【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第11分科会 自治研で探る「街中八策」

 本が好きな人は多くいますが、本を介して人やまちとつながる機会は、なかなかないものです。本の力を信じて実施しているまちライブラリー『福book堂』とビブリオバトル『たかさきBIBLIOミーティング』の活動のご紹介とともに、いわゆる「まちづくり」と組合活動についての共通点についても考えます。



本でつなぐ人とまち
―― まちライブラリーとビブリオバトル ――

群馬県本部/高崎市職員労働組合・高崎支部 荒木 征二・陶山 朝江

1. はじめに

 自治研とは何か?
 そんな問いから、本レポートの構想を始めました。職員労働組合の組織が、なぜ自治研究会を主催するのか。自治労のホームページから自治研のホームページへととび、手引きや過去のレポートをサーフィンしました。その結果気づいたこと。それは、いわゆる「まちづくり」の取り組みは、職員労働組合の組合員が実践していれば自治研活動となり得る、ということです。なぜなら、まちのみなさんが幸せに暮らすことと、職員労働組合が職員のより良い毎日をめざして活動することは、表裏一体で切っても切れない関係にあるからです。
 本レポートでは、自治研活動をしていたとは露知らず、ただ「この場所があって良かった」と思ってもらえるような時間をめざして実践を試みた、本にまつわる活動についてご紹介します。

2. 本と人とまちの活動

(1) 本が好きな人
 実は、周りにもたくさんいるはずです。本、とひとくくりに言っても、新書も小説も雑誌も漫画もありますが、多くの人が「本は一人で楽しむもの」との認識を持っているようです。だから、周囲の人に「この本、とっても面白かったんです」なんて、思いっきり話ができるような機会って、本が好きな人でもなかなか持つことができません。ということは、誰かのオススメの本を知る機会も、あまりないということです。

(2) 好きな人の本
 読みたくなるものです。自分では絶対に手に取らないような本であったとしても、好きな人、尊敬する人、一緒にいると楽しい人、嬉しい驚きを与えてくれる人が読んでいる本には、なんだか興味が湧いて、読んでみたくなったりしますよね。それは、本を通して、相手のことをもっと理解したい、と思うからにきっと違いありません。本は、お互いをよく知るための一つのツールとなるのです。

(3) 本棚をのぞいてみたい-Ver.1
 好きな人の本が読みたい、が少しエスカレートすると、こうなります。このコンセプトで始めた活動が、まちライブラリーの『福book堂』です。市内で営業する一軒のカフェにご協力をいただき、店内の本棚の一部をお借りしています。この本棚に、有志の方に持ちよっていただいた本を設置したものが福book堂です。
 ルール(本を置く)
  ・(現状は)お願いをした人に置いてもらう
  ・(現状は)一人3冊
  ・本はグラシン紙で保護
  ・ポケットと感想カードを設置
   ※本の持ち主がこの本への想いを書く
 ルール(本を読む)
  ・基本的にはカフェ内での読書専用
  ・借りたい場合はお店スタッフさんに一声かける
  ・感想カードに書き込む ※本の持ち主に伝えたい感想を書き込む

表1:福book堂 第1回ラインナップ
01 かなしーおもちゃ
02 鱗姫
03 おちくぼ姫
04 都々逸読本
05 昆虫はすごい
06 サウスポイント
07 東京マーブルチョコレート
08 おひとり様物語1
09 おひとり様物語2
10 O.ヘンリ短編集
11 夜のピクニック
12 蝉しぐれ
13 イルカの家
14 すばらしい世界
15 ちぐはぐな身体
16 深夜特急 '97
17 深夜特急 '96→98
18 国境の南、太陽の西
19 ここは退屈迎えに来て
20 トリツカレ男
21 共依存
22 ロマンス
23 セカンドラブ
24 冷静と情熱のあいだ
25 プラットフォーム
26 エンキョリレンアイ
27 竹取物語
28 やわらかなレタス
29 思いわずらうことなく愉しく生きよ

表2:福book堂 第2回ラインナップ
01 日本という国
02 私は赤ちゃん
03 デカメロン
04 もし僕らの言葉がウィスキーであったなら
05 反社会学講座
06 知の逆転
07 光を失って心が見えた
08 ドラゴン桜
09 君たちはどう生きるか
10 パパ・ユーアクレイジー
11 ママ・アイラブユー
12 おじいちゃん戦争のことを教えて
13 最後の零戦乗り
14 殺人犯はそこにいる 
15 僕はお父さんを訴えます
16 秀吉を討て
17 薄情
18 天使は本棚に住んでいる
19 本を読む兄、読まぬ兄
20 熊になった少年
21 名画は嘘をつく1・2
22 ユニコーン
23 七つの危険な真実
24 死ぬまでに飲みたい30本のシャンパン
25 居心地の良い旅
26 アルケミスト
27 チーズと塩と豆と
28 働く男
29 太らない食べ方
30 高崎食本

