校給食を提供しています。



子どもたちの未来と次世代へ繋ぐ学校給食


京都府本部/京都市学校給食職員労働組合 山口理恵子

 現在、私たち給食調理員の正規雇用は、2005年度以降で止まっており、その後は臨時職員と嘱託職員だけの雇用になっています。正規職員も退職者が年々減っていくなか、2009年度からは民間委託も導入されました。民間委託も進みつつあるなか、私たちは公務員であり学校職員であり、民間業者と同じ作業をしているだけでは何も変わらず、このままではさらに委託化が進んでしまいます。私たち職員はその危機を感じ、今の状況と意識を変え、職場を守らないといけません。私たちと民間業者との差がなければ、市民からの期待も薄く、調理員としての必要性も失ってしまいます。私たち給食調理員も市民の皆さんに必要とされる職員にならないといけません。
 今、教育現場で求められていること、子どもたちや保護者・地域の方々が求めていること、そこに私たち調理員が直接関わり、食を通じて食べることの大切さ、必要さ、喜び、楽しみを伝え、子どもたちの目線に立ち、保護者や子どもたちと一緒になって、給食をもっと身近に感じてもらう取り組みが必要だと考えました。

1. 京都やんちゃフェスタ

 『京都やんちゃフェスタ』とは、京都市の児童館や学童保育所がつくる子どものためのお祭りで、毎年2回に分けて開催されています。ここに集まってくる未就学児の子どもたちや、保護者・市民の皆さんに、実際の給食を試食していただき、学校給食の良さ・食育・食べることの大切さを伝えいきたいと思いました。そこで、普段は別々の仕事で、今まで一緒に取り組むことのなかった職員が、横の繋がりを深め、力を合わせてひとつになることが、今後の給食にも大きく繋がり重要になってくると考え、給食にもっとも密接に関わる、京都市教育委員会体育健康教育室・京都市小学校給食研究会・校長会・栄養教諭、そして私たち給食調理員が結集し、『京都やんちゃフェスタ』の参加企画が生まれました。
 私たちは2015年11月26日に開催されたフェスタに、初めてブースを出店し、参加しました。ブース出店までに何度も会議を重ね、話し合いました。これから小学校に入学していく未就学児と保護者、地域の方々を対象に、「実際の給食を見て食べて、給食を身近に感じてもらいたい」「和食の文化を伝えたい」「子どもたちが喜ぶ献立を食べてもらいたい」など、いろいろな思いを話し合い、市民の皆さんにも、昔とは大きく変化してきた給食を感じてもらったり、食材も充実して栄養バランスも整っている給食の良さや、和食推進や食育などを伝えようと、給食の試食を提供することになりました。

「京都やんちゃフェスタ」
① 開催趣旨
 子どもをともに育む京都市民憲章の普及啓発を図り、親子(主に乳幼児対象)で一日を楽しく過ごすなかで、同憲章の趣旨が実感できるようなイベントを開催する。また市民すこやかフェア、消費生活フェア、健康長寿のまちなどと同日、同会場で実施することで、幅広い世代の参加とそれぞれの事業趣旨の理解を一層深めるものとする。
② 会 場
 京都市勧業館 みやこめっせ 第2展示場 ほか
③ ブース名
 「おいしい たのしい 学校給食

