行政区域図と市町村別人口

 

山形県における総合出先機関設置と総合行政の展開

 

山形県職員労働組合
自治研推進委員会

はじめに

 山形県では、1942(昭和17)年に設置された地方事務所(戦時体制に対応する行政機関として内務次官通知により設置されたもの)が姿を消し、来年2001年4月より「総合出先機関」として、かつ、従来の7ブロックを4ブロックに統合した「広域的な」総合出先機関として「総合支庁」がスタートする。
 地方分権一括法が今年4月より施行されたが、機関委任事務の廃止という画期的な内容をもつものであり、旧社会党時代からの運動の積み重ねと村山政権誕生による成果でもある。しかし、橋本政権以降の猛烈な巻き返しの中で財源問題など最も重要な部分が骨抜きになったことも事実である。
 21世紀初頭は、「地方分権」が住民自治を基本とした真の地方自治(地方主権)確立に向かうのか、財界と自治省主導による市町村合併と道州制など新たな中央集権体制の確立に向かうのか、その分岐点となることがはっきりしてきた。ある首長は「今回の地方分権はたたかい取ったものではない。お上(国家権力)から与えられたものである。」という。地方分権を国家権力からたたかい取る決意とそのための職場・地域闘争と政治闘争の展開が求められている。
 山形県における総合支庁制度も、県民や市町村と一緒に地域のことを考え、地域のことは地域で決定する「地域振興の拠点」という総合出先機関の理念が実現できるのか、「事業執行機関」から「地域における政策立案機関」に脱皮できるかどうか、この総合支庁制度によって地方主権の確立を図ることができるかどうかが問われることになる。
 私たちは、自治省の新・新行革指針が出されて以降の3年間、縮小・削減ありきの行革の流れに抗し、地方分権時代にふさわしい出先機関の改革に向けて、かつて経験したことのない討論や運動を試行錯誤の中ではあったが組織の総力を挙げて行ってきた。9月に人員配置闘争について一定の収束をはかったばかりである。
 本稿はこの間の取り組みを踏まえたものであるが、改めて、総合行政の展開に向けた総合出先機関設置の意義と課題を整理したものである。

 

 

1. 山形県における出先機関の現状

 

(1) 県の特徴と広域ブロックの概要
  山形県における出先機関のあり方を考えるうえで、歴史文化面・経済面に規定された広域ブロックの形成状況が大きな要因となるので、最初に県内の広域ブロック等の特徴を述べておきたい。
  山形県は、面積は9,323km2(全国9位)、人口1,252,303人(全国33位)、市町村の数は44と全国では最も少ない県の1つである(昭和25年時点で5市30町188村であったが、昭和の大合併により合併が進み、現在は13市27町4村となっている。なお、広域連合、中核市はない。)。
  また、広域ブロックは、大きくは4ブロック(村山、最上、置賜、庄内)、郡単位のブロックでは8ブロック(東南村山、西村山、北村山、最上、東南置賜、西置賜、田川、飽海)となっている。

《広域ブロックの概要》

 

中心都市

市町村数

人 口

明治4年

明治10年

村山地区

山 形 市

7市7町

582,815

山 形 県

村 山 郡

 

 

 

東南村山

山 形 市

3市2町

383,446

西 村 山

寒河江市

1市4町

93,145

北 村 山

村 山 市

3市1町

106,224

最上地区

新 庄 市

1市7町村

97,695

最 上 郡

置賜地区

米 沢 市

3市5町

248,726

置 賜 県

置 賜 郡

 

 

東南置賜

米 沢 市

2市2町

178,917

西 置 賜

長 井 市

1市3町

69,809

庄内地区

 

2市12町村

323,067

酒 田 県

鶴 岡 県

 

田 川 郡

 

 

田  川

鶴 岡 市

1市8町村

182,326

飽  海

酒 田 市

1市4町

140,741

飽 海 郡

合  計

 

13市31町村

1,252,303

 

(98年10月1日現在)

広域ブロックの図

 

