【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第11分科会 自治研で探る「街中八策」

 安全・安心な水道水を継続的に供給するには、日常の維持管理等が重要です。しかし、団塊の世代の大量退職により経験豊富で、熟練した技術を持つ職員が減少し、更に行財政改革による職員の削減や技能労務職員の退職不補充により、日常の維持管理等をするための技術の継承が困難となっています。このような状況の中、前橋市水道局では技術の継承や業務の中核を担うスペシャリストの育成をめざして「水道局職員技術継承計画」を2016年4月に策定し、体系的な研修体制の構築、充実を図っています。



めざせ 次世代の水道マン
―― 水道のスペシャリスト育成をめざして ――

群馬県本部/前橋市水道局職員労働組合・水道整備課 山井 孟志

1. 経 緯

(1) 前橋市水道事業の概要
① 前橋市
 前橋市は1892年4月1日に市制施行し、当時7.71km2だった市域が隣接町村の編入により現在では311.59km2 になっています。群馬県の県庁所在地であり、2009年に県内初の中核市、2012年には市政施行120周年を迎え、人口は337,579人(2018年3月末現在)の都市となっています。
② 前橋市水道事業
 前橋市の水道事業は1927年に起工され、1929年に給水が開始。現在は第七次拡張事業を実施しています。2018年3月末現在の給水面積は234.73km2、給水人口は337,205人(普及率99.9%)となっています。

(2) 前橋市水道局職員の現状
① 水道局職員数の推移
 前橋市水道局は総務部門1課、水道部門2課、下水道部門2課で構成され、職員数の推移は表1のとおり。


表1 前橋市水道局職員数(下段は水道部門)         (人)
職  種 2013 2014 2015 2016 2017
正 規(事務・技術) 111 111 111 110 110
42 43 43 43 43
正 規(技能労務) 21 17 18 17 17
17 14 15 14 14
再任用(事務・技術) 0 0 1 2 2
0 0 0 0 0
再任用(技能労務) 0 4 4 5 5
0 3 3 3 3
非正規(事務補助) 9 9 10 10 10
3 3 4 4 4
非正規(技能労務補助) 4 4 2 2 2
4 4 2 2 2
合  計 145
66
145
67
146
67
146
66
146
66

※再任用職員:週31時間勤務、非正規:週30時間勤務


② 水道局技能労務職員数の推計
 技能労務職員は当局の不採用(補充)方針の下減少し続ける。その推計は表2のとおり。


表2 水道局技能労務職員数の推計                (人)
職 種 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021
正 規 23 21 17 18 17 17 16 15 15 15
再任用 0 0 4 4 5 3 2 3 2 1
非正規 2 4 4 2 2 5 5 2 2 2
合 計 25 25 25 24 24 25 23 20 19 18


(3) 労働運動から計画の策定へ
 水道局における技能労務職員の職務は、配管工事・漏水修繕現場における現場監督や施工業者への技術的助言が中心であり、長い経験の中で習得した知識や技術を必要とするものである。この水道局にとって財産とも言うべき知識や技術を有する技能労務職員が退職不補充方針によって減少し、その技術が継承される職員もいないことから、給水を受けるお客様へのサービス水準の低下、水道業者の技術力低下が懸念される事態となった。前橋市水道局職員労働組合(以下、「組合」という。)では、当局との団体交渉や現業・公企統一闘争において基本組織も含めた闘争展開、協力議員の市議会活動の中で技能労務職員の早期採用再開を訴えてきたが、現在のところ再開の回答は得られていない。
 これまでは技能労務職員の職域を確保し、現業・非現業で職務の住み分けをしてきたが、10年以上続く技能労務職不補充方針によって人材が枯渇してきたこと、「安心」「安全」な水道の安定した事業継続を鑑み、技能労務職員の業務を担う職員(スペシャリスト)の育成を図る「水道局職員技術継承計画」の策定に向け労使が取り組むこととなった。その中で、組合側からもめざすべき今後の方向性や計画の内容を提案した。

2. 計画策定

(1) 現状から見える課題
① 技能労務職員の高年齢化
 技能労務職員は市長部局等との人事交流(人事異動)もあるが、市全体で退職者不補充としているため、平均年齢が50歳を超え高年齢化を続けている。
② 人員の減少
 本市の技能労務職員は、定年退職後に希望すれば現行制度で3年の再任用(週31時間の短時間勤務)、2年の嘱託職員(非正規任用の週30時間勤務)として65歳まで勤務できる状況にある。しかし、前述のとおり退職者不補充方針から市長部局等からの補充も見込めず、減少傾向には歯止めが無い。

 これまで、非現業職員に比べ人事異動が少ない現業職員に蓄積されてきた水道事業に係る現場の知識や技術が、もうすぐ失われてしまうことになる。→スペシャリストが絶滅する危機



