【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第10分科会 みんなで支えあおう 地域包括ケアとコミュニティー

 日々、労働者として働く上で問題となっているのが、時間外労働の問題である。大手広告会社において月10時間を超える時間外労働を強いられ、過労自殺した事件について、公務員労働者としても決して無視できない出来事。保健所職場における時間外労働及び36協定締結からその後の対応について述べていく。



保健所職場における36協定締結とその後の対応について


北海道本部/全北海道庁労働組合連合会・保健所評議会

1. はじめに

 我々、労働者は労働基準法(以下「労基法」という。)第32条において、労働時間が規定されており、北海道職員についても同様に労基法の適用を受けることとなる。日々、労働者として働く上で問題となっているのが、時間外労働の問題である。
 2017年、大手広告会社において月100時間を超える時間外労働を強いられ、過労自殺した事件については、我々、公務員労働者としても決して無視できない出来事である。今回、保健所職場における時間外労働及び36協定締結からその後の対応について述べていく。

2. 時間外労働について

 本来、労基法第32条においては、労働時間を週40時間、1日8時間を上限として規定されていることから、労基法上は、時間外労働をさせてはならないこととなる。
 ただし、例外規定(表1)により、例外的に時間外労働をさせることができることから、現状として、時間外労働が認められていることとなる。

表1 (例外規定)労基法抜粋
33条3項 「公務のために臨時の必要がある場合」
36条1項 「労使で協定を締結した場合」
33条1項 「災害その他の避けがたい事由がある場合」

3. 36協定について

 労基法第36条(時間外及び休日の労働)
 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においては、その労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他命令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、1日について2時間を超えてはならない。

36協定とは……
 「時間外・休日労働に関する協定」のことであり、時間外勤務(法定の労働時間を超えて労働)させる場合や、法定の休日に労働させる場合には、あらかじめ労使で書面による協定を締結し、これを所轄の労働基準監督署に届け出ることが必要である。
 なお、北海道の行う事業所又は事務所に係る労基法別表第1の号別区分表を表2に示す。

表2 北海道の行う事業所又は事務所に係る労基法別表第1の号別区分表
号 別事業所監督機関
3号(土木・建設) 耕地出張所(11)
総合振興局・振興局建設管理部の出張所(41)
ダム建設事務所
総合治水事務所
総合振興局建設管理部の出張所の事業所(3)
労働基準監督署
13号(保健衛生) 道立病院(3)
精神科病院(2)
診療所(8)
子ども総合医療・療育センター肢体不自由児
総合療育センター
向陽学院
大沼学園
保健所(26)
保健所支所(14)
食肉衛生研究所(7)

 表2に示したのは、労基法第36条で規定された当該事業所に充たる北海道における事業所又は事務所(以下、「36協定職場」という。)であり、これらの職場については、36協定を締結しなければ、時間外及び休日については時間外勤務ができないこととなる。
 道当局は、3号(土木・建設)における耕地出張所や建設管理部出張所、13号(保健衛生)の道立病院等については、早々に36協定を締結し、時間外勤務に関し基本確認書により時間外勤務条件等を確認し、管理している状況下にある。
 しかしながら、道当局は、これまでに保健所職場に対しては、36協定の締結指示もなく、締結をしない状況下で時間外勤務を命じていた背景がある。
 理由としては、冒頭にあげた労基法第32条の例外規定により、同法第33条3項「公務のために臨時の必要がある場合」を拡大解釈し、恒常的な時間外勤務を行っていた。
 その一方、我々、労働組合側も、36協定締結をしなければならないことはわかっているものの、道当局に締結する旨、訴えていくことはできたが、実行していかなかった。
 それは、労基法上は、36協定を締結し、時間外勤務における体制を整備しなければならないことではあったが、道当局側の労基法第32条の拡大解釈による考えにより時間外勤務ができていることを前提として、36協定を結ぶ必要性はなく、むしろ、協定を結ぶことで「超勤をしなくてはならなくなる」という考えや予算の確保など、様々な課題があり、全道庁としても運動方針には掲げていたものの、中々、締結までには至らなかった。
 その後、全道庁も考えを一新し、「36協定を結ぶことで時間外勤務をさせられる考え」から「36協定を結び、時間外手当の完全支給と業務に見合った十分な職場定数の確立の考え」に変わっていった。
 この36協定締結は、労基法上、整備しなければならない事項であり、この間の過程については、労基法上の違法となるが、これまでの理由から、道当局を追及することはできず、我々、労働組合側も非があり、双方が現状況を認め、早急に正しい体制づくりをしていかなければならない。

