1. 現業職場のあり方・現業職場の職種のあり方 検討委員会について
(1) 経 過
① 現業職場のあり方検討委員会
釧路市では、未曽有の財政危機からの脱却を図るべく、2006年度に集中改革プランを策定し、独自削減や内部管理経費の削減、事務事業の見直し、使用料・手数料の改定などを行い、初年度には約30億円、2007年度には約16億円の効果額を生み出した。しかし、当時の地方財政を取り巻く情勢では、一向に回復の兆しが見えず、2009年度以降も約18億円を超える財源不足が見込まれ、財政健全化に向けて全庁挙げての取り組みを継続していかなければならない状況にあった。
このような状況の中、現業職場においては、毎年度の行財政改革の実施にあたり個々に業務検討がなされてきたが、現業職場全体を見据えた議論が必要であるとの見解が労使双方で認識されつつあり、2008年の行財政改革の実施における確認事項により、10年スパンでの全体的な方向性の確立と清掃、給食、学校、動物園、道路、下水道など個別でのあり方について方向性を結論付けることを目的に、労使双方から成る「現業職場のあり方検討委員会」が設置された。
② 10年後(2018年)の現業職場の方向性
現業職場において、市として10年後に直営として存在する業務、集中改革プランの基本理念に基づくアウトソーシング推進指針を踏まえ外部化の推進をはかっていく業務の方向性を、2008年5月から12月にかけて12回開催された「現業職場のあり方検討委員会」での議論の積み重ねにより、図1のとおり方向性が示された。
また、「職員数が不足してくる時期には、その採用職種は別として職員を採用するとともに、現業職場の業務内容を精査し、職種の変更も視野に入れた整理をする」、「現業職場の職種の変更については、労使双方の課題と受け止め、今後協議する」という方向性が示され、労使双方により協議を続けていくべきことが明確化された。
図1 直営とする業務とアウトソーシングとする業務
③ 現業職場の職種のあり方検討委員会
「現業職場のあり方検討委員会」において明確化された2つの継続協議事項について、現業職場の業務実態を踏まえた職種の整理に取り組むとともに、国等からの指導(行政職二表導入等)により必ずしも労使間の思いだけで職場環境を維持できないという現実を踏まえたうえでの現業職場の安定化を目的として、労使双方の構成員をもって組織する「現業職場の職種のあり方検討委員会」が2011年度に設置された。
④ 職種のあり方についての検討結果
ア 「労務職場」から「一般職場B」への考え方
・現状の現業職場の業務において、行政的判断要素や専門的知識の必要性が高まっている部門は、単純労務ではないことから一般職場化する。
表1 2011年度の検討結果により一般職場化した職場
職場等 | 理 由 |
動物園 管理飼育展示担当・ツル担当 | 専門的な知識を有する業務 |
道路維持事業所 下水道管理課(現:下水道建設管理課管理担当) | 災害時等の緊急対応が必要な業務 行政的な判断要素を含んだ業務 |
環境事業課 指導担当 | 行政的な判断要素を含んだ業務 |
・上記に該当しない現業職場においては、事務的又は技術的業務の付加または臨時職員等の指導・監督する業務内容に転換して一般職場化する。(図2参照)
図2 一般職場化に向けた検討の概念図
イ 採用方法の変更・人事管理(配置)上の整理(図3参照)
・採用方法の変更 従前:「一般職(事務・技術)」と「労務職」⇒ 「総合職(事務・技術)」に一本化
理由:一般職場化後の人事管理(配置)上の制約、「労務職」に限定した採用は「現業に限定した給与体系(行政職Ⅱ表)を持たない」とする国等への説明と矛盾
・人事管理(配置)上の整理(一般職場化後の異動先の限定など)
「一般職」は「一般職場A」・「一般職場B(一般職場化した職場)」に配置が可能。「労務職場」は不可
「労務職」は「一般職場B」・「労務職場」に配置が可能。「一般職場A」は不可。
※「労務職」採用で任用試験を受け、合格した者は「一般職」となる。
「総合職」は「一般職場A・B」・「労務職場」(すべての職場)に配置が可能。
・昇任等について
「労務職」においても主査職への昇任が可能となった。(従前は業務主任/技能主任まで)
すべての職場が一般職場化されるまでの「一般職場B」においては、課長補佐職まで配置できる。「労務職」で「一般職場B限定可能性」に「承諾」の意思表示をした場合、専門員・課長補佐の職務に昇任する可能性がある。(昇任後、「労務職場」への配置は不可)
図3 現業職場における職種の整理(人事配置)に関する概念
ウ 検討結果
こうした方向性をもとに、2011年度から2016年度にかけて、各職場において議論を重ね、一般職場化を検討すべき全ての職場が一般職場化された。
表2 一般職場化した職場と検討結果等一覧表
一般職場化した職場 |
主な検討結果 |
一般職場化 実施年度 |
備 考 |
契約管理課
車両管理担当
(運転業務職場) |
・車両管理担当の事務の一部を運転職員に移行
※市長公用車運転業務及び定数1人を秘書課秘書担当へ移行 |
2014 |
|
秘書課
秘書担当
(運転業務職場) |
・秘書担当の事務の一部を運転職員に移行
