【要請レポート】

第37回土佐自治研集会
第11分科会 自治研で探る「街中八策」

 本土から380km南に位置する鹿児島県の離島、奄美大島。2017年5月20~21日、島の中心地である奄美市において、鹿児島県本部の第30回目となる自治研集会が開催されました。奄美市職労委員長の「自治研には夢と可能性がある。奄美で自治研集会を開催したい」の一言で動き出し、若手執行委員や青年部自らがシマ(奄美では集落=シマ)の魅力をどう伝えるかを考えるキッカケとなった『自治研奄美集会』について報告します。



事例報告 鹿児島県本部第30回自治研奄美集会
―― 地域づくり-まずは地域の魅力の再発見から- ――

鹿児島県本部/奄美市職員労働組合・書記長 友原 吾朗

1. はじめに

 鹿児島県の離島、奄美大島。2017年5月20~21日、島の中心地である奄美市において、鹿児島県本部の第30回目となる自治研集会が開催されました。テーマを「シマおこし、シマづくり」とし、県本部初の離島開催となった自治研集会について報告します。

(1) 奄美大島はこんなところ
 鹿児島本土と沖縄の中間に位置する奄美群島。有人島では奄美大島、加計呂麻島、請島、与路島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島の8島があります。その中で最も大きい奄美大島は全国の離島の内で第2位の広さを有し、奄美市、龍郷町、大和村、瀬戸内町、宇検村の1市2町2村からなっています。
 島の北部は山が少なく、海岸線には美しい砂浜が広がっています。中南部は大半が山で占められ起伏が激しく、亜熱帯雨林が広がっています。国の天然記念物であるアマミノクロウサギなど希少な動植物の生息地です。
 鹿児島県ではありながら沖縄県と共に琉球文化圏であり、歴史的背景から独自の文化を築いてきました。シマ唄、八月踊り、大島紬、黒糖焼酎、鶏飯など伝統を引き継ぎ残しています。

(2) 奄美市職労について
 2017年度組合員数は746人(管理職、消防含む)、組合スローガンには「愛と笑いと団結を、地域に必要とされる組合へ」を掲げています。執行部16人。

2. 自治研奄美集会の開催まで

(1) 執行委員長の思いからスタート
 2016年9月、単組執行委員会にて。城平一執行委員長から「自治研には夢と可能性がある。奄美で自治研を開催したい よろしいか?」との提起。「シマづくりと、シマの魅力の再発見」(奄美では集落のことを「シマ」と言います。)をテーマに執行委員一人一分科会を考えること、近く開催される県本部定期大会で要望をすることが決定しました。城委員長は組合活動以外にも、PTA会長や地域役員を担っています。そしてサーモン&ガーリックという奄美のシマ唄漫談ユニットを長年続けており、公務員で唯一フジロックフェスティバルにも出演し、奄美を音楽と笑いで盛り上げてきた人物。最初は「本当に開催できるのか……」と心配していた執行委員たちも、いつでも夢を語る城委員長の熱がうつり、楽しみながら取り組むことに。
 そして有言実行、同月の県本部定期大会にて開催誘致発言を行い、あっという間に実現に向けて動き出しました。

(2) 離島開催の課題
 陸続きではない奄美大島での開催にはいくつかの課題がありました。台風常襲地のため時期を5月に設定しリスクを軽減。各単組の参加にあたっての財政事情やその他予算の懸念もありましたが、思いと熱が通じ、急な要望にもかかわらず県本部のご高配をいただけることになりました。
 残った課題は航空便の確保です。鹿児島からの航空便も限られていることから、どうしても到着時間にばらつきが出てしまいます。例年自治研集会では1日目に全体集会、2日目に分科会を行っていました。そこで発想を変え、初日午前中の三つの便に分かれて奄美入りをし、奄美空港到着時刻に合わせて分科会を設定。空港を降り立ったときから始まる分科会という初の試みとなりました。

