【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第10分科会 みんなで支えあおう 地域包括ケアとコミュニティー

 どこでどのように老い、最期を迎えるか、毎日のように考えさせられる事態が、高齢化が進行し続ける私たちの地域で発生しています。夏には、室内で熱中症、冬には「しもやけ」になる住環境で暮らすしかない方の介護をどのように行っているか、地域に助け合い制度を再構築する「介護でまちづくり」の取り組みを報告します。



「介護でまちづくり」に取り組む実践報告
―― 自治労がNPO結成し介護保険事業を ――

奈良県本部/自治労奈良公共サービスユニオン・「あいの家」 蛯原能里子・辻本 恵則

1. 介護保険事業を展開

(1) デイサービス事業を開始
① 3人の利用者7人のスタッフで出発
 介護を必要とする方々の居場所づくりに、介護保険事業を通して行うこととしたのは8年前のことであった。「自治労が担う市民のための公共サービス」のあり方の一つとして、自治労組合員と地域住民が連携をして「東吉野村まちづくりNPO」結成、そのNPOが「あいの家」デイサービスを立ち上げた。その後、居宅介護支援事業所、訪問事業、障害者福祉サービスを開始してきた。

② 現在、スタッフ48人、介護保険事業の利用者さん61人に
 2017年3月に小規模多機能型居宅介護事業所「あいの家多機能ホーム」を開設した。デイサービスのように通ってもらう「通いサービス」があり、訪問介護もする、必要な時に泊まって頂くこともできる介護保険事業所である。
 8時間利用者さんとかかわるデイサービス事業から24時間365日顔見知りのスタッフがお世話する体制が整った。
③ 「私たちの」働き方改革
 あいの家スタッフは、48人で60才代25人52%を占めている。後継者育成に視点を当てたとき、若い世代の採用を推し進める議論の中から、20才代、30才代の求人を行った。村に住み子育て真最中の夫婦が働きながら子育てをする環境を求めていた。しかし、職場に保育所があるわけでもなく、あいの家に4才の子どもを連れてくることを協議した。本人たちは了解。同じく働く者が「子連れ」労働をどう受け止めるか、話し合いを行う中、二人を採用した。介護職場に「子どもの存在」は、利用者さんにスムーズに受け入れられた。小さな子どもであるから8時間労働の中では、危険なこと、子の世話と労働の両立を同僚が支える葛藤の最中である。70才代4人、80才代2人の方を以前から採用している。働きたい意欲ある方々で、いきいきと現役時代と同じく活躍されている。私たちの「働き方改革」をもっと追求していきたいと話し合っている。
④ 生活保護受給者が利用しにくい課題
 国が、在宅介護を重視した施策である「小規模多機能型居宅介護事業」であるが、生活保護者が「泊まり」を利用しようとすると私たちの施設では2,000円がかかり、特別養護老人ホームで適用される宿泊費、食事代免除が適用されない制度となっている。生活保護の居住費が宿泊費に認定されず個人負担となる。事業所の努力で免除規定を定めるしかない現状であるが、国、地方公共団体への制度改正を求めるべき課題である。
⑤ 介護保険事業収入が他の事業収支を支える
 あいの家は、借入金も抱えながらであるが、全事業トータルして赤字ではない。介護保険事業の収入と企業が行う社会貢献助成金でこの8年間継続でき、地域や知人の協力が得られていることが大きな力となっている。
 地域住民の理解を求め、人材確保につなげていくことや事務能力を持つ行政職員体験者の存在が協働できている。さらに、現役自治労組織の支援と連携を必要としている。それは、双方にとって、支え合いの「しくみづくり」でもある。

2. 東吉野村議会議員活動を通したまちづくりの取り組み

(1) 市民の声を行政に反映させるために
① 私たちの代表を議会に送っていく取り組み
 あいの家スタッフが応援をした女性の東吉野村議会議員が、2018年4月の選挙で誕生した。山村へき地の過疎の村60年の歴史で、トップ当選をした女性は初めての出来事である。住み慣れた地域で最期を迎えたい、この思いを支えるのは、公共サービスを提供する自治体である。そこで発言権を獲得することができたのは、行政と住民の協働を推進するに当たって貴重なことである。
② 立候補の思い
 「この村で老い、この村で最期を迎えたい」その願いを叶えるために今、村には何が必要なのか、インターネットや情報誌を通じて「村の美しさ」は盛んに発信され、村を訪れる観光客や定住希望者は増えてはいるけれど、この村で住み続けている人々、若い人や子どもたち、高齢者たちはどんな思いでここに暮らしているのか。移送サービスや食事支援、村で住み続けることのできる住宅の提供、出会いの場づくりなど、今、地域にある「人・もの・館」を活用することで、もっと安心して暮らすことのできる村づくりにつなげたい。身近な人々の声を村政の場に届けたい。その思いで立候補を行った。
③ 議会議員として今後の展開
 この村で住み、この村で老いていきたい一人ひとりのために、「安心して暮らし続けることのできる村づくり」を追究したい。地域の連携、行政の支援と連帯、そして「あいの家」が理念として掲げる「よかった 会えて」が村全体で共有できるよう、住民の皆さんの声を聴き、話し合い、政策につなげるよう提言していきたい。