(2) 出先機関の概要
 ① 出先機関の種類
   従来、庄内地区以外の7ブロックには地方事務所、福祉事務所、建設事務所、保健所、農業改良普及センターなどが配置されている。地方事務所には、総務(庶務、経理、出納、県民生活)、税務、商工、農林部門があることから、総合出先機関の一形態ともいえ、出先機関の中心となっている。
   庄内地区には庄内支庁(後述するように、2つの地方事務所等を統合したもの)、2保健所、2農業改良普及センターなどが配置されていた。
   家畜保健衛生所は従来から4つとなっていたが、保健所は地域保健法施行により99年4月より4つに統合されている。
 ② 所管区域
   山形県の出先機関は従来、8つの郡単位に地方事務所を中心として配置されていた。昭和44年に庄内地区の田川地方事務所と飽海地方事務所などが統合し、庄内支庁(現在の組織は、総務福祉部、経済部、建設部の3部13課5事務所)ができたが、その他の6つの地方事務所はそのまま現在に至っている。
   当初は、8地方事務所を4支庁にする構想があったが、まもなく頓挫した経緯があり、現在は1支庁、6地方事務所となっている。頓挫した最も大きい要因は、庄内支庁長の権限が地方事務所長とあまり変わらないこと、予算要求権がないこと等、権限委譲や機能強化が図られず当初の期待を裏切ったことにあった。

 

 

2. 総合出先機関設置問題の経緯と背景

 

(1) 総合出先機関設置問題の経緯
 ① 4ブロック化を提言(行革懇話会)
   この課題の発端は、自治省の新・新行革指針が出され、98年1月に県の行革懇話会が再開され、3月にその第一次提言として突然「出先機関の4ブロック化と総合出先機関化」が盛り込まれたことであった。私たちは、その後、「4ブロック化反対」と「出先機関の改革推進」の方針を基本に、「4つの提言」(権限委譲と現地即決体制の確立、縦割り行政の弊害の解消と総合行政の展開、県と市町村との協働作業システムの整備、新たな地域振興事業の創設)をまとめ、懇話会への意見書提出など職場・地域でのたたかいを展開したが、98年11月の「第二次(最終)提言」にも「4ブロック化」が盛り込まれることになった。
 ② 4ブロック化を決定(行革大綱)
   行革懇話会の提言を受けて98年12月に策定された行革大綱は、(ア)地方事務所など管内の出先機関を統合した総合出先機関の設置を検討する。(イ)地方分権時代の県の役割、広域の視点、交通・通信網の発達、経済圏や歴史・文化面などを考慮し、所管区域は4ブロック(村山、最上、置賜、庄内)とする。ことを決めた。さらに、私たちの4ブロック化反対の声を踏まえ、(ウ)4ブロック化を進めるにあたり、当面、住民と直接関係する部門や市町村との連携が特に必要な部門などについては、住民や地域のニーズに対応し、行政サービスに配慮した方策を検討する。また、機能強化の点では、私たちの「4つの提言」を踏まえ、(エ)地域のグランドデザイン策定を含めた企画・調整機能の充実や実効性が伴う予算措置のあり方、総合的な情報提供・相談機能を検討するとともに、二重行政の解消、現地即決体制の整備の観点から、本庁から出先機関への事務・権限の委譲を推進する。とした。
 ③ 最終的には「分庁舎方式」を決定(県当局が方針変更)
   私たちは、たたかいの到達点としてのこの行革大綱を足掛かりに、総合出先機関の機能については「4つの提言」の具体化を図る取り組みを展開した。また、4ブロック化反対の取り組みは、全国に例を見ない「分庁舎方式」(企画調整、グランドデザイン策定などは4ブロックで、事業実施または現場事務所的な機能は7ブロックで行い、3ブロックに分庁舎
従来の建物を利用 を設置する。分庁舎は支所・出張所ではなく、分庁舎で決裁が完結する権限を与える。)で決着することになった。