(3) 分科会を企画
 最初の執行委員会での決定のとおり、執行委員一人一分科会を企画することに。「シマの魅力をどう伝えるか?」を考え始めました。やはりシマの魅力は自然、文化、そして人です。せっかく来てもらえるのだから直接見て感じてもらいたいとの考えからフィールドワーク中心の体験型分科会を基本としました。
 地域活動や集落行事、特産品や趣味に至るまで、普段シマに当たり前にあるものを面白くできないかと、そこから各執行委員思い思いの分科会が発案されました。

(4) ボツ企画
① 猛毒ハブ捕り体験分科会
 奄美に生息する猛毒ハブを夜間捕獲しに行き、明朝換金するまでの一連を体験。奄美ではハブ一匹3,000円で行政が買い取ります。
 →安全性の面から断念。
② 黒糖焼酎全銘柄体験分科会
 奄美の特産品黒糖焼酎の全銘柄を体験、ただひたすら飲みながら、屋仁川(奄美最大の繁華街)の歴史を勉強する。
 →これも安全性の面から断念。

(5) 大島地区本部の各単組に協力依頼
 奄美はどの自治体も個性派ぞろい。奄美群島における総支部・地区本部単位である大島地区本部各単組へ協力依頼を行いました。大和村職労、瀬戸内町職労、龍郷町職労において地域の特色が色濃くあらわれた分科会が企画されました。

3. 一日目:分科会

(1) 全10分科会を設定
 試行錯誤の結果、多種多様な10分科会となりました。それぞれ発案者の執行委員が担当し、青年部員が補助に入りアテンドまで行いました。
 以下全10分科会の詳細です。(概要部分は参加者募集時のもの)

① 第1分科会(海)「奄美の海の魅力」
概要:奄美の魅力の一つ、「きれいな・豊かな海」について、海洋生物学と釣り、それぞれのエキスパートに奄美の海のもっと奥深い魅力を語ってもらう。
 元市職員で現在海洋生物研究家の興克樹さんから「地域資源としての海洋生物の保全と活用」と題して奄美の海の可能性について講演。続いて現市職員でありながら、テレビで釣り番組にも多数出演する釣り名人池秀平さんから「奄美の釣りQ&A」と題してレクチャー。夜は軽い交流会後、実践として参加者全員で釣りへ。中には釣り竿のみならずクーラーボックス持参の参加者も。全く釣れませんでした。

② 第2分科会(食)「奄美の恵み満喫ツアー」
概要:奄美大島の島ならではの恵み、豊かな海からの贈り物を見て、食べて、作って感じてもらう。生活に根付いた、身近な自然の恵みこそ、その地域の一番の宝ということを再発見しよう。
 「地元の宝を掘り起こせ」と題し、漁協と連携して開発した奄美のご当地どんぶり、ウンギャル丼(高級魚であるアオブダイ)を食べながら、市担当者から開発秘話を聞きました。その後、地場産食品の試食会、奄美の恵みであるきれいな海水で塩の自作体験をしました。


③ 第3分科会(山)「大自然! 住用体験」
概要:奄美市住用町の山奥に人知れず存在する国内最大級のオキナワウラジロガシの観察会、マングローブカヌー、ナイトツアーを体験。ガイドは奄美自然環境研究会会長である常田守氏。奄美の自然研究の第一人者。

 最も過酷な分科会となりました。朝8時半に奄美に到着。奄美市職労の事前連絡ミスにより参加者全員軽装でしたが、有無を言わさずスタート。短パンTシャツで5時間山道を歩きました。深い山中のため昼食はおにぎりのみ。山を下った後は、マングローブでカヌーを漕ぎ、夜の交流会では集落の公民館で地元婦人会の皆さんからたくさんのシマ料理で手厚い歓迎をいただきました。そしてまだ終わらず、夜行性であるアマミノクロウサギをはじめとした希少生物観察のためのナイトツアーへ。虫刺されと疲労の中、ホテルに着いたのは0時前。怖くてしばらく参加者の方の感想を聞けていませんでしたが、先日ようやく聞いたところ、1年経った今は感動と楽しい思い出しか残っていないとのことで安心しました。

