【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第11分科会 自治研で探る「街中八策」

 「保健所」に対する道民のイメージとして「狂犬病」「犬の抑留」が依然、色濃く染みこんでおり、公衆衛生活動として狂犬病予防対策を行ってきた成果でもある。2000年に狂犬病予防法による犬の登録と予防注射事務が市町村へ移管したことにより、保健所の業務は狂犬病発生時等に限定されている。現在の犬と猫に関する保健所現場での実情と課題の中から、動物行政に係る道の責任と全道庁労連の取り組みについて報告する。



保健所における動物愛護(犬猫)行政の課題


北海道本部/全北海道庁労働組合連合会・空知総支部・滝川保健所支部 青木 力也

1. はじめに ~狂犬病予防と動物愛護の関係とは~

  「保健所」に対する道民のイメージとして「狂犬病」「犬の抑留」が依然、色濃く染みこんでいる。
 この間、保健所が公衆衛生活動として狂犬病予防対策を行ってきた成果でもある。2000年に狂犬病予防法による犬の登録と予防注射事務が市町村へ移管したことにより、保健所の業務は狂犬病発生時等に限定されている。1973年以降、暫定的な業務が続いていた犬の引取と猫処分の技術的援助は、2001年、道の動物愛護条例が施行されたのに合わせ、保健所の正式な暫定業務となり、14支庁環境生活課に動物愛護法担当の獣医師が新たに機構配置された。現在の犬と猫に関する保健所現場での実情と課題の中から、動物行政に係る道の責任と全道庁労連の取り組みについて報告する。

2. 動物(犬猫)愛護行政は暫定状態が常態化 ~保健所の現場では~

(1) 保健所での取り扱いは2001~2002年度の2年間の期限付き暫定業務だったはずが

表1 北海道の動物行政の主な経過

1950年08月~狂犬病予防法制定  ・犬の引き取り→保健所の役割
1973年10月~動物管理法制定   (北海道→総務部、民生部、衛生部の共管)
                ・猫の苦情引き取り→支庁道民生活係→技術的援助を保健所
                ・犬猫(*)引き取り→保健所(暫定)*猫は明文化なし
1999年・2005年~動物愛護法改正 ・道動物管理条例の制定~法制定から32年後
                 【05機構】14支庁環境生活課に獣医師(14)を配置
2013年09月~動物愛護法改正施行 ・犬猫の引取拒否が可能に


【参考】環境生活部環境室自然環境課野生生物室(2001年当時)による「動物の愛護及び管理に関する条例」(2001.10.1施行)に関する業務の執行体制説明資料から(概要)
今後の業務執行体制に対する考え方
(1) 仮の暫定執行体制(1974年度~2000年度)
 動物愛護法の規定で「都道府県、政令市は犬又は猫を引き取らなければならない」が、道での引取場所は狂犬病予防法に基づき設置されている保健所の抑留所しかないため、暫定的に実施。(行政組織規則に明記なし
(2) 正式な暫定執行体制(2001年度~2002年度)
 動物愛護法の改正や条例制定に伴い、引取業務を行政組織規則に明記(保健所長に事務委任)し条例の施行規則にも明記する。(猫の処分にも特殊勤務手当)
(3) 支庁への業務一元化(2003年度以降)
 動物保護収容施設を整備し、支庁へ業務を一元化する。
保健所における業務内容
 (略)~条例に規定する業務(*2001年度以降:犬猫の引取処分、新しい飼い主への譲渡、引取時の不妊指導助言、引取手数料の徴収)を付加する場合においても、現行の保健所の人員体制の中で対処できるものである。


(2) 動物愛護行政に対する取り組み
 保健所(犬)と支庁道民生活係(猫)との共管という極めて特異な業務体制は実に40年に渡り、現在は保健所(保健福祉部:引き取り)と振興局環境生活課(環境生活部:動物愛護)が担っている。その間、動物愛護に関する労使協議は、特殊勤務手当等一部の課題を除き大きな進展を見ていない。その背景には、いつか正式な体制整備がされるだろうとの「期待」と、依然として動きが見えないための「諦め」に揺れながらもがんばってきた現場の努力があることを強く訴える。以下、これまでの動物愛護関係に対する本部の取り組みをまとめた。(表2

表2 動物愛護に係わる主な経過(全道庁労連と関係部との交渉)

