【要請レポート】

第37回土佐自治研集会
第12分科会 新しい公共のあり方「住民協働」理想と現実

 「協働」が自治体にとって一般的な言葉になって相応の年月が経過した。その一方で、地域と行政の関係性については、多様な地域の特性もあいまって、引き続き議論の対象となっている。「協働」を実現しようとすればするほどに高まる行政の理想は、住民の意識とのかい離が生じる結果にもなっている。本レポートでは、行政職員のあり方を通じた住民とのかかわりを提起し、「協働」のあり方の一側面を考察する。



町田市における「協働」の課題
―― 地域とのかかわりに必要なこと ――

東京都本部/町田市職員労働組合 守屋  涼

1. はじめに

 1990年代後半以降、地方分権政策がスタートしたことを背景として、政策形成過程への参加として条例や計画などの制度づくり、あるいは市民活動支援政策の策定に対しての意見聴取を行うことが増えた。一般的にはこうした手法を「協働(ⅰ)」と呼んでいた。本来の概念が、行政と住民のそれぞれにどの程度浸透しているかはまた別の議論が必要ではあるが、「協働」は、効率的かつ効果的な地域政策を推進することを目的として、全国各地で広く見られるようになった。
 しかし、近年の急激な社会の変化にともない、財政危機からの脱却に向けた行財政改革を背景に、自治体内分権の名のもと住民自らがコミュニティの課題解決や自立した地域経営を図ることが期待され、その実現に向けたコミュニティ政策が各地で展開されるようになった。これは、地方自治体にとっては、地域との関係性を含めた自治体全体としての構造改革が求められるようになったことと同義である。具体的には、「協働」のあり方そのものが見直されると同時に、自治体としてコミュニティ支援の目的を確立すること、そして、コミュニティ支援のための方法を行政の力量として確立することの2点が問われていると言えよう。

2. 町田市の地勢と「協働」

(1) 町田市について
 町田市は2018年2月に市制60周年を迎え、東京都の多摩地区南部に位置し、人口は東京都の市町村で2番目に多い自治体である(ⅱ)。主要産業は商業であるが、1960年代以降ベッドタウンとして開発が進んだ一方、市内各所では依然農業も行われている。バブル経済期以降には東京都区部からの私立大学の移転が進むなど、自治体としての特色は多様である。
 市域は南北、東西にそれぞれ細長く、全体が神奈川県側に大きく突出しており、都内の隣接自治体である八王子市や多摩市とは同じ南多摩地域にありながら、丘陵(ⅲ)で隔てられている。そのため、神奈川県域とのかかわりが深く、日本で唯一、3つの政令指定都市(ⅳ)と接している自治体でもある。
 近年の人口減少、世界に類を見ない高齢化の進展は町田市においても他人事ではなく、2020年には人口が減少に転じると推計されており、並行して高齢化率も急激に上昇する見通しである。市の税収も、生産年齢人口の減少にともない減少の一途を辿っている。町田市を取り巻く社会経済の情勢も大きく変化(ⅴ)しつつあり、その影響は、規模の大小を問わず施策としての様々な事業を進めるうえでの、縮小や見直しという決断に徐々に現れている。

(2) 町田市の「協働」
 2012年度から2021年度までの基本計画「まちだ未来づくりプラン」では、そのリーディングプロジェクトとして、5つの「未来づくりプロジェクト」を掲げている。その中の1つ、「地域社会づくりを基本とするまちづくりプロジェクト」では、地域の特性や資源を生かし、地域の実情に応じたまちづくりを進めるため、地域団体や市民などの多様な担い手と市の協働による地域社会づくりを進めることとしている。
 この実行計画として、2013年12月に「協働による地域社会づくり」推進計画を策定し、2017年3月にはその後継として、「町田市5ヶ年計画17-21」と連動する「町田市地域経営ビジョン2030 ~協働による地域社会づくり推進計画~」を新たに策定した。
 計画に基づき、2014年度からは、住民が主体の地域運営組織である「地区協議会」の設立を市内10地区で支援した(うち1地区については設立準備中)。地区協議会は、必須構成団体(ⅵ)以外に、各地区で活動している市民団体、民間企業、学校等の組織が、各地区の状況に応じて構成団体として名を連ねている。これまでの町内会という狭い単位の自治と比べて幅広い分野での自治を担う地区協議会が設立されることで、各コミュニティ組織がそれぞれの役割を再認識し、地域におけるネットワークの再構築が促進され、地域間交流・連携が拡充され、地域の自治が一層育まれていくことが期待されている。

