【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第11分科会 自治研で探る「街中八策」

 稲沢市の学校給食職場では、非正規職員の増加に伴って、民間委託の提案が強くなっている。この間の取り組みで、正規、非正規の壁を乗り越えて、同じ職場で働く調理員として情報共有を図るため、教宣活動に取り組んできた。非正規職員へのアンケートや交渉における当局の考え方について報告し、非正規労働者と民間委託で働く労働者に対する行政のあり方について考えたい。



「おしゃべり広場」の取り組みから
―― 民間委託のたたかいと非正規労働者について考える ――

愛知県本部/稲沢市職員労働組合・現業学校支部 小瀬垣可奈子・村瀬 沙織

1. 稲沢市の給食職場の現状とたたかい

 稲沢市の学校給食調理職場は、直営自校方式の小中学校が18校、7校の小中学校を担う2つの調理場、7校の小中学校を担う民間委託1つの調理場で業務が進められている。直営の調理職場は、正規職員38人、再任用職員2人、非正規職員61人で構成され、この間の正規職員退職不補充のなか、非正規職員の増加が進められてきた。
 稲沢市の学校給食職場では、2000年代に入って間もない頃に民間委託が提案され、単組の強い反対運動で阻止したものの、不足する調理員について非正規職員の採用を受け入れてきた。2005年の市町村合併では、単独校(自校式の給食職場)に加えて、旧2町の学校給食センター2箇所が職場として増加した。2008年には、国の通達を受けた当局が「今後における技能労務職の取扱方針」を決定し、「今後は、技能労務職の新規採用を行わない」とした方針が公表された以降、退職者の補充は非正規職員への置き換えが進められてきた。
 こうしたなか、労組では「学校給食職場における正規職員と非正規職員の比率(正臨比)は、1:1を確保すること」を交渉により確認するとともに、正臨比が守れない場合は正規職員の採用を要求し、たたかってきた。しかし、2013年、当局側は正規職員を採用することなく正臨比を守るため、ひとつの学校給食センターの民間委託を提案してきた。短期間の労組での議論もなかなか進まないまま、給食センターの民間委託を受け入れることとなった。
 それから2年が経過しようとしていた2016年秋頃、当局は非正規職員を募集しても応募者がいないことを理由に「このままでは維持できない、正規職員を守るためには一部を民間委託にするしか選択がない」「このままでは職場のなかで正規職員は1人しか配置できない、正規職員が休む場合、非正規職員だけの職場は許さない」と民間委託を迫ってきた。労組の議論は2年前と同様に、正規職員、組合員のことだけを守る視点での議論が進み、一部の職場で民間委託を受け入れる最終決断の段階に入った。労組の議論では「当局が提案したことを選択するしかない」「正規職員の採用がないなか、非正規職員が増えていく現実では仕方がない」と決断の経緯を確認した。しかし、2年前の給食センター民間委託で、議論が不十分なままでの決断であったことを踏まえ、改めて議論を投げかけるなか、非正規職員を巻き込んだ取り組みに発展させ、民間委託阻止にむけたたたかいを続けている。

2. この間のたたかいで明らかになった課題

(1) 当局の民間委託にむけた動き
 この間当局は、2008年に公表した「今後における技能労務職の取扱方針」を盾に、正規職員の退職に伴う補充について非正規職員を採用してきた。2013年の祖父江給食センターの民間委託提案では、民間委託の是非を労働組合の判断に押しつけ、組合員自らが選択せざるを得ない状況をつくりだしてきた。また、単独校を集約した親子方式を導入し、新しい建物と最新設備を整えることで、民間委託への道を切り拓こうとしている。そのうえで、直営と民間委託をコスト比較し、民間委託は安価であると主張している。当局は、コスト比較のみで民間委託を進めようとしており、学校給食のあり方やこの間の歴史、今後の展望、食育のことは一切考え方を示していない。また、給食の提供先に存在する児童、生徒、保護者への説明責任は果たそうとしない。私たちは、当局のさらなる民間委託拡大にむけた動きを見抜き、対応していかなければならない。

