【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第11分科会 自治研で探る「街中八策」

 広大な面積を誇る和歌山県田辺市には多くの地域資源が存在しているが、行政が未だ把握できていない地域資源がほかにも存在するかもしれず、できるだけ多くの地域資源を掘り起こし、それぞれを有機的に結び付けて発信していくことが求められている。本レポートでは、田辺市職員労働組合が多くの視点で地域資源を見つけ出し、将来的に活用できる人材、地域の育成を自治研事業として実践している内容を現時点でまとめている。



とにかく自由に田辺市を研究してみよう
―― 田辺市の自治研活動報告 ――

和歌山県本部/田辺市職員労働組合・自治研推進委員会

1. はじめに

 2015年頃から、田辺市職員労働組合(以下、田辺市職という。)の自治研活動を活発化させようという機運が高まった。しかし、単に自治研活動といってもジャンルは幅広く、漠然としていて何から始めればいいかわからない。ただ、自治研活動云々に関係なく、近年の田辺市地域に田辺市職がどのように関わり、どう貢献していけるかを考えた時、喫緊の課題である人口減少や地元の若者の市外への流出に対して、可能な限り広い視野をもって問題点を研究し、改善施策の提案・要求に繋げることが必要なのではないかと認識した。また、地域への貢献とは別に、田辺市職内部の課題に目を向ければ、組合員の組合離れといった課題があり、特に若手職員には、"なんとなく組合活動はむずかしそう"、"堅苦しい"、"活動に参加すると損をしそう"などといったイメージを持たれており、将来的に田辺市職の組織力低下が不安視されるところである。そういった課題も含めて総合的に打開していくためにも、まずは多様化する地域のニーズ、組合員のニーズをつかむとともに、市民とも協働できるような広い参集範囲で、自治研活動として地域活性化に向けた研究・取り組みをとにかく楽しみながらやっていくことを目的に動き出した。

2. 自治研活動としての学習会等

 われわれ組合員が田辺市地域の活性化に向けてあらゆる施策を研究するにしても、まずは課題の内容を知る必要がある。どんな地域資源があるのか、それをどう合理的に生かしていくのか、また生かすためにはどんなハードルがあるかなど、総合的に知った上で次に繋げるべきだと考え、まずは現状を知るために自治研活動を通して、広く組合員に参集していただく学習会や推進委員会を開催していく3ヵ年の事業計画を立て、①まずは田辺市を知る、②田辺市をどうしたいか考える、③協議内容を実行する、を目標に以下の活動を進めてきた。

(1) 学習会・世界遺産追加登録の政策課題について
  【開催日:2016年6月13日】

 田辺市において最大ともいえる地域資源である世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」について、闘鶏神社を含めた新たな4つの資産の世界遺産追加登録に向けた取り組みを田辺市文化振興課から講演いただいた。さらに、世界遺産追加登録に関連する各種整備事業(世界遺産追加登録までのハード・ソフト事業、街中活性化事業など)について観光振興課、商工振興課からそれぞれ講演いただいた。講演終了後、参加者がグループワークを行い、感想や意見などを話し合い、その内容をグループごとに発表し、意識の共有化を図った。当日は真砂充敏田辺市長にも参加いただき、世界遺産追加登録に向けた熱い思いを語られる場面もあった。参加者数は55人。

(2) 学習会・梅と世界農業遺産について知ろう【開催日:2016年8月19日】
 田辺市の基幹産業である「梅」に関し、その利用促進や消費拡大支援、さらには世界農業遺産に登録された「みなべ・田辺の梅システム」の概要について、農業振興課梅振興室から講演いただいた。「梅」は田辺市周辺地域で全国の梅の6割を生産しており、質・量ともに日本一であり、田辺市が誇るべき産物である。その「梅」の歴史や世界が認めた農業遺産として今後の消費拡大にどう活用し、事業を展開しているかを知ることができた。参加者も「梅」という地域資源の幅広い可能性を強く感じられたかと思う。参加者は37人。
■講演後には「梅」の加工用途を知ろうということで、「梅シロップ」の作り方を教わり、参加者のみんなで実践してみた。また、「梅ジュース」の試飲もさせていただき、「梅」の多方面への活用を実体験できた。

(3) 学習会・田辺スポーツパークを活用したスポーツ合宿誘致プロジェクト
  【開催日:2016年12月14日】

 2015年紀の国わかやま国体を機に整備された「田辺スポーツパーク」にて、スポーツ合宿誘致プロジェクトの取り組み等について学ぶとともに、スポーツ振興課からスポーツパーク体育館の設備の紹介を行っていただいた。パラリンピック競技ナショナルトレーニングセンター陸上競技強化施設に認定されるなど、スポーツ合宿誘致のさまざまな成果の説明を受け、また、設備の概要を直に見学することもでき、田辺市の地域資源として将来的に大いに活躍できる施設であることを知ることができた。参加者は49人。

(4) 学習会・リノベーションを活用した市街地活性化に向けて
  【開催日:2017年3月9日】

 リノベーションを活用した田辺駅前周辺活性化にむけた事業について、また、これからの課題について商工振興課から講演いただいた。リノベーションによるまちづくりがいろんな可能性を秘めており、いかに夢のある事業かを知ることができた。その昔、熊野詣の宿場町として栄えたこの田辺市が、現在においても世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の玄関口として恥じない"まち"となるよう、市街地活性化事業がいかに大事かを参加者一同が感じることができたと思う。講演後、参加者全員に「まちなか活性化アンケート」を書いてもらい、それを基にグループワーク形式で意見交換を行った。参加者は55人。
■グループワークの様子。自分なら田辺市をどのようなまちにしたいか、ということをアンケートによって投げかけ、多種多様な発想をそれぞれが出し合い、いろいろな可能性を共有することができた。

