1. はじめに
日本の人口減少が急激に進んでいます。日本の総人口は2015年国勢調査による1億2,709万人から2065年には8,808万人になると推計されています。(国立社会保障・人口問題研究所「日本将来推計人口(平成29年推計)」より)
各自治体は、過去のように、人口が増加し、毎年増加する市税収入を基盤に、市民の皆さんから要望をいただき、それらをただこなしていくということが難しくなってきています。
今後は人口が減少し、毎年の収入が減少するため、事業の取捨選択が必須となります。また、高齢化による社会保障費の増加、主にバブル期に建設した公共施設の老朽化問題等の重大課題も重なっています。公務員にとっては未曽有の状況の中で、進んで行かなくてはいけません。
全国的な流れと同様に、北本市においても、人口減少による市税収入の減少、高齢化による社会保障関係経費の増加など財政見通しは厳しいものになっています。しかし、現状での当市の財政状況は、全国の類似団体と比べると危機的であるとまでは言いがたい状況です(図1)。そのためか、職員の財政状況に対する意識は低いままです。
このままでは将来、財政状況が悪化し、市民にとっては、税金や使用料の値上げ、各種サービスの低下を引き起こします。財政状況の悪化で余波を受けるのは市民だけではありません。北本市一般会計の歳出総額(2016年決算約195億円)のうち17%の約35億円を占める人件費にも、当然削減圧力がかかります。職員にとっても他人ごとではないのです。現状に目を背け、これらの負担を先送りすることはできません。
10年、50年、100年、何年たっても住んでよかったと思ってもらえるまちにするには、自治体として、本当に必要な事業を効率的に行う不断の努力を続けていかなくてはなりません。そのために、まずは、そう考えてくれる職員・市民を増やしていかなくてはいけません。それが自分たちの身分の保障にもつながっていくと考えます。
そのような状況の中で、今、自分たちにできることは何かを考え、若手職員(筆者は今年31歳です。若手でいいでしょうか?)が主体となって取り組んだ事業を紹介します。
2. KOASの取り組み
(1) 企画意図・誕生まで
前述したとおり、今後は今まで以上に難しい状況の中で、本当に必要な事業を効率的に行う努力を続けていく必要があります。しかし、職員数の削減が進みながら、業務量が減らない現状では、日々の業務に追われ、技能や意識の向上に割く時間を自ら確保していくことは難しいように感じます。
そこで、年に数回自らの日々の業務を見直し、技能や意識の向上につながる機会、勉強会を開催したいと考えました。その意向を当市(北本市)と埼玉県桶川市(北本市の隣市)の同世代(20、30代)の職員組合執行委員に申し出たところ、実現したのがKOAS(Kitamoto Okegawa After Six)です。
名称の意図は、両市の頭文字と、時間外の勉強会であることが分かるように、また、これからは公務員も既成概念をKOAS(こわして)していかなくてはいけないという想いを込めて「KOAS」としました。
(2) 実施と今後
若手から中堅職員が面白いと思える講演内容、参加しやすい環境づくりなど、両市の組合委員で議論を重ねました。そして2017年6月、第1回目の講師として、長崎県平戸市を「ふるさと納税全国1位」に押し上げた黒瀬啓介氏を迎え、お茶菓子を用意しての飲食の自由や自由席など参加しやすい雰囲気を作り、実施しました。
この結果、第1回目講演会は両市から70人を超える参加者を集めることができました。予算ゼロから、一人でパンフレットを作り出すことから始まった取り組みなどを紹介いただき、「公務員として、何がしたいのか、将来のビジョンを持っているのか」など意識向上に大いにつながる言葉に刺激をもらう勉強会となりました。
第2回目は、2018年2月、若手職員が特に気になるという「公務員のお金」をテーマに、「自治体の仕事シリーズ・財政課のシゴト」や「お役所の慣れない会計学」などの著書を持つ、埼玉県所沢市の林誠氏を講師としてお招きしました。「経済」、「資産運用」、「投資」といった賢く生き抜いていくための話を雑談等を踏まえて、お話しいただきました。また、民間保険会社・ハウスメーカーの方もお招きし、ライフプランの重要性や、家づくりの秘訣なども講演していただきました。第2回目も80人を超える参加者を集めることができました。
今後も、技能や意識の向上につながり、さらに職員からどういった内容が求められているかをよく検討しながら、引き続き実施していきます。第3回目は2018年8月を予定しています。
