【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第9分科会 子どもと地域社会~子どもの居場所をつくるのは誰?~

 2005年から高知市の公立保育園で働く組合員の仲間が自主的に開催している「保育げんきっこまつり」。公立保育園のPRや公的保育制度の堅持を目的として、子どもも大人も楽しめる市民向けイベントに取り組んでいます。この「保育げんきっこまつり」の取り組み内容とその意義について報告します。



「保育げんきっこまつり」の取り組み
―― ありのままの公立保育園を見てもらう
組合員手作りの市民向けイベント ――

高知県本部/高知市職員労働組合・自治研部・保育分会

1. 「げんきっこまつり」とは?

(1) もう13年も前からやっている
 
 
 13年前から毎年開催しているのに、なぜ今までレポートを出していなかったのだろう? 当たり前のようにやっている「恒例のイベント」だから? しかし、よくよく考えてみると、同規模単組で同じような取り組みはあまりないかもしれないし、高知で自治研もあるし、とりあえず書いてみよう
 ということで、本レポートでは、高知市職労保育分会が主催する市民向けイベント「保育げんきっこまつり」(以下「げんきっこまつり」)の取り組みについて報告します。このイベントは、公立保育園のPRを目的として、2005年以降、毎年11月頃に高知市の中心街にある中央公園で開催しています。テントの設営以外はほぼすべてが保育分会直営で、手作り感満載のイベントです。来場者は正式にカウントしたことはありませんが、入所児童・保護者の来場状況からすると少なくとも千人以上と見込まれます。


(2) 保育分会と高知市の保育行政の状況
高知市の保育所等入所状況(2017年4月現在)
施設種別経営施設数定員入所数
認可保育所公立242,6352,207
私立626,7526,686
認定こども園私立212,9352,577
小規模保育私立1014995
※公立はへき地保育所(2園)を除く
待機児童数73人保育所入所率55.9%
(参考資料)平成29年度市政案内(高知市議会事務局発行)
 この「げんきっこまつり」の紹介の前に予備情報を二点ほど。まず、高知市職労保育分会の紹介です。保育分会は、公立保育園(26園1分園)で働く仲間(保育士・現業職)で構成され、正規職員のほぼ全員が組合員で分会員は約210人。高知市職労の中でも団結力はトップクラスですが、それでも役員の担い手づくりには苦慮しています。
 もう一つは、高知市における保育行政です。高知市はもともと所得水準が低く、共働き世帯が多かったことから、第二次ベビーブーム前から保育所が急増、「保育王国」と呼ばれるようになりました。実際、高知市の公立幼稚園は合併により承継した1園のみ。私立も保育園の方が多く、就学前児童の保育所入所率(2017年4月現在)は56%となっています。
 かつての革新市政を通して高知市では保育行政へ相当の力を注いできましたが、2000年以降は三位一体改革、集中改革プラン、そして高知市の財政危機といった状況の中で、公立保育園の統廃合・民営化、職員定数の大幅削減などの合理化が進められ、正規職員比率も5割を下回る状況になりました。それでも他の同規模自治体と比べるとまだ公立保育園が多く残っている方かもしれません。

2. 「げんきっこまつり」の主催者、保育分会にインタビュー

 さて、本題に戻ります。本レポートの作成にあたって、この「げんきっこまつり」が始まった経緯、目的、内容、取り組み方などについて、高知市職労委員長が保育分会長にインタビューをしました。土佐弁を標準語に変換した上で、その内容を掲載する形で報告します。

(1) 公立保育園や保育制度の危機 じゃあ、お祭りしよう
○市職労委員長(以下「市職労」)

「げんきっこまつり」ポスター(2016年)
※デザインは組合員
 行政ではなく保育分会が主催する「げんきっこまつり」。僕も何度も家族連れで参加して楽しませてもらいました。まず、このイベント、いつから、どういうきっかけで始めたのですか?
●保育分会長(以下「保育分会」)
 「げんきっこまつり」が始まったのは2005年。当時、三位一体改革により公立保育所運営費が一般財源化され、全国的に公立保育園の民間委託や民営化に拍車がかかっていました。また、国の方では保育制度改革の議論の中で、直接契約制度が取りざたされ、児童福祉法第24条の「市町村による保育の実施義務」がどうなるか危ぶまれていました。
 その中で、公立保育園や公的保育制度の存続に強い危機感を抱いていました。「何か私らぁにできることないろうか?」保育分会の中で話し合う中で、あるベテラン役員から「じゃあ、中央公園でお祭りでもするかえ?」と。それが始まりですね。
○市職労
 (そのベテラン役員の名前を聞いて)ああ、分かるような気がする みんなを盛り上げようとする姿が目に浮かぶ…(笑)
●保育分会
 要は、公立保育園や公的保育制度を守ることを目的に、その必要性を保護者や一般の市民にアピールする場として。市民だけではなくて、組合員(特に若手)にも理解してもらうことも大きな目的。そのためには市民も組合員も楽しみながらじゃないとダメ。だからお祭り