4. 「36協定」締結にかかる事務処理

① 全道庁本部と道当局との間で「基本確認書」を締結
② 「基本確認書」の内容を基に36協定対象職場(保健所支部・分会)毎に「36協定」を締結
③ 「36協定」締結後、労働基準監督署(または人事委員会)に届出
④ 「36協定」で定められた労働時間を超えそうな場合は、労使で延長協議を実施

5. 協定の当事者

 「36協定」は各道当局(各所属長)と支部長(または分会長)とで締結し、労働基準監督署に届出する。(労基法第36条第1項)
表3 労基法第36条第1項目抜粋
 使用者は、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表とする者と書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、その協定に定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
※ 職場毎の組織率が過半数に満たない場合、労働組合として協定を締結することができない。

6. 36協定締結までの経過

・2017年8月22日
 全道庁労連は、道当局と「時間外勤務及び休日勤務に関する基本確認書」(資料1)を締結。
・2017年10月31日~
 江差保健所が最初に協定を締結し、その後、香深診療所(現在、準備段階)を除く36協定職場において年度内に協定締結がなされた。(留萌保健所における「時間外労働休日労働に関する協定届(資料2)」)

36協定締結状況(資料3)
 保健所(26/26)、食肉衛生検査所(7/7)、診療所(7/8)、その他出先機関(3/3)

【資料1】
【資料2】

【資料3】
労基法第36条に基づく「時間外労働・休日労働に関する協定届」提出状況
H30.4.1現在
事業所名届出先備 考
保健所
岩見沢保健所岩見沢労働基準監督署
滝川保健所滝川労働基準監督署
深川保健所滝川労働基準監督署
江別保健所札幌東労働基準監督署
千歳保健所苫小牧労働基準監督署
倶知安保健所倶知安労働基準監督署
岩内保健所倶知安労働基準監督署
室蘭保健所室蘭労働基準監督署
苫小牧保健所苫小牧労働基準監督署
10浦河保健所浦河労働基準監督署
11静内保健所浦河労働基準監督署
12渡島保健所函館労働基準監督署
13八雲保健所函館労働基準監督署
14江差保健所函館労働基準監督署(江差駐在事務所)
15上川保健所旭川労働基準監督署
16名寄保健所名寄労働基準監督署
17富良野保健所旭川労働基準監督署
18留萌保健所留萌労働基準監督署
19稚内保健所稚内労働基準監督署
20網走保健所北見労働基準監督署
21北見保健所北見労働基準監督署
22紋別保健所名寄労働基準監督署
23帯広保健所帯広労働基準監督署
24釧路保健所釧路労働基準監督署
25根室保健所釧路労働基準監督署
26中標津保健所釧路労働基準監督署
食肉衛生検査所
八雲食肉衛生検査所函館労働基準監督署
東藻琴食肉衛生検査所北見労働基準監督署
早来食肉衛生検査所苫小牧労働基準監督署
帯広食肉衛生検査所帯広労働基準監督署
岩見沢食肉衛生検査所岩見沢労働基準監督署
日高食肉衛生検査所浦河労働基準監督署
富良野食肉衛生検査所旭川労働基準監督署
高等看護学院
旭川高等看護学院北海道人事委員会
紋別高等看護学院北海道人事委員会
江差高等看護学院北海道人事委員会
網走高等看護学院北海道人事委員会
診療所
阿寒湖畔診療所釧路労働基準監督署
ウトロ診療所北見労働基準監督署
白滝診療所北見労働基準監督署
庶野診療所浦河労働基準監督署
天売診療所留萌労働基準監督署
焼尻診療所留萌労働基準監督署
香深診療所準備段階
鬼脇診療所稚内労働基準監督署
その他出先機関
衛生研究所北海道人事委員会
旭川肢体不自由児総合療育センター旭川労働基準監督署
向陽学院札幌東労働基準監督署
大沼学園函館労働基準監督署