(5) 学習会・田辺市の地域おこし協力隊の現状【開催日:2017年5月22日】
 地域おこし協力隊や田辺未来創造塾など、たなべ営業室が実施する事業について講演いただいた。たなべ営業室はその名のとおり"たなべ"についての営業活動を行う部署であり、様々な事業を展開している。その一つが地域おこし協力隊であり、田辺市の山村地域を対象に、地域の課題解決や新たな価値を創造しようとする団体を募集し支援していく事業である。地域活性化に直結する点で、われわれの自治研活動の趣旨に非常に参考となる話を聞くことができた。さらに、講演内容には田辺未来創造塾事業についても触れられ、地域資源を活用し本業を生かしながらできるビジネスモデルの創出を支援する本事業の成果と今後期待される効果を聞くことができた。参加者からは質問も多く、関心の高さがうかがえた。参加者は56人。

(6) 学習会・田辺市が誇る南方熊楠翁【開催日:2017年6月14日】
 晩年、田辺市で過ごした郷土の偉人「南方熊楠翁」について、どういった人物で、何をして、何を残してきたか等を南方熊楠顕彰館から講演いただいた。開催日の年は南方熊楠翁生誕150周年で、控えていた記念事業の概要や、普段の関連事業、今後の事業などについてお話いただいた。南方熊楠翁が残した数々の業績が「紀伊山地の霊場と参詣道」の世界遺産登録につながったと言っても過言ではなく、今後もその業績を官民協働により顕彰し発信していく必要があると参加者一同で感じることができた。参加者は58人。

(7) 自治研推進委員会の発会と活動

■自治研推進委員会会議風景
 (1)~(6)の学習会を通じて、特にやりがいを感じてくれている参加者を選抜し、自治研推進委員として迎え入れ、自治研推進委員会を発会した。学習会での知識がすべてではないが、田辺市内には多くの活用すべき地域資源があることや、各課で様々な施策を講じていることを改めて知り、それらをどう有機的に結びつけられるか研究していくために、本会をその実行部隊とすることとした。ただ、堅苦しくなると何事もおっくうになるため、とにかく楽しく、善いと思うことはどんどんやろうという目標を立てた。

 本会のルール ① 全員が必ず発言すること
        ② 発言者の内容について批判しないこと
        ③ 会議は基本的に90分以内で終了すること

 2018年7月現在で3回会議を実施しており、委員それぞれが課題や企画を持ち寄って意見交換している。その中で実際に参加、体験してみたい企画があればどんどん実行し、それらを何かしらにまとめた上でいろんな形で発信していこうと考えている。発信方法の一つに、実行した企画ごとに動画を撮影、編集し配信していくといった内容も本会の意見で出ている。
 2018年6月には、本会の中で意見の出た「田辺市職員によるCSR活動・道普請」を実施。世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の熊野古道を保全していくための活動である道普請を、田辺市職員として率先して行わないといけない ということで、推進委員だけでなく、組合員全体に募集をかけた上で実施した。参加者は21人で、世界遺産という地域の大きな財産を保全していく大切さを学んだ。こういった活動を記録し、発信していくことを継続し、田辺市内外を問わず盛り上げていこうというのが本会の狙いである。さらに組合員全体を巻き込んで活動していくことで、組合活動への関心を深めてもらうことも目的の一つとしている。今後も老若男女関係なく幅広く参集し、ゆくゆくは地域住民と協働できる活動も増やしていきたい。
 本会の次なる企画として、昨今推進が求められている男性の育児休暇について学ぶため、2018年8月に"男性職員の育児休暇推進と職場づくり"と題した学習会を企画しており、鋭意活動中である。
■道普請当日の風景。
 最初に、和歌山県世界遺産センターの職員さんから道普請についての概要や大切さ等を講義いただいた。その後、現地へ移動し熊野古道の補修すべき箇所に土入れをし、整地作業を行った。道普請終了後は、熊野古道ウォークも併せて体験。
 参加者は推進委員も含めて21人。

3. おわりに

 学習会活動、自治研推進委員会の発会など、現在も田辺市職における自治研活動は計画の途中であり継続中である。現時点で言えるのは、組合員が"田辺市職員"として知らないといけない、知っていた方がいいという知識や情報がまだまだたくさんあり、研究材料は無数に散らばっていることを認識したということである。地域活性化は、国がめざす「地方創生」に係るあらゆる政策の実現をバックアップするということとなり、労働組合の基本的理念に相違する部分があるかもしれないし、今の自治研活動が本来の組合活動とは違うかもしれない。しかし、行政側からでは見えないものを見出し、そこから政策提言していくことは、現代社会における労働組合の組合員や地域への貢献方法として何ら問題ではないし、むしろ積極的にするべきであると考えている。
 今後とも、自治研推進委員会を中心に、組合員だけでなく、市民と協働して行える事業やイベントを企画し実行していき、地域資源の宝庫であるわがまち田辺市の活性化に繋げていきたい。