(2) 「子どもも保護者も組合員も楽しく」がコンセプト
○市職労

イベント・会場案内図(2017年)
 そうですね。イベントの中身は、各コーナーやステージプログラムなど子ども・子育て家庭にとっては楽しいものばかり。ちょっと紹介してもらえますか?
●保育分会
 じゃあ、保育士のコーナーから。「赤ちゃんコーナー」では、子ども・保護者・保育士が遊びや会話で楽しみます。乳児が対象ですが、実際は保護者向けのコーナーで、ちょっとした子育て相談やアドバイスをしたり、子どもの成長に気づいてもらったりしています。保育士の保護者対応力向上も隠れた目的ですね。
 幼児向けとしては、昔あそびが体験できる「あそびのコーナー」、手作りおもちゃを一緒につくる「作って遊ぼうコーナー」があります。そして「小劇場」では、大型絵本、人形劇、ペープサートなど。普段、公立保育園でやっている保育や遊びの紹介も兼ねています。


       

●保育分会
 
 現業職(調理員・役務員)のコーナーでは、離乳食や人気メニューなど保育園給食の紹介、手作りおやつのレシピや花の苗(鉢に刺す手作りピックも)の配布、綿菓子のプレゼントなどですね。あと、役務員さんから、種からの花の育て方などもレクチャーしてもらえます。

○市職労
 今の話を聞いた感じからも分かりますが、実際参加してみると、公立保育園をそのまま会場に持ってきたような雰囲気ですよね。ステージプログラムの方は?

●保育分会
 
 
 ステージでは、分会青年部のダンス、園児の和太鼓演奏、各保育園の歌や出し物を披露しています。あと、中堅層に吹奏楽経験者が結構いてバンドを組んで演奏もしています。来場者がいつ来ても楽しめるように、昼休み以外、絶え間なくやっていますね。
○市職労
 100%直営
●保育分会
 直営じゃないのは、飲食コーナー。保健所への申請とか難しい面もあるので、障がい者支援施設に依頼して出店してもらっています。あと、高知市消防職員協議会の協力を得て消防車やはしご車に来てもらったり(十周年記念の時には、消防車から餅投げも)、清掃職場からはスケルトンパッカー車(車体の中が見える環境学習用パッカー)や清掃職員が扮するクリーンレンジャーに来てもらったりしています。
○市職労
 消防・清掃は直営ですね(笑)でも、クリーンレンジャーの正体を明かしたらダメです ところで、会場内では「運動面」での展開もありますね。

●保育分会
 
 
 会場内では、公立保育園の紹介、新制度(子ども子育て支援制度)や平和の問題についてパネル展示や解説をしたり、保育制度の拡充を求める署名活動をしたりしています。新制度の議論が進んでいた頃には、その課題や問題点を来場者の皆さんに説明しつつ、市民の声も受け止めてきました。署名活動の方は、民間保育労組と連携した取り組みで、長年のつながりの中でやってきたもので、今後も大事にしていきたいと思っています。


(3) 全園・全組合員参加型のイベントづくり
○市職労
 ここからは「げんきっこまつり」の取り組み方について聞いてみたいと思います。準備や役割分担はどうしていますか?
●保育分会
 保育分会では月1回各園の代表があつまり職場委員会を開催していますが、その中で準備を進めています。本格化するのは毎年夏以降です。分会役員は全体統括と進行管理で、各園の職場委員は各コーナーやステージなどの班員に割り振ります。全園参加が大原則で、内容は各班にお任せしていますが、前年の反省点を振り返りながら「子どもが楽しいことをやる」「親子で楽しめること」を話し合い、企画から準備作業まで自主的に動いてもらっています。
●保育分会
 イベント当日は、各コーナーでは組合員が交代しながらスタッフ業務に従事。ステージなどを含め、何らかの形で大多数の組合員に携わってもらっています。管理職である園長先生も手伝ってくれますし、保育幼稚園課(当局)も協力的です。各保育園の臨時職員さんは当日お客さんとして家族連れなどで来てもらっています。
○市職労
 「げんきっこまつり」の周知・宣伝はどのようにしていますか?
●保育分会
 組合員がデザインしたポスターを園内や近隣のスーパーなどに掲示させてもらったり、お迎えの時に保護者にお伝えしたり。気になる家庭には意識的に声掛けしています。決して強要はしませんが、それとなく誘導して。
 あとは、当局(保育幼稚園課)の了承を得た上で、各保育園が実施する園庭開放・子育て相談の際に未就園家庭に配布させてもらったり、保育分会が発行する「手から手へ」※という保護者向けのお手紙の中でお知らせをしたり。 ※年3回発行(新入号・夏号・げんきっこまつり号)
○市職労
 「げんきっこまつり」の準備・開催にあたって、地域の住民や団体との協働や連携はありますか?
●保育分会
 まずは自分たちの力で続けていくことに専念してきたので、まだそこまでは至っていません。保護者にハンドメイド作品を物販してもらってコーナー運営を助けてもらったこととかはありますが。今後は、例えば、昔あそびコーナーを地域の方に手伝っていただいたり、会場の中央公園は中心商店街にあるのでそことコラボしたりとか、そういうことを考えてもいいかもしれません。
○市職労
 ちょっとだけ提案を。地域との協働という観点ではないのですが、市直営の児童クラブの支援員労組(非常勤職員)にコーナーを出してもらったり、これまでは遠慮してやってなかったようですが民間保育所にもお知らせしてみたりしてはどうでしょう?

