【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第10分科会 みんなで支えあおう 地域包括ケアとコミュニティー

 2025年(平成37年)に向けて、高齢者を支える世代である生産年齢人口が減少することが見込まれるとともに、要介護認定率が高い後期高齢者が増加するため、各市町村において、高齢者を支えるための体制づくりのため、地域包括ケアシステムの構築を進めている。一方、医療においては、各県で地域医療構想を策定し、病床転換や、病院の統廃合を進めさせようとしており、病床削減等の動きや診療報酬のマイナス改定など、病院には厳しい状況になっている。政策的には、患者を病院から地域へ移していくことが進んでいるが、病院で退院させた寝たきり老人が、褥瘡を作って病院へ戻ってくる等、地域で支える体制が十分でない。



医療現場から見た地域包括ケア


山形県本部/自治労山形県職員連合労働組合 菅原 理一

1. はじめに

 山形県の高齢化率は全国7位、将来の高齢化率(2025年)でも全国6位。高齢者のいる世帯では、全国2位、三世帯同居率、全国1位である。ちなみに県内の交通事故の5割以上は高齢者といわれている。病院には多くの高齢者が入院しており、病院で亡くなるのが大半である。最近では認知症の患者が増え、病院職員の負担も増えている。

2. 県立中央病院の紹介

① 急性期医療を担う基幹的な病院として、年間3,000件を超える全身麻酔手術をはじめ、高度で専門的な医療を提供している。
② 三次救急医療機関として、年間3,000件以上の救急搬送を受け入れているほか、山形県ドクターヘリの基幹病院として、救急現場での救命医療を提供している。
③ 都道府県がん診療連携拠点病院として、年間約5,000人の入院治療や約4,000件の外来科学療法を行っているほか、患者がん相談や緩和ケア等のサービスを提供している。
④ 山形県総合周産期母子医療センターとして、ハイリスク妊産婦や超低出生体重児等を緊急管理する高度周産期医療を提供している。年間の分べん数は約500件となっている。
⑤ 基幹災害医療センターとして、災害時における医療支援の中核施設となっている。また、DMAT指定医療機関として、大規模災害時には全国にDMATチームを派遣している。
⑥ 臨床研修指定病院として、研修医や大学の臨床実習を積極的に受け入れている。初期研修医については2013年度採用以降フルマッチが続いている。
⑦ 病床数660床。

3. 要介護者の病院の退院支援の現状

① 入院時:介護サービスを受けている人(ケアマネージャーが関わっている人)については、医療連携相談室とケアマネージャー(以下ケアマネ)と連絡を取り合い、入院前の情報を共有する。
② 入院中:退院の目途が付いたら、ケアマネに連絡、退院先との調整をお願いする。また、今まで介護サービスを受けていなかった方でも今後サービスを必要とする場合には、家族に介護保険、介護支援の申請をお願いする。退院前に医師、ケアマネ、退院先(訪問看護ステーション、施設)と話し合いを持つ。

ケアマネージャー(介護支援専門員)
 介護保険制度においてケアマネジメントを実施する有資格者のこと。要支援・要介護認定者及びその家族から相談を受け、介護サービスの給付計画(ケアプラン)を作成し、自治体や他の介護サービス事業者との連絡、調整等を行う。介護保険法に基づく名称は介護支援専門員であるが、ケアマネージャーとも呼称される。

4. 課 題

① 病院では、地域とのパイプは、ケアマネとなっている。退院先の調整は全てケアマネがしているので、病院としては、ケアマネ任せ(地域包括ケアシステムに関わることがない)となっている。そのため、退院後については、関心が薄く、退院支援以外の病院職員は、あまり地域包括ケアシステムがわからない。
② 同じく、介護現場(訪問看護ステーション、施設側)からは、医療現場(病院)の現状がわからない。
③ 地域で受け入れる側の医療従事者が不足している。
 ・在宅医療:在宅施設は少ないが、1施設当たりの実施件数、受け持ち患者人数が多い。
 ・在宅医療をする医師がいない。(自宅近くに対応できる医療機関がない)
④ 県では各市町村に地域包括ケアシステムの構築に力を注いでいるところで、医療と介護の連携も進めているが、医師会等の在宅医療が主で、病院との連携はというわけではない。