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どのような会にするか、議論の様子 | | 第1回目KOASの様子 |
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第1回目告知用チラシ | | 第2回目告知用チラシ |
3. 財政状況伝えるマンの取り組み
(1) 企画意図・誕生まで
厳しい財政状況の中で、職員・市民が一丸となってこの難局を乗り越えるためには、まず現状に対する知識と理想の共有が必要です。
今までも財政状況は広報の特集や市ホームページで公表していましたが、当たり障りのない事実を周知するにとどまり、市の方向性を示すこともできず、市民の皆さんはもちろん、職員にも興味を持って読んでいただけるものになっていませんでした。
また、全国的にも自治体の財政状況は厳しさを増し、多くの自治体で同様の課題を抱えているにもかかわらず、決算や予算といった財政状況を知ってもらうための工夫をしている例は少なく、一つの事例になればという思いがありました。
そこで、財政状況をどう多くの人に伝えていくかについて、財政課、広報課などの若手職員で検討を行い、2016年11月号の広報きたもとで若手財政課職員が扮し、ゼロ予算事業として誕生したのが「財政状況伝えるマン」です。
(2) 2016年度実施内容・効果
まず、広報等で財政状況を知っていただいた後に、市民の皆さんが行動できる環境を整えるため、2016年度より全事業(約600事業)の事務事業評価を行い、市ホームページで意見募集(2016年12月より開始)を行うことにしました。いただいた意見は予算に反映させ、反映結果を2017年3月に市ホームページ等で公開しました。
環境の整備に目途が立ったうえで、財政状況を伝える施策をしました。
<実施内容>
① 広報紙の特集
広報紙(26,000部発行)の特集(広報きたもと2016年11月号)として、10ページという大きなページ数を割き、財政課職員に財政状況伝えるマン・産業振興課職員に北本桜子として登場してもらい、漫画風の構成をとることで、今まで財政状況に興味がなかったであろう20~50代の人をメインターゲットに読んでいただける工夫をしました。特集の内容は、市で運営するTwitter・Facebook・LINEでも告知を行いました。
② メディアでの情報提供
広報紙で特集した内容を報道機関やブロガーに情報提供を行い、他媒体でも公表していただけるよう促しました。
③ 事務事業評価・予算編成の意見募集の告知
広報の掲載から1か月半後、改めて事務事業評価、予算編成方針への意見募集を告知するために、12月に特集の内容をA4サイズ一枚でまとめた告知用概要版を550部作成し、駅前で配布しました。また、市内新聞販売店のご協力をいただき、告知用概要版21,500部を新聞折込として無料で配布していただきました。
④ 庁内報の作成
12月、庁内職員向けに、予算査定状況を伝える、イラスト漫画風財政状況庁内報を作成し、厳しい財政状況を周知しました。
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財政状況伝えるマン誕生号 |
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事務事業評価シート | | 予算編成時の庁内報 |
<効果>
市民・議員の皆さんにとって厳しい内容であったにもかかわらず、「初めて市の財政状況を知った、楽しく読むことができた、最後までスラスラ読めた」という声を多数いただきました。市ホームページ閲覧数も通常の7倍強となりました。
また、日本経済新聞や時事通信社のiJUMP、地域ブログ等に取り上げていただいたことで、多くの自治体関係者からご連絡・広報紙提供依頼をいただき、市外の皆さんにも情報を伝えることができました。
記者の方からは、「自治体の広報でここまで積極的・自発的に財政状況を打ち出し、議論を巻き起こそうとした例を見たことがない」とのコメントをいただきました。
そして、この2016年11月号広報きたもとは、日本広報協会主催の全国広報コンクール市部門・企画部門2部門で入選し、市部門では埼玉県勢20年ぶりの入選となりました。
さらに2017年1月までに行った意見募集では、予算編成方針への意見が3人(昨年度0人)、事務事業評価への意見が16件となりました。
図2 市ホームページ掲載PDF閲覧数 |
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(3) 2017年度実施内容・効果