(2) 必要なスキル
 技能労務職員の主な業務と有する技術及び知識を表3にまとめた。


表3 技能労務職員の主な業務と有する技術及び知識

技能労務職員の主な業務

技能労務職員が有する技術及び知識

・水道工事における現場監督業務、施工業者への技術的指導
・水道工事等に伴うバルブ(仕切弁)の操作による断水、通水、洗管作業
・給水装置工事の設計審査、監督、完成検査業務
・開発行為に伴う水道工事の設計審査、監督、完成検査業務
・漏水修繕工事の監督業務
・給配水管折損事故の対応及び監督業務
・給水管切廻し、消火栓修理等の対応及び監督業務
・濁水、出水不良等の苦情対応及び各種調査
・漏水調査、探査業務
・各種機器の取り扱い(水圧・流量測定、漏水相関探知等)
・漏水修繕工事の際に適切な工法や必要な配管材料の指示ができる技術
・緊急の断水作業時に適切なバルブ操作ができる技術
・工事現場の状況(水系・水圧・特徴等)を理解し判断できる現場対応力
・水系等の切替弁の開閉時に想定されるリスクを理解したうえで操作できる技術
・音聴棒を使用して微弱な漏水音を捉え、漏水を発見できる技術
・給水装置の構造・材質等を理解し、適切な設計審査・現場指導ができる技術
・減水や断水等の際に適切な市民周知・広報ができる市民対応力
・仮給水時に応急配管ができる技術


(3) 技術継承の手法
 前述のとおり、これまで本市水道事業が有してきた技術や知識は技能労務職員と共に失われつつある状況であり、このことは給水を受けるお客様へのサービス水準の低下に直結する問題である。このため、可及的速やかに技術継承の手法を確立するため計画(研修)を策定することとなった。
① 局内研修の充実
 技術の継承にあたり熟練した技術や知識を有する職員を講師とした局内研修を実施することが、最も効果的且つ効率的である。このため、職員による研修を中心に計画する。また、最新の技術等も習得するため、企業や関係団体の営業・啓発活動等を含め外部講師を招き実施する研修も取り入れることとした。
② 局外研修への積極的な参加
 必要に応じて日本水道協会等が主催する外部研修に参加する。
③ 階層別研修の実施
 経験年数により技術や知識が異なるため、階層別の研修を実施する。次表に階層別研修内容の例を示す


表4 階層別研修内容の例
階 層 研 修 内 容 例
初 級 資機材研修、応急給水研修、システム操作研修など
中 級 漏水調査研修、量水器取替研修など
上 級 配管管理研修、漏水修理研修など


④ カフェテリアプランの導入
 不得意分野の解消を図り、効率的に研修効果を高めるため、カフェテリアプラン(自由選択制)を導入する。
⑤ 研修内容のチェック・改善
 研修が形骸化しないよう常にチェックするシステムとするため、PDCAサイクルの構築を図る。

 技術継承計画は、水道局職員の技術継承や業務の中核を担う人材を育成するための研修を体系的に整理し、さらに研修後のアンケートを検証の基礎とするPDCAサイクルマネジメントを取り入れることで、継続的に発展可能な計画となった。



3. 計画の実施

(1) 計画(研修)の実施概要
① 2017年度の実施概要
 2017年度は、局内主催研修17講座、局外主催研修8講座を計画・実施し、延べ355人が受講した。


表5 2017年度の計画実施概要(局内主催研修のみ)
No 研修名 主 催 開催日 開催場所 参加数
1 資機材研修Ⅰ 局内 2017. 4. 7 前橋市水道局 6人
2 水道局新採等研修 局内 2017. 4.21 前橋市水道局 21人
3 応急給水研修Ⅰ 局内 2017. 5. 9 前橋市水道局 6人
4 資機材研修Ⅱ 局内 2017. 5. 9~ 5.10 前橋市水道局 17人
5 漏水修繕研修 局内 2017. 7. 5~ 7. 6 市内 12人
6 応急給水研修Ⅱ 局内 2017. 7.27, 8.24 市内浄水場、受水場 31人
7 流量目あわせ研修Ⅰ(漏水編) 局内 2017. 8.30 前橋市水道局 33人
8 流量目あわせ研修Ⅱ(排水編) 局内 2017. 9. 5 市内浄水場 35人
9 資機材研修Ⅲ 局内 2017. 9.11 市内 15人
10 量水器取替研修 局内 2017.11. 1 市内 6人
11 配水管管理研修 局内 2017.11. 1 市内 6人
12 漏水調査研修(基礎編) 局内 2017.11.16 前橋市水道局 7人
13 漏水調査研修(実技編) 局内 2017.11.16 高崎市正観寺研修施設 7人
14 漏水調査研修 局内 2017.12. 6 フジテコム研修施設 2人
15 システム操作研修 局内 2018. 1.11 前橋市水道局 11人
16 水運用研修 局内 2018. 3. 7 市内浄水場 35人
17 応急給水研修Ⅲ 局内 2018. 3. 7 市内浄水場 35人