5. 精神科訪問看護

(1) 精神科の歴史
 日本の精神科の歴史を簡単に説明すると、明治以前の日本では精神障害者が家族の中から出ると、馬小屋で生活させたり、座敷牢を作って入れたり、世間から隠されてきた。最初の精神障害者の法律「精神病者監護法」(1900年:明治33年)では、内容は精神病者を地方長官(今でいう都道府県知事)の許可を得て、監護の責任者(主に精神障害者の家族)が私宅などに監置できるという法律で、精神障害者の対策は依然として変わらず、精神医療が十分受けられず、家族の負担も大きいというものであった。
 第二次世界大戦後(欧米の精神衛生の考えが導入され)「精神衛生法」(1930年:昭和25年)が制定され、精神障害者の私宅監置が禁止、都道府県に精神病院の設置義務が課され、各都道府県に精神衛生相談所が置かれるようになった。精神障害者の少年によりアメリカ駐日大使のライシャワー氏が傷害を受け、日本の精神医療のあり方が国内外で問題となりました【ライシャワー事件:(1964年:昭和39年)】。1965年、精神衛生法一部改正(1965年:昭和40年)措置入院制度が強化され。これは精神障害者を隔離収容すべき、という新聞や雑誌などが主張し、世論も野放しは危険と支持して、厚生省も日本のハンセン病問題同様に、精神科病院への隔離収容政策(社会的入院)を始めるきっかけとなった。"1回入院すると一生病院から出られない"といったイメージがついたのもこの当時である。実際、精神科病院で一生を終える人が多く、精神障害者への偏見などから退院が難しかった現状もあった。しかし、宇都宮病院で入院中の患者が職員によって暴行を受け死亡する宇都宮病院事件(昭和59年)が起こる。精神障害者の人権が守られていないことや、日本の精神医療のあり方や社会復帰施策が不十分なことが国際批判され、精神衛生法を大きく見直すきっかけとなる。精神保健法(昭和62年)が作られ、社会復帰が促進されることになる。その後、精神障害者の在宅福祉の充実へ向け、整備され、精神保健医療福祉の改革ビジョン(平成16年)「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本的な方策が進められることになり、それまでの隔離収容政策から大きく方向転換された。

(2) 県立こころの医療センター
 庄内地域(日本海側)の鶴岡市にあり、県内唯一の公立精神科単科病院として、山形県の精神医療の基幹的役割を果たしている。
 精神科救急対応、児童思春期精神科医療、心神喪失者等医療観察法への対応などの政策医療を提供している。
 病床数213床。

(3) こころの医療センターの訪問看護
 県立こころの医療センターでは、訪問看護ステーションを持っており、在宅患者のサポートを行っている。訪問時の観察ポイントは、患者が薬をしっかり服用できているか、夜はしっかり寝て、生活サイクルは安定しているか、といったところを確認・指導している。
 精神科の患者の多くは、薬をしっかり服用できていれば、精神が安定し、トラブルも起こしにくいのですが、薬の服用をやめると、精神が安定せず、夜寝なくなったり、気が荒くなったり、奇声を上げたり、トラブルを起こしやすくなり、警察に通報、保健所の職員に連れられて入院となることが多い。
① 在宅時【自宅(持ち家、借家、公営住宅)、グループホームなど】
 看護師と精神保健福祉士、または、作業療法士がご自宅やグループホームなどを訪問する。安定した医療の継続と再入院防止の働きかけを行うとともに、訪問看護利用の方、家族の相談に応じ地域で安定した生活を送れるようサポートしている。
※ 不穏の場合
 トラブルが予測されるほど不穏な場合、医師に報告、訪問時にそのまま連れてきて入院とさせたり、外来診察時に入院するように設定したりする。
 トラブルから近所や家族の通報で、警察や保健所へ連絡され病院へ連れてこられたとき。興奮がおさまらない場合、入院となることもある。

※ 精神科入院形態の種類
 任意入院:本人の同意による入院
 (以下本人が入院を拒む場合)
 医療保護入院:家族の同意による入院、精神保健指定医の診察が必要
      特定医師の診察の場合、入院期間は12時間
 措置入院:自傷他害のおそれのある人に対する強制的な入院措置
      精神保健指定医2人による診察が必要
      入院期間は、自傷他害のおそれがないと判断されるまで
 緊急措置入院:措置入院に準じるが、急速な入院が必要な場合
      精神保健指定医1人の診察が必要
      入院期間は72時間
 応急入院:緊急に入院治療が必要な場合
      精神保健指定医の診察が必要
      入院期間は、精神保健指定医で72時間
            特定医師で12時間
② 入院時
 精神科訪問看護の職員が訪問看護時の状況等を病棟に情報提供し、必要な手続きや着替えや日常必要なものを病棟へ持ってきたりする。
③ 入院中
 退院へ向けて、退院先(在宅なら家族、グループホームや訪問看護ステーションの職員)、市の介護支援の職員、病棟看護師、医師でカンファレンス(治療方針や退院へ向け各自の役割を明確化し意思統一する会議)を行います。入院中に必要となる手続き(生活保護の受給、施設の申し込み、ライフラインの開始等)を行い、必要時に訪問看護の職員が手続きに付き添って外出する場合もあり。
④ 退院時
 病棟から退院サマリー(診療記録の1つ、病歴等や入院時の状況を要約し記載したもの)がくる。入院中の情報提供がされる。基本的に退院が決まると医師の指示で訪問看護の日程が組まれる。場合によっては退院時に付き添っていくときもある。

