1. はじめに
住民自治組織とは、地域のことを住民自らが決め、それを実行するためにつくられる組織である。その地域のことを一番理解し、考えている住民や団体が自らの地域を住みよいものとするために、自主的、主体的に取り組む組織であり、まさに地域住民が主役となった地域づくりの形である。全国各地で、地域自らで責任を持とうという考えが現れ始め、住民自治組織への関心が高まっている。日田市でも、住民自治組織の設立をめざしており、地域の方々と協議を行っているところである。
2. 日田市の現状
住民自治組織の必要性が問われる要因のひとつが、「少子高齢化」である。高齢化とは、その名のとおり、人口全体に占める高齢者の割合が高まることである。原因として出生率の低下による若年人口の減少や、医療の発達による寿命の延び等があげられる。この高齢化を数値的に見たものが高齢化率である。高齢化率とは、65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合のことである。
2015年の国勢調査集計によると、日田市の高齢化率は32.7%である。3、4人に1人が65歳以上ということになる。全国を見ると26.6%である。日田市は全国的に見て高齢化が進んでいることがわかる。
では、どのくらい進んでいるのか、5年ごとの高齢化率の推移を見てみる(グラフ1)。横軸が5年ごとの年、縦軸が高齢化率を表している。2015年の全国の高齢化率26.6%は、2005年の日田市の高齢化率と同じである。つまり、2005年時点で日田市は、既に全国の10年先をいっていたことになる。さらに2015年の日田市の高齢化率を見ると、2035年の全国の高齢化率に近いことがわかる。つまり、2015年で日田市は全国の20年先をいくことになる。
旧郡部(前津江・中津江・上津江・天瀬・大山)も含めた高齢化率の推移を見てみると、さらに高齢化が進んでいることがわかる。中でも、2015年の時点で高齢化率が高い上・中津江は50%近い状態であり、およそ2人に1人は65歳以上ということになる。
さて、ここで近所に住む65歳以上の方を思い出してほしい。まだまだお元気な方ばかりではないだろうか。高齢化率は65歳以上だが、「高齢化率が高い」=「町の元気がない」ということではない。なぜなら、65歳を過ぎてもまだまだ現役だからである。本当に人の手を必要としてくるのは、要介護度の区分でいうと、要介護3に該当する方である。要介護3は、身の回りのこと全てが自分ではできなくなる、中度の介護を要する状態である。全国で65歳から69歳のうち、要介護3以上の方は、わずか0.8%(図表1)。100人に1人にもみたない。一方で、85歳以上の23.6%、4人に1人が要介護者であり、要介護者の内、85歳以上の方が53.8%と過半数をしめている。
ならば、高齢化しても、65歳以上の人がいるから今までどおりやっていけるのかというと、実は、そうではない。
2000年から2040年までの日田市の人口の推移より(図表2)、65歳から74歳の欄を見ると、一時増加傾向にあった人口が、2025年から減少傾向にある。これは全国的に見ても同様の傾向である。つまり、今後、貴重な担い手である元気な高齢者が減り始め、今までできたことができなくなる可能性が高いということである。
3. 行政と活動団体
高齢化により、今後できなくなる可能性が高いものの具体例をあげると、身近な困りごとの問題や、楽しみやふれあいの場の減少等が考えられる。
身近な困りごとは、電球を変えること、粗大ごみを出すこと、窓を拭くこと、バス停に向かうこと等を指し、身体の衰えによって、以前のように自分で行うことが困難になる問題がある。
楽しみやふれあいの場は、人口減少により、参加者が減少し、これまで実施していた催しができなくなったり、通えるお店の減少等により、人と交流する機会が減り、地域が寂しくなる問題がある。
このような問題を放置するわけにはいかないが、行政として解決するには困難な部分も多い。
日田市の歳入と歳出の推移を見ると(グラフ2)、2018年で歳出が歳入を上回っているのがわかる。これは、市町村合併に伴う優遇措置の段階的削減により、地方交付税が減少すること等が影響するものである。差額分は財政調整基金等の取り崩しで対応していくが、今後、財源の厳しさが増していくことになる。
窓ふきの手伝い等、職員として手助けできない部分もあるが、市民ニーズの多様化、財政状況のひっ迫等により、把握できる地域の範囲が限られ、きめ細かなサービスを行政だけで提供することは、能力的にも財政的にも限界である。現在の体制のままでは、行政だけでは対応できない狭間の広がりが懸念されるため、より効率的でコンパクトな行政の確立が求められる。
