【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第9分科会 子どもと地域社会~子どもの居場所をつくるのは誰?~

 福山市職員労働組合連合会では、「公務労働の拡大・充実」に向けた議論と実践をこれまで積み重ねてきています。その中で、給食士部会では長年にわたり、中学校給食の実施を当局へ訴え続けてきました。部会での議論をふまえた「親子方式」による中学校給食の試行における取り組み内容や、公務労働拡大の視点での他の部会との連携、今後の中学校給食の本格実施に向けた考え方などの報告。



中学校給食の取り組みについて


広島県本部/自治労福山市職員労働組合連合会・給食士部会 加藤  梢

1. はじめに

 給食士部会は、「食教育の一環」として、給食を通じて子どもとの関わりをもちながら「個を大切にし、食の大切さを伝え、安全で楽しい学校給食」を確立するため、衛生管理の徹底と安全性を追求し、たたかいを進めてきました。
 その中で、福山市では「公」としての責任を果たすため、一部合併地域の給食センターによる提供を除き、自校直営による安心・安全な給食提供を堅持してきました。
 また、食物アレルギー給食、小冊子「ハーモニー」の発刊、「食教育」の充実に向けたランチルーム・クラス訪問等を行い、子どもたちと一緒に食事をして実態把握をする中で、給食の内容充実に向けた取り組みを進めてきました。食器については、安全で家庭に一番近く暖かみのある強化磁器食器を導入するよう当局に申し入れ、全校同時に使用開始しました。また、選択メニュー、始業式・入学式・終業式の給食実施や、夏季期間に行っている「共同作業」(子どもの教育環境整備)が本来業務として認められ、計画から実施まで給食士でやり遂げています。さらに、夏季期間を利用し、学校菜園で収穫した野菜や地域で採れた野菜・海産物を使用し、子ども料理教室の実施に取り組んできました。
 しかし、現業労働者を取り巻く情勢は、国や自治体の財政難を理由とした職員定数の削減・欠員不補充や学校給食のセンター化、コスト論により、本来行政で行うべき事業の民間委託化の動きが活発化し、県内でも直営単独調理方式は、減少しているのが現状です。
 こうした情勢の中「公務労働の拡大・充実」に向けた、自らの仕事の問い直しと、子どもたち(保護者)にとって必要とされる仕事のあり方について部会で議論してきました。そうした中、部会より要求し続けていた、中学校給食が2016年9月から2校で試行実施されました。

2. 福山市の中学校給食の状況

 福山市では、これまで中学校給食は、一部の学校を除き、家庭からの弁当とミルク給食(牛乳)により、実施してきました。成長の個人差が大きい中学生において、弁当は量的、質的に対応できるうえ、保護者と生徒がつながりを深められることなどから、家庭での手作り弁当を推奨してきました。
 しかし近年、中学生の食においては、朝食の欠食・孤(個)食などの課題に加えて、共働き世帯の増加や保護者の就労形態の多様化など、社会情勢の変化により、弁当を持参することが困難な場合や、栄養バランスの偏った食事など、適切な栄養を摂取できていない状況が危惧されています。特に中学生の時期は、生涯の中で最も成長が著しい時期であることから、栄養バランスに配慮した、多様な献立による食事を摂ることにより、心身ともに豊かな成長ができるようにしていくことが重要です。

(1) 試行実施前の状況

方式 中学校名
親子 山野、広瀬、内海
センター 常金、新市中央、千年、至誠
7校

※ 内海、常金、新市中央、千年、至誠は合併地域
※ 山野、広瀬は近隣の小学校からの実施

(2) 試行実施に至るまで
 給食士部会は長年にわたり、中学校給食実施を当局に要求し続けてきており、これまで、部会研究部で親子方式(近隣の小学校〈親校〉で調理した給食を中学校〈子校〉へ搬送する方式)の実施を見据えて、搬送距離、食数などの規模を考慮し、どこの小学校なら近隣の中学校の給食が実施できるか等検討してきました。
 そのような中、2017年11月には、中学校給食を取り巻く情勢を踏まえ、中学校完全給食の必要性と市民ニーズの高まりなど、様々な観点から判断し、給食を生きた教材として活用することにより、食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身につけ、福山市の将来を担う子どもたちが心身ともに健やかに育つよう、成長期にあたる中学生にとって栄養バランスのとれた安心・安全な給食の提供を通じて食教育を推進するため、「福山市立中学校給食完全実施方針」が策定され、2020年9月までには全校で中学校給食が開始となることが決定しました。
試行実施アンケート結果(詳細は表1参照)

表1

 2016年度9月に試行実施した加茂中学校(親子方式)・駅家中学校(センター方式)のアンケート調査においては、中学校給食に対する肯定的な評価が、保護者96%、生徒52%でした。内容としては、保護者・生徒とも、「豊富なメニューによるバランスのよい食事ができること」「弁当の用意が不要になること」「温かい食事ができること」となっています。
 なお、保護者の評価に比べ、生徒の肯定的な評価が低かった理由は、「給食のための準備や後片付けの手間がかかること」「お弁当を食べたいから」となっています。