④ 第4分科会(自然・酒)「奄美の自然と黒糖焼酎の魅力」
概要:フィールドワーク中心。奄美北部(笠利方面)の観光ポイント案内→昼食(鶏飯)→講演(夜の黒糖焼酎についても語ります。鉄板です)、夕食交流会→「野生生物ナイトツアー(アマミノクロウサギ)」も予定。
 市立奄美博物館学芸員であり、奄美考古学専門家の高梨修さんから「奄美の自然と黒糖焼酎の魅力」と題し講演。NHK「ブラタモリ」奄美編の企画の大半が奄美博物館の仕込みとの裏話や、黒糖焼酎を通じた奄美の歴史を話していただきました。続いて同学芸員である平城達也さんから奄美の自然と生物について講演。夜の交流会後にナイトツアーへ出発。アマミノクロウサギにも遭遇し、奄美の自然を満喫しました。

⑤ 第5分科会(集落)「シマおこしとシマづくり」
概要:地域住民と協働して、これまでの「何もない」から「地域の資源」を発見し、「地域の宝」に変え、「地域の文化」と合流させることを目的に、地域おこし・まちづくりに奔走する講師からの貴重な講演や奄美の集落の伝統文化にふれることにより、グローバリズムではない、ローカリズムを体感する。

 城委員長担当の「最も熱く地域づくりについて議論する」分科会。最初の見学は市場の中にある「あまみエフエムディ ウェイブ」サテライトスタジオへ。そこで参加者全員がラジオ出演 皆さん緊張しながらも地元について語られました。その後、ライブハウス「ASIVI」にて「シマおこしとシマづくり」について、4人の講師から講演。会場となった「ASIVI」「ディ! ウェイブ」を立ち上げ、音楽とローカルメディアを通じてシマおこしに取り組んでいる麓憲吾さん。東京出身で厚労省途中退職し、奄美で福祉施設を立ち上げ、福祉の経験を通じて地域づくり活動に取り組む勝村克彦さん。子ども達に焦点をあてた自治会活動を通して地域を支える市職員の渡嘉敷誠さん。最後に朝仁集落の青年団の活動報告を市職員の荒田栄作さんから行い朝仁集落へ。公民館でシマ料理とシマ唄でおもてなしを受け、集落の皆さんと輪になり八月踊りを体験。地元とのディープな交流を行いました。

⑥ 第6分科会(工芸)「奄美の工芸品に触れてみよう」
概要:奄美の伝統工芸品に実際に触れて、作ることでその魅力を体感する。
 午前中は奄美市笠利町にある「あきら染色工房」にて藍染体験。午後は「まえだ絹織物」にて大島紬を使った小物づくり体験を行いました。伝統工芸に触れるとともに、参加者それぞれの世界に1つの手作り品を持ち帰りました。


⑦ 第7分科会(集落)「奄美の着地型観光」大和村職労
概要:フィールドワーク中心。島おこしプランナーによる、奄美大島の自然や文化を活用した島おこし活動「国直集落まるごと体験ツアー」等を紹介。体験ツアーで実施可能なオプション:SUP(スタンドアップパドルサーフィン)、シーカヤック、シュノーケリング体験ツアー後は集落での交流会。
 大和村職労が担当。元大和村役場職員の中村修さんが立ち上げたNPO法人TAMASUの「国直集落まるごと体験ツアー」へ。大河ドラマ「西郷どん」のオープニングの撮影場所となった「ササント」見学や、集落の方々とモズク取りや、お酒を片手に夕日を見る「夕焼けビールツアー」に参加。集落をまるごと体験しました。

⑧ 第8分科会(交通)「地域における公共交通」瀬戸内町職労
概要:奄美本島最南端の瀬戸内町で、離島の離島である加計呂麻島の公共交通(フェリー・バス)を体験し、島独特のスローライフな文化と自然にふれあい、地域の魅力を堪能してもらう。
 水中観光船での海中見学や、加計呂麻島へフェリー、バスで散策を実施。参加者はこの一日で飛行機、フェリー、バスと陸海空全ての交通機関を体験しました。昔ながらの奄美が今でも残る加計呂麻島で「何もない」ことが観光となることを肌で感じました。

