1. はじめに
佐々木(※1)は、現在の「日勤→深夜」の逆循環シフトは、いわゆる「時差ぼけ」と同じ状態で勤務をしていることになり、疲労が蓄積しやすいと言っている。
現場では、変則2交代勤務を看護協会が推奨していると誤解して、全国の各病院で導入されているが、看護協会の「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」(※2)では、宿直態勢よりは、2交代制夜勤が、2交代制でも16時間ではなく12時間が良いのでは、というものであり、3交代制夜勤を無理やり2交代制にすることはないとの内容になっており、看護協会のガイドラインの中でも、「正の循環シフト」を推奨している。
正の循環シフトについて、山形県病院事業局職員労働組合(県病労)として学習会を開催し学習はしたものの実践しているところはなかった。
そこで、活き活きと働き続けるための取り組みとして、普段から行っているシフトと「正の循環シフト」勤務を実際に行い、シフトの変更前後で疲労度・疲労感に違いがあるのではないかと考え、疲労度を測定し疲労度・疲労感が軽減できるのかどうかを調査することとした。
その調査結果で、特徴的なものについて報告する。
2. 調査内容
(1) 調査対象
山形県立4病院(中央病院、新庄病院、河北病院、こころの医療センター)の病棟に勤務する看護師組合員の中で、各病棟から選出し調査に協力の得られた57人。
(2) 調査期間
2016年8月1日~9月30日
(3) 調査方法
① 調査協力者から、現在の疲労度合の計測ができる2016年8月1カ月間について、これまで同様の勤務の中で、疲労度を測定した結果と疲労感を調査票に記入、2016年9月1カ月間について、正の循環シフトで勤務してもらい、疲労度を測定した結果と疲労感を調査票に記入することとした。
② 「起床時は、交感神経が興奮しておらず疲労度が正確に結果に出やすい」といわれていることもあり、毎日、起床時に測定してもらうこととした。
(4) 疲労度の測定
疲労度測定に用いられるフリッカー検査により測定するため、スマートフォンのアプリFHM(無料)(※3)を使用し協力者自ら起床時に疲労度を測定した。
(5) 疲労感の測定方法
疲労感を測定するために、ビジュアル・アナログ・スケール(100mm)を用意し、左端を「全く疲れていない」右端を「非常に疲れている」に設定、協力者自ら疲労感をチェックした。
<参考>ビジュアル・アナログ・スケール
(6) 調査票への記入<調査票:別紙1>
① 勤務シフト(日勤、準夜、深夜、休み、出張など)
② 起床時間
③ 疲労度測定結果(FHM)
④ 出勤時間
⑤ 退勤時間
⑥ ビジュアル・アナログ・スケール(100mm)へのチェック
(7) 調査協力者からの同意について
調査協力者から、①本調査に協力し、「調査票」に記入すること②調査に協力しないことによって、不利益な取り扱いを一切受けないこと③記入した「調査票」を報告すること④調査結果について、個人が特定される公表を行わないこと⑤個人が特定されない内容で調査結果を公表すること、について同意書で同意を得た。
<参考>シフトのパターン
従来のシフトのパターン |
月 | 火 | 水 | 木 | 金 |
日勤 | 深夜 | 準夜 | 休み | 日勤 |
休み | 深夜 | 準夜 | 休み | 日勤 |
日勤 | 準夜 | 準夜 | 休み | 日勤 |
休み | 準夜 | 準夜 | 休み | 日勤 |
日勤 | 深夜 | 深夜 | 休み | 日勤 |
休み | 深夜 | 深夜 | 休み | 日勤 |
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正の循環シフトのパターン |
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3. 結 果
(1) 調査表の配布と回収方法
① 事前に同意の得られた調査協力者に、直接、調査票を手渡し、記入方法を説明、調査を依頼した。
② 10月に、調査協力者に直接会って57人から回収した。
(2) 疲労度測定の不採用
疲労度測定で使用したFHMの結果が「疲労感」と開きがあったことと、「日勤→深夜」(グラフA)の場合、「準夜→休み→深夜」(グラフB)の場合でも、実感とは違う疲労度「5元気です」と出続け、さらに、疲労度が「1疲労が危ないレベルです」のどちらかに振れ、中間の「2かなりお疲れです」、「3お疲れです」、「4すこしお疲れです」のデータがうまく得られないこともあり、今回は、「疲労感」(ビジュアル・アナログ・スケール)の結果についてのみ使用することとした。
