【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第12分科会 新しい公共のあり方「住民協働」理想と現実

 住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、地域住民が主体となって、行政と連携をしつつ、地域課題の発見と課題解決に向けた持続的な取り組みが重要である。大分県由布市においても、地域と行政が連携し、住民が主体となって地域課題に対応する協働のまちづくりをめざして小さな拠点「地域まちづくり協議会」の設置を推進している。
 あらたな地域コミュニティ形成の必要性とよりよいまちづくりのあり方を考える。



「連携」と「協働」 「創造」と「循環」
―― 地域自治を大切にした 住みよさ日本一のまち ――

大分県本部/由布市議会議員 佐藤 郁夫

1. 経 過

(1) 既存自治区の現状
 由布市は古くから近隣の結びつきが強い土地柄であったことから、自治区を中心として、地域のまちづくりをリードする活発な活動が行われてきた。
 しかし、人口減少(少子高齢化)や「リーダー(担い手)不足」により、単独の自治区では、できなくなりつつある活動が増加している。さらに、人口規模(年齢構成)、社会資本、地理的条件に大きく影響され、各自治区の特性や抱える課題が多様化してきている状況である。小規模集落地域においては、自治区行事の廃止縮小に伴う交流機会の減少や、大規模集落地域においては、アパートの増加などにより人間関係が希薄化していることが見受けられる。
 そして、2014年度に自治委員を対象とした『由布市自治区実態調査』では、「五年後、十年後の自治区の将来に不安はありますか?」の質問に対し、148自治区のうち76自治区が「とても不安に思う」(51.4%)、52自治区が「少し不安に思う」(35.1%)という結果となっており、既存の自治区をいかに維持・継続していくかが喫緊の課題となっている。

(2) あらたな地域コミュニティの必要性
 国からの交付税額の段階的縮減や人口減少による税収の減など、自治体の財政状況も厳しくなることが確実である状況も踏まえると、各自治区単独では「地域力の維持・再生」が困難な場合もある。
 地域には様々な課題が存在するが、それはその地域の住民が一番よく知り、感じているはずである。多様化、複雑化し、変化し続ける住民ニーズに的確に、また迅速に対応していくためには、地域を一番理解している住民自らがまちづくりに直接関わり、「地域の課題は地域で解決する」ことができる仕組みが必要である。また、これまで公共にかかる課題解決などは、自治体が中心になって行うことが一般的であったが、今後、自治体だけで対応していては、適切かつ臨機応変に応えることが困難になってくると言わざるを得ない。自治体もできることには限りがある。それは、一つの施策を実施しても、すべての地域が潤う施策となりえない。「人口規模や年齢構成」、「社会資本」、「地理的条件」に大きく影響され、各自治区の特性や抱える課題が多様化してきている状況であるからである。
 そのため、行政が行う画一的な手法の問題解決ではなく、それぞれの地域特性に合った問題解決方法で、その課題を地域住民と自治体が一体となって解決する方法として、国が進める小さな拠点、自治会の枠を超えて各種組織・団体の連携、ネットワーク化を図り、地域で暮らす人々が主体となって地域の課題を解決することができる『地域間連携』の仕組みが、少子高齢化が進む由布市においても必要であると考える。
※協議会のイメージ図 別紙参照

(3) 由布市のモデル地域として
 由布市庄内町の旧大津留小学校区の地域(2016.7.31現在 住民基本台帳人口479人、世帯数202世帯)は、地域内の過疎化・少子高齢化が深刻化しており、2016年3月の閉校時には、全校児童が6人であり、市内では少子化の傾向が最も顕著な地域の1つであると同時に、高齢化傾向も顕著である。かつては農業・竹細工工芸などが活発な地域であったが、現在は後継者不足により多くの農家が農業から離れてしまい、荒廃農地も多く見られる地域である。
 由布市には、国が推進しているような小さな拠点「地域まちづくり協議会」は設立されていなかった。そうした中、大津留地域にある7つの自治区が連携して組織する地域まちづくり協議会の設立について協議を行った。あくまで、地域の意見を尊重し、行政からの押し付けではなく、協議会が必要かどうかを、地域の役員を中心に話し合いを重ねた結果、2017年3月に由布市における初の「地域まちづくり協議会」が設立された。
 設立から3ヶ月あまりが経過したが、「大津留マルシェ」(写真1)や「大津留ガーデン」(写真2)といった取り組みを企画し開催している。役員の方々を中心に準備等が行われ、口々に「大変」「しんどい」といったことを言われているが、その表情は非常に明るい。
 この大津留地域は、協議会の前身として「大津留振興会」というスポーツに特化した会が存在していた。その組織を母体として、協議会へと発展した組織とさせたことで、今後もスポーツという枠を超えて、さまざまな企画を行う予定としている。
 大津留まちづくり協議会は、ようやく動き始めたところであるが、活動の幅が広がった点や、地域の方々の反応からすれば、住民自らがまちづくりに直接関わり、「地域の課題は地域で解決する」ことができる仕組みとして機能していくことが期待される。今後は、由布市のモデル地域として、地域力の再生に向け、気づきと振り返りを繰り返しながら、市民にできること、行政にできることの役割分担を見直していかなければならない。