④ 開催時間
 午前10時~午前11時     体験コーナー
 午前11時~午後12時30分   給食試食コーナー
 午後12時30分~午後3時30分 体験コーナー
⑤ 体験コーナー
 ブースには調理員たちの給食作りの様子の写真を掲示し、栄養教諭たちは食育に繋がる展示や掲示をし、箱に入った食材を触って当てるクイズやパズルなどをして、子どもたちが楽しく学べる体験とした。
⑥ 試食コーナー
 <2015年度>
 【試食献立】・水菜とつみれのはりはり鍋   300食提供
       ・がんもどき(あんかけ)    300食提供
 <2016年度>
 【試食献立】・牛肉とひじきのいため煮    300食提供
       ・肉だんごのスープ煮(卵なし) 300食提供
 <2017年度>
 【試食献立】・スパゲティのミートソース煮  300食提供
       ・揚げ里芋のあんかけ      300食提供
 いずれもとても好評で、「とても美味しかった」と言う声が多く、「今の給食はこんな感じのが出るんだ」と、とても給食に関心を持ってもらえました。
 2017年度の試食の時には、スパゲティのミートソース煮に、調理員がハッピーキャロット(型抜きした人参)100個分を用意し、当たった方には栄養教諭が作ったストラップのプレゼントを準備しました。100個のうち、いろいろな型のハッピーキャロットを80個分作り、当たれば普通のストラップがもらえ、星型に抜いた20個分のハッピーキャロットは、当たれば蛍光板のストラップがもらえます。もし、はずれた場合にも、京都市小学校給食研究会の校長が作った給食シールがもらえるといった企画を実施しました。ストラップやシールをもらった子どもたちや地域の方々も、型抜きを探したり見つけて喜んでいたりと、この企画をとても楽しんでもらえました。
 『京都やんちゃフェスタ』を通じて、子どもたちや保護者・地域の方々にも直接関わることができ、給食の良さを身近に伝えることができたと感じました。そして何より、今まではなかなか教職員たちが一緒に取り組みをしていく繋がりのなかった関係でしたが、職員がみんなで力を合わせて取り組むことで、お互いに喜びと達成感を一緒に味わえた瞬間でもあったかと思います。それぞれが力を発揮し、お互いに協力していくことは、今後も子どもたちに関わる職員同士として、とても大きく大切なことだと実感しました。

2.  成人の集い ― 懐かしの給食コーナー

 小学校で給食を食べて育ち卒業していった子どもたち。その子どもたちが成人になるお祝いの日に、私たち調理員も新成人たちに喜んでもらい、「一緒にお祝いすることはできないか?」と考えてできたのが、『成人の集い ― 懐かしの給食コーナー ― 』です。
 成人式の日に、新成人になる子どもたちに給食で人気だった献立を食べてもらうことで、当時の懐かしい給食を思い出し、「京都市の給食は良かったな、美味しかったな」「自分の子どもたちにも京都市のこの給食を食べさせたいな」と思ってもらい、次の世代へと私たちの作る給食を繋げていきたいという気持ちから、2012年度にこの企画が始まりました。

「成人の集い~懐かしの給食コーナー~」
① 会 場
 京都市勧業館 みやこめっせ
② 開催時間
 前半の部 式典終了後 午後12時~
 後半の部 式典終了後 午後3時~
③ 提供献立
 <2012年度>
 ・からあげ             1,000食分 (前半600食、後半400食)
 ・三色ゼリー             800食分 (前半500個、後半300個)
 <2013年度>
 ・プリプリ中華いため        1,000食分 (前半600食、後半400食)
 ・三色ゼリー              800食分 (前半500個、後半300個)
 <2014年度>
 ・ヒレカツ、ソティ、ミックスソース 1000食分 (前半600食、後半400食)
 ・三色ゼリー             800食分 (前半500個、後半300個)
 <2015年度>
 ・プリプリ中華いため         1,000食分 (前半600食、後半400食)
 ・三色ゼリー             800食分 (前半500個、後半300個)
 <2016年度>
 ・プリプリ中華いため        1,000食分 (前半600食、後半400食)
 ・三色ゼリー             800食分 (前半500個、後半300個)
 <2017年度>
 ・プリプリ中華いため        1,000食分 (前半600食、後半400食)
 ・三色ゼリー             800食分 (前半500個、後半300個)
④ 事業内容
 成人式典を終えた新成人に対し、下階フロアにて、地域の連合会や婦人会等と、同会場に給食試食ブースを設けて、学校給食献立を提供する。調理は式典の前半の部・後半の部の終了後に合わせて調理室で調理を行い、容器に移しブースで小器に取り分け試食の提供をする。
⑤ 共 催
 京都市教育委員会