グラフA 日勤→深夜 深夜の疲労度(FHM) n=156 | | グラフB 準夜→休み→深夜 深夜の疲労度(FHM) n=149 |
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(3) 日勤→深夜時の「深夜」の疲労感
調査結果のうち、「日勤→深夜」のシフトの場合に、深夜入り前の仮眠の後の疲労感についてまとめたのが「グラフ1」(縦軸:個数、横軸:疲労感)で、日勤の疲労感があるまま深夜勤に出勤している。
グラフ1 日→深 深の疲労感 n=157 | | グラフ2 退勤時間と深夜の疲労感 n=147 |
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「グラフ2」(縦軸:疲労感、横軸:退勤時間)では、退勤時間が遅くなると疲労感も高くなっている。定時で退勤していても、疲労感が高いところと低いところがあり、「日勤→深夜」というシフトそのものが疲労感につながっている。
(4) 準夜→休み時の「休み」の疲労感
「グラフ3-1」は、「準夜→休み」の場合の「休み」の起床時の疲労感についてまとめたもので、これを、8時前に起床したとき(グラフ3-2)と8時以降に起床したとき(グラフ3-3)で分けると、「グラフ3-2」では、疲労感の高い傾向がある。
「グラフ3-4」(縦軸:疲労感、横軸:起床時間)は、「準夜→休み」の場合の「休み」の疲労感の分布を表している。当日の1時15分までの勤務を終えて帰宅・就寝、起床時間が遅くなるにつれ疲労感は下がっていく。5時台や6時台に起床しても、疲労感の少ない方もいる。
(5) 準夜→休み→深夜(正の循環シフト)の「深夜」の疲労感
「グラフ4」は、「準夜→休み→深夜」の場合の「深夜」の起床時の疲労感についてまとめたものである。「日勤→深夜」(グラフ1)の場合と同じ傾向が見られる。
グラフ4 準→休→深 深の疲労感 n=154 | | |
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(6) 日勤→準夜(正の循環シフトの一部)の「準夜」の疲労感
「グラフ5-1」は、「日勤→準夜」の場合の「準夜」の起床時の疲労感についてまとめたものである。これを、8時前に起床したとき「グラフ5-2」と8時以降に起床したとき「グラフ5-3」で分けると、「グラフ5-2」では、疲労感50を超えるほうに偏りが見られる。そのことが、全体を現した「グラフ5-1」のピークを50超側に偏らせている。家庭の事情などで8時前に起きる必要があると疲労感が高くなる傾向がある。準夜前に寝ていることができれば、疲労感が低めになる。
(7) 深夜→日勤(正の循環シフトの一部)の「日勤」の疲労感
「グラフ6」は「深夜→日勤」の場合の「日勤」の疲労感についてまとめたものである。疲労感50を超えた側に多い。
(8) 準夜→休み→深夜(正の循環シフト)の「休み」の疲労感
「グラフ7-1」は、「準夜→休み→深夜」の場合の「休み」の起床時の疲労感について表した。これを、8時前に起床したとき「グラフ7-2」と8時以降に起床したとき「グラフ7-3」で分けると、「グラフ7-2」では、早く起きて疲労感が高いままで家庭のことをしなければならない実態がうかがえる。「グラフ7-3」では、疲労感の少ない方が増えている。
(9) 休み→日勤の「日勤」の疲労感
「グラフ8-1」は、「休み→日勤」の場合の「日勤」の起床時の疲労感について表したものである。「グラフ8-2」は、起床時間と疲労感の分布を表している。起床時間に関わらず満遍なく分布しているが、起床時間が早いと疲労感も高くなるものの、疲労感が低い方もいる。
(10) 連休2日目の疲労感
「グラフ9」は、「連休」の「2日目」の起床時の疲労感について表したものである。3連休目・4連休目・5連休目も含んでいる。連休になると疲労感は少ない傾向が見られる。
(11) 8月と9月の疲労感
「グラフ10」は、8月全体の疲労感、「グラフ11」は、「準夜→休み→深夜」のシフトを組んで勤務した9月の疲労感を表している。
同様の分布になっており、明らかな違いは見出せない。
(12) 連休の数の比較
「表1」は、連休の種類と数を比較したものである。9月に「2連休」の数が明らかに減っている。「準夜→休み→深夜」のシフトを組んだことで、連休が作れない状態であったといえる。「3連休」「4連休」の数は変わらない。自由記載に「『準夜→休み→深夜』はずっと働いている感じがした」との意見もあり、そのことをうかがわせる結果である。
表1 | (回) | |
| 8月 | 9月 | 比較 | 減少率 |
2連休数 | 111 | 66 | ▲ 45 | -68% |
3連休数 | 29 | 26 | ▲ 3 | -12% |