3. 町田市の行政内部における「協働」の課題

 2018年度当初に庁内の全部署を対象として実施した「協働事業調査」では、「協働」事業として2017年度に実施した216の事業が回答に挙がった。「協働」事業として回答の対象としたこと、つまり町田市が「協働」として定義している内容は「地域の多様な主体が、お互いを尊重しながら、共通の目的を達成するために協力して活動すること」である。
 回答があった216事業を、検討会・協議会、主催、共催、実行委員会、後援、補助・助成、委託、場の提供、情報発信、委嘱、専門家派遣という10形態に分類(重複あり)すると、場の提供、情報発信、共催、主催、補助・助成の順で割合が高く、専門家派遣、後援、委嘱、委託、検討会・協議会の順で割合が低かった(図1)。さらに、協働相手の種別として、大学、法人格を持つ団体、任意団体、町内会・自治会、地区協議会、民間企業、その他の6種別に分類したところ、最も割合が高かったのが任意団体であり、最も低かったのが地区協議会という結果であった(図2)。また、協働相手を地区協議会に限って見た場合、協働の形態として最も多かったものが主催、次いで共催、場の提供の順であった。

図1 協働の形態(2018年度協働調査より)
図2 協働の相手の種別(2018年度協働調査より)

 このことから、地域運営組織としての「地区協議会」の充実を市の重点施策として進める一方で、庁内の各部署が「地区協議会」の意義を十分に認識するまでには至っておらず、協働の形態としては地区協議会が主催する、あるいは市と共催する事業(イベント)に限られている傾向にあることが分かる。
 また、別に実施した調査の結果では、「地区協議会」についての職員の認知度は45%に留まり、さらに「協働」の認知度(「協働」がどういうものかを説明できるレベルと規定)はわずかに27%に過ぎない。つまり、現状としては「地区協議会」が地域を代表する組織として認識が浸透していないばかりでなく、「協働」に対する理解が決定的に不足していると考えるのが妥当だろう。
 この背景には、地域とかかわるということがどのようなことなのかが示されておらず、そしていささか精神論ではあるものの、地域と関わることに対する職員の敬遠する傾向があるのではないだろうか。参考までに、町田市における協働事業について、その活動分野に着目すると、協働事業が比較的多くみられる分野と、そうではない分野とが明確に区別できる(図3)。分野によって、地域とのかかわりが経験や知識として蓄積されているかどうかが大きく分かれていることの一例と言えるだろう。
図3 協働事業の分野(2018年度協働調査より)

4.  行政職員と住民とのかかわり

 行政にとって「協働」の相手として身近な存在のひとつが、住民自身によって組織化されている町内会・自治会(以下「町内会」という)であろう。町田市においても、309の町内会が活動しており、その地理的広がりが市内全域に及ぶことから、市民参加の代名詞として町内会が関係する市の事業は多く挙げられる。また、「地区協議会」においてもその必須構成団体のひとつに町内会(連合会)が名を連ねており、町内会は「地区協議会」が文字どおり地域運営組織であるための不可欠な要素となっている。
 一方で、町田市の町内会は、全国的な傾向ではあるが、加入率の低下傾向が続いている(ⅶ)。その原因は様々な複合的要因が考えられるが、着目すべきはそれら個々の要因ではなく、若年層の町内会離れにともなう役員の高齢化が進んだ結果としての「活動の停滞(縮小)」であろう。
 こうした状況が顕著となるにつれ、全国的にはコミュニティ支援を加速していく動きがみられた。例えば、活動を促進するための補助金制度の拡充、相談窓口の開設や担当職員の専任化といったことがこれに当たる。もちろん町田市においても、同様の施策を展開している。しかしこれらの方策は、活動が停滞している、あるいは縮小傾向にある町内会に対して、従来から続く町内会の事業の継続を行政から一方的に求めるだけに留まってしまい、かえって負担を強いることにもなる。そして、施策上、町内会を頼ることが多い行政職員もまた、住民が感じている「余計な負担」に対する反発に直面し、次第に地域とのかかわりが部分的、断片的になっていく。

5. 町田市における地区協議会(事例)