※市長公用車運転業務及び定数1人を契約管理課車両管理担当から移行 |
2014 |
|
環境事業課
事業施設担当
(清掃・収集業務職場) |
・ふれあい収集部門における事務職の業務を移行
・苦情処理部門と小型収集部門を統合し、これらの業務を一体的に取り組む体制に再編 |
2014 |
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こども育成課
保育園
(給食調理職場) |
・給食調理に関連する一連の業務を臨時職員に転換。
・各施設に職員1人を配置し、給食調理業務を担う臨時職員を指導監督するほか、各施設内の事務の一部を分掌する。 |
2014 |
|
児童発達支援センター
(給食調理職場) |
2014 |
旧療育センター |
学校給食課
給食担当
(給食調理職場) |
・給食調理及び食器洗浄に関する業務を職員から臨時職員に転換。
・指導監督員として職員10人を配置し、臨時職員を指導監督するほか、学校給食課の事務の一部を分掌する。 |
2015 |
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学校
(事務補職場) |
・事務補業務を臨時職員に転換。
・旧釧路市地区の学校を7グループに区分し、各グループに指導監督員となる職員を1人配置し、グループ内の臨時職員を指導監督するほか、学校教育部総務課の事務の一部を分掌する。 |
2015 |
|
学校
(用務員職場) |
・用務員業務を臨時職員に転換。
・用務員業務を臨時職員に転換するにあたり、これまでの用務員業務の経験を活かせる業務を取り込みながら移行を進める「過渡期」を経た上で最終的な体制へ移行する。
・旧釧路市地区の学校を7グループに区分し、各グループに指導監督員となる職員を1人配置し、グループ内の臨時職員を指導監督するほか、学校教育部総務課の事務の一部を分掌する。 |
2016 |
|
(2) 検討結果のまとめ
労働組合側の課題であった「行政職二表導入」と「現業職場へのアウトソーシングなどの合理化攻撃」に対し、労使双方で構成したこれらの検討委員会の議論・検討により、「労務職場の一般職場化」を行ったことで行二導入を阻止することができ、財政難によりアウトソーシングが叫ばれる中、直営で行うべき職場(業務)を整理し、一定程度の職場を守られたことは、行政サービスの提供体制の観点からも評価できるものと考えられる。
しかし、一般職場化した後も定数削減や人事配置上の課題が現れ始めた……
2. 一般職場化後の状況
(1) 一般職場化後の人員削減
① 全体の定数
2011年度には、「現業職場」総体で定数181人だったが、2018年度の定数は104人となっており、2011年度と比べ約54%まで減少している。
「現業職場のあり方検討委員会」時のアウトソーシング推進指針による保育園の委託化(11園→5園)や学校や給食センターの指導監督員体制による臨時職員への転換によるものが大きいが、2013年度から2015年度にかけて150人を削減する「財政健全化推進プラン」や2016年度から2020年度にかけて65人を削減する「定員適正化計画」による合理化の影響もある。
② 個別職場の人員削減状況
表3 現業職場別の定数の状況(2011年度・2018年度比較)
職場 区分 |
職種・職場 |
年 度 |
減員理由 |
2011 |
2018 |
一 般 職 場 化 |
公用車運転 |
3 |
3 |
定数移行 契約管理課3人⇒秘書課1人、契約管理課2人 |
環境事業課指導担当 |
20 |
15 |
一般職場化後のごみ及び資源物の排出指導業務等の体制見直しにより5人減員 |
環境事業課事業施設担当 |
23 |
13 |
一般職場化による体制見直し(2人)や刈草・剪定枝や粗大ごみ収集業務の委託化(7人)、一般職場化後の苦情処理業務等の体制見直し(1人)により10人減員 |
保育調理員 |
11 |
5 |
釧路市立保育園アウトソーシング計画に基づく保育園の民間移管による施設減少(3園)及び現業職場の職種のあり方検討委員会の検討結果に基づく減員(各園1人) |
児童発達支援センター調理員 |
2 |
2 |
|
道路維持事業所 |
16 |
12 |
道路補修業務の委託化による体制見直し4人減員 |
用務員 |
36 |
15 |
現業職場の職種のあり方検討委員会の検討結果に基づく減員 (最終形7人) |
事務補 |
27 |
8 |
現業職場の職種のあり方検討委員会の検討結果に基づく減員 (最終形7人) |
小学校給食センター調理員 |
19 |
10 |
現業職場の職種のあり方検討委員会の検討結果に基づく減員 ※2019年度から指定管理 |
動物園飼育展示担当 |
13 |
13 |
|
動物園ツル担当 |
1 |
1 |
|
下水道建設管理課管理担当 |
6 |
6 |
|
労務 職場 |
公務補 |
3 |
1 |
臨時職員への転換による減員(残っている職場は音別中学校) |
看護助手 |
1 |
0 |
臨時職員への転換による減員 |
合 計 |
181 |
104 |
|
(2) 現在の現業職場(一般職場B)の職員の年齢構成
