1. 高知県地域医療構想の概要
(1) 日本の抱える少子高齢化
現在日本では、人口減少や少子高齢化が問題となっており、諸外国に例をみないスピードで急激に進行している。65歳以上の人口は既に3,000万人を超えており(国民の約4人に1人)、2042年にピークを迎え(約3,900万人)、その後も75歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されている。平成37(2025)年には、「団塊の世代」が75歳以上となり、人口の3割以上が65歳以上となる超高齢社会を迎えることとなる。この来る2025年に向けて制度面や体制の整備が進められている。
こうした中、今後、急激な医療・介護に対する需要の増大が見込まれている。その中で、厚生労働省においては、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを続けられることをめざし、医療・介護・疾病予防・住まい・生活支援が地域において包括的に確保される体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進している。しかし人口が横ばいで75歳以上人口が急増する大都市部、75歳以上人口の増加は緩やかだが人口は減少する町村部等、高齢化の進行状況には大きな地域差が生じることが明らかになっており、それぞれの地域でバランスのとれた医療・介護サービスの提供体制を構築することが課題であった。
このような課題に対し、国では、平成26(2014)年6月に「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」を制定。将来の各地域の医療・介護のニーズに応じた、医療資源の効率的な配置と、医療と介護の連携を通じて、より効果的な医療提供体制を構築するため、各都道府県に対して地域医療構想の策定を義務付けた。その上で、市町村や都道府県が地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて地域包括ケアシステムを作り上げていくことを推進している。
(2) 高知県の現状
高知県の人口は減少傾向にあり、平成27(2015)年の国勢調査速報値で72.8万人となった。また、全国に先行して高齢化が進んでおり、高齢化率32.2%は全国1位の秋田県の32.6%に次いで全国2位である。今後、高知県は全国を先行する形で高齢者人口が平成32(2020)年にピークを迎え、その後減少すると見込まれている。しかし、少子化の進行により総人口が減少するため高齢化率はその後も上昇する見込みとなっている。団塊の世代が後期高齢者となる平成37(2025)年以降は、県民の4割以上が65歳以上になると想定されている。また、全国同様に、高齢者世帯数や単独世帯割合の増加、認知症高齢者の増加なども予想される。
高知県は4つの二次医療圏を構想区域としている。医療提供体制に関しては、人口当たりの病院数・病床数は全国平均を大きく上回っており、全国1位となっている。それに伴い、医師・看護師数も人口比では上位を占めている。一方では、県下の病院数全体に占める公立病院の割合が低いことや200床未満の中小病院の割合が高いこと、中央区域(高知市)に救命救急センターが3箇所存在するなど医療の中央偏在が特徴的である。
療養病床数も人口比では全国1位である。高知県の地理特性として通院に不便な中山間地域が多いことに加え、高齢者単身世帯の増加と家庭の介護力の低下によって施設における療養・介護のニーズも高い。特別養護老人ホームなどの福祉施設の整備に先行して、民間を中心に病院病床の整備が急速に進み、病院の病床が療養・介護ニーズの受け皿として介護の機能を代替してきたという実情がある。一方、訪問診療に関しては、実施医療機関・訪問件数とも人口当たり全国平均を下回っており、さらに中央医療圏への偏在も認められる。
そのような中、望ましい療養環境に関する調査では、退院支援担当者と患者・家族の認識に開きがあることが明らかになった。そこには前述した課題が反映されており、患者の状態にふさわしい療養環境の提供体制が整備される必要がある。
2. 高知医療センターにおける退院支援や地域連携に関する取り組み
