1. はじめに
私たち苫小牧市職労自治研推進委員会は、月に1度会合を開き、市政や地域の問題について議論し、組合員向けに自治研ニュース「ズームアップ」を不定期に発行しています。最近では給食センターの民間委託、交通部の民間移譲、図書館の指定管理者制度導入といった課題を取り上げ、市民サービスの低下や非正規雇用の増加等の問題を危惧する観点から、反対の立場で紙面を通じて組合員に訴えてきました。
しかし、活動が主にニュース発行に止まっていることから、苫小牧自治研の歴史〔1970年代から1990年代にかけて、苫東開発反対闘争、千歳川放水路反対闘争、ITER(国際熱核融合実験炉=「イーター」)誘致反対運動といった地域の課題に市民とともに取り組んできた〕を考えると、いまの活動が不十分であるとの認識を常に抱いていました。
そうした中、2017年に入ってから、今後新たな活動として、市民に訴えるもの又は市民と連携するものを行うこととし、まず最初に「小中学校の給食費無料化」と「勇払原野のラムサール条約登録」を取り上げることにしました。以下、2018年6月時点の取り組み状況を報告します。
2. 小中学校の給食費無料化への提言
(1) 活動目標
苫小牧自治研では、「少子化」「貧困児童の増加」「人口減少」などの対策を考えたとき、ここ数年で急速に実施自治体が増加している学校給食費の無料化に着目しました。これを本市でも実施できないか検討し、結果を市民向けの提言という形にまとめることにしました。この提言をどう活用するかについては、自治研の会合でも様々議論しましたが、会の力量を考えると私たち自身の「運動」にまで発展させることは難しいことから、「提言により市民に対し議論開始のための一石を投じ、これをたたき台として市民の中から議論が沸きあがることを期待する」というスタンスに止めることとし、市民に提言の存在を知ってもらうことを目標としました。
(2) 取り組み経過
① 2017年3月~4月 | | 自治研委員の給食調理員を通して、本市の給食制度、収支の状況、給食費の徴収及び未納対策などを調査 |
② 2017年5月~6月 | | 論点整理。必要となる財源及び不要となる事務について検討 |
③ 2017年7月 | | 元財政課職員を招き、予算編成の仕組みや財源の考え方について考察 |
④ 2017年9月 | | 財源について検討 |
⑤ 2017年10月 | | 提言の構成及びアンケート実施の検討 |
⑥ 2017年11月~12月 | | アンケートの実施及び分析。アンケートは、全国83実施自治体の中から道内は人口5,000人、道外は人口10,000人以上の市町村を対象とし、自治労加盟単組を経由して依頼した。22市町村に依頼し、16市町村から回答があった。 |
⑦ 2018年1月 | | 提言の構成及び想定問答(Q&A)の検討 |
⑧ 2018年2月 | | 提言(案)及び発表方法の検討 |
⑨ 2018年3月 | | 提言書完成 |
⑩ 2018年4月~5月 | | 提言発表。4月23日秘書広報課を通じて市長に提出。同日市政記者クラブに投げ込みを行ったが反応がないため、5月22日記者会見を実施した。苫小牧民報社のみ出席し、5月26日号に記事が掲載された。その他、地元のミニコミ誌「ひらく」(発行部数450部)に提言が取り上げられた。 |
(3) 総 括
個別には、実施市町村へ行ったアンケート調査のサンプル数が少なく、思ったほど有益なデータを得られなかったので、折角実施するのであれば全83自治体に対して行うべきだったと思い直しています。また、職員向けに給食費の無料化についての意向調査を実施していれば、提言に厚みが増したのではないかと考えています。
全体を通しては、取り組みを開始してから提言を発表するまでに1年以上を要したことが反省点です。委員の都合がなかなか合わず、会合の日程調整に苦心したとはいえ、時間がかかりすぎました。今後の課題とします。
提言を市民に周知するという目標は、公表媒体が2つだけであったので十分達したとは言えませんが、新聞掲載後、本市の教育委員会の職員の間で話題になっていたという話があったり、市議会議員のフェイスブックに好意的に取り上げられ、それに対するコメントも何件か寄せられていたりと、それなりに影響があったと感じています。さらに、7月1日投開票の市議会議員補欠選挙に出馬する市労連組織内市議候補予定者が公約に「給食費無料化の実現」を入れたので、この取り組みが今後につながることを期待しています。
|
新聞記事 2018.5.26 苫小牧民報 |
|
小中学校の給食費無料化への提言 |
3. 勇払原野のラムサール条約登録
(1) 経 緯
苫小牧市では、1991年にウトナイ湖が当時国内4番目のラムサール条約湿地に登録されました。これにより、国際的に重要な湿地として指定され、そこに生息・生育する動植物の保全を促し、湿地の適正な利用を進めることが法的に可能となりました。
一方でウトナイ湖の周囲に広がる勇払原野は、渡り鳥の重要な中継地で希少種を含む野鳥の生息地でありながら、工業用地である苫小牧東部開発地域が含まれることから、保全に関する法的な網掛けがされていません。そのことにより、道路敷設によって良好な生息地が分断されたり、開発等によって乾燥化を招くなど、その特性が徐々に失われつつあります。
私たち苫小牧自治研は、日本野鳥の会が「勇払原野をラムサール条約湿地に」と訴えていることを知り、この全国的にも貴重な地元の自然環境を後世に残すため出来ることはないかとの思いから、ウトナイ湖サンクチュアリの中村チーフレンジャーを訪ねました。中村氏からは、2021年がサンクチュアリ開設40周年、ラムサール条約登録30周年の記念の年で、これに合わせて勇払原野のラムサール条約登録をめざしていること、登録のためには市(行政)が積極的に関わる必要があることを聞きました。
この話を受け、私たちに出来ることは、市民に広く勇払原野のことを知ってもらい、登録への機運を盛り上げることだと考えました。また、苫小牧市長は、議会答弁等の経緯からこの問題にあまり関心がないように見受けられたため、市民の中から声が上がることで市長の重い腰を上げさせようとの思いを強くしました。
(2) 取り組み経過
私たちは、市民周知の前に、まず市職員(組合員)に勇払原野のことを知ってもらおうと考えました。そこで中村氏に協力を仰ぎ、2017年7月に組合員と家族を対象にバス見学会を企画しました。組合ニュースで周知したところ、当日は25人の参加があり、ウトナイ湖に流れ込む美々川の美しい源流部や勇払原野の中でも特に良好な環境が残されている弁天沼といった普段なかなか訪れることのできない場所を巡りました。参加者一同、工業都市苫小牧に意外にも存在する貴重な自然に触れ、その魅力を感じる機会となりました。見学会の後、組合員向けに自治研ニュースで見学記を発行し、勇払原野の素晴らしさを伝えました。
(3) 今後の取り組み
見学会の後、しばらく中村氏と連絡していませんでしたが、2018年5月に久しぶりに訪問し、次は勇払原野の価値を知ってもらうため市民向けの講演会を開催しようということになりました。時期は2018年の9月又は10月で、講師は東京から日本野鳥の会の役員の方にお願いする予定です。2021年の登録実現に向けては、時間があまり残されていませんので、効果的な手法を模索しつつ、活動を展開していきたいと考えています。
|
【美々川源流部】急な崖を降りた先に 見たこともない美しい風景が…… |
|
【弁天沼】中村チーフレンジャーから説明を受ける |
|