 こころの医療センターのデイケア
  月曜日から金曜日(土日、祝祭日を除く)に実施。
  病気の回復促進、再発防止等を目的とした外来治療の1つ。
   ○目的 対人関係を円滑にし、社会性を養うと同時に自我の強化を図り、疾病の再燃を抑制するとともに、社会生活の維持とその質の向上のための援助を行う。
   ○内容 手工芸、調理、脳トレ、心理教育(疾病関連、対人関係、セルフケア等)、外来講師(アロマ体験、パステルアート、太極舞、ストレッチ)、運動(ソフトバレー、卓球など)、院内外でのレクレーション。この他、日常生活全般に関わる生活指導、就労支援・相談、各種手続き支援・相談も行っている。

6. 日本海総合病院の地域医療連携推進法人

(1) 日本海総合病院
 庄内地域(日本海側)の酒田市にあり、1993(平成5)年に山形県立日本海病院として開設。2008(平成20)年市立酒田病院と経営統合し、独立行政法人山形県・酒田市病院機構 日本海総合病院として新たに開設。庄内地域における3次救急・専門医療を担う急性期病院。一般病床数642床、感染症病床4床を有する。山形県災害拠点病院やがん診療連携拠点病院などに指定されている。
 日本海綜合病院では、地域医療構想を進めるツールの1つ地域医療連携推進法人(日本海ヘルスケアネット)を2018年4月の発足をめざしている。これにより、急性期、高度医療対応の中核となってきた日本海総合病院の他、地域医療を支える医師会、介護、福祉施設など地域内の多分野にわたる医療・介護・福祉機関が一体的に参加する。各施設の強みを生かして役割分担し、高品質で効率的な医療・介護・福祉サービスを、切れ目なく継続的に提供する体制となる。また、精神科病院も入ることから増加が見込まれる認知症患者などに対し、連携、情報共有しながら最適な治療・対応ができるようになることが期待されている。

(2) 地域医療連携推進法人の意義
 「複数の医療法人を統括して一体的経営を行うことにより、経営効率の向上を図るとともに、地域医療、地域包括ケアを充実し、ブランド力による職員確保の有利性、共同購入や価格交渉力によるスケールメリット、人事一元化による効率配置、患者情報共有、高額医療機器の重複投資回避による経費管理、特に過疎化、疾病構造の変化が大きな地方では、病床機能分化や配置管理の一元化により、大きな節減効果と経営健全化への貢献が期待される。」としている。

山形県庄内地方の地域医療連携推進法人構想(イメージ)

(3) 労働者側から見た今後想定される課題
 地域医療連携推進法人は、連携(グループ)を組む団体は、それぞれ経営形態の独立した状態である(賃金・労働条件が違う)が、グループ間で人事交流(医師、看護師等の異動)が想定されるため、同じ職場で、賃金の違う職員が働くことになる。将来的に同じ仕事をしているなら賃金を統一しようとなることは明白であり、経営者からすれば、低い方に合わせようとすることが予測される。また、職場環境も今までと違う、働いたことのない部署への異動や望んでもいない異動も出てくるであろうことから、労働者の賃金・労働条件を守るための取り組みが必要となってくると思われる。

7. 各地域の取り組み

(1) 県内の地域包括ケアシステムに絡んだシステム
 村山二次保健医療圏(べにばなネット) 資料1
 最上二次保健医療圏(もがみネット)
 置賜二次保健医療圏(OKI-net)
 庄内二次保健医療圏(ちょうかいネット)

資料1(県のホームページより)

(2) 入退院調整ルールの手引き作成(置賜保健所のホームページより)

8. まとめ

 病院職員にとっては、地域医療構想に絡み、病院機能の変更や病棟削減の課題があり、医療現場で頑張っているのが精一杯で、地域包括ケアシステムまで目がいかず、病院としての入院中の患者のゴールは、「退院」となっている。また、余裕のない職場実態から残念ながら、入院中は病気そのものにしか目がいかず、退院後の患者がその人らしく在宅で暮らすためには何が必要か、患者・家族が何を望んでいるかといった視点まで及ばない。退院後の地域包括ケアシステムとの橋渡しはケアマネ任せとなっている。
 しかし、病院から地域で患者を診ていく方向へシフトしていることから、病院事業体は生き残りをかけ訪問看護など在宅支援へより力を入れ、場合によっては病院に訪問看護ステーションを設置していくことになると考えられる。
 訪問看護ステーション等の在宅支援で何を望んでいるのか、病院と意思疎通が図れるような環境が必要なのではないだろうか。