【論文】

第37回土佐自治研集会
第10分科会 みんなで支えあおう 地域包括ケアとコミュニティー

 地域包括ケアシステムの整備に欠かせない周死期と契約家族について考えた。今後整備されていくのであろう地域包括ケアにおいて、ターミナルケア状況において、基本的な要件である本人の意思確認が必須であるにもかかわらず、少子高齢化社会において家族が諸事情によって対応できない孤老や認知症高齢者が増えてきている。そこで地域包括ケアシステム整備においては、周死期における契約家族の存在が大切になってきている。



地域包括ケアシステム関連の重要事項
―― 周死期と契約家族について考える ――

山口県本部/自治研やまぐち・理事 岩本  晋

(1) 地域包括ケアとは
 地域包括ケアシステムという考えが厚労省により唱えられた2005年から10年以上経過した。この言葉は保健福祉を担う行政には大きなことでも、一般住民にとってはそれほど大切なものとは思われず、目に見えて影響があるものとは受けとめられてはいない。だがこの言葉は今後の自分たちの老後生活を左右するほど大事なことである。
 さらに、この地域包括ケアと類似した名称で医療分野においては地域医療計画というのがある。これは昭和60年代に医療施設の量的整備が全国的にほぼ達成されたので、医療資源の地域偏在の是正と医療施設の連携の推進をめざして厚労省が1985年に制定した。この地域医療計画が唱えられ30年以上経過したのに、地域医療計画において住民の理解が高まったり、計画の進展が著しいなど聞いたことがない。
 しかし地方行政が活用しているホームページには、読み取れないほどの多量の文章が記載されているのである。この地域医療計画は一般住民の日常活動にかかわりあいがあるようには簡単には思えないが、これまでに地域医療計画の影響は広範囲に及び、病床数や診療科目別の質・量に影響し、住民の受診頻度や医療費に及ぼしている影響は大きく、地域医療計画に関わりのない高齢者などいないと言えるまでになっているのが現実である。 
 この状況を考慮して、今後整備されていくのであろう地域包括ケアシステムに対応するために、2017年12月19日に下関市の武久病院グループが創設した山口老年総合研究所(筆者は設立時より理事)で地域包括ケア学習会を開催した。講師には特定非営利活動法人りすシステムの松島如戒氏を選び、地域包括ケアの構築に欠かせない末期医療の延命治療の諾否に関係した話を聞き、地域包括ケア整備に欠かせない大切な視点が抜けていることに気づかされたのでここに報告する。

(2) 周死期とは
 図1は「りすシステム」が作成した図であり、中央の楕円サークル内には、死を予測できる人々の状況・例えば認知症、物忘れ、不安や病気、終末期や孤独死等の周死期の言葉がある。それらが意味する状況と関係する社会制度の多様な組織や法律、役所やサービスが書き込まれている。
 死をめぐる社会状況の説明図で中央の卵型に囲まれているのが周死期の身体状況、認知症・物忘れ・不安・病気療養・終末期・孤独死・死・後見。それらの言葉に結び付く社会状況として認知症にはサービス付き高齢者住宅、物忘れには通所介護や訪問看護というふうに読み取る。現実社会ではここに書ききれないほどの周死期の出来事はあるし、それに対応するサービスも数えきれないほど存在するであろう。

図1 周死期をめぐる事象

(3) 契約家族とは
 これまで我が国では、周死期にある人と、それを取り巻く多種多様な機関との間をつなぐ役割を果たしてきたのが家族であった。多世代の大家族であった時代と、家族の在り方が少子高齢化による影響で、極端には「おひとり様」家族である場合が増えていることがもたらした問題を解決するために必要なのが、契約家族の考え方である。
 周死期の多種多様なシステムと高齢者個人を結びつける家族がない場合、問題解決に役立つシステムの解決策として契約を結んだうえでの疑似家族=契約家族を媒介にした周死期環境を整えるしかない。自分以外の家族が居ない独居者でも、病気で入院するときは家族の同意書が必要になる。福祉施設の入居でも家族とか保証人の署名が必要になる。これは日本では基本的に大家族が普通の時代に、法律や世間の習慣、地域の伝統がそのまま維持されているためであり、家族が居るものだというシステムで、時代に合わなくなってきたのである。だから、そのいない家族や、いても遠くにしかいない家族の代わりに仮の家族として機能する契約家族の考えが生み出された。

