1. 財政分析の取り組みおさらい
(1) きっかけ
常滑市は、2005年に中部国際空港が開港して以降、市税収入が増加し、一時期は地方交付税の不交付団体となった。しかし、財政危機を理由とした職員の給与削減が実施された。なぜ、給与が削減されたのか、やめさせるためにはどうしたら良いかを考えるにあたり、市の財政について勉強することが必要と考え、自治労愛知県本部、愛知地方自治研究センターなどの協力のもと、組合員による分析、財政状況の広報活動、住民アンケートなどを行ってきた。この活動のアドバイザーとして、奈良女子大の澤井勝名誉教授に多大なるご協力をいただいた。
(2) 財政集会を開催
財政集会では、岡崎市財政課職員に講師をお願いし、枠配分方式による予算編成の考え方について紹介していただいた。また、パネルディスカッションでは、奈良女子大の澤井名誉教授がコーディネーターとなり、市の財政運営についての議論を展開した。
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財政集会の様子(2010年8月19日) |
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(3) 財政健全化のための提言を提出
財政分析を通して、過去の財政運営上の問題を整理し、2010年9月24日に財政健全化のため、提言書をとりまとめて当局へ提出した。(以下の囲み部分が提言書の抜粋)
① 市財政の現状
・空港税収に依存した市税収入
空港関連税収は開港前2000年度の34.6%から、開港後2010年度58.5%と大きく増えており、空港の今後が市の財政に大きく影響することを表している。
・多額の長期債務の累積
2009年度末時点で621億5,500万円という、一般会計予算規模の3倍にも上る市債・債務負担行為残高があり、その原因は空港開港に向けた道路、下水、区画整理などの大規模開発への投資が原因である。
・基金の積立不足
財政調整基金の残高は5億8,000万円と非常に少ない。過去にはゼロの年も。その結果、退職手当を起債に頼らざるを得ない、施設の立て替えや修繕が満足にできないなどの影響が出ている。
② 財政危機に至るまでの問題点
・競艇事業収益による身の丈を超えた行政運営
年40億円にも上る競艇事業収入を、常に単年度で使い切り、人口5万人都市の身の丈を超える行政サービスを実現してきた。このことで、市民の行政への依存体質及び市財政への関心の低下を生んだ。
・歳出削減・行政改革の不徹底
競艇事業収益から市一般会計への繰入金が激減しても、身の丈を超えた行政サービスを維持し続け、徹底した歳出削減による行政のスリム化を行わなかった。
・空港関連事業への大規模投資
道路、下水道、土地区画整理など空港関連事業への大規模な投資を行い、市の借金が大きく膨れる原因となった。
・甘い見通しと基金の積立不足
単年度で数十億円に上る競艇事業収益から市一般会計への繰入金が、将来にわたって続くであろうとの楽観的な観測のもと、長年にわたって行財政運営が続けられてきた。
・競艇依存から空港依存へ
借金による空港関連事業を行ってきた背景には、空港が開港すれば何とかなる、という市当局の甘い見通しがあった。
③ 提 言
常滑市の2008年度決算に基づく将来負担比率は204.7%と、2007年度の161.6%から大幅に上昇しており、愛知県内の市町村(名古屋市を除く)でワースト1である。また、市長が2016年度を目処に移転新築すると公言した新市民病院の建設については、財源が確保される見通しが立っていない。財政規律を確立して現在の危機的状況を脱し、市財政の健全化を図るため、以下の提言をする。
・市民目線の分かりやすい情報提供
組合が行った市民アンケートでは、『広報とこなめ』の当初予算特集記事を読んで「把握できた」と答えた方は、全回答者の26%にとどまっている。「予算編成過程の公開」「各事業の概要、財源、進捗状況の説明」「財政状況の経年変化の説明」「他市町の財政状況との比較」などにより、自分が納めた税金がどのように使われ、市財政がどのような状況にあるのかが把握でき、市民がチェックできるようにすることが求められる。
・事業の優先順位付け
市の強み弱みを再認識し、何を実現すべきかを明確にするとともに、市民のニーズを見きわめて事業に優先順位を付け、取捨選択することによる歳出削減を図るべき。
組合が実施した市民アンケートにより、事業の優先順位付けについて以下の点が導き出された。
1)重点的に進めてほしい施策は、福祉、企業誘致、行政改革が上位であった。
2)市の強みは、空港、自然、名古屋へのアクセス、観光資源、治安の良さが上位であった。
3)市の弱みは、企業進出の遅れ、財政状況の厳しさ、高齢化、雇用が少ないことが上位であった。
上記の結果からは、強みを活かした市内への移住・定住の促進などの施策展開が必要である。
・基金積立のルール化
予期しない収入の減少や支出の増加など、年度間の財源の不均衡を調整し、長期的な視野に立った財政運営を行うため、計画的に基金を積み立てるよう、予算編成におけるルールを定めるべき。
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2. 財政分析後の行財政改革
(1) 市は行財政再生プラン2011を発表(2011年2月) 以下に抜粋を掲載
① 目 標
ア 一般会計の財源不足解消
計画期間中の各年度において赤字が生じないこと
イ 長期債務残高の抑制
2015年度末では2010年度決算見込額の約620億円以下に抑制すること
ウ 財政健全化指標の改善
財政健全化に関する4指標の目標は、以下のとおりとします。
・実質赤字比率 普通会計ベースで赤字が生じないことを目標とします。
・連結実質赤字比率 全会計の連結ベースで赤字が生じないこと
・実質公債費比率 計画期間中において20%を超えないこと