(3) 試行実施の検証
① 実施前の取り組み
 2017年度の試行実施に向けて、施設面においては、中学校の空き教室、使用していない昇降口に配膳室を設置しました。搬送するにあたっては搬送ルートの検討・搬送車の駐車場所の確保等を行い、小学校では、食数の増加に対応するため、施設(消毒庫・釜等の対応)の小規模改修、実施する学校へ行き調査し備品・消耗品の調達を行いました。
 また、人員については、技術員搬送業務による運転者の確保をし、「親子方式(中学校給食)搬送マニュアル」を作成しました。さらに、実施校で2日間に分かれて事前研修を行い、中学校給食の流れを確認しました。
② 実施の取り組み
 中学校給食を開始しても小学校の調理開始、配缶、給食時間は変えず実施しています。中学校へは、保温・保冷、汁物が漏れないように二重食缶を使用し、食器は安全面を考慮し、軽くて割れにくいPEN食器を使用しています。車両については、軽貨物自動車での搬送なので運転し易くなっており、搬送については必ず2人体制で行い、配膳室の準備、クラス訪問、片付けの手伝い、声かけをし、食育を実施しています。
 また2017年度実施した内の1校では、小学校でご飯を炊き搬送しています。

 

③ 部会の意見
 2017年度、中学校給食試行実施に関わった部会員から、「開始前の夏期休業中に事前研修を行っており、流れを把握することができ、スムーズに業務が行えた。」という一方で、「親校へ配置される臨時職員が6月採用であったため、学校給食業務に慣れていない中、中学校給食へ関わることとなり、細かい指導が行いにくかった。」という課題もあり、給食士部会交渉の中で、「中学校給食実施の親校へは、経験のある臨時職員を配置すること。」という要求をあげていきました。
 また、中学校給食開始以前は、小学校が遠足等の学校行事の際は、給食提供を行っていないため給食士も学校行事に関わっていましたが、小学校への給食提供は行わない日でも中学校への給食提供を行うことから、「学校行事への参加ができなくなった。」との声もありました。しかし、中学校の生徒がよく食べてくれて残食が少ないことや、配膳時クラス訪問を行う際、「おいしいです」「ありがとうございます」と声をかけてくれることがうれしく、「食数が増え、作業面でしんどい中でも業務に対し、やる気やりがいを感じることができる。」といった前向きな意見もでています。
④ 公務労働拡大と連携させての取り組み
 試行実施を行う中で施設的な課題も多くあり、そういった課題については、学校技術員職場、清掃職場による公務労働拡大業務により対応してもらいました。
 まず、搬送車両に給食を積み込み、積み下ろしの際、搬出入口が高いため、踏み台を設置してもらい、車内に積み込み棚を作成・設置してもらうことにより、食器・二重食缶の積み込み、下ろし作業が行い易くなり、また、ゴムベルトを使用し移動時の食缶の揺れを防ぐ対応をしました。中学校敷地内の搬送ルートが未舗装であることから、アスファルト舗装、搬送車移動時のミラーの設置を行っています。また、配膳室設置時には備品の移動、重量のある牛乳保冷庫については油圧ジャッキ等を使用し移動を行いました。
 多くの場面で他の部会と連携を図り、本格実施に向け中学校給食をよりよい取り組みとしていくこととしました。

⑤ 試行実施の課題
 2017年度試行実施後に課題がでてきており、釜や二重食缶の関係で中学校では選択メニューができていないこと、夏季期間の小規模改修は期間が短く大変だったこと等があります。しかし、課題のなかでも改善されているものもあり、二重食缶は重く大変ですが、保温・保冷、漏れないためなので持ちすぎないなどの作業面で工夫をしていますし、搬送に関しては、搬送車の消毒時に雨がかかるため、荷降ろし場への屋根の設置をし、濡れることなく安全に作業できています。片付け後の積み込みの際には、気を付けていても積み込み棚のローラー部分が汚れ掃除が大変でしたが、ローラー部分を改良して、はずしやすくしてもらえたので掃除もしやすく衛生的に作業が行えています。また、搬送ルートをアスファルト舗装したことで安全でスムーズな搬送ができています。

 

(4) 本格実施に向けて
 2017年度までの試行実施に取り組む中で、全校実施に向けての実施計画スケジュールが以下の通り示されました。

給食開始時期 給食実施校 累計校数 実施率
方 式      中学校名
2016年度 9月 親子 加茂 9校 25.7%
センター 駅家
2017年度 9月 親子 東、鷹取、大成館、一ツ橋 15校 42.9%
センター 松永、精華
2018年度 4月 親子 大門  16校 45.7%
9月 親子 済美、中央、芦田、城西、神辺東  21校 60.0%
2019年度 4月 自校 (仮称)鞆の浦学園   25校 71.4%
親子 城東、鳳、誠之
9月 親子 向丘、東朋、神辺西   28校 80.0%
2020年度 4月 親子 城北、幸千、培遠、福山   32校 91.4%
9月 親子 城南、駅家南、神辺   35校 100.0%

 

3. 今後に向けて

 今後、年次的に実施校も増え、大規模校での実施にも取り組むこととなります。それに伴い、搬送車両の見直し、人員の確保、施設改修等課題が出てきます。そういった際、部会学習会を開催し、課題解決に向けた意見を出し合い、当局と議論を進め、よりよい中学校給食の提供を行っていきます。また、小学校においては継続し食育、地産・地消に取り組み、「食の提供」の更なる発展につなげなければなりません。
 昨今の大量退職、中学校給食実施により配置人数増となり、それに伴い臨時職員も増えます。臨時職員の中には正規職員と同じ業務をするなかで、正規職員との賃金格差・休暇日数の差など不満を持っている人がいるのも現状です。同じ職場の仲間として、不満を少しでも解消できるよう臨時職員の組織化が必要となってきます。組織化によって臨時職員の待遇改善を行い、更に働きやすい職場環境になり安心・安全な給食が提供できます。
 今後も、中学校給食を自分のこととして考え、これまで部会が取り組んできたことを絶やすことなく安心・安全でおいしい給食実施に向け、子どもたちとの関わりを大切にし、子どもが中心の給食・食育ができるように取り組みます。