【自主レポート】 |
第37回土佐自治研集会 第10分科会 みんなで支えあおう! 地域包括ケアとコミュニティー |
住民が安心して生活する為には、地域における安定した医療体制の提供は必要不可欠です。しかし、東日本大震災以降、福島県相双地域の医療提供体制は厳しい状況にあります。併せて、避難区域の解除で、問題は新たな段階に入ってきています。本レポートでは、福島県相双地域における医療提供の課題と、行政施策が地域住民へ及ぼす影響を、県の計画や市町村の取り組み等を検討しながら、必要な施策について提言します。 |
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1. はじめに
地域において住民が安心して生活する際に、安定した医療体制の提供は必要不可欠である。しかし、地方の地域医療の現状は、非常に厳しい状況にある。 |
2. 相双地域におけるこれまでの医療提供体制 (1) 福島県の地理的特性と医療圏の設定 (2) 相双医療圏における従来の問題点 ② 二次救急医療体制
特に、双葉地域においては、多くが中小規模の病院であったことから、地域内で夜間救急、二次救急医療をすべて担うことができず、救急搬送の半数を相馬地域やいわき医療圏に依存していた。双葉地域等から搬送される救急患者により、近隣地域の南相馬市立総合病院やいわき市立総合磐城共立病院の負担が増しており、双葉地域内での二次救急医療の早急な整備が必要とされていた(注4)。 また、相双医療圏は、阿武隈高地をはじめとする中山間地域が多く、県内でも無医地区数の最も多い地域でもあった。高齢者の割合が高く、公共交通機関も少ないなど、住民が医療サービスを受けにくい状況があった。 |
3. 震災後の相双医療圏の状況 (1) 概 況
一方、相双地域の各自治体でも、2018(平成29)年4月までに、帰還困難区域を除く大部分の避難指示区域が解除され、公的機関や民間事業所、教育機関等の再開とともに、住民の帰還が徐々にではあるが進んでいる。 双葉郡8町村においても、2018年4月時点で、避難指示解除から1年を経過した市町村(広野町、川内村、楢葉町、田村市(都路地区))では、約7千人程度(震災前の4割程度)が帰還したとされており、避難地域12市町村全体でも約1万人程度の住民が生活の拠点を旧避難地域内に移しているものと推測されている(注5)。このほか双葉地域で勤務している復興関連事業従事者などを含めると、日中人口は2万人を超えると推計されている(注6)。 (2) 医療機関の再開状況
② 医療機関の再開意向 地元での再開・継続に否定的な理由では、旧避難地域の厳しい帰還状況から採算が取れないこと、医療人材の確保が困難であること、建物・設備の損傷が激しく復旧に多額の費用を要することが挙げられている。医療機関に雇用されていた医療従事者の多くは、地元地域に居住していたことから、引き続き人材の確保が困難な状況は続くことが予想される。 また、双葉郡よりも先行して再開が進んだ南相馬市等の医療機関では、医師、看護職員等の医療人材が不足しているため再開できない、病床を全面稼働できない状況がみられることから、医療機関の再開支援とあわせて、医療人材の確保が必要となっている。 再開している医療機関においても、医師・看護職員等のシフトは依然として震災後の緊急時の勤務体制を継続しているところが多く、長期的に安定して医療体制を提供できる人員体制にまでは回復していない(注9)。長期的に安定した医療提供ができる人員体制を整備するために、今後も人材の確保と医療人材の勤務労働条件の整備が必要な状況となっている。 |
4. 福島県の相双地域医療復興施策 福島県は、「浜通り」、「相双地域」、「避難区域」と範囲が重複する地域を対象としながらも、帰還した住民が必要とする医療を提供し、住民の健康を確保するために計画を策定している。以下、県の策定した計画・施策を概観する。 (1) 医師の確保 (2) 看護職員等医療人材の確保 (3) 避難地域の医療機関再開支援等 (4) ふたば救急総合医療支援センター (5) 二次救急医療機関の整備 (6) 近隣地域の病院の機能強化 (7) 地域包括ケアシステムの構築 (8) 薬局開設支援 |
5. 自治体・地域の取り組み
各自治体・地域でも、県及び福島県立医大の支援補助を活用しながら、地域の医療提供体制の確保に向けた新たな動きがみられる。 (1) 南相馬市立総合病院の取り組み (2) その他の自治体等の取り組み |
6. 地域健康福祉の観点からの課題
南相馬市においては、2014年の特定健康診査の質問票で「運動習慣なし」「体重増加」「睡眠不足」と回答した人の割合が県・全国と比較して高くなっているほか、介護認定者における有病率推移において、精神疾患の罹患者が急増2012(平成24)年度 32.8%→2014(平成26)年度 38.2%)している状況がみられるなど、現在の生活習慣の把握と分析、健康維持・改善の取り組みが喫緊の課題となっている(注11)。 その一方で、南相馬市では、特定健康診査対象者に対する受診率が低迷しており、保健指導対象者の把握と早期指導への取り組みが進まないことが課題となっている(注12)。検診結果に基づいた予防対策や積極的な訪問事業により状況を早期に把握し、自治体、医療機関、介護業者が連携して、在宅医療・在宅介護を提供する体制の構築が必要となっている。特に、山間地集落や避難地域の住民は、交通機関も限られており、自主的な通院、介護予防サービスを受けづらい環境にあることから、早期の対応が求められる。 県の調査によると、2017(平成29)年7月1日現在の介護事業者の双葉郡内地元市町村での再開状況は、震災以前の37.5%(18事業者)にとどまっている(注13)。再開した施設においても介護職員の確保が困難であることが課題として挙げられている。相双地域における地域包括ケアシステム構築に向けた課題は多い。 また、浪江町では、長期の避難生活によるストレスの増大や生活習慣の乱れにより、アルコール依存症や精神疾患の発症、孤立した環境下に置かれることによる認知症の症状の進行などの事例が増加傾向にある(注14)。 これらに加え、地域における障がい者の現況把握や住民等のメンタルヘルスの状況把握は、これまで十分に行われておらず、その悪化が懸念される。原則は市町村の事業となる分野だが、市町村独自の対応にも限界があることから、国・県を含めた事業の展開による対応・市町村の支援が求められる。 |
7. 相双地域の住民健康の維持改善・確保にむけた提言 これらの現状や県の計画・施策、各自治体の取り組みを見たうえで、改善にむけた提言を述べてみたい。 (1) 医療人材確保 (2) 地域における医師間・病院間の連携の強化 (3) 健康診査情報の共有と予防保健事業の充実 (4) 市町村職員の心身面での健康確保 |
8. さいごに
本部会では、浜通り・相双医療圏における医療・地域福祉の状況という範囲設定の中で、広範な問題について議論してきた。その中で、部会員から「医療・福祉と分けるのではなく連携した視点が必要」、「浜通りの現在おかれている状況は、複数の問題・要因が関連しているのではないか」との意見が多く出された。この意見は事態の本質をとらえている。 |
○参考文献・資料 |