(2) 非正規職員アンケートの取り組み
 私たちは、祖父江給食センターの民間委託を選択した際、同じ職場で働く非正規職員の仲間と十分議論できず、民間に転籍させてしまったことを悔やんでいる。また、学校に配置されていた正規職員公務手の非正規化に伴って給食調理員に任用替えされ、私たちと同じ職場で働いていることは事実である。こうしたことから、今回の民間委託提案において、正規職員不補充のなか直営を守っていくためには、「非正規職員の理解や協力なくしては守ることができない」「非正規職員はこう思っているのではないだろうか」など、正規職員の考えで議論するのではなく、実際に非正規職員の思いを聞いてみようという考えからアンケートに取り組んだ。
 アンケートからは「年齢的にも体力的にも新しく仕事を探すことが困難」「長年慣れ親しんだ職場で仕事を続けたい」といった今までは想像でしかなかった生の声を聞くことができた。また「やりがいを持って一生懸命働いている」といった、仕事に対しての誇りや愛情も感じ取ることができた。同じ職場で働く仲間の仕事を奪わないためにも、民間委託は阻止するべきだと改めて強く思っている。さらには、正規職員の減少に伴い、非正規職員への負担も増加しているが、そのことについてもアンケートでは「自分たちでできることは協力していきたい」という前向きな意見も想像した以上に多く聞かれ、驚きと同時に仲間として一緒に手を取り合っていけると強く感じている。

(3) すべての調理員でたたかう姿勢
 学校給食調理員の組合組織率は全体のうち正規職員約4割が組織化されているが、非正規職員約6割は組織化されていない。この間のたたかいは、組織化されている正規職員だけの議論でたたかってきたが、非正規職員の増加とともに組織率は50%を下回り、正規職員だけではたたかいが構築できなくなっている。非正規職員へのアンケートでも、雇用形態は違っても生活のために働く労働者であることを明らかにしてきた。しかし、組合員の意識は乖離していることも事実である。
 当局は、非正規職員を雇用する際、業務内容を「調理補助」としているが、具体的な業務内容は示さず、正規職員の休暇などに伴って非正規職員だけとなる職場は許可しないと強く主張している。一方、調理現場では、正規職員の退職に伴って配置される非正規職員は、これまでの正規職員と同じ業務をしなければ業務が成り立たないのは言うまでもない。
 こうした当局の矛盾と現場との乖離を追及するとともに稲沢市の安全でおいしい学校給食提供にむけて、正規職員の組織強化、非正規職員の組織化、また民間委託調理場で働く調理員といった、すべての調理員でたたかう姿勢の構築が必要である。

3. おしゃべり広場の取り組み

(1) きっかけ
 富山県高岡市職労学校支部調理員部会が発行しているニュースを見て感銘を受けた。高岡市の共同調理場方式から単独校調理方式での給食提供を勝ち取る運動もさることながら、新しい仲間を大切にしようという記事を読んで、稲沢市と重なる部分があり、私たちも仲間を大切にする気持ち、技術や知識を継承したいという思いをニュースにしたいと「おしゃべり広場」というニュースを作成、発行することにした。


 
おしゃべり広場第1号   おしゃべり広場第2号

(2) 目的とねらい
 稲沢市独自の伝統やスキル、知識や各職場での食育への取り組みを正規職員、非正規職員の全調理員で共有し、稲沢市の給食を市の財産にしたいという目的がある。正規職員不補充のため正規職員が1人の配置職場で働く仲間へ「ひとりじゃない!! 正規、非正規の枠を越えて、みんなでつながろう!!」というメッセージの配信も兼ねたいというのも、ひとつの狙いだった。

(3) おしゃべり広場発行と反響
 第1号では、各施設で実施している食育の参加や調理員にはかかせないスキンケア用品、知って得する豆知識等を内容に盛り込み、情報を共有した。ニュースを見た職員からは、初めて知った知識があり、早速自分の職場でも実践してみたという反響を得た。
 第2号では、次年度の備品購入にむけてオススメの調理器具を中心に記載した。実際使用して見えてきたメリット、デメリットも合わせて載せることによって新規購入にむけて職場で話し合い、検討してもらう目的のなかに、正規、非正規間の壁を取り払う狙いを込めて作成した。その結果、非正規職員から「過去の職場では、こんな器具を使って良かったよ」「載っている清掃器具を使ってみたいね」など、非正規職員を交えて意見交換ができるようになった。
 第3号では、新しく立ち上がった平和調理場の紹介を載せた。稲沢市では単独校から調理場への人事異動が少なく、単独校のみの経験者が調理場の器具や機器を知ることにより、隔たりをなくしたい。また、同じ仲間だという思いを持ってもらうのが狙いだ。その結果、平和調理場の仲間からは「発信してくれてありがとう、うれしい」との声が届いていた。
 第4号では、支部で開催した学習会を紹介した。休日に開催したことや組合員間で一体感が図れていないために組合員10人に満たない学習会への参加だったが、そのなかで健康運動士を講師に迎え、職場でも実践できるメディカルチェックを学んだことを記事にした。その結果、正規、非正規ともに職場で実践し、健康であることの大切さを職場全員で再確認することができた。