基本的な方針・取り組み(ソーシャルメディアの活用・庁内報の作成等)は、2016年度を引き継ぎ、以下の新たな取り組みを行いました。
<実施内容①>
広報きたもと財政状況伝えるマン第2弾の予算特集(5月号)では他部署とのコラボによる特集の作成を行いました。その号では予算の概要・厳しい財政状況(財政課)を伝えるとともに、公共施設の統廃合問題(契約管財課)を、伝えるマンと公共施設管理部門の若手職員の二人が伝える内容としました。
また、第3弾決算特集(11月号)では、読みやすさ向上のため、全面漫画風コマ割と、今後の方向性を示すため、早稲田大学教授の片山善博氏のインタビュー掲載を行い、昨年度以上の内容充実を図りました。
<効果>
5月号のコラボによる特集の要望は公共施設管理部門から出され、厳しい財政運営を伝えていく風潮が庁内全体に広まってきたと感じました。
また昨年の企画、広報が広報コンクールで入選をいただいたことで、当該企画の注目度が上がり、多くの自治体やメディア(朝日新聞、東京新聞、J:COM、税務経理等)から問い合わせ、記事掲載、研修依頼(関東財務局、茨城県庁等)などをいただきました。伝えるマン自身も、市内での認知度が高まり、声をかけられる機会が増え、市内を歩く際には、常に緊張感を持つようになったとのことです。
11月号で当市の取り組みに賛同いただき、インタビューに応じてくださった片山教授からは、「今まで同様、ただ財政状況を公表していればよい時代は終わり、人口減少時代を生き抜くためには正確で分かりやすい情報提供を行い、ともにまちのあり方を考えていく必要があるにもかかわらず、分かりやすく伝える工夫をしている自治体はほとんどない。その点で北本市の取り組みは大変評価できる」とのお言葉をいただきました。
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財政状況伝えるマン2 | | 財政状況伝えるマン3 |
<実施内容②>
当該企画を恒常的に伝えるため、財政状況伝えるマンの取り組みをまとめた専用ページ「財政状況伝えるマンの熱き取り組み」とバナーを作成し公開しました。
また、新たな読者の獲得と予算要求に対する市民からの意見募集を目的に、約1分間の告知動画(11月公開)の作成を行い、各ソーシャルメディア、YouTube(北本市チャンネル)で公開しました。
さらに、広報紙やホームページでの一方的な広報で終わってしまわないように、事務事業評価や予算編成に対する意見募集を行うとともに、伝えるマンが直接講師を行う出前講座を開講し、市民の皆さんの前で財政状況を伝え、意見交換を行いました。
<効果>
各部署の事務事業評価を掲載し、効率化への意見をいただく意見募集において、意見の件数が昨年の16件から今年は57件と大幅に増加しました。また、出前講座の依頼を2件いただき実施しました。
<実施内容③>
厳しい財政状況を職員に現状を正確に理解してもらい、より一層の事務事業の効率化を図ってもらうために、当市初の全職員向けの財政研修を行いました。この研修ではSIM2030(自治体財政シミュレーションゲーム)を取り入れ、理解を深めることにつながりました。
<効果>
庁内職員の約半数(121人)の参加があり、「財政の研修なのに楽しかった」、「財政状況について理解が深まった」、「より一層の効率化に努めたい」等の意見が出され、非常に好評でした。
4. まとめ
厳しい財政状況の中で、一人でも多くの職員の意識を変え、市民の皆さんと共通の問題意識を持って進んで行く自治体にしたいという想いから、2016年より上述のような活動を行ってきました。この間、事務事業評価や予算編成状況への市民からの意見が大幅に増加する、職員から自発的に事業費削減の案が出てくるなど、目に見える効果が出る一方で、若手主導でいくら努力をしたところで、様々な思惑から事業を効率化できないこともあり、もどかしさも感じているところです。
ただ、ここで諦めたら現状は何も変わりません。最終的な決定権が自分たちにはないことを自覚しながらも、一歩一歩できることから着実に実行することで、少しずつ街や、職場環境が、良い方向に向いていくと信じ、今後も活動を続けていきたいと思います。
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広報きたもと2018年5月号 最新号財政状況伝えるマン4 |
他レポートの参考 http://www.jichiro.gr.jp/jichiken_kako/report/jichikensyo/index.htm
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