 町田市の地区協議会はその設立に際して、行政が主導する側面があった。行政主導は、市民の中にどうしても「やらされ感」がイメージされる。しかし、設立の最終的な是非は市民(団体)の判断に委ね、設立後の活動内容も構成団体同士で「地域課題」を明確にしたうえで、具体的な取り組みに移すこととなっている点で、行政主導ではなく市民の自発的な決定であることを強調するよう働きかけた。運営においては「地域民主主義」や「コミュニティ経営」といった視点も必要となるが、行政職員はその具体的方策についての相談や助言といった役割を担っている。
 つまり、地区協議会は地域の様々な活動団体、つまり住民自らが、「地域課題」を再発見するための場として機能することがひとつの大きな役割であり、行政は組織体としての設立には大きく関与したものの、それは「場」の提供という意味合いが強かった。その「場」とは、いわゆる「やらされ感」ではなく、市民自らが地域の「課題」に気付き、その課題を解決していくという「協働」の初期のプロセスを具現化したものであったと言えよう。
 しかし、これまでの地域コミュニティ支援の反省をふまえた地区協議会にも、別の様々な課題はある。ひとつがその活動内容である。現在、子どもの見守り活動を実施したり、地域の交流を目的とした「ふれあいフェスティバル」を開催する地区が多いが、これまで主に町内会が担っていた活動を「地区協議会」の名のもとに拡大した事例であり、今後の展開について十分な議論が必要である。
図4 小山・小山ヶ丘地区ネットワーク協議会「ライブペインティング」のようす
町内会(連合会)のイベントであった「ふれあいウォーキング」を拡充して2014年度から実施。事業を拡充するに当たっては、近隣の高等専門学校との連携を推進した。
図5 忠生地区協議会「忠生郷土芸能まつり」
地区協議会のとして新規事業として2016年度から始まったが、市の「郷土芸能まつり」の存在もあり、近隣の大学との連携を、地域として今後どのように展開するかの検討が必要である。
 また、先述の調査結果をみる限り、行政にとっても地区協議会とのかかわりが明確になっていない。その背景には、行政が地域との関係を構築し、発展させていくことが、部署ごと、あるいは事業ごとの展開に委ねられており、その状態では「協働」の相手が限定されることになる。
 地区協議会の例ではないが、町田市生活安全協議会(防災安全部市民生活安全課所管、年3回開催)と町田市市民生活連絡会(市民部市民協働推進課所管、年3回開催)は、それぞれ町内会の代表者と警察署長等が会議の構成員で、扱う内容も重複するものが多い。しかし、両会議の内容が共有されることは稀であり、構成員にとって会議への出席が二重の負担となるばかりでなく、行政内部の連携が不足していることにより、部署ごとの「協働」に留まってしまっているのである。

6.  「地域とかかわる」ということ(考察)

(1) 行政に求められること
 こうした状況を打開するためには、行政内部の部署横断的な連携の不足を解消する必要がある。地域とのかかわりは、部署ごと、事業ごとではなく、行政全体として進めていくべきことである。行政にとって地域コミュニティとの協働とは、住民自らが地域の課題解決に関与する「自治」として顕在化しなければ、ともに公共を担っていることにはならない。そのため地域コミュニティとの協働には、様々な主体が連携した地域コミュニティに対応するための、行政内部の部署横断的な枠組みづくりが求められると同時に、地域実情の異なる核コミュニティの自治を醸成する意味での徹底した住民参加、そしてそれを支援・促進する行政の新たなかかわり方が求められるのである。
 つまり、行政内部の部署横断的な連携を模索し、情報を共有し、可能性を拡げていくことこそが、地域コミュニティとの連携に直結する。そして、こうした課題も、地域の主体性を育むうえでは、省くことができない過程の一段階と言えるであろう。地域とかかわるということが、行政内部の連携によってもたらされることを認識できれば、職員の「協働」の認知度も大きく向上し、「協働」によって地域と行政が密接に関係しているということも強く実感できるはずである。

(2) 新たな可能性
 この視点については、実は少しずつではあるが市の施策にもその端緒が現れはじめている。それが、市制60周年(2018年)から、ラグビーワールドカップ(2019年)、東京2020オリンピック・パラリンピックにかけての3ヶ年で実施するシティープロモーション事業「まちだ○ごと大作戦18-20」である。この「まちだ○ごと大作戦18-20」では、市民によって様々な事業が企画・提案され、実現に向けて市が場の提供、関係機関との調整や情報発信などのバックアップを行うものである。2018年7月末日現在で約60の事業が提案され、そのうちのいくつかは実施に向けて具体的な調整段階に入っている。(表1)

表1 まちだ○ごと大作戦18-20 予定事業例(抜粋)
No. 作戦名(事業名) 提案者(事業主体) 庁内関係部署(想定)
002 MACHIDA Omotenashi Project 町田市文化・国際交流財団 町田国際交流センター 文化振興課
観光まちづくり課
オリンピック・パラリンピック等国際大会推進課
007 多摩都市モノレールを町田へ呼ぼう
キャッチフレーズ募集キャンペーンで町田を盛り上げる作戦
町田商工会議所 都市整備・まちづくり委員会 都市政策課多摩都市モノレール推進室
産業政策課
012 スポーツを楽しむ「町田スタイル」PR大作戦 町田サッカー協会 広報課
スポーツ振興課
オリンピック・パラリンピック等国際大会推進課
014 谷戸池と有用微生物との
コラボレーション
小山田桜台まちづくり協議会 環境保全課
公園緑地課
015 グリーンフィールドオータムフェスティバル
with Volkswagen
スポーツパークパートナーズまちだ 市有財産活用課
スポーツ振興課
公園緑地課
021 エンジョイ
町田相原里山マップ
ウェルカムto相原実行委員会 市民協働推進課
観光まちづくり課
026 ボッチャで町田から
パラリンピック選手大作戦
町田市社会福祉法人施設等連絡会 スポーツ振興課
オリンピック・パラリンピック等国際大会推進課
障がい福祉課
高齢者福祉課
028 駐車場シェアシステム 町田市医療・介護事業所交流会 駐車場シェアシステム委員会 市民協働推進課
高齢者福祉課
介護保険課
保健総務課
030 水かけ祭り 木曽南自治会他 市民協働推進課
防災課
道路管理課
031 子供たちの夢を
応援するプロジェクト
町田市青少年健全育成会忠生第6地区委員会 市民協働推進課
児童青少年課
教育総務課
指導課