ここからは高知医療センター(以下、当院)の退院支援や地域連携に関する取り組みについて紹介する。
まず、当院は高度急性期病院で660の病床がある。また「救命救急センター」「総合周産期母子医療センター」「地域がん診療拠点病院」などの機能を持っている。高知県・高知市の中核病院ということもあり県民・市民に対して最後の砦であること、そして安心安全で質の高い医療の提供を実施している。
当院は救命救急センターがあることから、ドクターヘリやDr.カー、救急車を利用して病院のある高知市だけでなく、高知県全域から患者が来院していることが特徴である。よって必要な治療が終了すれば、元の生活していた地域に戻ることができるように支援することも病院の役割の1つと考える。地域にスムーズに戻ることが出来るためには、地域との連携が必要になり、当院の機能の1つである「地域医療センター」の中にある「地域医療連携室」が地域の診療所を含む医療機関や介護関係事業所との連携窓口となり、連携強化に取り組んでいる。
その連携強化の取り組みの1つに病院訪問がある。顔の見えるつながりをめざし「地域医療連携室」の医師や事務職員、退院支援職員が県下の医療機関を訪問している。毎月10件を目標として訪問し、訪問時には近況報告や情報交換、患者の報告などを行い、2017年度には延べ122医療機関を訪問した。病院訪問をすることは、病院間の連携強化だけでなく、患者が生活している地域を実際に目で見て確かめることができることも大きな強みとなっている。また、2017年度の状況で言うと当院は延べ13,908人が入院し、13,942人が退院している。そのうち、自分では退院できず、退院するための支援を「地域医療連携室」で行った症例が全体の18%にあたる2,521人となっている。その中でも、病院ではなく自宅や施設など「在宅」に退院したのは39%の979人となる。
その他、患者が地域で生活をするうえで重要な役割を担っているケアマネージャーや、訪問看護師などの介護事業者や地域包括センター、市町村役場、社会福祉協議会などの公的機関とは必要時、連携を図っている。連携を図る中で共同指導を行うことで診療報酬の指導料を算定できる、介護支援等連携指導というものがあり、入退院時に集中して地域の関係機関と連携を図ることが多い。
介護支援等連携指導とは、入院中の患者が退院する前に医師の指導の元、地域のケアマネージャーや訪問看護師、相談支援専門員などと共同し、退院後の生活や必要なサービスについて検討し患者や家族に同意を得ることで、指導料の算定ができるというもので、2017年度は116件の共同指導を行っている。
このように地域との連携強化を行っていく中で感じる課題は、地域の社会資源の差である。本来なら、社会資源を活用することにより、地域に帰ることのできる患者でも、社会資源不足により地域で支えることができず、介護職や公的機関ですら、地域での生活を支えることに消極的になり、やむを得ず地元に帰らず、別の地域に転院してしまうという症例がある。大きな課題だと思うが、山間部や県中央部以外の地域の社会資源を充実させることで、もう少し地元で支えることができるようになるのではないかと考える。
3. 高知市(中央区域)の在宅医療・介護連携推進事業の取り組み
地域包括ケアシステムの背景として、疾病構造の変化や高齢化により「治し、支える医療」への転換と医療、介護、生活支援等の各種の多様なサービスにより、住み慣れた地域で尊厳ある暮らしの継続を図ることが求められている。当院も少なからず医療機関、各関係事業所と連携を図りながら連携強化を進めてきた。しかしながら、高知県の位置づけとして基幹病院である当院では、地域包括ケアシステムの一部分を担うにとどまっているというのが現状である。
そこで、中央区域の高知市が自治体として、「医療、介護、介護予防、住まい、生活支援の5つの要素が連携しながら在宅生活を支える仕組み」を推進しているか、というところに視点を置いて調査を進めた。
まず、高知市では地域包括ケアシステムの具体的な取り組みを平成27(2015)年から始めている。取り組み内容は次の通りとなる。
(1) 高知市の取り組み~平成27(2015)年度~
① 市内ケアマネ事業所への入退院調整状況アンケート調査(平成27(2015)年7月・10月実施)
