【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第10分科会 みんなで支えあおう 地域包括ケアとコミュニティー

 中山間地域の医療機関として、予防からリハビリまでの一貫した地域包括医療をめざして、地域や住民に寄り添った取り組みを行ってきたことで病院の存続につながったことや、地域の実情に応じた地域包括ケアシステムの実践に必要な「ホウ・レン・ソウ」についての考察を報告する。



地域包括ケアシステムの実践に必要な
「ホウ・レン・ソウ」を考える

広島県本部/自治労西城市民病院労働組合 岡井 耕平

1. はじめに

 地域包括ケアシステムとは、住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを、人生の最期まで続けることができるよう、住まい・介護・予防・生活支援が一体的に提供される連携体制のことです。私は理学療法士として2002年に国保直営西城病院(現在の西城市民病院)に就職しました。以降、通所リハビリテーションや老人介護保健施設と配属が変わり、2017年10月から訪問看護に配属となりました。西城地域だけでなく東城地域も担当しています。同じ庄原市であっても各々の地域に特性があり、諸課題が違うように感じています。そこで、それぞれの実情に応じた地域包括ケアシステムの実践に必要な事柄を「ホウ・レン・ソウ」をキーワードに考察したのでここに報告します。

2. 沿革および平成の大合併による影響

 西城市民病院は地域包括ケアシステムが脚光を浴びるよりはるか昔の1978年から、地域住民の健康を守るために施設健診(誕生日健診)を始めるなど、予防からリハビリまでの一貫した地域包括医療をめざして行ってきました。
 2000年には、西城保健福祉センター「しあわせ館」を併設し、西城市民病院を中核とした保健・医療・福祉・介護分野の一体的なサービス提供ができる地域包括医療・ケアの仕組みづくりを確立しました。
 しかし、西城町は平成の大合併の例に漏れず、2005年3月31日に庄原市と甲奴郡総領町、比婆郡口和町・高野町・東城町・比和町と新設合併し、庄原市となりました。
 旧庄原市にはすでに公的病院として庄原赤十字病院があったことや他町とは医療や介護の提供体制に大きな差があったことなどから、どちらかと言えば西城町以外の地域住民からすれば西城市民病院に対する印象は肯定的なものではなく、言うなれば西城市民病院を必要だとは思っていない方が多かったように認識しています。  
 合併当時、庄原市全体の人口は43,519人でした。その内、65歳以上は15,609人(高齢化率:35.9%)でした。西城町の人口は4,658人でした。その内、65歳以上は1,943人(高齢化率:41.7%)でした。2018年3月31日時点では、庄原市全体の人口は35,910人となっています。その内、65歳以上は15,083人(高齢化率:42.0%)となっています。この減少傾向は西城町も同様で人口は3,451人となっており、その内、65歳以上は1,709人(高齢化率49.5%)となっています。
 急激な人口減少と高齢化率の上昇の影響は、外来や入院患者数の減少だけでなく、働き手、とりわけ看護師の確保が困難となるなどの問題を生じました。そのため、赤字経営が続きました。その結果、市議会において経営形態の在り方が問題として議論されるなど西城市民病院は不遇の時代を迎えることとなりました。

3. 病院存続に向けて高まる気運 ~真の地域包括ケアシステムへ~

 病院経営の存続が危ぶまれる中、地域住民による草の根運動が展開されるなど西城市民病院を守ろうとする機運が高まったことにより、地方公営企業法一部適用から全部適用への変更はあったものの病院は存続する運びとなりました。
 まさに雨降って地固まるであり、今日では地域包括ケアは地域づくりであるとの認識に立ち、診療体制や看護体制の充実、地域包括ケア病床への変換、移動診療車での巡回診療の開設、訪問診療や訪問看護(東城支所へのサテライト設置・訪問リハビリの導入)の充実、介護予防事業や健診事業の充実など地域ニーズに応じてサービスの見直しや拡充を行い、地域包括医療ケアシステムの充実を図るために、地域の方、関係者、職員それぞれが同じ目標に向かって共に取り組んでいます。
 また、西城市民病院では、花壇整備や車椅子の点検などの環境整備、患者様の見守りや介助、生け花やお抹茶など余暇活動に対する援助など数多くの病院ボランティアの方々の心温まるご支援をいただいています。

4. 病院存続に向けて高まる気運 ~真の地域包括ケアシステムへ~

 経営健全化にも職員一丸となって取り組んでおり、2014年度は△9,490万円であった収益が2015年度には5,300万円に黒字転換するといった成果が出ています。
 これには、地域包括ケア病床への転換や看護師配置基準の変更、病床利用率の上昇、診療単価の引き上げ、健診事業や介護事業の拡充などが大きく影響しています。
 2015年度から2017年度まで3年続けて黒字となってはいますが2018年度に行われた診療報酬と介護報酬の同時改定の影響によっては再び赤字となることも想定されます。
 ある病院職員が参加した、とある診療報酬の説明会では、地域包括ケアを正しく実践すれば加算が得られるとの説明があったとのことでした。ですので、今回の地方自治研究広島県集会のレポートの作成にあたって、表題にあるように地域包括ケアの実践に必要な「ホウ・レン・ソウ」を考えることとしました。

