【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第12分科会 新しい公共のあり方「住民協働」理想と現実

 日々の業務に追われ、組合員一人ひとりに余裕がなく、家庭や仕事以外に費やす時間も少なくなり、地域住民とのつながりが薄れているように感じます。このような中、ボランティア活動を通じて私たちの町で生活する幅広い世代の住民のみなさんとふれあいながら、私たち自身がやりがいと自信をもって仕事ができることをめざし、仲間とともに地域活動に取り組んでいます。



幅広い世代の住民のみなさんとのふれあいを大切に
―― 仲間とともに取り組む地域活動 ――

島根県本部/津和野町職員組合 長野 純子

1. はじめに

(1) 津和野町の現状
 現在の津和野町はかつて、津和野町・日原町の2町で構成されていましたが、2005年9月に合併しました。
 「山陰の小京都」とも言われる津和野町は、城下町の町並みとともに、祭りや伝統文化が、今も大切に受け継がれています。2015年4月には「津和野今昔~百景図を歩く」というストーリーで日本遺産に認定されました。栗本格齋の描いた「津和野百景図」を手本として、町並みや伝統行事、自然景観を守り伝えてきた津和野町民の暮らしそのものが「遺産」として認められたものです。また、青野山や安蔵寺山などの山々に囲まれ、ブナの森から湧き出て日本海へ注ぐ清流「高津川」は、全国トップレベルの水質を誇ります。星のふる里でも知られ、星や惑星を観測できる天文台があります。豊かな自然と独特の気候、そして今も息づく伝統が、町の産品を産んでいます。
 人口は、1985年には13,001人でしたが、合併時の2005年には9,515人、2015年には7,638人、高齢化率が45.3%で、少子高齢化と人口減少が進んでいます。特に、何らかの介護が必要となる75歳以上の老年人口が占める割合が、1985年には6.1%でしたが、2015年には21.3%と激増しており、その年代を支える15歳~64歳までの生産年齢人口は1985年には64.1%で過半数を占めていましたが、2015年には46.1%になっています。

 1985年1990年1995年2000年2005年2010年2015年
総人口
(単位:人)
13,00112,12810,78910,6259,5158,3877,638
内訳年少人口
(0~14歳)
2,3202,0011,6651,309967766661
生産年齢人口
(15~64歳)
8,0357,2435,8055,7014,8754,1343,515
老年人口
(65~74歳)
1,5201,5871,8761,9231,6911,3731,369
老年人口
(75歳以上)
1,1261,2971,4431,6921,9822,1142,093
高齢化率
(単位:%)
20.423.830.834.038.641.645.3
[資料:国勢調査]

(2) 自治研活動の必要性
 少子高齢化と生産年齢人口の減少により過疎化が進む津和野町は、地域の担い手が不足することで自治会活動をはじめ、まちの伝統文化や伝統芸能の継承など様々な地域活動を維持することが容易ではありません。都市部よりは地縁的な繋がりは強いものの、価値観の多様化、プライバシー意識の高まり、地域への愛着や帰属意識の低下などにより、周囲のちょっとした手助けや見守りがあたり前のことではなくなったように感じます。
 また、近年、職員に町外出身者や町外居住者が増え、業務外で地域住民と触れ合う機会が少ないことが珍しくありません。車で地域住民の脇をスーッと通り過ぎて行き、声をかけあう習慣も薄れてしまいました。「役場に行っても知らない職員ばかりで行きにくい」という声も聴かれます。
 顔の見える地域住民にではなく、抽象的なサービス利用者としての地域住民に、決められたサービスを提供する日々では、今行っている仕事が満足を与えているのか、ニーズとリンクしているのか、"まちの声"が日常的に職場に届くことはありません。
 今回、津和野町のより良いまちづくりに向けて、組合員として地域住民とのふれあいを大切にしている活動について報告します。

