【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第12分科会 新しい公共のあり方「住民協働」理想と現実

 全国的に図書館への指定管理者制度を利用した民間委託が進んでいる中で、2016年11月25日開催の第19回経済財政諮問会議に当時の高市総務大臣が提出したトップランナー方式から図書館等の社会教育施設を見送りました。国は、指定管理者制度が図書館等の社会教育施設にはなじまないと認めましたが、全国では、なお図書館への指定管理者制度導入が進んでいる実態がある中で、茨城県守谷市立図書館が来年度より指定管理から直営に戻す決定をした経過を報告し、今後の図書館の在り方を提言します。



守谷中央図書館指定管理者制度の見直しを考える


茨城県本部/水戸市立図書館を育てる市民の会 海野 敏明

1. はじめに

 中央図書館は、守谷市に「よい図書館、私たちの暮らしに役立つ図書館がほしい」と1988年より運動を展開していた市民団体等の熱意により誕生しました。
 図書館を建設する際には、市民団体役員が「建設検討委員会」の委員として参加し、要望や意見を述べ多くが実現できたことは市民の力によるものだと思います。
 このような生まれの守谷中央図書館が1995年に完成し、図書館司書を中心としたスタッフや読み聞かせ等のボランティア団体と共に歩む図書館運営が行われていました。この市民協働による図書館づくりが守谷の図書館の特徴でした。
 また、守谷市内には、中央図書館と4つの分室(中央公民館図書室、郷州公民館図書室、高野公民館図書室、北守谷公民館図書室)から構成されておりましたが、2014年8月に図書館協議会へ指定管理者制度導入について諮問がなされ、結果2016年4月より図書館流通センター・常総ビル整美共同事業体と基本協定書(指定期間:2016年4月から2019年3月までの3年間)を締結して指定管理者による図書館の運営が開始されました。
 しかし、指定管理者の不手際により、開館当初から図書館運営に支障が生じ、指定管理のデメリットが表面化したのが守谷市立図書館の指定管理から直営へつながった大きな理由だと思われます。
 ここまで指定管理者側のミスがはっきりしているのも珍しいことです。しかし、いずれの事例でも、同じことが起こる可能性は否定できません。その点で参考になれば幸いです。

2. 指定管理者制度導入の経緯

 2007年9月図書館協議会に指定管理者制度導入の最初の諮問がありましたが、これについては審議の結果、2009年に時期早尚という答申がだされました。
 それから、5年経過した2014年に「図書館で直接雇用すると臨時職員の確保が困難になったため、十分なサービスの提供ができない」を理由とした委託提案がなされました。しかし、次の図書館協議会には業務委託から「職員がいなくなるのでコストが下がる」を主な理由にして、市長から「指定管理者制度導入で」と指示が出て、再度図書館協議会に諮問がなされ議論のすえ委員の採決により導入決定の答申がなされました。
 その後、教育委員会や市議会で議決され2016年度より3年間TRC(図書館流通センター)に指定管理者制度導入が決まってしまいました。
 その間、市民団体を中心に指定管理者制度導入に反対の立場で市議会へ陳情書(署名2002筆)及び要望書の提出等様々な活動を起こしました。特に、市長との対話では、市が責任持って運営を行うようお願いしましたが、思いがすれ違い、不安が残る結果になってしまいました。
 市議会においては、上記陳情は否決され図書館条例改正がなされましたが、成立に他に類を見ない六項目の附帯決議が起立多数で可決されました。
≪附帯決議の要旨≫
 図書館に指定管理者制度を導入するにあたっては、図書館が持つ役割を踏まえ、多様化する市民ニーズへの対応、市民団体等との協働により、更なる市民サービスの向上が図られるよう、適切な対応を求めるもの。
1. 指定管理者制度へのスムーズな移行と、円滑な連携ができる市の体制確保を求める。
2. サービスの向上・充実を図ること。
3. 現在の市民ボランティアや関係団体と連携を図ること。
4. 現在雇用している図書館奉仕員や地元雇用に配慮すること。
5. 小中学校図書館との連携を進めること。
6. 図書館に精通した監視機能を設置すること。

