【自主レポート】 |
第37回土佐自治研集会 第10分科会 みんなで支えあおう! 地域包括ケアとコミュニティー |
2017年4月より地方公営企業法の全部を適用し、あらたに道立病院局として知事部局から分離、任命権者は知事から病院事業管理者となった。労働組合としても求めてきた全適移行について1年を経過した現状について要求趣旨に対しての状況を明らかにして道立病院における全適にかかる課題を明らかにすることとする。 |
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1. はじめに
全6道立病院については、2017年4月より地方公営企業法の全部を適用し、いわゆる「全適」と呼ばれる経営形態に移行し、あらたに道立病院局として知事部局から分離、任命権者は知事から病院事業管理者となった。 2. 全適による柔軟な医療職の採用
全適前において、医療職の採用については道人事委員会より職員採用にかかる事務の委任(職員の任用に関する権限の一部を任命権者に委任する規則:1961年10月24日)を保健福祉部が受けて、選考職として自ら採用試験を実施してきており、保健福祉部において選考職として採用可能な病院に配置されている職種は医師、看護師(助産師含む)、薬剤師、臨床検査技師などの医療職(二)職員となっている。また、実質的に医療職として業務実態がありながらも行政職である判定員などは選考職とされていない。
3. 全適による柔軟な職員配置
全適により、病院事業管理者の裁量による柔軟な職員配置が可能となることも従前より利点として認識されてきた。全適前は年1回の組織機構改革において職種の定数が決められるが、2年に1度改定される診療報酬改定において各種算定基準に合わせて、特定職種の増員により加算取得などの機動的な対応は困難であった。「要求と提言」においては、病院の経営改善のため、機動的な人員配置を行うことを求めており、組織機構改革における年度一括協議のルールよりも優先される部分があるとの判断を行ってきた経過にある。
4. 全適による人材確保に資する職員処遇の改善
全適移行にかかる理由として、労使交渉及び道議会答弁においても、全適移行により病院事業管理者の判断で人材確保に資する手当の新設などによる職員処遇の改善が可能となると言われてきた経過にある。 5. 経営に寄与する人材の確保と育成
現行の「北海道病院事業経営改革推進プラン」の策定にかかる外部有識者会議等の議論においては、病院経営に精通した事務職員の育成が必要とされ、いわゆる「病院プロパー職員」の重要性が示されていた。 6. 予算編成にかかる自由度と機動的な経営戦略の実行
全道庁労連として「要求と提言」においては、病院事業管理者に予算編成権や人事権を与え、そのリーダーシップにより必要な病院改革が実行されることを期待してのものであり、庁内障壁として財政当局及び人事当局からの影響を低下させることが必要と判断してのものであった。 7. 道内自治体病院の状況からの影響
2018年に入り、道内の自治体立病院において病院事業の収支悪化を理由にして病院職員の賃金の独自削減の報道が相次いだ。旭川市立病院と函館市立病院という中核的な都市に所在し規模の大きな全適の公立病院において、医療職に対して賃金削減を行うものであった。 8. むすびに
全適移行後1年を経過し、当初期待していた効果があったのか、若干の振り返りを経て強く感じることは単に全適に移行しただけでは何も変わらない、バラ色の未来がある訳ではないということである。 |
【資料:全適移行までの主な経過】 ○2006年 ・11月、全適移行を提言する趣旨で「要求と提言」について着手 ○2007年 ・5月、第13回経済財政諮問会議において、社会保障制度改革として「公立病院改革について」(菅総務大臣提出)。安倍首相、塩崎官房長官、麻生外務大臣、御手洗キャノン会長など。 ・7月、「道立病院事業に関する次期計画にたいする要求と提言」を当局に提出。 ・7月、第1回公立病院改革懇談会(長隆座長):総務省 ・11月、次期計画となる「北海道病院事業改革プラン素案」提示。指定管理者制度の導入を柱に機能継承も選択肢としたプラン素案。 ・12月、全道庁「地域医療確保・道立病院対策委員会」発足。連合北海道、自治労道本部、民主党・道民連合との連携強化。 ・12月、公立病院改革ガイドライン:総務省 ○2008年 ・1月、「自治体立病院等広域化・連携構想」を道が策定。 ・2月、「北海道の地域医療を考えるシンポジウム」開催(民主党北海道・連合北海道・自治労道本部・全道庁・退職者連合・北海道医療の共催)。 ・3月、2回の団体交渉を経て、「北海道病院事業改革プラン」成案化。留意事項として、「地域理解と経営形態を問わず必要な手立て講じる」との確認。 ○2009年 ・3月、「北海道病院事業改革プラン」にかかる「経営指標に係る数値目標及び収支計画等」策定。 ・4月、紋別病院について、地元5市町村から道に対し、公設公営による移管要請。この間、新聞報道が先行。これ以降、積極的に連合地域協議会等を通じ、地元の市議や単組とも意見交換。 ○2010年 ・4月、道と地元5市町村と紋別病院の移管について大筋合意。 ・10月、道と地元5市町村とで覚書締結。 ・11月、移管にかかる団体交渉後、道議会で廃止条例成立。 ○2011年 ・2月、「北海道病院事業改革プラン」の見直しについて、1年前倒しで検討することが情報提供。 ○2012年 ・7月、医療経営コンサルタントと外部有識者会議(議論は非公開)から報告書・意見書提出。苫小牧病院(結核医療)の廃止と独法化の考えが示される。 ・8月、「要求と提言」を当局に提出し、廃止と独法化に反対であることを鮮明化。 ・9月、「新・北海道病院事業改革プラン」の素案提示。独法化は明記されず。 ・12月、苫小牧病院廃止反対を訴え、連合地域協議会(胆振・日高)・北海道医療を実施主体として、地域ビラ配布(1.5万枚)と署名行動(6,184筆)を実施。 ○2013年 ・2月、道議会対策を強化しつつ、地域医療確保に向けた連合地域協議会を通じて、管内の自治体に対し意見書提出要請。地区連合を通じ、苫小牧市長にも要請行動。 ・3月、「新・北海道病院事業改革プラン」成案化。苫小牧病院廃止の記載は変わらず。 ・5月、苫小牧病院廃止にかかる当局提案。 ・9月、3回の労使交渉を経て、廃止条例成立。 ・9月、北見病院について、北見赤十字病院隣地移転を当局が方針化し、作業開始。 ○2014年 ・9月、外部有識者による評価委員会において、全適移行について緊急提言書が提出。 ○2015年 ・3月、総務省において、「新公立病院改革ガイドライン」が示される。 ・6月、ガイドラインを踏まえ、現行プランを1年前倒しで改定すると当局より情報提供。 ・7月、検討会議の委員と接触し、対策強化。 ・8月、プラン改定にかかる外部有識者による第1回検討会議が開催(公開)。概ね全適支持の議論動向のなか一部委員より、指定管理の可能性について指摘。 ・8月、北見病院について指定管理の可能性が言及されたことを受け、北見市議などとも意見交換。 ・10月、第2回の検討会議が開催され、全部適用移行について中間意見書化。 ・11月、2017年度からの全適移行に向け、作業を開始すると知事が議会で表明。 ○2016年 ・6月、新たな「要求と提言」を提出し、「地域医療構想」などを踏まえ、各病院の方向性を提言。 ・7月、検討会議の座長(道医師会副会長)などにも積極的に接触し、「要求と提言」を説明。 ・8月、「要求と提言」に対し、「貴団体の意見も鑑み検討」と回答。 ・9月、労働条件にかかる「道立病院の経営形態見直しにかかる要求書」を提出。 ・10月、最終の検討会議が開催され、各病院の方向性において概ね妥当と判断される内容が報告書化。 ・11月、全適移行にかかる団体交渉を実施し、主要課題(基本賃金、知事部局との人事異動、一般職非常勤職員の継続任用)の考え方を確認。その後、道議会に条例改正が提案。「北海道病院事業改革推進プラン」素案提示。 ○2017年 ・1月、全適移行後の組織機構と賃金課題等の労使交渉を実施(団体交渉2回)。組織機構については、現行定数を維持、賃金等は基本的に現行のものを準用し、新たに臨床工学技士の調整額措置の対象者を拡大することを確認。 ・4月、全適移行、鈴木信寛事業管理者就任。労使協定・労働協約締結 |