5. 地域包括ケアシステムの実践に必要な「ホウ・レン・ソウ」

 まず、「ホウ」について考えたいと思います。
 "報告"はもちろんですが、何よりもまずは"方針"が決まり"方向性"が定まらないと何事も始まらないと思います。それぞれの病院に方針や理念が掲げてはあるかと思いますが、どれだけの職員がそれを知って実践しているでしょうか。西城市民病院が黒字に転換した要因の1つに職員の意識改革があげられます。2015年度から経営アドバイザーにお越しいただいていますが、まず職員に尋ねた言葉は、「病院の基本理念や基本方針を言えますか。」でした。恥ずかしながら、私も含めて誰一人として手を挙げるものはいませんでした。
 ちなみに西城市民病院の基本理念は、「市民の皆さまが安心して暮らせ心の支えとなる病院に ~過疎地域における将来にわたって安定した医療の提供と市民の健康を守り安心して医療が受けられる体制整備に向けて~」です。
 基本方針は、
① 患者さま第一の、満足いく医療を提供します。
② 保健・医療・福祉と連携し、地域で安心して暮らせるよう支援します。
③ 救急医療を充実させ、安全で質の高い医療を提供します。
④ 患者さまのプライバシーを尊重し、わけへだてのない医療を提供します。
⑤ 常に自己研鑽に努め、明るく働きがいのある職場環境づくりをめざします。
となっています。皆さんは病院の基本理念や基本方針をどれだけ暗唱できたでしょうか。
 次に、「レン」についてです。
 まっさきに思いつくのは"連絡"でしょう。地域包括ケアを円滑に進めるためには"連携"も欠かせません。また、急性期病院から回復期病院、施設など転院を繰り返しながら在宅に戻られることも珍しくないため"連続性"シームレスな支援も必要となります。少し"連想"ゲームのような様相を呈してきました。懲りずにお付き合いください。"包容力"が試されます。
 最後に「ソウ」についてです。
 ポピュラーなところでは"相談"でしょう。もちろんそれも大切です。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」とのことわざもあるくらいです。一人で悩まず相談を。そのほかに必要なことは、"双方向"です。コミュニケーションは一方通行では成り立ちません。言っただけ、伝えただけでは理解は得られません。多くの場合、トラブルの元となります。"双方向"のコミュニケーションに必要なことは"相互理解"です。お互いに理解しあうことは「言うは易し、行うは難し」です。"創意工夫"をしながらコミュニケーションスキルを身につけていきましょう。

6. 今後の課題および展望

 西城地域の地域包括ケアは熟成した段階にあり前述の西城保健福祉センターとともに西城モデルと呼ばれるものがありますが、東城地域においては、ようやく自宅で看取ることが選択肢の1つとして認識されつつある段階です。骨折などで急性期病院に入院されても在院日数の短縮などの煽りを受けて、本来、受けられるはずのリハビリを十分に受けられないまま自宅へ戻られるといった地域格差も現実問題としてあります。
 まだまだ、改善していかなければならないことはありますが、とある女性実業家が、「『不』のあるところにビジネスチャンスがある。」とメディアで語っていました。不信を信頼へ、不満を満足へ、不便を便利へ、不安を安心へ、不幸を幸福へ、ピンチのあとにはチャンスあり。「ホウ・レン・ソウ」を駆使して地域の繋がりを深め、安心して暮らせ、誰もがどんな状況下であっても、たとえ片手ばかりの小さな幸福感であっても得られるよう支援をしていきたいと思います。そうすることで前述した2018年診療報酬・介護報酬の同時改定の加算部分を拾い上げることができると思います。
 以前の組合活動は賃金の引き上げや労働環境の改善など権利闘争でした。しかし、今日においては、当局も組合も一緒になって地域住民の健康を守ることや、安心して暮らせるための地域づくりを行うことに主眼を置き、政策闘争を行っていくことが必要であると思います。もちろん、時には"報酬"などの賃金に関することや"連休"など休暇制度の充実といった課題に対する取り組みも行います。そのほかにも、地域の皆さんに愛される病院になるためには、まず病院職員も地域を愛することが必要です。出前講座や地域のイベントなどに積極的に参加したり、町内で買い物したりなど地域の皆さんと"相思相愛"となれるよう自己研鑽のための研修制度の充実、余暇活動の充実、時間外労働の短縮といった課題にも取り組んでいきたいと思います。

7. 終わりに

 それぞれの地域の実情に応じた地域包括ケアシステムづくりのために、「ホウ・レン・ソウ」を上手に活用し、住民ひとりひとりが安心して暮らすことのできる地域づくりを実践するために、わずかでもこのレポートが役立つことがあれば嬉しい限りです。最後までご一読いただきありがとうございました。ともに頑張りましょう。