〔経過〕
2001年4月~犬猫の引取り場所は保健所
      ・2年間は保健所→その後は支庁に業務を一元化する
【05当初予算】保健所での猫の処分が特殊勤務手当の対象に(犬等取り扱い)
2004年4月~具体的交渉なし
      保健所→保健福祉事務所として「支庁長に属する出先機関」に
2010年4月~具体的交渉なし
      保健所→保健福祉室、地域保健室として「振興局」に。保健環境部に環境生活課と保健福祉室で道民生活部門を構成
2012年4月~具体的交渉なし
      保健所→保健行政室、地域保健室に
2013年10月15日 「14当初予算」環境生活部長交渉
① 振興局に勤務する動物愛護監視員(獣医師)に犬取扱等業務手当を支給すること。
② 現状、保健所が各環境生活課に協力する暫定業務となっている犬猫の引き取り業務を整理し、道の動物愛護センター設置等を視野に入れた総合的な動物愛護に関わる体制の検討を行うこと。
③ 保健所の抑留所は狂犬病の鑑定を行う施設であり、動物愛護の観点で整備されていないことから、施設改善の検討を行うこと。
④ 事業予算の確保。機材の整備と職員の研修体制の強化。特に環境生活課の獣医師欠員を解消し、保健所の業務に必要以上の負担が生じないように配慮すること。


3. 動物(犬猫)愛護業務の推移 ~現場の努力にも限界が~

   
市町村から持ち込まれた多頭飼育犬   滝川保健所の抑留所(犬)   警察から持ち込まれた(猫)

 写真(左)は2006年当時の引き取り事例で24頭持ち込まれた。写真(中・右)は2018年6月現在、収容されていたミニチュアダックス2頭と飼い猫と思われる猫1匹である。

4. 滝川保健所における動物(犬猫)愛護業務の推移と現状
                        ~努力・努力・努力

 滝川保健所に収容された「犬」は2008年度をピークに減少。2012年度に初めて100頭を下回り、「猫」も150匹以上の引取数を50匹以下に押さえ込んだ。この背景には、市町村と支庁(当時)、保健所が連携した多頭飼育者への指導や、引取要望に対し安易な飼育放棄をさせないよう根気よく「飼い主責任」を指導した現場の努力があり、決して北海道の動物(犬猫)愛護行政が易々と推進されているからではないと断言する。

2008年5月24日 道新 空知版

 また返還譲渡率は2005年度で犬44.1%、猫6.6%から8年後の2012年度には9%台と実現可能な上限に達している。(病気等のための安楽死があるため100%達成は極めて困難)
 2013年9月から動物愛護法が改正施行され「知事が引き取らなければならない」規定から「引取拒否も可能」となった。このことに伴い、譲渡推進による収容期間の長期化や動物福祉の浸透による休日の世話などにより、業務負担がより増えている。
 現時点ではあるが2017年度から2018年6月末までの殺処分件数はゼロを続けていることは、職員の献身的努力と動物愛護団体等への団体譲渡による結果と言える。


表3 滝川保健所の状況(2017年度引き取り)

犬   種

捕 獲

負 傷

持 込

合 計

返 還

殺処分

譲 渡

 雑 種

0

0

 4

 4

0

0

4

 チ ン

0

0

 1

 1

0

0

1

 シーズー

0

0

 2

 2

2

0

0

 マルチーズ

0

0

 1

 1

1

0

0

 ミニチュアダックス

0

0

 4

 4

1

0

3

 ゴールデンレトリーバー

0

0

 1

 1

1

0

0

 ミニチュアシュナイザー

0

0

 1

 1

1

0

0

 チワワ

0

0

 1

 1

1

0

0

合  計

0

0

15

15

7

0

8


猫   種

捕 獲

負 傷

持 込

合 計

返 還

殺処分

譲 渡

 雑 種

0

0

52

52

0

0

52

合  計

0

0

52

52

0

0

52


5. 施設整備は最低限の体制整備 ~犬と猫が同居 動物虐待では?~

 先に触れたとおり、道での犬猫の引取場所は狂犬病予防法に基づき設置されている保健所の抑留所しかないため、業務は暫定的に実施してきた。抑留所の設置目的は野犬が狂犬病かを鑑定するための設備であり、動物愛護の視点では全くと言っていいほど整備されていない。そのため、収容された犬猫が他の感染性疾患等に罹患していても同一空間に収容せざるを得ない。犬と猫を近接して管理すること自体が虐待に当たらないのかとも考えている。財政難とはいえ施設整備を計画的に予算措置してこなかった部当局の怠慢ではないだろうか。