地域によっては、既存の団体による活動も行われているが、高齢化による人材不足や、活動資金が不足していることにより、新たな活動を起こすことが難しくなっている。また、常駐職員がいないため、活動の事務処理にも時間を要している。他市他県どの団体も同様の悩みを抱えており、既存の団体だけでは将来の問題解決に限界があるため、市民の力を結集した特色ある地域づくりが求められる。
4. 住民自治組織
では、これらの問題を解決するためには何が必要なのか。それが住民自治組織である。再度になるが、住民自治組織とは、地域のことを住民自らが決め、それを実行するためにつくられる組織である。これまでの組織は、行事やイベントを主な活動としてきたが、住みよい地域づくりのために、事業、つまり生活に必須不可欠なサービスに主軸をおく必要がある。
では、高齢化の進む地域において、住民自治組織を運営することができるのか。みんなで協力する組織とはいえ、住民には個人の仕事があり、さらには、自治会、委員会等、複数ある団体役員の担い手不足から、掛け持ちで担当される方も多くいる。住民自らが決め、それを実行する仕組ができたとしても、とりまとめる人材や、運営する資金源がないのが現状である。
住民自治組織を設立している他市の事例を見ると、組織に対して交付金の支給を行っているところが多くある。交付金を組織職員の給料として活用することで、常駐職員を確保でき、活動窓口が維持されている。また、活動の事務処理を受け持つこともでき、実働部隊は、身近な困りごとの解決や、楽しみやふれあいの場づくり等の活動に専念することができている。
活動資金については、交付金に含めて支給する市町村もあるが、仮に日田市で実施する場合、将来の財政状況から永年的な支給が可能とはいいきれない。交付金で人員不足は解消されるが、活動資金としては不十分な面がある。
その他市町村の取り組みとして、市の事業を一部受託し、活動資金とする例がみられる。前項目にて、行政の課題として、より効率的でコンパクトな行政の確立が必要、とあげた。そのためには、事業効率化のため、事業の優先順位をつける必要がある。図表3は、官民公私で分け、現代における需要と担い手の状態を表している。「官」は行政が担っているもの、「民」は市民が担っているもの、「公」は市民皆が必要とするもの、「私」はプライベート、個々人が必要とするものを表している。「公」、すなわち「官」が担っている事業に優先順位をつける。図では色が濃いほど優先順位が高いことを表している。そうすると、「私」とほぼ同色の優先順位が低い部分が出てくる。ここに該当するのは、法律による規定のない事業、つまり、必ずしも行政職員がやらなくてもよい事業である。この部分の事業を受託し、その分の費用を資金として活用している。
日田市の場合、道路パトロール、テレビ等の障害確認、不法投棄現場確認等が該当する。行政がこれらを対応する場合、課ごとに事業を受けているため、違う職員が同じ場所にそれぞれ出向く非効率な面がある。住民自治組織で担う場合、道路パトロールを行うついでに、テレビの障害確認に出向く等、合わせ技で効率的に行うことができる。
また、道路パトロールを行いながら、各家を回る等、新たに見守りの実施も可能となる。見守りを行うと、住民の状況を認識することができ、さらに、行政にはいいづらいことも、同じ住民目線なら話ついでに相談できるという利点がある。集まった困りごとは、行政で新たな問題として把握することができ、行政としての対策を検討することもできる。
5. 課題解決のために
交付金や事業受託と、組織運営のための例をあげたが、組織の体制は地域により様々である。現存の組織を一つにまとめて住民自治組織とし、類似した活動を減らし役員の負担を減らした例や、新たに組織をつくり、各分野における部会を設けた例もある。どのやり方が地域に適しているのか、地域にあった体制で、地域に根差した活動をするため、地域の方々で考えていただく必要がある。行政としては住民自治組織の案は提示せず、交付金や他市の事例等の情報提供を行っていく。住民自治組織でどのような取り組みを行えるか、組織のあり方はどうするのか等、地域の方々との丁寧な対話と協議を繰り返し、日田市においても、できるだけ早い段階で住民自治組織を設立できるよう、努めていきたい。
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