3. 「最期まで住み慣れた地域や家で暮らしたい」願いを実現するために

(1) 過疎地有償運送サービスを続けてきた10年
① 高齢者や障がい者らが困っている通院、買い物など交通手段を確保する取り組み
 私たちの地域の人口は、8年前2,400人、現在1,800人になり、高齢化率は46%から53%に達した。公共交通機関は、赤字路線廃止で村役場と最寄りの鉄道駅を運行するバス路線だけとなり、村では、コミュニティバスを運行している。
 私たちが10年前から行ってきた過疎地移送サービス事業は、公共交通機関でカバーしきれない山間へき地の支線まで乗用車で入り、門口から目的地まで送迎するもの。高齢者や障がい者の方で、乗り継ぎやバスの乗降が困難な方に喜ばれてきた。
 有償の移送サービスで、村が主催する運営協議会の協議を経てタクシーの半額以下の料金設定をしている。必要なときに必要なところまで迎えに行き、目的地までお送りする、また必要に応じて付き添いも行っている。
② 過疎地移送サービスにかかる課題
 この事業の課題は、利用者に負担頂く料金と運行にかかる経費のバランスがとりにくいことにある。年金生活をされている高齢者にとって、医療費や買い物代に加えて、山間へき地であるが故に遠くまで出かけることで交通費が上乗せされる。
 運転手に団塊世代の方々をお願いし、賃金を抑えるとか、車両の維持費がかからないように工夫はしているものの、私たちだけで運営するには、経費が課題となっている。解決のためには、行政が主体となって行うか、民間と行政の協働で行うか、日本のどこに住もうと交通手段は、公費で保障されて当然であると捉えている。

(2) 夕食弁当づくりの取り組み
① 栄養バランスを保つことが難しくなっている高齢者らの状況
 5年前に村が行った配食サービスに関するアンケート調査によると、希望者が173人も存在していた。一人暮らしや障がい者の方々が食事づくりに困っている実態が現在も存在する。
 夕食弁当づくりを始めたのは、2016年2月のことであった。35食前後の夕食弁当を午後3時をめどにつくり配達するしくみを作っている。作り手は、まちづくり講座に参加を頂いた主婦で、配達係は、団塊の世代。利用者さんの安否確認を兼ねて配達している。高齢者や一人暮らしの方は、食事づくりがつらく、どうしても簡単な食事で済ましがちになる。こうした現状に夕食弁当を楽しみにして頂いている。配達時に他の困りごとを聴き取る機会としても継続していく重要性な取り組みと捉えている。
② 課 題
 夕食弁当600円、食事づくりと配達スタッフ賃金一時間単価900円としているが、移送サービスと同様に収入と支出のバランスが取れていない食事づくり事業である。
 奈良県の助成金事業であった「高齢者生きがいワーク支援事業」の採択を受け、食事づくりチームの結成と配食サービスの実施につなげてきた。その次の年、福祉医療機構の助成事業で人件費を対象として頂いた。助成金が終了した現在、次に報告する「困りごと対応事業」「コーヒーハウス運営事業」を含んだ収支バランスが課題となっているが、介護保険事業とともに取り組んでこそ、まちづくりに貢献できるテーマであると議論している。

(3) ちょっとした困りごと対応事業の取り組み
① 住み慣れた家で暮らすために必要なこと
 高齢で身体が不自由になると、日常生活の「ちょっとしたこと」ができなくなる。例えば、電球の取り替えができなくなることや家の周りの草刈りなど、日常生活での困りごとがたくさん出てくる。
 昔は、親戚や知人が多くいた山村であるが、過疎によって隣近所がいなくなった状況で、しくみを作れば気兼ねなく頼めるという声を受けて「ちょっとした困りごと対応事業」を始めた。介護保険事業で対応しきれない部分の在宅生活を支える取り組みである。

(4) あいの家コーヒーお茶ハウス事業の取り組み
① 地域で気軽に寄り合える居場所づくり
 空き家を借りることができたのをきっかけに、「あいの家コーヒーお茶ハウス」を運営している。企業の助成を受け、家屋の改修費、屋根の葺き替え、備品の購入を行い、開店し2年が経過しようとしている。ここで働く店員さんをお願いしたのは、84才、81才、70才の女性で、有償ボランティアとして引き受けて頂いた。利用者は、近隣地域の方々で、コーヒーを飲みながらおしゃべりできる居場所である。地域で気軽に寄り合える居場所となっている。山間へき地には、喫茶店がない。公民館はあっても常時開館しているわけでもない。「こうした居場所があったらいいなあ」という声を受けて継続している。
 夏には、室内で熱中症にかかってしまうひとり暮らしの高齢者、冬には、しもやけになってしまう住環境で暮らすしかないが、それでも住み慣れた地域と自宅で暮らしたい方々に対し、訪問、通い、泊まりの多機能な機能に加え、地域の方々と連携をとりながら楽しく支え合いのしくみを継続させることの重要性と「楽しさ」をもって活動している。