6. 北海道における動物(犬猫)愛護体制の確保と今後の取り組みについて

 今後も豊かで安心できる道民生活において動物の愛護と管理体制の整備は極めて重要である。
 財政的に極めて困難な道の現状であるからこそ、長年の要求である動物管理センターの新設に向け、単に予算がないから困難とは言わず、道有施設の有効利用や資金の確保に知恵を絞るべきであろう。
 全国でも後進的な動物愛護サービスの実態を改善し、積極的に推進提供する責任を「道」は果たすべきであると考える。


【動物(犬猫)愛護行政の課題と展望】
① 財政面を含め、北海道の動物愛護管理センターの設置について具体的検討を進めるべき。
② 振興局と保健所による現行体制を検討し、新たな体制と施策を展開する。
③ 現行施設・機器類の整備、予算確保をはかる。
④ 振興局、保健所ともに必要な獣医師の確保と処遇改善をはかる。
⑤ 現行の業務量の精査に基づく適正な人員配置、労働条件の改善をはかる。
⑥ 動物愛護団体とのより緊密なネットワーク構築をはかる。


 現在までの振興局体制下における動物管理体制について述べてきたが、現状として①保健所は、犬猫の引き取りが保健所長の業務として知事から事務委任され暫定的に担ってきたこと、②そのため保健所現場は暫定解消と当時の部からの提示どおり支庁(現振興局)への一元化を期待していること、③振興局には各1人ずつしか担当獣医師が配置されていないため、現行の業務を行うのが精一杯であること、④そのため多少なりとも保健所での一元化を期待している職員が多いことが見えてきている。
 このことは、円滑な動物愛護と管理業務を推進する上でも大きな障害となることが懸念される。
 また、もし振興局体制下で同じ保健環境部に位置づけられているから問題ないというのであれば、犬猫の引き取り業務についての経過が無視されることとなり、極めて大きな問題として強く抗議したい。
 財政状況が脆弱な本道で収容施設や体制整備を進めるには、十分な検討が行われることは当然であるが、単に「財政上困難なので動物管理センターの新設は困難」との結論は極めて安易であり、認められるものではない。
 環境生活部と保健福祉部当局は、この放置されたままの課題について早急に解決に向けた検討を行うよう強く求めるとともに、本道における動物愛護と管理体制が前進することを強く望むものである。


【現場からの提言】
◎ 過去の犬猫の引き取りの推移を見ると、石狩、空知、胆振の頭数が極めて多いことから、動物管理センターの設置を検討する場合、まずは道央圏に位置する3振興局に対応することが考えられる。
◎ 併せて引き取り頭数の多い保健所の施設整備をはかり、動物管理センターを中心とした業務との適切な連動をはかることが、全国的な主流であること。


 また、堀知事時代には動物管理センターの設置が知事公約となっていたが、高橋知事の公約では触れられていない。現状の動物愛護体制が現場の努力により成り立っていることを強く訴えたい。
 その中で労働環境の改善と道民サービスの向上をはかるためには、関係部当局、全道庁労連、関係評議会、支部・分会が十分議論を進めていかなければならない。
 十分な議論も行わないまま「振興局」の内局として機構を強行した保健所に暫定業務を強いる高橋道政と関係部当局に対し、強く抗議するものであり、来春に控えた知事選挙の結果に大きな期待を持っている。
 今後とも住民の健康と安全を守り、道民が動物と共に安心して生活するためにも、道の施策に隠れている課題を洗い出すための自治研活動を強化し、現状を改善することが我々に求められている。




【参考】 第2次北海道動物愛護管理推進計画(バーライズ プラン2018)
     ~動物と共生する北の大地~
*北海道(環境生活部)が動物愛護に関する施策を計画的に推進するため、2008年度から10年間を第1次計画とし、2018年度から10年間を第2次計画として策定した。
 その中で、「動物愛護管理機関のあり方検討」の現状と課題として「(前略)その時代のニーズに応じた動物愛護管理センターの設置や改善を進める必要がありますが、自治体の財政的な問題などから難しい状況にあります。そこで、施設の設置や改善に向けて、情勢の変化と道民ニーズに即した動物愛護管理センターのあり方を検討するとともに、当面、施設整備が難しいという課題については、代替する施策を進めていきます。」と記載されている。