【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第12分科会 新しい公共のあり方「住民協働」理想と現実

 日頃から私たち現業職員は、それぞれの職種で災害発生時に何ができるのか、何をしなければいけないのかを話し合い、防災意識の高揚に努めています。現業評議会では、災害時に活用できる器具として5年ほど前から「防災かまど」づくりに取り組み、いくつかの学校への設置も行ってきました。本レポートでは、かまどづくりの後に地域に入り、住民との交流を行いながら「防災かまど」の普及をめざした経過を報告します。



「防災かまど」からの発信
―― 地域の中へ ――

三重県本部/自治労伊賀市職員労働組合・現業評議会

1. はじめに

 私たち伊賀市職員労働組合現業評議会では、自治研活動として「防災かまど」の製作に取り組み、災害時にどのように活用できるかを研究してきた経過を、2015年三重県地方自治研究集会で発表し、2016年の第36回地方自治研究全国集会(宮城自治研)で自主レポート報告をした。
 今回は、その後地元地域に入り、住民との交流をしながら、「防災かまど」の普及をめざした経過を報告する。

※ 「防災かまど」とは……
 集水枡や土管を使い、かまどのように火を使って湯を沸かしたり、ご飯を炊いたりできるように製作したもの。普段はその上に木製の椅子をかぶせておくことで、ベンチとしての使用もできるようにした。


2. 伊賀市音羽地区での取り組み

 音羽地区は、伊賀市の北西(旧阿山町)に位置し、2018年3月末現在、66世帯で人口193人、高齢化率が35.8%という、とても小さな山間の集落であり、滋賀県との県境近くに位置している。

(1) 交流のきっかけ
 「防災かまど」の製作を手伝ってくれたOさんから「毎年、鮎を串に刺して塩焼きしてるから、この『防災かまど』はちょうどええと思うで。実習してみたらどうや」と8月の納涼祭への参加を提案してくれたことがきっかけとなった。Oさんは地元の納涼祭の世話役の一人だったことや、現業評議会のメンバーの中にはこの地区の在住者もいることから、音羽地区の納涼祭へ参加させてもらうことにした。

(2) 交流会当日
 2015年8月22日。その日は、隣の名張市職労現業評議会との交流会と日程が重なってしまったため、2班に分かれて時間差で参加することとした。
 ところがその日、現地に着くと、どうも自分たちが歓迎されていない雰囲気を感じた。今回、Oさんが納涼祭(地蔵盆)の段取りもし、私たちに「防災かまど」を使った実習の機会も与えてくれたのだが、地域の他の人々には私たちが参加することが周知されていなかったからである。そのうちに、地域の一人の人が「俺ら、あんたらのことは何も聞いてない」と言われたのをきっかけに、これまでの経緯と、なぜここで実習をさせてもらうことになったかという話をすることができた。そこで初めて「ようわかったわ」という言葉ももらい、こちらもやっと安心することができた。


(3) 初・「防災かまど」の出番
 第1陣で参加したメンバーは、まずは地域の子どもたちがつかみ取りをしたイワナを、川で洗って内臓を抜くという、何とも昔なつかしい作業をし、焼くための準備を始めた。この地区で流れる川の水は非常にきれいで、「とても気持ち良かった」と、メンバーは喜んで作業を進めた。
 そうしている間にも、第2陣のメンバーが交流会を終えて合流した。

 

(4) 調理開始
 「防災かまど」に火を起こす作業から始めた。「防災かまど」の火の入り具合は完璧な状態で、「防災かまど」の仕上がりに満足しながら、早速、串に刺したイワナをのせていった。初めはどんな具合に焼きあがっていくのかわからなかったが、工夫をこらしながら焼いていくと、とても見た目にも美味しそうに焼けるようになった。

 

 魚を焼いている間にも、地域の方から「上手に焼いたってな」と声をかけられたり、「暑いやろ、このジュース飲んで」とたくさんの差し入れもいただくなど、自然と地域のみなさんと打ち解けていくことができた。

(5) 交流を終えて
 気がつくと、景色は陽も沈んで暗くなっていた。準備したイワナも全部売れてしまい、私たちの達成感や充実感は100%だったが、地域の中に入って実習することの難しさも改めて感じる結果となった。
 最後に全員で記念写真を撮り、「防災かまど」に『活躍してもらってありがとう』の思いを込めて一礼し、この日の実習を終えた。
 音羽区の区長さんから"来年もよかったらまた来て"と、私たちにとって何より有り難い言葉もいただいた。私たちが「防災かまど」を広く地域のみなさんにも知ってもらえる機会を得たこと、地域とのふれあいを通して得た温かさに感謝もしながら、今回の交流会を自治研活動の第一歩達成と捉えることとした。