 ここで提案されている事業は、いずれも一度限り、または3ヶ年で完結するものではなく、将来的な事業の継続性を視野に入れている。それは、事業により異なるものの、行政側の部署横断的な連携が長く続くことを意味するのである。

7.  「地域とかかわる」ということ(まとめ)

 「まちだニューパラダイム 2030年に向けた町田の転換(ⅷ)」では、その冒頭で、生活が崩壊していく未来と、変革の末に実現する一層明るい未来が対照的に描かれている。しかし、何らかの変革の必要性を説いてはいるものの、具体的な内容、つまり地域と行政がどのような具体的対応を未然に講じるかについては、後の検討課題として先送りされたままであった。市民の誰もがどちらの未来を選択的に選択するかを想像する余地は少ないが、「公共の福祉」の充実を使命として課されている行政にとっては、そこに至る過程、つまり「変革」の必要性を無視することは不可避である。
 この「変革」とは、コミュニティ支援の具体的内容に関連して住民参加のプロセスを作り、行政と地域コミュニティとの協働のあり方を具体化していくかということを意味し、町田市においては、行政がなんのために市民とともに「協働」に取り組んでいくかをより具体的に、より明確にしていくことがこれからの課題と言えよう。
 これまでのコミュニティ支援策は、逆説的に言えば、コミュニティの事業活動や自立的な経営を支援する行政職員の知識や技術が脆弱であることを露呈していた。その知識や技術の蓄積のためには、地域課題の把握を積み上げていく必要がある。住民にとって切実な地域課題とは何か、それに対応して本当に必要な公共サービスとは何か。それを実現するうえでの行政責任とはどのように果たされるべきなのか。そして、行政職員が構築すべき地域とのかかわりはどのようなものなのか。
 いま、改めて自問してみることが、進むべき方向性を見定めるための第一歩なのだろう。




参考文献等
・公益財団法人 東北開発研究センター監修(山田晴義 編著)(2007年)『地域コミュニティの支援戦略』 ぎょうせい
・公益財団法人 日本都市センター編(2014年)『地域コミュニティと行政の新しい関係づくり』 公益財団法人日本都市センター
・町田市市民部市民協働推進課(2017年)『町田市 地域経営ビジョン2030 ~協働による地域社会づくり推進計画~』 町田市
・町田市未来づくり研究所編(2015年)『まちだニューパラダイム 2030年に向けた町田の転換』 町田市

ⅰ 「協働」の概念は、アメリカのインディアナ大学の政治学教授ヴィンセント・オストロムが、ヴィクター・フクスの研究に触発されて、自身の1977年の著作の中で主要概念として、"Co-production"という用語を用いたことで生まれ、この後「協働」と訳されたことで、日本語として定着したものである。
ⅱ 2018年1月1日現在で428,742人。
ⅲ 町田市での呼称は「北部丘陵」。
ⅳ いずれも神奈川県の横浜市、川崎市、相模原市。
ⅴ 一例として、主要産業である商業においても、やや古い情報ではあるが、2007年から2012年までの5年間で、市内の年間商品販売額(売上)が約1,000億円減少した。
ⅵ 町田市町内会・自治会連合会における地区ごとの(下部)組織、民生委員児童委員協議会、青少年健全育成地区委員会
ⅶ 2017年4月1日現在で約53%。ここ10年は、概ね年1%の減少。
ⅷ 町田市では社会の急激な変化に対応するため、町田市を取り巻く社会構造の変化を分析し、市の施策に反映させるための提言を行う「町田市未来づくり研究所」を庁内に設置した。この「町田市未来づくり研究所」が2015年にまとめた報告書が「まちだニューパラダイム 2030年に向けた町田の転換」である。この報告書は、自治体が独自に社会情勢を分析し、自身の社会的財政的危機を喚起した提言であり、市民に向けたものである以上に、自治体自身に向けたメッセージであるという意味合いも強い。