【自主レポート】 |
第37回土佐自治研集会
地元企画分科会 「ふるさと」を次の世代へ~「犠牲者ゼロ」の防災まちづくり~ |
2017年5月1日~10月31日までの半年間、名古屋市の丸ごと行政支援の一環として陸前高田市立図書館に司書として派遣されましたので、その報告をするとともに新図書館の紹介をします。 |
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1. 派遣までのながれ 名古屋市は、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた陸前高田市を、震災直後から行政丸ごと支援という形で職員の派遣を行っています。これまで様々な業種の職員が、2016年まででのべ200人派遣され復興支援に当たってきました。陸前高田市立図書館は、震災で建物、資料、職員とも甚大な被害を受け、長く仮設図書館で運営をしてきました。新図書館は6年を経てようやく再建されることになり、開館前後の半年間、1日でも早い開館と、円滑な運営をサポートするために名古屋市から司書が派遣されました。 (1) 名古屋市が陸前高田市を応援することになった経緯(注1) (2) 職員派遣内訳 2017年 11人 防災関係業務 防災課・主事1人 |
2. 陸前高田市立図書館の歴史
震災前の図書館には、岩手県指定文化財の吉田家文書ほか貴重な郷土資料も保管されていましたが、東日本大震災により建物、職員、資料ともに甚大な被害を受けました。貴重な資料4,000点は岩手県立博物館レスキューにより救出され、都立図書館によっても修復作業が行われました。 3. 新図書館のあらまし 10mかさ上げした市の中心部に建てられた商業施設「アバッセたかた」(「アバッセ」は地元の言葉で一緒に行きましょうの意味)に隣接して新図書館は建設されました。この商業施設には陸前高田市唯一の書店、地元スーパー、100円ショップ、手芸店、衣料品店、介護施設等が併設されています。図書館は木造平屋建てで、災害査定を受けるため、敷地面積は震災前とほぼ同じスペースである894.73m2です。限られたスペースをできるだけ有効に使うため、大人用のトイレや、多くの図書館にある集会室も商業施設のものを利用しています。建築費は、5億6,800万円、加えて外構工事は約3,400万円です。開館当初の蔵書数は、本が約65,000冊、視聴覚資料約4,000点、雑誌のタイトル数は約100点でした。 4. 支援の内容 (1) 最初に求められていた仕事 (2) 実際に行った仕事 その時々で必要に応じ、また名古屋市図書館での事例も参考にしてもらいながら、陸前高田市の職員とともに新しい図書館づくりに日々奔走しました。なんとか夏休み前の開館にこぎつけることができ、市民に愛される図書館になったと思います。 5. 利用状況 まだ復興も十分とは言えず、市民の方々が楽しめる施設が少ない中、待ちに待った図書館の開館ということで、オープンから大変多くの方が来館されています。開館半年で、震災前の図書館を大きく上回る利用がありました。入館者数も仮設図書館時代は6年間で約3万人強だったのが、新図書館開館後は、1か月で2万人を突破、2か月で3万人に達しました。 6. 今後の課題 震災後、全国から多くの寄贈本が寄せられましたが、保管場所が足りず、市内数カ所に分けて保管している状況です。現在は郷土資料以外の寄贈は受け付けておらず、その代わりにバリューブックスゆめプロジェクトにて支援をしていただいています。これは、不用本を現金に換算して図書館に寄付する制度で、図書館側に選書の余地があるため、非常に使い勝手の良い寄付のあり方です。一方、これまでいただいたたくさんの資料をどのように活用していくのか結論は見えません。 7. 震災から図書館員が学ぶべきこと 陸前高田市立図書館では地震直後、図書館員たちは床に散乱した本を拾ったり片付けをしたりしている中で津波の被害にあったと聞いています。津波に限らず、余震で棚や本の下敷きになることもあるでしょう。まずは高台など安全な場所に避難することが重要です。貴重な資料も大切ですが、人命に勝るものはありません。利用者と自らの安全を確保すべきです。貴重な資料はデジタル化を推進するなど違った形で後世にその価値を伝える工夫が必要です。 8. 最後に 日本に住んでいる以上、どの自治体の図書館でも震災にあう可能性はあり、また地震以外の災害を被ることがあります。図書館を新築・改築する際には建物を耐震・免震構造にすることも大切ですし、より安全性の高い書架を採用するなど、ハード面の減災の工夫はもちろん必要です。ですが、人的支援として、被災地に他の自治体の職員が支援に行く制度の充実は、被災地の復興には大変有効な手段です。こうした取り組みは、被災地だけではなく、派遣を行った自治体側も学ぶことが多く、双方にとってメリットがあります。今後も様々な自治体で支援の輪が広がることを期待します。 |
(注1) パンフレット「応援します!! 東北! 陸前高田市! ~行政丸ごと支援~~市民交流~」(名古屋市被災地域支援本部事務局)より |