⑨ 第9分科会(行政)「奄美市の行政運営」議員団
概要:行政視察
 県内自治労組織内議員団で構成された分科会。奄美職労組織内市議である関誠之議員がコーディネーターを務め、陸上自衛隊駐屯基地建設地、奄美市給食センター建設予定地を視察しました。その後奄美市職労現業評議会との交流会を開催しました。

⑩ 第10分科会(工芸)「奄美の伝統産業を知る」龍郷町職労
概要:奄美の伝統産業である大島紬と黒糖焼酎の作業工程を見学・体験できる企画。空港周辺の龍郷町をぶらり旅する分科会で、今回の分科会の中で唯一、奄美の黒糖焼酎工場見学あり(試飲もできるかも!?)。体験・見学終了後は龍郷町で交流会。
 奄美の伝統料理「鶏飯」を食べ、NHK「ブラタモリ」で紹介された場所を追体験。黒糖焼酎工場見学、泥染体験など奄美の特産品、伝統技法に触れました。


4. 二日目:全体集会

(1) 講 演
 全体集会では、鳥取大学の筒井一伸准教授から「田園回帰」の潮流と地域づくりと題し講演をいただきました。
① 農山漁村への移住に願望がある都市住民は一過性のブームではなく3~4割の割合で存在する。「狭義の田園回帰」は移住、「広義の田園回帰」は都市にすみながら農山漁村に関心をもつこと。
② 地域づくりに必要なものは「人口増加」ではなく「人材増加」をめざすこと。移住者獲得競争をやっている地域に先はない。
③ ヨソモノ視点をもつ移住者が農山村の地域資源の新たなまなざしをもたらすこと。
④ 後継者不足と移住者の仕事問題をマッチングさせる「継業」を紹介。地域で移住者を「雇用」することや、「起業」することは難しい、第三の道である「継業」が担い手不足になっている地域のなりわいを広げる可能性を持っている。
 自治体が躍起になっている「定住人口の増加」ではなく「関係人口の増加」について、目から鱗のお話をいただくことができました。


(2) おもてなし
 昼食時には奄美市職労現業評議会のみなさんが「あおさスープ」と伝統菓子「ふくらかん」でおもてなし。昨夜遅くまで黒糖焼酎を楽しんで参加者のみなさんの胃に優しくしみました。

5. まとめ

(1) 自治研集会で得たもの
① 県本土から来島した自治体職員には奄美の魅力を感じてもらい、自分の自治体に持ち帰って、行政サービスに活かしていくヒントとなる機会。
② 企画・運営に携わった、執行委員、青年部が『シマの魅力』をどう伝えるかを自ら考えるスキルアップの機会。そして離島で開催ができたということが自信につながりました。
③ 受け入れた集落からはこの体験を活かして「今度は自分たちでお客さんを呼んでみよう」との声もあがり、関係人口を創るきっかけ、それを受け入れる力をつけるきっかけとなりえる交流になりました。
④ 奄美の自治研ネタの多さを気づくことができたこと。また周りにある当たり前のものが自治研ネタになりえること。自治研の可能性の大きさ。

(2) こんな可能性も
 最近、若手職員に敬遠されぎみの組合活動(自治労運動)で、集会を通して楽しみを見出し、労働運動の原点ともいえる『行政サービスの向上』を地域と行政がどう向き合い、地元を盛り上げていくか、活性化していくかをみんなで考える場に繋げられればと考えています。
 今回の自治研奄美集会は、「自治研の入り口」とし、今後さらに深いテーマに取り組んでいきます。

(3) 最後に
 「自治体職員として地域を見つめなおすことで地域の実情を知ることができ、地域づくりのきっかけが生まれると感じました。『地域力はすなわち行政力』につながるのではないでしょうか。」城平一委員長の言葉でレポートを終わります。