3. 指定管理者制度導入時の混乱

 指定管理者制度導入2か月後の6月初め図書館館長が退職しました。さらに、5人の職員が退職するという混乱が生じました。このことは、地元のマスコミ等で大きく報じられた経緯があります。
 このような混乱が生じた原因については、館長就任予定であった元公立図書館長が、直営時は、図書館司書の正規職員中心に運営されていたところ、経験の浅い契約社員で図書館機能とサービスを低下させることなく運営することに疑問を持っていたことが始まりでした。
 前館長は、2月からの事務引き継ぎ時点で図書館運営に疑問を感じ辞意をにおわせていたと聞き及んでいます。そもそも与えられたスタッフで、現在の図書館機能やサービスを維持することに不安を感じていたものと推測できます。
 守谷中央図書館は市民要望から設立され、市民協働により運営されていた図書館であり、正規職員中心の図書館スタッフとボランティア一体となった運営がなされていました。(一般的に指定管理に移行される図書館の人員体制は、正規職員が削減され非正規職員中心に運営されている。)
 しかし、指定管理に移行する協定書では職員39人体制になっていましたが、館長の退職後6月までに5人退職者がでる事態に発展しました。

4. 議会での聴取について

 指定管理移行後の混乱は議会でも問題になりました。2016年7月1日総務教育常任委員会が下記参考人の出席を求め開催されました。
 参考人
                  図書館流通センター・常総ビル整備共同事業体代表企業株式会社
                  図書館流通センター代表取締社長(TRC)
                                 石 井   昭 氏
                  守谷中央図書館館長代理    林   正 樹 氏 
 参考人招致で明らかになったことは、
① 指定管理料には上限があり、人件費に掛ける金額が定まっている関係から少数精鋭で運営を行っていく必要がある。その結果スタッフが短期間で離職し、人員不足が解消できない。
② 図書館スタッフに対する指示命令系統がTRCと教育委員会と2系統あることが、スタッフが働きにくい最大の要因であり、指揮系統の一体化を求めていきたい。
③ 直営時からのスタッフと人間関係が薄く、新体制でのコミュニケーション不足や説明不足が生じてしまった。
 スタッフが短期間で辞めてしまう状況は、全国の指定管理図書館に言えるものと思います。人件費に掛ける金額が定まっており、独自性を出そうと思えば思うほど支出が増え、支出を抑えれば人件費の抑制及びスタッフへ過度な要求になり、結果スタッフの短期間での離職率が上がるという構図が浮かび上がります。
 また、指揮命令系統が2系統あること自体が偽装請負になり、あってはならないことのはずです。しかし、行政側(教育委員会)で関与しなければならない運営状況が生まれていたために、指揮命令系統が2系統になったと思います。
 最後に、守谷中央図書館は開館以来市民協働ということを理念に、ボランティアと関連団体が精力的に活動され、市民とともに図書館運営が行われていました。自分たちの図書館を日本一にしようと強い思いで運営されてきた図書館であることを認識して運営に当たられたいとの要望が出されました。

5. 図書館協議会の論議

 2018年2月15日守谷市図書館協議会が開催されました。
諮問事項 
「守谷市立図書館等の平成31年度からの運営体制について」の答申案1及び答申案2の内容について

〔答申案1〕
 「守谷市立図書館等の平成31年度からの運営体制については、指定管理を継続することが望ましい。」
 なお、指定管理を行わせる事業者は、次の条件を満たすよう、仕様書等において明記すること。
 以下、答申理由とする。
※ (1)~(4)  省略

〔答申案2〕
 「守谷市立図書館等の平成31年度からの運営体制については、現在の経費を上回ることなく市民サービスの水準を維持することを前提として、直営若しくは一部業務委託による直営とすること。」
 以下、答申理由とする。
※ (1)~(5)  省略

 委員が意見を述べたのちに挙手による採決が図られ、案1(指定管理継続)1人、案2(直営又は一部業務委託)6人、保留1人の結果になり、案2の直営又は一部業務委託に戻したほうが良いということになり答申書が教育長へ渡されました。
※ 守谷市図書館協議会
 2017年度 第7回図書館協議会会議録(2018年2月15日開催)に全文記載されています。

6. むすびに

 「守谷市図書館直営復活」 来年度から「民間委託なじまぬ」これは守谷市が来年度より指定管理から直営に戻すことを伝える新聞の見出しです。
 守谷市立図書館については、指定管理移行時の指定管理者TRCの不手際があり当然の結論であると思いますが、市民団体の図書館に対する思い入れが感じられます。
 当局としても、この人たちは図書館のお母さんと言わせるほどに存在感があり、無視できない存在になっていました。(現市長の言葉)
 さらに、指定管理導入を推進した市長から新たな市長へ交代したことも大きな要素になったことは否めません。
 市長は「図書館は地域の文化の中心。民間委託はなじまない。直営に戻す。」と述べており、さらに国においても、図書館等の社会教育施設はトップランナー方式から見送られ、民間委託にはなじまないとされています。
 以上のことから、守谷の図書館を日本一の図書館にしようと、正規職員(図書館司書)を中心とした体制と市民ボランティアが一体となって運営がされていたことが、人件費抑制がついて回る営利企業である指定管理者との決定的な違いを表面化させたと考えられます。
 図書館を指定管理者制度から直営に戻す守谷市の経緯は、指定管理者が自ら招いたミスで生じたことと思われますが、市民にとって望まれる図書館をめざすことが直営に戻す鍵ではないかと思われます。