(4) 地域包括ケアに欠かせない要素
 2011年の介護保険法改正で、改正条文に「自治体が地域包括ケアシステム推進の義務を担う」と明記された。この地域包括ケアシステムの意味することは、地域の住民が住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられる、働ける人は働ける環境を作り上げるために、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される社会システムであると厚労省は解説している。
 この背景にはわが国において高齢化で膨張する高齢者人口と長くなる平均寿命、さらに世界に類を見ないほど充実した「いつでも・だれでも・どこでも」好きなだけ医療を受けられる国民皆保険制度下により培われた医療に対する国民の意識があり、その結果、止まることなく膨れ上がる国民医療費と福祉需要が問題であることは明白である。
 人間は高齢化による心身機能の低下などに伴い、当然「医療・看護」「介護・リハビリテーション」などの処置や支援が必要になり、その医療や介護サービスを適切に受けるためには、各地域におけるしっかりとした「保健・福祉・生活支援・予防」の支援システムが必要なことは明白である。また、社会保障の基本は安定した住まいであるから、住まいが確保されなければならない。当然、その大前提となるのが「本人・家族」の選択と心構えである。数年前まで「本人・家族」とされていたが、現在は家族の役割でなく「本人の選択」と明記されている。
(このイラストは「地域包括ケア」の活動内容をわかりやすく説明したイラストである。)

図2 地域包括ケアのイラスト  
出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「<地域包括ケア研究会>地域包括ケアシステムと地域マネジメント」(地域包括ケアシステム構築に向けた制度及びサービスのあり方に関する研究事業)、平成27年度厚生労働省老人保健健康増進等事業、2016年

 一方、「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・福祉・生活支援・予防」が適切に提供されるためには、支援する行政の役割もさらに増す。高齢者が高齢者を見守れる環境、地域の人々が高齢者を見守れる環境、つまりは暖かい気持ちあふれる地域コミュニティが重要となってくるのである。すなわち、地域包括ケアに必要な条件とは、地域社会システムであり、地域支援システム、家族と高齢者を見守る地域コミュニティとなる。現在の日本ではこの家族とか地域コミュニティが変質し、薄れた地域社会の協力感情、家族とか地域とかの集団を基礎とするのではなく、孤立した個人を存立基盤とするように変質してきている時代だから地域包括ケアの構築に困難さが増しているのである。

まとめ

 人が最期を迎える時の「周死期」には、従来の我が国の社会システムが家族構成に大きく依存しており、例えば認知症であればその介護のために家族が負担に耐えられなくなり暴力沙汰や介護者による虐待が発生する可能性が高くなる前に、介護のできる施設での介護を選びたくても、そのためには家族の同意や保証人の同意が求められる。現在の少子高齢化社会の現況で、一人暮らしや家族と離れて暮らしている高齢者には「周死期」において保証人や同意書がなくて施設利用や病院での治療継続にも困難が生じているのである。
そこで1993年の誕生から20余年の実績のあるNPO法人・りすシステムを招待して学習会を開いた結果、地域包括ケアの整備において必須の要素として周死期の存在するサービスを相互に結びつける、包括的に整備するシステムが必要だと理解できた。
 りすシステムとは(Living・Support・Service・システム)として始まり、死後の葬儀、周死期の入院や、老人ホームの保証人などを引き受ける組織であり、りすシステムのHPには【「入院が必要だけれど付き添いや保証人がいない」「独居で怪我をして動けなくなったらどうしよう」 「万が一自分が死んだらどうなる?」日々の暮らしの中で、1人では解決が難しいことがたくさんあります。 また、家族がいてもなかなか言いにくいこともあるかもしれません。りすシステムの「生前契約」は困った事案に対して家族や親戚と同じ思いで手助けをする社会的・経済的な互助組織です。契約が正しく実行されたかどうかは、第三者機関である決済機構がしっかりチェックするので安心です。不安なこと、心配なことがあればお気軽にご相談ください。】と書かれている。これと類似の組織が今は山口県にはないことに気づかされたので出来ることから始めて地域包括ケア整備をめざすことを報告する。
2018年3月 NPO-OIDEMASE 代表 岩本 晋