1. がんセンターの開設
がんは、1981年から死因の第1位となり、現在では生涯に2人に1人が罹患し、3人に1人はがんで亡くなっています。松江市は、2011年のがんによる死亡者数627人と、全死亡者数の30.2%(全国:28.5%、島根県:27.0%)を占めており、死亡原因の1位となっています。高齢化社会を迎える松江市にとって、今後もがん罹患率の増加が予測されており、がん対策は重要な課題となっています。
2013年に厚生労働省が策定したがん対策推進基本計画では、がんによる死亡者の減少、すべてのがん患者及びその家族の苦痛軽減並びに療養生活の質の維持向上やがんになっても安心して暮らせる社会の構築が掲げられています。そのため、がんによる苦痛が軽減されるとともに、家族全体での生活の質が維持されること、また精神的支援を含む患者支援のための環境整備が必要となりました。
松江市立病院は、医療需要の増大、多様化、高度化そして専門化に応えるため、現在病床数470床、27の診療科を有し、100人以上の医師が勤務する山陰の中核病院となっています。2005年の移転当初から健診センターを併設、また緩和ケア病棟の設置により「在宅ホスピス・緩和ケア」の充実に力を入れてきました。さらに、2017年3月にがんセンターを開設し、高度ながん診療体制整備の一環として、高精度な放射線治療装置の導入、安全かつ快適に治療が受けられる化学療法室の整備を始め、日常生活能力の維持向上のためのフィットネスルームの設置、副作用や合併症の予防・軽減のための口腔ケア、栄養管理、リンパ浮腫、相談、精神的サポートに対応する外来を設置し、幅広いがん医療が提供できる環境が整備されました。
健診、外来治療やケアを主体としたがん診療体系とともに、地域医療機関との連携を図ることにより、地域完結型のがん治療の推進が期待されています。がん患者の療養生活の質の維持向上を使命に、市民にとって住み慣れた地域で安心・納得のできるがん治療を受けてもらうことにより、公立病院として地域医療への貢献をめざしていくことになります。
2. 労働組合として
人口減少や少子高齢化社会が急速に進展する中、増加し続ける社会保障費の効率化と地域包括ケアシステムの構築を軸として、病院(施設)から地域(在宅)への転換が政策的に進められています。さらに、2015年3月に厚生労働省から「地域医療構想ガイドライン」、総務省から「新公立病院改革ガイドライン」によって、地域医療や公立病院の今後のあり方に関わる政策が示され、地域医療再編が本格的に動き出しています。島根県では2016年10月に「島根県地域医療構想」が策定され、2017年3月には「新公立病院改革プラン」が当院でも策定されました。
近年多くの公立病院において、経営状況が悪化するとともに、医師・看護師をはじめとする医療従事者不足に伴い、診療体制の縮小や病床閉鎖などの措置をとる病院が現れており、経営環境や医療提供体制の維持が厳しい状況になっています。近隣病院でも、「病床の機能分化/連携」を目的に急性期の病床機能から慢性期・回復期への病床シフトや削減などが行われています。
当院においては、公立病院として、へき地医療や不採算医療、高度先進医療などを提供する役割を継続的に担いながらも経営を健全化すること、そして、急性期医療を始め、地域がん診療連携拠点病院として松江医療圏域での医療提供の充実を図ることが役割として示されました。厳しい経営状況の中、今回のプラン策定にあたり病床数の見直しや運営形態の変更はされませんでした。しかし、2018年の診療報酬介護報酬同時改定などが、今後の医療を取り巻く環境を変化させていくことが予測されます。病院の方針や経営形態の変更は、私たちの賃金・労働環境の変更に関わる問題となるため、共に問題を共有し、解決にむけて取り組む必要があります。
また「がん対策推進基本計画」では、放射線治療、化学療法の充実とがん治療を専門的に行う医療従事者の育成や緩和ケアの推進が示されています。がんセンター開設後、診断、治療、在宅医療などの総合的な関わりを充実させ切れ目のないがん医療を行う必要があります。継続した、安心かつ安全ながん医療の提供には、人材確保や専門スタッフの育成が必須であり、組合としても継続して取り組むべき課題となっています。
3. おわりに
団塊の世代が75歳以上になる2025年を見据えて公立病院の再編・統合、縮小、独法化や指定管理者制度の導入などが全国で行われています。公立病院の今後のあり方について職員一人一人が自覚を持ち、経営の実態や当院のめざす方向を把握していくことが重要となります。また、接遇や自己研鑽を通してよりよい医療サービスが提供できるよう努めながら、がん医療を職員全員で推進し、市民の皆さまに選ばれる病院となるよう取り組んでいかなければならないと考えています。
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