(2) 問題の背景 地方事務所等についての市町村と県民の評価
 ① 地方事務所等のあり方についての市町村アンケート
  県庁や県の出先機関のあり方を考えるうえで、市町村や県民がどう評価しているのかを見る必要がある。県は、行革懇話会での論議の資料とするため、98年8月、地方事務所等のあり方についての市町村アンケートを実施し、その結果は次のとおりであった。このアンケート結果は、国
市町村という上下関係からくる県(職員)の権力的姿勢や縦割り行政・補助金行政という現在の行政システムへの反発として、ある程度予想された内容ではあったが、重く受け止める必要があると認識した。
  ○ 地方事務所等の評価
    全体の6割に当たる28市町村が「重要」「ある程度重要」と回答。しかし、庄内、最上の市町村では重要性を認める回答が多かったのに比べ、置賜は6割以上、村山は半数の市町村が「あまり重要でない」「なくてもよい」と回答した。
  ○ 地方事務所等の問題点
    38市町村が「本庁との二重行政になっており非効率的」、36市町村が「政策決定の権限がない」、20市町村が「地域の特性を生かした独自の企画立案が行われていない」と回答した。これらは、現在の地方事務所が補助金等の決定権限を持たない経由・進達機関、単なる執行機関となっていて、市町村は地方事務所と本庁の両方にお願いしなければならないというシステムに対する不満の現れであった。
  ○ 地方事務所等のあるべき機能
    39市町村が「本庁の権限を委譲し現地即決主義の体制をとるべき」、33市町村が「地域振興施策を展開するための企画・立案機能を充実すべき」と回答した。
  ○ 総合出先機関化への賛否
    39市町村が支持すると回答した。
 ② 総合出先機関の設置に係る市町村アンケートと県政世論調査
   県は、98年12月の行革大綱策定以降、総合出先機関の設置に向けた具体的検討に着手した。99年11月に検討の「中間報告」を行い、今年3月に「組織と機能、業務の概要」を決定するスケジュールを決め、総合出先機関の機能等を検討するため、市町村アンケートや県政世論調査を実施した。
   市町村アンケートは、総合出先機関の基本的なコンセプト、企画調整機能、住民サービスに配慮すべき事務(分庁舎方式を見据えた質問)等について、99年6月と9月の2回行った(内容は省略)。
   また、99年9月には、毎年行っている県政世論調査(調査項目は毎年異なる)の中で、総合出先機関について3項目の質問が行われた。この調査は、4ブロック化を正当化することが目的であり、方法についてはそもそも疑問があったが(調査客体の選定が人口割であることから、山形市など4ブロックの中心地の県民が選ばれており、したがって4ブロック賛成の意見が当然多くなる)、県民の意識を一定知る資料ともなった。
  ○ 管轄エリアの4ブロック化
    全体としては「賛成」47.4%、「基本的に賛成、一部今のままがよい」(分庁舎方式を見据えた質問)21.5%、「反対」11.4%である。地域別に見ると、廃止・統合される地域を抱える村山では、「一部今のままがよい」21.5%、「反対」15.6%、合計37.1%、置賜では、「一部今のままがよい」33.7%、「反対」14.0%、合計47.7%となっており、単純な4ブロック化に対する抵抗の大きさが現れている。
  ○ 現在の管轄エリアのままが望ましい業務
    福祉部門59.2%、保健部門55.1%、県民窓口部門(旅券等)31.2%、税務部門21.4%となっている。保健・福祉部門が圧倒的に多く、一般県民の中に弱者保護という意識が強いことがうかがわれる。一方、土木、農林、商工関係は直接県民と接することが少ない部門からか20%に満たない低い数字となっている。
  ○ 総合出先機関に期待すること
    「即決、実行できる体制とする」41.8%、「地域の視点に立った行政を行う」37.1%、「県民の苦情等の相談機能を充実する」28.2%などであった。

 

 

3. 出先機関改革の方針と運動の到達点

 