② 医療機関対象の研修会開催(平成28(2016)年2月6日)
①の入退院調整状況アンケート調査では、平成27(2015)年度から「入院情報提供書」をケアマネ事業所より病院・診療所に提供すれば、ケアマネージャーは「医療連携加算」を算定できるようになっており、在宅医療・介護連携には、今後積極的な活用が必要とされており、実際に病院・診療所に「入院」する担当ケースについて、必要な情報を書面(「入院情報提供書」)で提供したかを聞いている。アンケートの結果は「有」と回答したケアマネージャーは56%となっている。
また、アンケートでは「退院時の連携等で困った状況」と質問しており、回答として(ア)急な退院、(イ)知らないうちに退院・転院していた、(ウ)医師への病状確認ができなかった、(エ)退院調整をしてくれる部署(相談室や連携室等)がなかった、(オ)退院前に介護保険の利用準備ができていなかった等があげられた。
(2) 高知市の取り組み~平成28(2016)年度~
高知市は、平成28(2016)年6月1日に【高知市医師会へ委託】する形で「高知市在宅医療介護支援センター」(以下、同センター)を開所した。機能としては、在宅医療と介護連携に関する相談窓口を果たし、対象を医療機関、介護事業所としている。
業務内容としては4つに分類されており①相談・コーディネート業務、②サービス資源マップ作り、③在宅医療・介護関係者の研修、④在宅医療・介護の連携システムの構築支援、以上の業務を担っている。開所後、2年を経過しているが、徐々に機能し始めている。というのも同センターでは、連携する各関係機関(病院、かかりつけ医、在宅医、訪問看護ステーション、薬局、ケアマネ等)全てに対して、医療依存度の高い利用者の在宅に向けての支援の相談・助言を行っているからだ。よって、同センターは介護機関と医療機関の距離が縮まる仕組みづくり、現場どうしを繋げる情報共有や交換の場を構築する役割を果たすことを目的とする機関となる。
図1 高知市の取り組み~平成28(2016)年度~ |
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図1の「Ⅲ在宅医療・介護の連携の仕組みづくり」の取り組みの中では「入・退院時の引継ぎルール策定(情報共有ツールの作成)」を行い、平成29(2017)年7月運用開始を目途に、高知市と同センターが連携している。「入・退院時の引継ぎルール策定(情報共有ツールの作成)」とは、切れ目のない在宅医療と介護の提供体制の構築を目的として、医療機関(診療所を除く)とケアマネとの協議の上、医療・介護関係者の情報共有の方法を策定するものである。これは県内初の取り組みで、介護充実を図るため医療機関と介護事業所が患者情報を共有し、退院後の暮らしを支援していくことに繋がる情報共有ツールとなる。
図2 高知市の取り組み~平成28(2016)年度~ |
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図2では、図1の「Ⅴ在宅医療・介護連携推進委員会の設置」の具体の取り組み内容を説明している。高知市は「高知市在宅医療介護連携推進委員会」を平成29(2017)年3月に設置し、図2に示しているように、各関係協議会や現状取り組み報告を行い、在宅医療、介護連携に関する現状を把握し、課題抽出・連携推進の方策を検討し、委員会に参画する団体が連携して推進に取り組んでいくこととしている。
(3) 高知市の取り組み~平成29(2017)年度~
平成29(2017)年度は、昨年度に示された図1の「Ⅲ在宅医療・介護の連携の仕組みづくり」の取り組みがさらに進んでいる。年度を跨いで協議会や説明会が行われているが、経過としては平成29(2017)年1月から「病院説明会」「ケアマネージャー協議」「病院・ケアマネージャー合同協議」「病院・ケアマネージャー合同説明会」「病院・ケアマネージャー合同点検協議」等の説明会・協議会を平成30(2018)年2月にかけて行っている。平成28(2016)年度から取り組んでいる「入・退院時の引継ぎルール策定(情報共有ツールの作成)」は、これまでのアンケート結果を反映した内容である。また、高知市は策定までに病院側への聞き取りに加え、先に述べたようにケアマネ・病院側と6回の協議を重ね、合同協議・説明会を3回実施。延べ約1,000人が参加してルールをまとめたものだ。高知市は、今後半年をめどに検証し、内容を見直すということだ。この取り組みを元に、高知県は安芸医療圏などでルール策定を進めており、県高齢者福祉課は「高知市のルールとの整合性を図りつつ県内全域でのルールづくりをめざす」としている。