 半年をメドに本の入れ替えを行っており、持ちよっていただいた本は、持ち主の元へと戻ります。その際には、カフェを利用して本を手に取った方からの、感想が書き込まれた感想カードも一緒です。自分の想いに共感してもらったり、違った視点での意見をもらったり、その内容とともに、手書きのメッセージをもらえることもこの時代には新鮮です。また、自分自身も福book堂の利用者になってみると「カフェで気軽に読むなら、漫画がちょうど良いんだな」なんてことにも気づいたりするのです。2017年9月の入れ替えで、第4回となりました。しかし残念なことに、2018年5月をもってカフェがお休みとなり、こちらの活動も、次の場所が見つかるまでは休止中となっています。

(4) 本棚をのぞいてみたい-Ver.2
 好きな人の本棚、とは少しコンセプトを変えて、「図書館のプロ」の本棚をのぞく活動が、『生活衛生課文庫』です。「図書館のプロ」とは誰か、と言うと、それは市立図書館にいらっしゃる司書の方々です。「団体貸し出し」というシステムを利用して、ご担当の司書の方に、毎月30~40冊をオリジナルで選書していただきます。その名のとおり、高崎市役所保健医療部生活衛生課に設置をする文庫ですので、業務にまつわる本が半分と、休憩時間や自宅で読みたくなるような本が半分です。2016年から数えて24回、司書のみなさんのセンスが光る、個性あふれる本が並びました。『生活衛生課文庫』の場合は、団体=生活衛生課ですので、利用できる人は限られます。しかし、「自分で図書館に行くほどではないけれど、近くにあったら覗いてみたい」「誰かに選んでもらう本は新鮮で面白い」といったご意見で、細く長く、課員のみなさんに親しまれています。本を通じて、課員同士の会話が生まれる時が、なんとも嬉しい瞬間です。そして願わくは、どうか生活衛生課文庫の利用者が、図書館の利用者として、図書館に直接足を運んでくれたら。とにもかくにも、本は、人と人をつなぐ一助になりますよ。

(5) 好きな本を好きな人に
 世の中はギブアンドテイクですから、本好きなら、こうなります。この想いを叶える活動が、ビブリオバトルです。ビブリオバトル自体は、全国的に実施されている書評合戦の方法で、高崎のまちなかで有志のメンバーの運営で始めたのが『たかさきBIBLIOミーティング』です。ビブリオバトルは、オススメの一冊を5分の持ち時間で、どんな魅力がある本なのかとプレゼンテーションします。参戦者すべてのプレゼンが終わったら、「いずれの本が一番読みたくなったか」という視点で全員が投票を行い、チャンプ本を決定します。たかさきBIBLIOミーティングの活動は、2018年5月の開催で、計27回となりました。下の表は、これまでのチャンプ本『福BOOK』の一覧です。

表3:福BOOK一覧
2014.1.25 世界が完全に思考停止する前に
2014.3.15 世界を変えた100日
2014.5.24 センセイの鞄
2014.7.19 鏡の法則
2014.9.25 センス・オブ・ワンダー
2014.11.24 かぜのでんわ
2015.1.20 花酔い
2015.3.25 男の編み物橋本治の手トリ足トリ
2015.5.23 ムーミン谷の彗星
2015.7.20 パイドロス
2015.9.19 身体知-カラダをちゃんと使うと
      幸せがやってくる
2015.11.23 映画『言の葉の庭』
2016.1.19 炭素文明論
2016.3.6 七夕の国
2016.5.28 泳ぐのに、安全でも適切でもありません
2016.7.24 友情
2016.9.25 猫を抱いて象と泳ぐ
2016.11.23 仮面ライダー平成vol.12
      仮面ライダーオーズ
2017.1.29 太陽の棘
2017.3.29 わたしはコンシェルジュ
2017.5.18 路
2017.7.23 風と共に去りぬ
2017.9.23 氷の涯
2017.11.23 ブラック企業に勤めてるんだが、
      もう俺は限界かもしれない
2018.1.23 グラスホッパー
2018.3.27 おかしなジパング図版帖
2018.5.30 ベストパートナー

 ご覧のとおり、福BOOKのラインナップは多岐に渡ります。写真集も、実用書も、小説も、絵本だってあります。この福BOOKの後ろには、福BOOKにはなれなかったけれど、それぞれの紹介者の想いを乗せた数倍の数の本達が広がっています。その数、227冊 福BOOKの栄冠を獲得するには、本の面白さはさることながら、やはり、プレゼンの技術、更には紹介者の人柄も大いに影響してきます。ここに、本の紹介だけに終わらない、ビブリオバトルの面白さがあります。