4連休数 | 17 | 14 | ▲ 3 | -21% |
5連休数 | 4 | 2 | ▲ 2 | -100% |
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4. 分 析
(1) 「深夜」勤務について
「グラフ1」(「日勤→深夜」の「深夜」の疲労感)、「グラフ4」(「準夜→休み→深夜」の「深夜」の疲労感)を比較すると、違いは見られず、「深夜」そのものへの負担感が、「疲労感」としても現れているものと考える。
逆循環シフトである「日勤→深夜」と、正の循環シフトである「準夜→休み→深夜」に明確な差は見られなかった。
(2) 勤務間隔(インターバル)の同じ「準夜→休み→深夜」「日勤→準夜」「深夜→日勤」について
「グラフ4」(「準夜→休み→深夜」の「深夜」の疲労感)、「グラフ5-1」(「日勤→準夜」の「準夜」の疲労感)、「グラフ6」(「深夜→日勤」の「日勤」の疲労感)、を比較すると、「深夜→日勤」、「準夜→休み→深夜」、「日勤→準夜」の順に疲労感が軽減している。同じ勤務間隔でもシフトが違うと疲労感も変わると考える。
特に、「深夜→日勤」における、日勤の疲労感には、経験上日勤の途中で眠気が襲ってきてつらいということもあり、シフトそのものへの負担感も高いと考える。
(3) 「休み」の疲労感
① 「準夜→休み」の「休み」の疲労感(グラフ3-1、3-2、3-3)、「準夜→休み→深夜」の「休み」の疲労感(グラフ7-1、7-2、7-3)は、同じ「準夜」あとの「休み」であるが、8時前に起床した場合の「グラフ3-2」と「グラフ7-2」を比較すると「グラフ7-2」で疲労感50を超える側に多くみられ、「また夜出勤しないといけない」という気持ちの表れが見られる。準夜明けの休みは、日常的に疲労感が残っている実態がうかがえる。
② 「連休2日目」の疲労感(グラフ9)の場合は、疲労感が少なくなる傾向が見られるものの、完全に疲労回復している状態とはいえない。
③ 「休み→日勤」の疲労感(グラフ8-1)では、ある程度疲労感がありながら勤務を行っていると考える。
④ 単発の「休み」では、疲労回復にはならず、2連休がないと疲労感が少なくならないということがわかる。
(4) 起床時間と疲労感
「グラフ3-4」(準→休 休の起床時間と疲労感)「グラフ8-2」(休→日 日の起床時間と疲労感)でみられるように、家庭のことなどで朝早く起きなければならない場合は、疲労感が高くなる。朝ゆっくり寝ていても、疲労感が高い場合もある。その一方で、朝早く起きたからといって疲労感の低い場合もあり、短時間の睡眠でも疲労感が低い方がいる。
5. まとめ
(1) 今回の試行調査でわかったこと
① 逆循環シフト「日勤→深夜」より、正の循環シフト「準夜→休み→深夜」の方が「疲労が溜まりにくいのでは」ということを明確にはできなかったこと。
② 「2連休」以上ないと、疲労が回復しにくいこと。
③ シフトに関わらず、家庭のことを優先しなくてはならず、疲労があっても朝早く起きて家庭のことをしなければならない方がいること。
④ 家庭のことを優先し、朝早く起きても疲労感が低い方がいること。
⑤ 疲労感を残したまま勤務していること。
(2) 今後の進む方向
① 正の循環シフトである「準夜→休み→深夜」の「休み」について、労働基準監督署の見解では、「24時間以上空いていないと休みとはいえない」としていることもあり、簡単ではないが、新たに「明け休み」というルールを作り、現在の週休2日制から「夜勤する者については実質週休3日制」をめざし、現在よりも「2連休」を多く作れるようにしていくこと。
② 日常生活における家庭の負担を減らすため、「夜勤する者」の疲労状態について、家族を含め社会全体に広めていくことで、家庭において、朝早く起きなければならない状況を少なくしていくこと。
(3) 疲労状態を改善していくには
① 0:30まで出勤しなくてはならない「深夜」そのものの負担感が強いのを改善する方法を考えていく。
② 家庭・家族の「夜勤」の大変さを理解してもらうために家族との会話を増やし、協力を得ていく。
③ 日常的に、夏季休暇の完全取得、年休の取得促進などの権利を取得していくこと、欠員補充で月8回以内の夜勤を守らせ、業務として、時間外労働時間の削減、勤務時間外の研修会開催数の削減などをしっかり行わせていくこと。
6. 謝 辞
今回の「正の循環シフト試行調査」にご協力頂いた調査協力者とシフトを組んで頂いた各セクションの看護師長、看護スタッフ組合員の皆さん、調査に理解を示して頂いた看護部長に感謝いたします。
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