2. 活動の内容

(1) 観光客とふれあう~つわのSL健康マラソンエイドボランティア~


 昭和40年代、国鉄の近代化・合理化により、全国の蒸気機関車が廃止される中、昭和48年10月には、山口線からもSLが姿を消すことになりました。その後、多くのSLファンや地元市町村を中心にSL復活への気運が高まり、昭和54年8月1日、山口線にSLが復活しました。現在、「貴婦人」の愛称で親しまれる「C571」は、毎年3月下旬から11月下旬までの土日および祝日に、新山口駅を出発し、湯田温泉駅、山口駅、長門峡駅を経由し、津和野駅までの62.9kmを約2時間かけて運行しています。
 津和野町では毎年、運行開始時期である3月中旬頃につわのSL健康マラソンが開催されます。つわのSL健康マラソンは、津和野藩御殿跡として県の史跡に指定されている嘉楽園を出発し、津和野駅、白壁と堀割の殿町通りの町内を巡る1.8kmコース、3.2kmコース、10kmコースの他、国名勝地の旧堀氏庭園までのハーフマラソンコースがあり、歴史を感じながら楽しく走り、津和野町の良さを知ってもらいつつ、健康と体力づくりへの関心を高めることをねらいとして、27年前から開催されています。
 観光地として全国的に有名になった津和野町ですが、全国的に展開された大型の娯楽施設や商業施設の整備、海外旅行者の増大などにより、次第に観光客が減り、飲食店や土産店などの商店数も次第に減ってきました。しかし、近年、史跡津和野城や名勝旧堀氏庭園、伝統的な建造物など手がつけられなかった文化財の修理がようやく始まり、"もう一度、津和野に賑わいを"と住民の意識が少しずつ変わり始めました。
 津和野町職員組合としても、津和野町の良さを多くの方に知ってもらい、『津和野町にまた来たい』『津和野町に住みたい』という方が少しでも増えるよう協力したいということから、2015年3月開催のつわのSL健康マラソンからエイドステーションを始めました。
 津和野町教育委員会と検討を重ね、エイドしました。
 ハーフマラソンコースの13km地点にエイドステーションでランナーに提供する品物は町内の店舗から購入し、地域経済に少しでも貢献できるようにステーションを設置し、ランナーの応援をしながら、「スポーツドリンク」などを提供しました。
 エイドを受け取ったランナーから「ありがとうございます」と喜んでいただき、全国各地から参加されたランナーや地域住民の方々ともエイドを通してふれあうことができました。2016年は過去最高の参加者数ということもあり、大忙しのエイドとなりました。今後も参加者数に応じてエイドの種類やスタッフの人数を検討し、継続して取り組みたいと思います。


実施年月日エイド内容ハーフ申込者ハーフ完走者
2015年3月22日(日)スポーツドリンク、バナナ357人301人
2016年3月20日(日)スポーツドリンク438人341人
2017年3月12日(日)スポーツドリンク331人283人