また、平成29(2017)年度は図1の「Ⅳ医療・介護関係者・住民への研修(在宅医療・介護に関する普及活動)」として高知市と同センターが協働で出前講座を開催している。実績としては、実施件数9件、参加者数210人(30代~90代)と報告され、ある一定の実績を残している。更に「第1回高知市在宅医療・介護連携推進のための多職種研修会」を平成29(2017)年12月に開催しており、参加者としては医師や看護師、薬剤師、保健師、ケアマネージャー等の多職種を含む192人が参加している。
(4) 高知市の取り組み~平成30(2018)年度~
平成30(2018)年度の取り組みについては、年度途中ではあるが予定も含め次のように報告されている。
① 退院支援ツールの作成
医療機関において、退院支援時に使用できる在宅療養のイメージができるようなリーフレット・チラシを、「高知市在宅医療介護連携推進委員会」のWGにて原案を検討し作成する。
② 入退院時の引継ぎルール点検協議の実施
平成30(2018)年8月末に開催予定
③ 社会資源システム導入準備
ケアマネおよび医療機関へのアンケート調査(必要な資源情報、システムの使い方 等……)
④ 多職種研修の実施
予定:「通所サービス事業所における医療ケアについて」
以上4つの項目が平成30(2018)年度の高知市の取り組み予定となる。
4. 総 括
これまでの経過を見る中で、今後の大きな課題としては、これまでの取り組みを普及していくための基盤作りや、スタッフ・機関同士の連携を機能させることが必要と考える。また、当院がどう関わっていくかということも課題の一つといえる。これは高知市の取り組みであるが、当院は県下の他の各市町村と連携していくことも役割となり、各市町村の取り組みの違いで関わり方が微妙に違ってくることも考えられる。
また、仕組みが複雑化している為に、住民が理解しにくいということも挙げられる。高知市では、「高知市地域高齢者支援センター(以下、支援センター)」を市内5か所のセンター・1か所の分室を設置しており、保健師・主任ケアマネージャー・社会福祉士等の専門職が支援を行っている。しかし、支援センターにおいては、地域の高齢者という利用者を限定していることもあり、果たして利用者がどこまで利用価値を見出すことができるのか、というのも今後の普及活動に係る大きな課題といえる。
高知県の取り組みとしては高知型福祉として「あったかふれあいセンター事業」を県内市町村が展開している。「あったかふれあいセンター」は、年齢や障害の有無にかかわらず、誰もが気軽に集い、必要なサービスを受けることができる地域福祉の拠点であり、地域福祉活動に係る課題への対応又はニーズの把握、その他小規模多機能支援拠点として必要な機能を担う事を定義としている。平成29(2017)年度の報告では、県内29市町村、37事業所、43ヶ所が既に「あったかふれあいセンター事業」に参画しており、主に非営利団体や社会福祉協議会が運営をしている。高知市においては、この「あったかふれあいセンター事業」活動までには至っておらず、このような地域住民の繋がりを繋ぐコミュニティの場や誰もが気軽にサービスを受けることのできる施設を、市内各地に拠点として設置することも早急に求められる。
地域医療構想は今後加速する少子高齢社会を迎えるにあたり、限られた医療資源の中、患者の状態にふさわしい療養環境の提供体制が整備される必要がある。それを実現するためには、これまでに述べてきた各地域での地域包括ケアシステムの構築整備をより急速に進めていく中で、自治体と公立病院を含む各関係機関がより連携強化していくことで、地域住民が主体性を持ち、自らの生活基盤をより強固にしていくことが最大の課題と考える。
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