(6) 本と、まち
 福book堂も、たかさきBIBLIOミーティングの活動も、高崎のまちにこだわってやっています。会議室でも良いけれど、まちのちょっとお洒落なカフェやごはん屋さんだったら、より多くの方に来てもらえるかもしれませんし、飲んだり食べたりしながらお話しする方が、雰囲気もくだけます。そして一番大切なことは、たとえ少額でも、まちでお金を使うこと。継続して活動を続けたいからこそ、まちと自分たちと、ささやかですがお金の循環に想いを馳せています。たかさきBIBLIOミーティングで数えれば、これまでにご協力をいただいた開催店舗は15店舗。延べ参加人数は286人で、お支払いできた金額は約45万円です。せっかくの機会ですから、参加者の方が新しいお店を知るきっかけになればと、ご協力いただけそうなお店を日々、アンテナを張って探しています。「この前、たかさきBIBLIOミーティングで来てくれた参加者の方が、あの後、またコーヒーを飲みに来てくれたよ」なんてお店の方が言ってくれた日には、幹事冥利に尽きると言いますか、なんとも嬉しい気持ちでいっぱいになります。

(7) 本と、やっぱり人
 自治研レポートとしてあげていますが、福book堂の設置・入れ替え作業も、たかさきBIBLIOミーティングの活動も、市役所の職員だけで行うことはありません。参加人数が10人いたら、市役所の職員は2~3人ぐらいで、他のみなさんは高崎のまちで出会った、高崎市及び近隣自治体にお住まいの方々です。意図的に人数配分をしているわけではもちろんなくて、幸いにも、自然とこういうことになっています。こういったイベントを通して住民の方と接することができることは、本について語りたいとか、素敵な本に出会いたいとか、そういった目的の二次効果です。あるいは、こっちが目的で、素敵な本に出会うことが二次効果、なのかもしれません。このとき、本はツールであり、まちライブラリーやビブリオバトルは、コミュニケーションをはかるための手段となります。

3. 図書館と人とまちの活動

(1) 好きな人が住むまちを素敵な場所に
 本を介したコミュニケーションを、もう少し大きく、まちを対象に取り組もうと考えると、図書館をハブとした活動へと発展します。図書館が持つ要素は多面的であり、活かし方を考えれば際限なくアイディアが出てきそうですが、今回は本や図書館のコミュニケーション手段としての活かし方を考えました。2016年4月から、市の政策研究という制度を利用して、シンプルに本好きな職員と、図書館のプロである司書と、本も図書館もあまり興味はないけどまちのことには興味がある、という職員とでタッグを組んで、『福BOOK堂研究会』として図書館の活用について話し合いを重ねました。

(2) 好きな人と語るまちの未来
 福BOOK堂研究会としての10ヵ月間の活動の中で、「本と図書館について考えるワークショップ」を実施しました。異なる立場の人たちが、本や図書館への想いを共有します。図書館はやっぱりなんだか敷居が高い。ドライブスルー機能が欲しい。地域の資料を積極的に集めて欲しい。など様々な意見が出ましたが、やっぱり「本と人がつながれば、そこにはかけがえのない価値が生まれる」という部分に収斂したように感じます。本を介して次の本につながったり、本を介してまちの人につながったり。そして、本と人で作られるその場所は、安心したり、好奇心をくすぐられたり、家庭とも職場とも違うサードプレイスとなりうるのです。まちに住む人が幸せであれば、職員の仕事も組合活動も違った色合いになるはずです。間接的ではありますが、因果応報。バタフライエフェクト。そんなことを信じて、福book堂やたかさきBIBLIOミーティングの活動を続けています。高崎市には、築7年の新しく立派な中央図書館があります。いつか、図書館でビブリオバトルを開催したり、市長・副市長・部長たちのおすすめ本が並ぶ福book堂ができたり、そんな新たな一歩が実現することを願っています。

4. 最後に

 本がある場所には、不思議と人が集まります。福book堂やたかさきBIBLIOミーティングの活動を通して、私自身も「この場所があって良かった」と思う瞬間が何度もありました。この想いは、地域への愛着につながります。好きな地域で、より大きな幸せをめざして活動をすること。まさに、組合の真理ではないでしょうか。
 一つ、自慢があります。それは、上記活動の運営も参加も、義務感でする人はいないということです。私達が欲しいものは私達で作り出す。この営みは、組合活動の根底に連綿と受け継がれる、当たり前なのに忘れられがちなたくましさを、想起させてくれるのです。