(4) みんなが喜んでくれる。達成感があるからこそ続けてこられた
○市職労
 「げんきっこまつり」を開催してみて、子どもや保護者の反応はどんな感じでしょう?
●保育分会
 もう12回も開催しているので完全に恒例行事ですね。子どもも保護者も毎年楽しみにしてくれていますし、「楽しかった」という声も多くいただきます。
 あと、在園者だけではなく、卒園生もたくさん訪れにきてくれます。「先生~、(路面)電車に乗ってきたでぇ~」って。子ども同士と元担任、久しぶりの顔ぶれが集まってさながら同窓会といった感じです。送り出してきた子どもたちの成長を見ると本当に嬉しいですね。
 準備は大変だけど、来場者も組合員も笑顔で楽しいひと時を過ごせるイベント。達成感も大きい。だから、ずっと続けてこられたのだと思います。

(5) 細く長く続けて、いろんなつながりを広げたい
○市職労
 それでは最後に今後の抱負というか、この「げんきっこまつり」についてどういった展望を持っていますか?
●保育分会
 う~ん、何か大きなことを成し遂げようというのではなくて、細く長く続けていけたらいいなあと思っています。ベテラン保育士の大量退職により若い職員も多く入ってきています。彼女彼らにはこのイベントに携わることを通して、公立保育園を、そして民営施設を含めた公的保育制度を守り育てていくことが、子ども達、保護者、地域社会そして私たち公務労働者にとってどういう意味があるのかを考え、行動していくきっかけになればと。そして、それが受け継がれていけばいいなと。
○市職労
 異議なしです。そして、「げんきっこまつり」という場自体も大事だと思います。公立保育園は地域に分散していてバラバラのように見えますが、「げんきっこまつり」に来れば大きなひとつの公立保育園がある。
●保育分会
 子ども同士、保護者同士、保育園で働く仲間同士、そしてそれぞれがお互いに色んな形でつながることができる場。私たちの仕事には終わりがないから、恒例行事で長く続けていくことで、そうしたつながりを広げていくことができる。私たちは子ども達を小学校に送り出す。やがてその子ども達は大人になり、子を持ち親になる。その時、困ったこと、しんどいことがあれば、またここに戻ってきいや。頼ってきいや。一緒に考えよう。
○市職労
 地域の中でどこにいても、ずっとつながり、支え続ける。公立保育園の使命のようなものを感じます。
 細く長く、つながりを積み重ねていく中で、「げんきっこまつり」が高知市民のお祭りとして共有される時が来ると思います。市職労としても引き続き分会活動と「げんきっこまつり」の取り組みを支援していきます

3. まとめ

 最後に、保育現場を取り巻く状況に触れながらまとめとしていきます。
 高知市当局は、市全体の保育水準の維持向上や地域の子育て支援の拠点といった機能を果たしていくため公立保育園が必要との認識で、この点は労使交渉の中でも確認してきました。一方で、こうした機能を果たしていくためには、統廃合・民営化による正規職員の集約化、あるいは認定こども園化など保育所再編が必要としています。
 ただ、高知市では財政状況が再び悪化してきており、こうした方針を逆手に取った、またはそれを反故にした合理化案を提案してくる可能性も否定できません。また、多くの非正規職員が働く職場として、会計年度任用職員制度の導入も非常に大きな課題となっています。
 「げんきっこまつり」で、こうした課題を取り上げ、市民の理解を得たり、声を聴いたりすることは、公立保育園や公的保育制度を守るという目的にかなう訳で、いざという時にはその影響力を期待するところです。
 しかし、正直なところ「げんきっこまつり」には本来の目的に直結する強いメッセージ性が前面に出されている訳ではありません。イベントの内容は、民間施設との差別化を意図したものではなく、背伸びをせず、あくまでありのままの姿をみせようという姿勢で貫かれています。つながりをつくり広げることや、組合員の意識醸成、人材育成、組織強化といった観点からの取り組みという印象を強く受けます。
 高知市職労の組織力や活動量はかつてより低下してきています。その中でも保育分会は踏ん張っています。保育分会OGには、高知初のこども食堂を立ち上げた方もいます。こうしたパワーの源のひとつが「げんきっこまつり」かもしれません。
 細く長くの取り組みで構わない。そうだからこそ色々な可能性が秘められているのだと思います。今後、人口減少や社会の縮小が進む中で、地方自治や地域社会のあり様が大きく問われてきます。地域における子育て支援も大きな変化を求められるでしょう。そうしたことにアンテナを張りながら、色々アレンジしたり、ちょっとした新要素を加えたりしながら取り組んでいくこと、そしてそこから新たな広がりを求め、チャレンジする組合員が育っていくことを期待しています。