現在の現業職場の職員の年齢構成は、表4のとおりとなっている。30代前半以下の若年層の配置はほとんどなく、いずれの職場も50代が多く、次いで再任用職員、40代前半となっている。
特に、2012年度に一般職場化した「道路維持事業所」や「下水道建設管理課管理担当」は、災害時等の緊急対応を担う部署であり、現場経験を積みながら迅速な対応のノウハウや作業機械の運転・操作技術を高めていく必要がある。また、「動物園」においては、飼育に対する専門的知識を高めていく必要がある。動物園においては、この間の職場要求交渉において年齢バランスを考慮した人事配置を求めてきたことや動物園の飼育業務を希望する者が採用されたことにより一定程度改善された。
しかし、これらの職場においても10年後には職場定数の半分が定年を迎え、多くのベテラン職員を失うことになる。
表4 2018年度の現業職場別職員年齢構成
職 場 | 定 数 | 20代 前半 | 20代 後半 | 30代 前半 | 30代 後半 | 40代 前半 | 40代 後半 | 50代 前半 | 50代 後半 | 再任用 | 平均 年齢 |
公用車運転 | 3 | | | | 1 | 1 | | 1 | | | 38.8 |
環境事業課 指導担当 | 15 | 1 | | | 1 | 2 | 3 | 4 | 2 | 2 | 50.1 |
環境事業課 事業施設担当 | 13 | | | | 4 | 1 | 1 | 3 | 2 | 2 | 51.3 |
保育調理員 | 5 | | | | | | | 1 | 4 | | 57.4 |
児童発達支援 センター調理員 | 2 | | | | | | | | 2 | | 58.5 |
道路維持事業所 | 12 | | | 1 | 1 | 4 | | 5 | | 1 | 47.7 |
用務員 | 15 | | | | 1 | 3 | 1 | 3 | 2 | 5 | 53.3 |
事務補 | 8 | | | | | | | 3 | 4 | 1 | 57.5 |
小学校給食 センター調理員 | 10 | | | | | | 1 | 2 | 5 | | 56.8 |
動物園 飼育展示担当 | 13 | 1 | 1 | | | 2 | 1 | 6 | | 2 | 48.5 |
動物園 ツル担当 | 1 | | | | | | 1 | | | | 47.0 |
下水道建設管理課 管理担当 | 6 | | 1 | | | | | 2 | 1 | 2 | 53.3 |
公務補 | 1 | | | | | | | 1 | | | 54.0 |
計 | 104 | 2 | 2 | 1 | 8 | 13 | 8 | 31 | 22 | 15 | 51.9 |
こうした課題の打開策として「総合職」採用に転換し、人事異動による対応を想定していたが、新規採用の総合職が現業職場に配属されたのは、移行当初の2012~2014年度で、ほとんどの総合職が採用後2年で他の職場(一般職場A)へ異動させることがあった。このことにより、現場組合員からも「教えてもそんなに早く異動してしまうのならいらない」といった声もあり、その後は新規採用の総合職が現業職場に配属されることはほとんどなくなったため、現在の状況に至ってしまっているとも考えられる。
また、退職による職員の補充は、労務職採用で任用試験を受け一般職となった職員が配置されるケースが多く、40代の職員の半数はこのケースによる配置となっている。今後もこの年代の職員に頼っていくとすると、現在、直面している課題と同様のことが起こると想定される。
持続可能な行政サービスを提供できる体制を確保していくためには、新規採用の総合職の継続した配置を行い、一般職場で行っているように経験をつみながら職場を回りながら、職場の適性などを見出していくことも必要だと考えられる。また、現場の業務に必要となる資格取得にかかる費用の支出も求めていくことも必要になるだろう。
(3) まとめ(的なもの)
① 現業職場のあり方検討委員会や現業職場の職種のあり方検討委員会を通じて、行政として直営で担うべき職場を洗い出し、目的としては現場組合員の雇用を守る観点に主眼を置きつつ、業務の付加や指導監督業務への転換などを行い、現業職場を確保してきた。
② 一方で、一般職場化後に行われてきた行革、定数削減は、「行政サービスの提供」という視点での議論が不十分のまま、「定数削減ありき」で職場内での体制についての検討・議論が進められた職場もあり、組織内部の議論のみで、公共サービスを受ける住民の立場での考えは反映されていない。
③ また、「定数」に対する議論に重点が置かれ、「年齢構成を考慮した組織(職場)体制」の論点が不足しており、持続可能な公共サービスの提供体制の課題が浮き彫りになってきた。
④ 本レポートは、作成者の主観的な思いや考えが濃いものである。今後、現業ユニオンや現場組合員と現状課題について議論を深め、課題を洗い出し、課題解消に向けた方策や取り組みを考え合うとともに、当市における公共サービスのあり方について、住民の視点も加えながら検討を進めることも必要だろう。
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