7. 延長協議について

〈保健福祉部の場合〉
1日の時間外1月の時間外1年の時間外
延長できる時間4時間45時間150時間
やむを得ない場合
(協議後の限度時間)
8時間60時間360時間

※ 「1月60時間」「1年360時間」を超える必要がある場合は、再延長協議が必要

延長協議の当事者
 ① 1日の時間外勤務 ⇒ 保健所長と支部長(または分会長)
 ② 1月の時間外勤務 ⇒ 総合振興局(振興局)副局長と支部長(または分会長)
 ③ 1年の時間外勤務 ⇒ 保健福祉部長と保健所評議会議長
 ④ 1年360時間超   ⇒ 保健福祉部長と全道庁本部副執行委員長・保健所評議会議長

(延長協議にかかる課題)
 1 事務処理の煩雑さ
   管理職員が延長理由を作成できない(係長(主査)・担当へ丸投げ)
   ・道当局は、「突発的な業務」「対外的な対応」等で整理したい
    ⇒36協定における時間外勤務時間とカウントされない。
   ・「そもそも人員が足りていない」ことは認めたくない。
 2 管理職員の理解不足
   「延長協議ができない」といった思い込み
    ⇒組合員に対し、「36協定が足かせ」のように説明
     組合員の意識に「根強い誤解」や「あきらめ」が生じてくる。

8. 36協定締結後の対応

 冒頭にも述べたが、労基法における36協定締結はあくまで時間外勤務に関する体制づくりの一環であり、協定を締結したからといって終わりではない。むしろ、協定締結後からが大切となってくる。
 昨今、北海道は、管理職以下の賃金の独自削減は解消されたものの、職員適正化計画の実施により、職員定数が削減となり、また保健所職場においては、医療職の欠員等により、時間外勤務が大幅に増加している傾向にある。
 2017年4月には、「職員のワークライフバランスの推進に関する指針」が一部改正となり、年2回の「推進強化期間」を年4回に拡大され、また、月例最終週には「ワークライフバランス推進重点週間」として、定時退庁促進の取り組みが始まっている状況にある。
 職場実態を考慮すると、欠員を抱え、業務量も増加傾向の中で、定時に退庁することは可能なのだろうか?
 そもそも、限られた人員定数の中で仕事を行い、例年のように時間外勤務(残業)で対応している職場や欠員を抱え、その業務を対応しているのも係員であり、通常時間内で自分の業務とその欠員分の業務を行うことは明らかに業務量の増加となっている。
 管理職は、時間外勤務マネジメントシートを活用して、計画的・効率的な業務マネジメントを行うとあるが、実際に業務マネジメントができているのか。業務のことは無視し、ただ定時退庁を促してはいないか。時間外勤務する職員に対しては、事前命令を出しているか。職場によってさまざまという声が上がっている状況である。
 また、我々、労働者(組合員)も時間外に対して不安視するところがある。
 未だ時間外をすると「評価が下る」と思っている職員や「これは仕事ではなく勉強です」という職員もいたりと、時間外勤務の考え方に相違がある組合員がいる。
 36協定締結を皮切りに、道当局(管理職)には、業務マネジメントの確認の徹底、時間外勤務手当予算の確保、退庁現認の徹底及び限度時間の延長協議の実施など、協定に基づき適切に対応するよう求めていかなければならない。
 労働者(組合員)に対しても、学習会や職場集会等を定期的に開催し、職場実態の把握、36協定への理解を深める必要があると考える。

9. 最後に

 36協定職場(1か所を除いて)において、「36協定締結」をしたところであるが、これからの対応が大切となってくる。
 保健所評議会は、今後、各保健所支部・分会に対して、サービス残業を完全になくすよう周知徹底し、定時退庁することを前提として、時間外勤務をする際は必ず事前命令を出すよう道当局に促し、組合員にも事前命令を出すよう働きかけたいと思っている。
 また、学習会の実施や教宣紙を通じて、36協定への理解を深め、支部(分会)組合員全員で共有していく。
 時間外勤務の課題は、非常に難しい課題ではあるが、組合員一人一人が意識し、全道庁本部、総支部、支部(分会)組合員全員が結束し、この課題に取り組んで行けば必ず解決できると思う。