(2) 受講者アンケートの結果
① 受講者の感想
 各研修の最後に実施している受講者アンケートの結果では、「研修が有意義であった」や「研修時間が適当であった」、「研修資料が分りやすい」などの意見が回答の大半を占めており、これら研修が参加者にとって理解しやすいものであったと感じられていることが窺える。
② 受講者からの要望・提言
 継続的な研修実施を望む声やさらなる研修内容の充実など要望や提言が受講者より出され、この研修が自己研鑽の場として受け入れられ、前向きな姿勢には業務に対するモチベーション向上が見られる。

(3) 計画(研修)に係る組合の取り組み
① 資料作成の補助
 研修に使用する資料には、実際に業務を行っている職員でなければ分からない内容も多く含まれるため、その作成の際には組合側も協力した。例えば、システム操作研修においては、当局側に該当システムの操作経験が無いことから、当局からの依頼により資料作成を一から担当した。
② 研修の継続・改善の要求
 この研修は、一度受講したからそれで終わりということではなく、継続していくことが重要である。また、まだ行われていない内容の研修や行った研修の検証・改善も必要である。これらのことは、研修の形骸化を防ぎ、職員の質の向上を図るうえでも重要と考えられ、給水を受ける市民へのサービス水準の維持・向上を図る観点から当局交渉の場で要求している。

4. 今後の展望

(1) 水道職場における実施効果
 回を重ねるにつれ、研修の存在を知り、日々の業務を調整して研修に参加する職員が増えている。しかし、一部では参加する職員が固定化してしまった例もあり、このことは当局側に改善を要請している。
 研修で得た技術や知識を現場で活用している場面が見られ、習得までのスピードも含め徐々に効果が出ていると考えられる。そして、この研修がなぜ始まったのかを一人ひとり考えるきっかけとなり、技術継承の問題を水道局全体の認識として捉えることができるようになったことは最大の効果だったと言える。

(2) PDCAサイクルマネジメントの機能強化
 Plan(研修の立案)⇒Do(研修の実施)⇒Check(アンケート等による検証)⇒Action(研修内容の見直し)のサイクルマネジメントにより機能強化を行う。Plan、Doについては2、3で記載したが、Check、Actionについては以下のとおりとした。
① Check(アンケート等による検証)
 ・研修アンケートのとりまとめによる意見集約と課題の抽出
 ・市長部局等から水道局に異動してきた職員のヒアリング
 ・受講者が求めている知識など研修内容のニーズの把握
② Action(研修内容の見直し)
  2018年度の技術継承に係る研修への反映
 ・熟練職員による巡回研修の実施
 ・基礎編、上級編などの習熟度に応じた研修の実施
 ・同じ研修の複数回開催(1回だと業務都合により参加できない場合があったため)
 ・技術継承ハンドブック(技術継承研修資料、現業職員引き継ぎ資料、関係条例等の抜粋)の作成
 ・高崎市水道局と連携した研修実施の検討

(3) 持続可能な水道事業をめざして
 団塊の世代の大量退職により、経験豊富で熟練した技術を持つ職員が減少し、現業職員の退職者不補充方針によりその技術の継承が困難になっている現状がある。このような状況下においても、「安全」「安心」な水道を安定して継続的に供給するためには、日常の維持管理等が最も重要であり、これまで培われてきた技術を継承する重要性は更に高まると考えられる。その中で水道事業に携わる職員は専門的知識や技術の習得を図り、自身の資質向上を図ることこそが、持続可能な 水道事業を支える組織づくりに不可欠であり、その資質向上を図る枠組みとして技術継承計画は有効であると考えられる。このことは、給水を受ける市民へのサービス水準の維持・向上につながるものである。
 一方でこの技術継承計画は、技能労務職員数が年々減少する中で、一般職員がこれまで技能労務職員が担ってきた業務を学ぶことで、技術継承の受け皿になるという考え方が強い。このことは、これまでの技能労務職の職域の確保や現業・非現業の職務分担の住み分けが失われる危険があり、水道事業開始から今日まで現場の第一線で活躍してきた技能労務職員の必要性が低下するような事態は避けなければならない。さらに一般職員は技能労務職員に比べ異動までの期間が5年程度と短く、スペシャリストに成り得るか疑問が残る。これからも持続可能な水道事業を構築するためには、技術継承計画に基づく研修を継続して取り組むだけではなく、真にスペシャリストと成り得る技能労務職の早期採用再開も併せて追求していく必要がある。