茨城県内地方行政サービス改革の取り組み状況(図書館)総務省調査 2017年3月31日

市町村名 施設数 導入数 導入率 前年以降導入が進んでいない理由
水戸市 83 図書館は、6館のうち地区館5館に指定管理を導入している。残りの1館である中央図書館は直営で運営することにしている。
日立市 図書館サービスは無料であり、また教育行政の役割を担っている。指定管理制度導入の是非については、今後検討していく。
土浦市 公共図書館は、図書の選定・除籍や地域資料の収集・保存・活用などの業務に継続性が必要であること。
古河市 直営で運営すべき施設であると考えるため。
石岡市 公共施設等総合管理計画に基づき、今後個別施設計画策定を行う予定であり、施設のありかたが確定していないため。
結城市 100  
龍ケ崎市 100  
下妻市 学校との連携を図るため直営が望ましいと考えているため。
常総市 施設が老朽化しているため、PFIも視野に入れた検討が必要。
常陸太田市 各施設ごとに指定管理制度を導入した場合の効果を検証し、指定管理制度導入の検討をしていく。
高萩市 指定管理料が少額になるため。
北茨城市 直営によって市民の意見要望を直接行政に反映でき、意欲の高い人材を確保することができるが、制度導入によって、学校や図書館との密接な連携が途絶える可能性がある。
笠間市 図書館サービスは経験と継続性が必要とされるサービスであり、指定管理の導入には適していないため。
取手市 現時点では導入の予定がないため。
牛久市 市民あるいは外部団体との調整等、その他、施設の運用に関しては現在のところ直営が妥当と判断している。
つくば市 2017年度から図書館の開館日数や開館時間の増について、検討を進めるとともに、直営または一部委託、指定管理等について調査研究しているところであるため。
ひたちなか市 直営により運営すべき施設であり、指定管理者制度導入の予定がないため。
鹿嶋市 図書資料を永続的に保障・保管するため直接管理することとしています。
潮来市 100  
守谷市 100  
常陸大宮市 直営での施設利用状況が好調であること、平等な学習機会の提供や公共性の確保(選書等)を重視したこと等の理由による
市町村名 施設数 導入数 導入率 前年以降導入が進んでいない理由
那珂市 管理運営の状況を再確認し、指定管理者制度を適用するかどうか検討している。
筑西市 100  
坂東市 未導入理由に変更がないため。
稲敷市 制度導入によるメリットと、導入したことによる経営上の課題の整理が進んでいない。
かすみがうら市 施設規模が小さく導入のメリットを期待することが難しい。
桜川市 規模が小さく応募が見込めない。
神栖市 市議会において否決となったため。
行方市 これまで具体の議論がなかったが、今後は、公共施設等総合管理計画の展開プログラムに基づき、組織・職員体制を含む管理運営のあり方等について議論し、機能統合や統廃合等により合理化を図る。
鉾田市 企業としての事業収益が見込みにくい。蔵書を含め継続して事業を実施することが重要で、契約期間を設けた場合、その確保が難しくなる。
つくばみらい市 66.7 現在、担当課で検討中。
小美玉市 現施設での制度導入はコスト増が見込まれるため難しいと考えている。しかし、新たな施設や施設統合を検討する際には、建設と併せて一体的な導入を検討する。
茨城町 コスト増が見込まれるため。
大洗町    
城里町 東日本大震災以降、図書館施設の一部に支所機能を移転しているため、現在検討が進んでいない状況です。
東海村 今後、委託・指定管理制度の導入を考えるべき施設のひとつとして検討する。
大子町    
美浦村    
阿見町   非常勤職員等を活用しており、コスト削減の余地がないため。
河内町    
八千代町   施設の規模が小さく、直営以外はコストに見合わないため当面は直営で管理・運営していく方針である。
五霞町    
境町    
利根町   直営で運営すべき施設であると考える。