(1) 地方分権等に対する情勢認識
  行革懇話会第一次提言で「出先機関の4ブロック化と総合出先機関の設置」という考え方が出されたことから、県職労としての県のあり方についての基本認識をどうするのか、理論構築が迫られた。私たちは、県あるいは県の出先機関のあり方を検討するにあたっての情勢認識を次のとおりとし、行革懇話会での議論やその後の運動展開を図ることにした。
 ① 分権の流れ
   保健所や福祉事務所の所管業務等の市町村への移管が進み、地方分権一括法によって分権化の流れが加速される。住民に身近かな行政サービスに係る権限は市町村に委譲され、中長期的には県の権限は従来よりは縮小して行くことは必至であることから、県の組織機構の見直しが避けられない。
 ② 行政リストラ(人員削減)の流れ
   行革懇話会は97年11月の自治省の新・新行革指針による行政リストラ、人員削減を目的として設置されたものであり、7ブロックに配置されている出先機関が4ブロックに統廃合されれば、大幅な人員削減は必至であり、県職労組織人員の大幅な減少に直結し、組織の存亡にかかる課題となる。
 ③ 改革への積極的対応の必要性
   従来の組織機構や仕事のやり方に対する県民や市町村からの批判や期待に応える改革も求められている(前述市町村アンケート結果参照)。従来のように県当局の検討を待って対応するのではなく、改革に向けた労働組合として積極的な対応が必要である。

(2) 県職労の取り組み方針
  私たちは、98年3月に行革懇話会の第一次提言以降、行革懇話会提言や行革大綱策定に向けて、「4ブロック化反対」「出先機関の改革推進」という2つの柱で取り組みを行った。そして、99年6月の定期大会において、総合出先機関のあり方(組織・機能・業務概要等)についての「中間報告」(98年11月)と「最終決定」(99年3月)が、その後の人員配置に決定的な影響を与えることから、この2つの時期をたたかいの山場と位置づけ、ストライキを配置してたたかうことを決定した。
  以降、夏の陣(7~9月:市町村9月議会での4ブロック化反対意見書採択を中心とするたたかい)、秋の陣(10~11月:「中間報告」に向けたたたかい)、冬の陣(12~3月:「最終決定」に向けたたたかい)、そして、2000年人員配置闘争(4~9月)をたたかった(たたかいの経過は別記)。
 ① 方針その1
4ブロック化反対  
  ア 当局の広域化の視点
    全国におけるこれまでの総合出先機関は従来の所管区域内において、一部の出先機関またはほとんどの出先機関を統合するというものであり、従来は広域化という視点での統合はなかった。この広域化という視点は、経済圏の広域化や県と市町村との役割の見直しの必要性から出てきたものであり、山形県における検討は、岐阜、山梨の検討と時期を一にする新たなケースであった。
  イ 広域化の問題点
    4ブロック化は、広域化と遠距離等による住民サービスの低下、利便性の低下が生じることが、容易に想定される。県出先機関が廃止される地域の衰退が懸念される。大幅な人員削減、遠距離通勤・単身赴任の増大など労働条件の低下が避けられない。
    そのため、廃止される3つの地域に県民の会を結成し、知事に対し7万名の署名と5市6町議会からの反対意見書を提出することによって、4ブロック化を白紙・撤回に追いこむことはできなかったものの、「分庁舎方式」という形で県の方針転換を勝ち取り、広域化の問題点について一定の歯止めをかけることになった。
  ウ 県民から見えない出先機関の仕事
    この運動の過程で、県の出先機関は県民から見た場合、市役所・町村役場と比較すると何をやっているのか見えないこと、市町村や県民からは課題によっては4ブロックでの対応や市町村間の調整を強く求められていることなども明らかになった。このことが、県の出先機関の統廃合反対闘争の取り組みを困難にしている。
 ② 方針その2
出先機関の改革推進  
  ア 出先機関強化
    出先機関のあり方については、(a)出先機関の単純廃止方向(市町村への全面的な権限委譲)、(b)出先機関の発展廃止方向(都道府県と市町村が広域連合を形成)、(c)出先機関の強化方向(県庁からの大幅な権限委譲と総合出先機関化、そのことによる所管区域内市町村との密接化)が考えられるが(自治労「都道府県
市町村関係」作業委員会報告書)、私たちは、県民福祉の向上や地域振興を図るためには、県民と市町村との信頼関係構築が基本であり、そのためには、県民や市町村に身近かな出先機関の機能を強化し、所管区域内市町村との連携強化や協働作業システムの構築を図る必要がある。県民や市町村から遠い本庁重視ではなく出先機関重視の方向、出先機関の廃止ではなく強化の方向が必要であると考えた。
  イ 県庁内分権
    県の組織機構は、従来、人事課・財政課・地方課・企画調整課等が大きな権限を握り人事もそれらの出身者が各主幹課の主要ポストを握るというものになっていたが、分権への発想の転換や組織の活性化を図るためには、多様な人材の登用が必要であり、そのための県庁内における権限の分権化、そのためのシステムが必要である。
    この分権化は、県庁内各部各課においてだけではなく、県庁(本庁)と出先機関の間においても行われなければならない。県の組織機構においては、権限においても、人事においても、本庁が上で出先機関が下というものになっていたが、本庁と出先機関を上下関係でないものとし、職員の意欲を引き出し組織の活性化を図るためには、本庁から出先機関への権限委譲と対等な人事交流が必要である。そのためのシステムが必要であると考えた。
  ウ 完全総合型の総合出先機関
    県出先機関には、「完全総合型(全ての行政分野を分掌する総合出先機関のみ設置)」「一部個別型(総合出先機関のほか、土木、保健など一部行政分野は個別出先機関を設置)」「企画調整型(企画調整機能の総合出先機関のほか、ほとんど全ての個別出先機関を設置)」「一部地域総合型(離島など一部地域にのみ総合出先機関を設置)」「完全個別型(個別出先機関のみ設置)」があるとされているが(「状況適合理論による都道府県の出先機関へのアプローチ」埼玉大学政策科学研究科荒川絹子)、私たちは山形県における今後の出先機関のあり方として、「4つの提言」実現のためには「完全総合型」としての総合出先機関が必要であると考えた。