(2) 子育て応援~子育て講演会ボランティア~


 津和野町の子育て支援センターは合併後、旧津和野町にある直地保育園と旧日原町にある日原保育園内に設置されていました。2016年4月には、社会福祉法人の設立に伴い、直地保育園内にあった子育て支援センターは畑迫保育園に移転しました。
 子育て支援センターでは、育児不安等についての相談支援や子育てサークル等の育成支援、保育事業の実施、地域保育資源の情報提供、地域の世代間交流の促進、ファミリーサポート事業を実施しています。
 その他、子育て支援に関する活動として、毎年様々な講師を招いて子育て講演会を開催しています。しかし、必ず問題になるのが参加者の少なさです。人口の著しい減少が進む私たちの町にとって、子どもを産み育てやすくすることが課題でありながら、例年、約30人程度しか集まらないため、2016年の講演会は『若い世代同士、みんなで一緒に楽しみたい』『もっと子育てを楽しんで欲しい』という思いから、津和野町職青年女性部を中心に子育て講演会にスタッフとして参加しました。さらに、津和野町公企現業労働組合の調理師にも協力してもらい、参加者の昼食として、保育園の給食などを提供しました。
 講演会当日、朝早く集合し、調理師が「うどん」と「ゼリー」の準備を、私たちは「おにぎり」を作りました。200個のおにぎりを作ることは大変でしたが、和気藹々とした中、楽しく準備をすることができました。おにぎり作りに参加した若い男性組合員の中に、おにぎりを握ったことがない組合員もいましたが、今回参加したことにより、おにぎりが握れるようになり、よい経験ができました。
 講演会の講師はとてもパワフルな二本松はじめ先生で、親子のつながりの大切さを楽しく伝えていただきました。子ども達がお父さんやお母さんと見つめ合いながら『ギュッ』と抱き合う姿を見ると普段から何気なくしている仕草も特別なものに思えました。初めは後ろで観ていた組合員ですが、盛り上がり、自然と輪の中に入って普段なかなか接点のない親子や地域住民の方とふれあうことができました。現在、子育て真最中の組合員も、子育て卒業の組合員も、これから親になる組合員もみんな一緒に楽しみました。
 講演会終了後、「うどん」「おにぎり」「ゼリー」など普段味わうことが少ない保育園の給食を食べていただき、"給食の大切さ"や"直営方式の必要性"、"手作りの大事さ"などをアピールできたと思います。私たちが作った昼食をたくさん食べていただき、みなさん大満足で帰路につかれました。100人を超す参加者のために、皆で一つのことを作り上げる喜びを感じました。
 また、普段はあまり会わない保育士さんと関われて、親睦を深められたのはうれしい限りです。組合員同士の絆も深めるいい機会になりました。講師の二本松はじめ先生は市職出身で、組合活動もしておられたようで、今回の私達の取り組みも喜んでおられました。講演会を1回開催したところで何かが変わるとは思いませんが、子どもにとっても親にとっても楽しい時間を増やし、継続していくことが重要だと思います。


(3) 高齢者との繋がり~はがきボランティア~




 2001年に旧日原町の社会福祉協議会が始めた"はがき作成ボランティア"活動に、旧日原町職員組合女性部は、開始時より協力してきました。合併後は、津和野町職員組合青年女性部の活動として継続し、今年で16年が経ちます。
 この活動は、町内の75歳以上の独居高齢者に対して、年4回季節に応じたはがきや年賀状をお送りする活動です。書き損じはがきの回収や新しいはがきの準備、対象者の名簿作成は、社会福祉協議会が実施しており、組合としてははがきと名簿を受け取り、個々の組合員の特技を生かしつつ、高齢者の方へ敬う気持ちを持って時季のイラストや文章を書いてポストに投函しています。
 核家族化が進み、幼い頃から祖父母とふれあうことが少なかった組合員や、就職により地元を離れて生活をする組合員、日頃なかなか手紙を書く機会のない組合員など、新入組合員をはじめ青年女性部で手分けをして、約25人の方へのはがきを作成しています。絵はがきにしたり、自分の趣味や私生活の話題を盛り込んだり、「役場に勤めています」と自己紹介をしたり、高齢者の健康や体調を気遣う言葉をかけたりと、個性あふれる内容となっています。
 これまでに何度か高齢者の方からお返事をいただいたこともあります。自分の祖母宛てにはがきが届き、それを嬉しそうに眺めている祖母の姿を覚えている組合員もいます。基本的には一方通行のはがきではありますが、私たち組合員が書いたはがきに対し、感謝の言葉や近況を伝えてくださると、とても心が温まります。子どもや孫たちと離れて暮らす高齢者にとって、自治体職員は身近な存在でなければなりません。困って立ち止まりそうなとき、『そうだ 役場に行ってみよう』『あの人に相談してみよう』と言われるように、安心感を与えるような仕事を心がけることが大切です。この活動を通して、小さな町だからこそできる"人と人との繋がり"を、組合員として強く結びつける活動だと感じています。
 十年以上も続く活動を今後も継続していくために、私たち組合員にできることははがきを作成することだけではありません。年々、書き損じはがきの回収数が減少し、はがき作成ボランティアの人数も減ってきています。現在は全体の約2割の高齢者に対してはがきの作成をしていますが、支え合いや助け合いが住民の安心や自治体への信頼に繋がるため、この取り組みを広げていきたいと思います。