 
おしゃべり広場第3号   おしゃべり広場第4号

4. 今後の課題

(1) おしゃべり広場の発行
 おしゃべり広場は、第4号までの発行ということもあり、新しい仲間への周知が進んでいないことや、民間委託に進むべきと考える正規職員が配置されている職場では、非正規職員との壁があると感じる。どんな小さな問題でも、ひとつずつみんなで解決、改善していく体制(one for all all for one)をめざして、おしゃべり広場をつくり続けていきたいと考える。近い将来、楽しく働きやすい職場にするにはどうしたらよいかを、職場全員で話し合えるかけはしとして、おしゃべり広場が広く活用させることを願う。それを直営堅持の武器、直営の強みのひとつとして、今後もたたかい続けていかなければならない。

(2) 非正規労働者の組織化
 この間の非正規職員の増加で組織化の必要性は理解していたが、なかなか取り組みに着手できていなかった。そんななか、給食職場の民間委託提案が強まり、減少した正規職員、組合員だけではたたかいが構築できなくなったことが組織化の取り組みへの契機となっている。一方、多くの正規職員は、職場に1人の正規職員に対して非正規職員が複数人配置されることで休暇の取得に不安を感じ、正規職員を複数人配置するための民間委託を許容しているのも事実である。今回、非正規職員へのアンケートの取り組みや、おしゃべり広場を活用した教宣活動により、非正規職員は、雇用形態は違うものの同じ職場で働く調理員であること、今や非正規職員の存在なしには業務が担えないことを明らかにしてきた。また、当局側が主張する「非正規職員だけの業務は許さない」「非正規職員は調理補助」といった矛盾を明らかにするなかで、非正規職員を守ることで、職場を守り、正規職員を守ることにつながることを広げてきた。
 一方、非正規職員には「職場を守り、雇用を守るためには、当事者の行動が必要」「それを実現できるのは労働組合しかない」と伝えるとともに、組織化にむけて取り組みを進めなければならない。

(3) 非正規労働者と民間委託における行政への提言
 同一労働同一賃金が叫ばれる世の中にあって、公務員の非正規労働者のあり方が2020年に変わろうとしている。しかし、これは、非正規労働者を固定化することにつながる危険性を含む法改正であることを認識しなければならない。また、非正規労働者の固定化は正規労働者の削減にもつながりかねない。一方、非正規労働者の賃金・労働条件の改善が自治体財政をさらに圧迫することになることは必至と考える。そうしたなか、自治体当局は業務を民間委託することでこの危機を乗り越えようと安易に民間委託を提案している。
 国からの圧力で新規採用を抑制してきた現業労働者であるが、現場に目を向けると正規労働者と非正規労働者が同じ業務を担わなければ、業務が進まないことは事実である。給食業務は教育の一環として行政が責任を持って担ってきた業務であり、安心でおいしい給食の提供には、安定した労働環境の実現が不可欠である。また、安易な民間委託は、委託費の削減がそこで働く労働者の賃金・労働条件の低下を招くことになり、低賃金や短時間勤務といった劣悪な労働条件で働かせることは、世の中の流れに逆行していると言わざるを得ない。
 稲沢市では「子育て、教育は稲沢で」を第一政策とし、労働人口が減少すると言われる将来にむけて、人口増加をめざしている。そのためには、稲沢市で居住し、稲沢市で働き続けることができる労働環境を整えることが重要であると考える。直営による給食職場では、正規労働者と非正規労働者の労働条件の均衡の実現と、民間委託における労働者の労働条件確保に向けた公契約条例の制定など、行政としての役割を確実に果たすことを提言したい。