 ブースには新成人を祝う飾りや、各学校の調理をしている写真・懐かしい給食の写真・今の新しい献立などを掲示し、小学校で実際に使っていた机や椅子を用意して、机にはお盆に給食献立のサンプルを並べて、当時の給食時間を再現しました。
 式典を終えた新成人たちは、懐かしの給食を見てとても反響は大きかったです。「うわぁ めっちゃ懐かしい~」「これ、めっちゃ好きやった~」「これ取り合いやったし」など、様々な嬉しい声が上がっていました。
 「からあげ」から始まり、「ヒレカツ」など提供してきましたが、特に「プリプリ中華いため」は京都市の給食でしか味わうことのできない献立であり、子どもたちにも大人気のとてもインパクトのあるメニューです。日頃から家庭でも食べることができるメニューより、給食でしかなかなか食べることのできないメニューの方が、懐かしく喜んでもらえるのではないか? と、2015年度からは「プリプリ中華いため」が定番になりました。
 年に一度の『ひな祭り行事献立』にしか上がってこない三色ゼリーも大人気で、ゼリーの試食も、あっという間になくなりました。試食に間に合わず、食べることのできなかった新成人たちはとても残念そうでしたが、「プリプリ中華いため」のレシピも一緒に配ると、「お母さんに作ってもらうわ~」とか、「頑張って懐かしいプリプリ中華を作ってみるわ~」と言っていました。その言葉にとても嬉しく思いました。
 給食を食べて喜んでくれ、再現した机や椅子に座り、みんなで写真を撮り合っている新成人たち、掲示の写真を見て懐かしんでいる新成人たち、そして、成人しても給食の味を覚えてくれていること。そんな新成人たちの様子を見て、私たち調理員も今後の仕事にとても励みになりました。
 小さい頃に食べた味は、大人になっても味覚として残っていると言われています。日本の伝統的な料理や、他国の料理、いろんな食材など、幅広い食や味覚・栄養バランスを伝えることや学ぶことができる学校給食は、子どもたちの成長と心に大きく残っていくものだと思います。こうして、子どもたちに声をかけ関わり合うことも大きく、食べることの美味しさ・楽しさ・喜び、そういった思い出を残していくことは、子どもたちが大人になった時の未来や、次世代にも繋がっていくことだと感じます。私たち調理員は給食というものを通じて、そういった感性や育成を、子どもたちや保護者・地域の方に、実際を伝えることのできる大きな人材でもあるかと思います。
 京都市には、スチームコンベクションのメニューや、和食推進や京都市のおばんざい、地産地消や他国の料理など、京都市ならではの、とても伝えたいメニューもたくさんあります。
 子どもたちだけでなく、保護者や市民の方々に、京都市学校給食のいろいろな献立を食べてもらい、給食をもっと身近に感じていただきたいのですが、まだまだ多くの課題や問題があります。そのひとつひとつを克服し、最終的には実行していこうと考えています。今できる取り組みとしては、学校給食の献立が出来上がるまでや、それまでにたくさんの人達が関わっていること、私たち調理員の思いや工夫など、普段ではなかなか伝えることのできない部分を、もっと詳しく子どもたち、保護者、市民の方々に、わかりやすく伝えられる場所を作りたいと思い、「給食展示会」をしたいと考えました。
 「給食展示会」では、子どもたち・保護者・地域の方々を対象に、和食推進の献立やおばんざいの献立、行事献立、地産地消、スチコンメニューのグラタンや、ういろうなどの献立の写真を展示したり、手作りのホワイトルーやブラウンルー・カレールー、鰹出汁や昆布出汁、合わせ出汁、いりこ出汁などの現物を見て、違いを感じたり、匂いを嗅いだりの体験をしてもらい、学校給食に関心を持ってもらいたい。京都市の手作りならではの春巻きやトンカツは、保護者は既製品や冷凍食品だと思っている方も多く、食材にどんなものを使ってどのように作られているのか……? 調理員はどんな仕事をしているのか……? 市民の方々は、実際の学校給食や私たち調理員の仕事をほとんど知りません。子どもや保護者に、学校給食の良さや食の大切さを伝えることで、家でも大きく変わってくると思います。保護者からも「苦手なおかずを家では甘えて食べない子どもが、学校では食べることが出来た」という声もよく聞きます。子どもたち自身から食べたくなる給食、そして保護者も一緒に家庭でも好き嫌い無く喜んで食べてもらいたいというそんなニーズに私たちも応えていき、学校給食を通じて食を伝え、いろんな食べ物を食べてもらいたいという気持ちを、保護者ともお互い共有しながら、私たち調理員も保護者と同じ気持ちや難しさを知り、一緒に考えていける存在になりたいと思います。
 子どもたちや保護者、地域のすべての人たちと関わり、今後の給食に興味をもってもらい、身近に感じてもらい、そして私たち調理員も公務員として信頼され必要とされる人材になるよう、今後も子どもたちの笑顔のために取り組んで行こうと思います。