(4) 住民とともに住みよい環境づくり~清掃ボランティア~
 2017年、青年女性部の役員会で1年間の活動方針を話し合う中で、『自分たち独自の取り組みをしたい』『地域のための活動をしていきたい』という意見が多くありました。活動としては、地域住民とのふれあいができ、青年女性部らしく爽やかさと親しみやすさで顔や名前を覚えてもらったり、組合員同士の仲間づくりとなる取り組みで、より多くの組合員が積極的に参加できる形にすることを重視しました。
 何度も話し合いを重ね、観光地でもある津和野町をより綺麗にするために"清掃活動"に取り組むことに決めました。しかし、これまでも個々の組合員が職場や地域での清掃作業に参加しているため、組合員として新たに活動するためにはどのような形にしたらよいのか、あと一歩のところの仕組みづくりに苦慮しました。そんな中、津和野町社会福祉協議会が実施している"月いちボランティア"に一緒に参加してみてはどうかという意見が出ました。
 津和野町社会福祉協議会では、月に一度、朝の1時間程度、指定区域のごみ拾いや草むしりをする活動を長年行っていて、すでに仕組みができあがっています。そのため、すぐにでも一緒に活動することができ、さらに継続的な活動になり、地域住民とも一緒に活動することができます。そこで、青年女性部として一緒に取り組みたい旨を伝え、活動を始めることになりました。


清掃活動日時清掃場所参加組合員数
(家族含む)
4月8日(土)8:00~9:00津和野温泉「なごみの里」周辺9人
5月13日(土)8:00~9:00社会福祉協議会 津和野支所周辺12人
6月3日(土)8:00~9:00嘉楽園(津和野藩御殿跡)周辺3人

 実際に参加してみると、朝の清掃活動は想像以上に清々しい気持ちになりました。また、手持ちのポリ袋が次第に重くなっていく感覚は、だんだんと達成感に変わっていきます。そして、自分たちの街がきれいになり、組合員同士や地域住民との交流もできる機会として、この活動に手ごたえを感じています。
 この取り組みはまだ始まったばかりで、個々の組合員の自主性を重んじ、参加できる時に参加できる人が自主的・主体的に参加することにしているため、参加人数は少なく、中には面倒だと思う人も多いかと思いますが、この活動を通して得られたことを組合員で共有していくことで、新たに参加する組合員も次第に増えていくと期待しています。
 今回、地域のために組合活動として何ができるのかを話し合うことも、私たちにとって、とても貴重で有意義な時間となりました。何かをしたいという気持ちが生まれ、その想いを仲間と話し合い、計画を立て、行動することができたという喜びがあります。このことを生かし、これからも仲間とともに考え、より良い活動に取り組んでいきたいと考えています。


3. おわりに

 これらは自治研部や一部の青年女性部の活動と言っても過言ではありません。津和野町職としての自治研活動を広げていくことが必要不可欠ではありますが、非常に難しい課題です。
 日々の業務に追われ、組合員一人ひとりに余裕がなかったり、家庭や仕事以外に費やす時間が少なかったりしますが、あらためて、自治研活動の意義を多くの組合員に理解してもらうことが最重要課題と考えています。
 今後も、地域住民とのふれあいを大切にしながら"まちの声"を聴きつつ、安心感を与えるような仕事や取り組みを心がけ、「住民のために」だけでなく、私たち自治体職員自身がやりがいと自信をもって仕事ができることをめざし、地域住民の最後のセーフティネットを提供する自治体の役割を、現場から強化していきたいと思います。