・将来負担比率 2015年度末では、2010年度決算見込みを超えないこと
エ 財政調整基金の確保
計画最終年度において標準財政規模の5%を上回る10億円の残高を確保すること
② 目標達成に向けた具体的方策
ア 8分類55項目の行財政改革について定めた
| 分 類 | 項目数 | 2011年度 | 2012年度 | 2013年度 | 2014年度 | 2015年度 | 計 | 比率(%)
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A | 職員人件費 | 2 | 643 | 751 | 774 | 772 | 795 | 3,735 | 52.2
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(①給与削減分) | | (493) | (470) | (445) | (436) | (445) | (2,289) | (32.0)
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(②定員削減分) | | (150) | (281) | (329) | (336) | (350) | (1,446) | (20.2)
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B | 投資的事業 | 5 | 247 | 353 | 443 | 166 | 70 | 1,279 | 17.9
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C | 施 設 | 13 | 61 | 105 | 121 | 164 | 212 | 663 | 9.3
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D | 事務事業 | 15 | 26 | 181 | 190 | 196 | 196 | 789 | 11.0
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E | イベント・行事等 | 4 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 | 50 | 0.7
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F | 補助事業 | 8 | 16 | 17 | 18 | 20 | 20 | 91 | 1.3
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G | 収入増加策 | 6 | 41 | 80 | 119 | 143 | 167 | 550 | 7.7
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H | 行政組織等 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0.0
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計 | 55 | 1,044 | 1,497 | 1,675 | 1,471 | 1,470 | 7,157 | 100
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※表の比率にあるように、再生プランの具体的方策の半分以上が職員人件費のカットで成り立った計画である。
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再生プランに基づく賃金削減交渉を実施 |
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組合の中にも様々な意見があったが、臨時大会を開催し「常滑市を財政再建団体にしないため、一丸となって危機を脱する」ことを最大の目標と定め、行財政再生プラン2011による賃金カットを受け入れることを決めた。
給与削減分について、毎年組合との協議を経て以下のとおり実施した。
(2) 行財政再生プラン2011の終了後の財政状況
① 常滑市の主要財政指数の推移
行財政再生プランの実施によって、財政指数はどのように変化したのか。
給与削減と人員削減などの行政改革の断行により、借入金の返済が順調に進んだこと、及び新規の借入金も少なく済んだことから、将来負担比率を改善することができた。しかしながら、経常収支比率、実質公債費比率は高止まりのままであり、改善とまではいかなかった。
(3) 市庁舎の高台への移転建設を発表
市庁舎及び文化施設の整備を計画どおり進めると、歳入予測を歳出予測が上回り、財源不足を各基金から補填することにより、財政調整基金の残高は2021年度以降、再び減少し、2022年度には同残高が1億9,000万円と不安定な財政運営になると予想される。
3. まとめ
財政の悪化が明るみとなった以降、組合による財政分析、市民と共に考える財政集会の開催、財政健全化のための提言の提出、当局による行財政再生プラン2011の実施など、常滑市の財政はこの10年ほどで大きく変化した。しかしながら、財政の状況は依然として厳しい状況であり、さらには今後訪れる市役所庁舎の建て替えをはじめ、公共施設にかかる費用は莫大なものになると試算されており予断を許さない。組合として、これまでの経験を踏まえ、市財政運営に対する問題意識を持ち続ける責任があると認識している。この間、常滑市の財政問題に関し、多大なるご協力をいただいた全ての組合関係者の方々に対し、あらためて感謝の気持ちを伝えるものである。
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