 
 
 
 


広報「まるばしら」より

3. 伊賀市岡田地区での取り組み

 岡田地区は、伊賀市の南部(旧青山町)に位置しており、2018年3月末現在、32世帯で人口78人、高齢化率が51.3%という非常に高齢化の進んだ集落である。

(1) 交流のきっかけ
 2015年8月の音羽地区での「防災かまど」を使った交流の様子が、丸柱地域まちづくり協議会が発行する広報「まるばしら」で紹介されたもの(前ページ参照)を、組合書記局の入り口に貼りだした。それを見た庁舎管理として勤務していた非常勤職員のTさんが、「うちの地区(岡田地区)でも防災の実習をするので、一緒にしてくれへんか」と組合書記局を通じて話をもってきてくれた。音羽地区の地域住民の方々との交流を通じていろいろなことを感じた私たちには、胸にしみる嬉しい言葉だった。

(2) 災害時を想定する
 早速、私たちは2016年2月20日に開催される岡田地区の防災のイベントで、「防災かまど」を使って何をするのが一番良いのかをみんなで考えた。さまざまな意見を出し合って検討した結果、いつ、どこで起こるかわからない災害時を想定し、非常食の試食をしてみようということになり、先ず「非常食」について調べてみた。
 「非常食」と一言で言っても、私たちはどんな種類のものがあるのか、どんな風に食べるのかなど、ほとんど知らないということに先ず驚いた。

(3) 美味しい「非常食」
 市内のホームセンターなどで調べた結果、ごはん1つをとっても、白ごはん・ピラフ・おかゆ等々、バラエティに富んだ種類の多さにビックリし、改めて感動もした。
 そこで私たちは、賞味期限間近の数種類の災害食(アルファ米)を値引きしてもらって購入し、わかめごはんやカレーピラフなどいろいろな種類のたくさんのおにぎりを作り、あわせて豚汁も作って地域のみなさんと一緒に試食した。初めて食べる「非常食」は、「とても美味しい」と好評であり、取り組んだメンバーもとても良かったと喜んだ。

(4) 実習を終えて
 岡田地区の防災イベントは、高齢者と子どもとの世代間交流も兼ねて行われた。実際に、非常時を想定しての「防災かまど」を使った実演となり、集まった地域のみなさんが「防災かまど」の使い方にとても興味を示してくれたのが、私たちにとってもとても有り難かった。なかには、「椅子の下にチャッカマンやマッチ、新聞紙などを備え付けておけば、すぐ『かまど』が使用できるよ」と意見も出してくれるなど、当日の雨降りの寒さを吹き飛ばすくらい、とても温かな雰囲気の中での実習となった。

 
 
  

4. まとめ

 この2つの地域での実習を終えて改めて見えたことは、自分たちの周りで本当に地震など災害が起こったとき、この「防災かまど」はどのような役に立つのだろうかということである。実際に災害が起こったとき、「ほんの少しのお湯があれば助かるのに」とか、「少し火があれば暖がとれるのに」など、その場その場でどのようなことが必要になるかはわからない。私たちが作った「防災かまど」は大きなことではなく、「ちょっと……何々だったらいいのに」などの身近な部分で役立てば良いのではないだろうかと、実習を通して実感した。
 当初、各学校に一個ずつ設置しようと考えていたが、なかなか実際には数量を作ることができていない。でも、「防災かまど」を既に設置した4校では、普段から児童・生徒や先生が座り、憩いの場としても活用されている。
 今後も、生活のなかの交流の場として、この「防災かまど」を使ってもらっても良いし、災害時を想定した訓練などに活用してもらうこともどんどん提案していきたい。「防災かまど」があることで何かができるのではなく、この「防災かまど」を中心に、組合員が、または地域住民がコミュニケーションをはかる場となるよう、そしてあってはならないが、災害が起こったときこそ「防災かまど」の周りから小さな安らぎが生まれる、そんな「防災かまど」になればと期待する。
 私たち現業評議会のメンバーだけでは完成できなかった「防災かまど」づくりだが、たくさんの周りの人に助けられ、地域の方々に知恵をいただきながら進めてくることができた。学校用務員や給食調理員として働くメンバーが多く、避難場所になることも想定できる学校現場だからこそ、「防災かまど」の果たす役割が大きくなるのだと思う。なるべく多くの「防災かまど」を学校現場に設置することで、多くの地域住民の方にこの「防災かまど」を知っていただくこともできる。
 私たち現業評議会と地域の人々が協力しあいながら、今後もこの活動を続けていきたい。