  
≪大津留マルシェ≫を開催 *写真1*

  
≪大津留ガーデン≫(耕作放棄地においてさつまいもの苗植え) *写真2*

2. まちづくりの在り方

(1) 人づくり
 協議会の設立について話し合いを重ねる際に、意外にも近隣自治区の状況などを、把握しているようで正確には把握できていない状況があり、コミュニケーションの希薄化は、都会だけではなく、農山村地域にも及んでいることに気付かされた。
 やはり、地域力の再生のためには、組織を設立するだけではなく、住民の方々の「連携」が不可欠である。地域を活性化するために、催しを開催するのではなく、催しを開催するために準備をし、地域の方が集まり何気ない会話の中で得られる情報であったり、人を知ることに本当の意味があると感じる。
 そして、リーダーとは、作ろうと思って作れるものではない。催しなどや行事を行うことの中で育成されていく。社会教育法2条に社会教育とは「学校教育課程として行われる教育活動を除き、主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動」と定義されており、めざすものは「自治能力のある住民の育成」であるということを考えれば、まちづくり、地域活性化は、「人づくり」の延長線上になりたっていると思う。

(2) 行政の支援と自立
 地域まちづくり協議会を機能させ、持続させていくためには、行政の支援も欠かせない。
 地域まちづくり協議会という「エンジン」を動かすための「ガソリン」(=財政的支援)が必要であり、初めから「地域でがんばってください」というわけにはいかないだろう。やはり、行政がしっかりと支援を行い安定的な運営が行えるまで、資金面の支援が必要である。
 しかしながら、市からの支援に頼りすぎるのもよくない。市からの交付金や補助金は、いつまで続くかわからない。また仮に、問題点の解決方法として市が補助金を助成する補助金制度を設けたとしても補助金制度がなくなれば、また同じ問題が生じるだろう。
 何をするか、また手法などは、地域によってさまざまであろうが、コミュニティビジネスを展開する必要がある。いつまでも行政に頼っていては、自治とは言えない。自分たちで考え(創造)、いかに地域を運営していくか(循環)が、地域を自ら治めるということになろう。
 また、行政の支援として人的な支援も必要である。今後の財政状況を踏まえると、市が行っている地域公共交通(コミュニティバス)についても、いつかは方法を検討しなければならない時期がくる。現在、大津留まちづくり協議会の地域では、毎週火曜日と金曜日の午前中に中心部に向かって行く便が1便、中心部から大津留地域に戻る便が1便運航されている。地域内の隅々までを回る路線となっているが、乗車率は非常に低いものとなっている。地域内に病院や生活用品販売店などがない大津留地域で暮らし続けるためには、移動手段を確保するということは必要不可欠と言わざるを得ないが、デマンドバスの導入や住民主体の有償運送、また、隅々まで回らずに、地域の核施設の旧大津留小学校と最寄駅などを往復する路線として、便数を増便するなどの方策も検討していく必要がある。
 上記のような地域公共交通についての事例はほんの一例であるが、まちづくりについてのアイデアや先進地の事例について、議員や行政職員はアンテナを高くして、学んでいくこと。そして、地域のコーディネーター役として、それをいかに地域に伝えていけるかということを真剣に考える。その意識改革こそが由布市の掲げる「地域自治を大切にした 住みよさ日本一のまち」につながると信じている。

3. おわりに

 小さな拠点として「地域まちづくり協議会」を設立したからといって、地域の活性化や地域の課題が解決されるわけではない。地域自治についての書物を読む中で、地域の活性化に「特効薬」はないというのが多数意見ではないだろうか。
 今、東日本大震災や熊本大分地震などの大規模な自然災害により、多くの人たちが、少しずつではあるが地域コミュニティがしっかりしていることが安心安全の基盤であることに気付き始めているように感じる。その気づきを地道に、当たり前のようにしていくことが、まちづくりの始まりである気がする。
 そして、これから先あらたな地域自治を考えるには、抱えている問題の根本が異なるため、若い世代がまだいる地域、そして、若者がいない地域と分けて考えなければいけないような気がしている。
 まず、若い世代がいる地域は、その地域に住む若い世代のなかでどれだけ「自治会が必要か?」という問いを肯定的に答える人がどのくらいいるか。町内会や自治会は個人の生活に介入する「自由の敵」のように見る人もいるのではないだろうか。それが、今の地域を弱体化させている大きな要因ではないかと思われる。
 地域とつながりたがらない若者を減らしていくこと。もっと若い世代に地域とのつながりの大切さを伝え、親から子へ、子から孫へと当たり前に伝えられるような仕組み(仕掛け)づくりを考えていくことが地道ではあるが、地域を活性化させる一番の方策ではないかと思っている。
 そして、若い世代がいない地域については、自治区再編ではなく現自治区は残し、また別のあらたな地域形成を模索していかなければならないと思う。すべての活動を連携して行うのは困難であると思われるが、草刈りや防災時の対応等、これからは地域住民の高齢化等から地域福祉の充実が求められる。地域福祉を総合的に取り組む地域包括ケアシステムを中心に据えて、それぞれの小さな拠点を結ぶネットワーク化を行い、地域の実情に合った総合的な地域の構築をめざして地域再生を進め、福祉活動を中心に複数の自治区が連携して活動することを始めていかなければ、小規模な自治区については、自治区住民がいなくなる前に役員の受け手がないため、自治区運営が先に消滅してしまいかねないと感じる。
 そうさせないためにも、受け皿となりえる「小さな拠点」地域まちづくり協議会の設立の推進は、スケールメリットを最大限に生かしつつ、住み慣れた地域で住みつづけられるような仕組みとなりえると考える。そのために、まちづくりの在り方として、地域と行政職員がひざとひざを付合せて、話し合っていく、コミュニケーションを図っていく。地域も行政も変わらなければならない時代に差し掛かっていることを認識するという意識改革。それこそが、よりよいまちづくりに繋がっていくはずである。