(3) 総合出先機関設置への4つの提言と到達点
 ① 全国調査の結果
   総合出先機関のあり方を検討するにあたっては、98年夏、全国の主な総合出先機関(地方振興局、県民局など)の現状を調査した。調査結果は、地理的条件、歴史的文化的条件等の違いから当然のことであるが、総合出先機関といっても県によって様々であることが明らかになった。
   結論は「形を総合出先機関にすれば課題が解決するものではない。必要な権限が委譲されていない場合や中途半端な総合出先機関では、二重行政の排除や実質的な総合行政は展開できない。他県の事例を参考に、課題の解決に向けた山形独自のシステムを創る必要がある」ということであった。
 ② 4つの提言
   行革懇話会への対応が必要だったことから、98年9月に「4つの提言」を作成し行革懇話会に意見書として提出した。その時点では、県職労としての組織的討論は不十分であったが、その後、ブロック別討論集会や地方分権シンポジウム等を開催して論議を深めることになった。さらに、「4つの提言」を実現するための具体的な機能やシステムについては、「中間報告」以降、担当する地方分権・行財政改革推進室と徹底して論議・交渉することになった。
  ○ 基本理念
    県民のための県民サービス向上のための県庁改革
  ○ 具体的提言
   (その1)権限委譲と現地即決体制の確立
        本庁と出先機関の二重行政を解消し、県民や市町村職員がわざわざ県庁に行かなくとも、身近かな総合出先機関でものごとが解決できるように、本庁から総合出先機関にもっと権限と予算を移す。
   (その2)縦割り行政の弊害解消と総合行政の展開
        縦割り行政の弊害を解決するため、横の連携を重視し、現在の地方事務所や建設事務所等を一体化した総合出先機関を設置する。4ブロック毎の配置では住民サービスや住民の利便性が低下することから、現在の7ブロックに設置する。
   (その3)県と市町村との協働作業システムの整備
        県民の要望に応える地域振興を図るため、総合出先機関を「地域振興の拠点」と位置づけ、地域の計画づくりから事業の実施まで、総合出先機関と市町村が一緒に悩み考え、協働作業ができるシステムを創る。
   (その4)新たな地域振興事業の創設
        地域の振興を図るため、市町村等が自由に使えるような新たな予算を確保し、その執行権限を総合出先機関に与える。
 ③ 運動の到達点
   「4つの提言」を基本とした改革運動の到達点の特徴は次のとおりである。
  ア 大幅な権限委譲と現地即決体制の確立について
    本庁から総合出先機関には、(a)市町村等支援機能の充実46件、(b)民間・団体支援事業等24件、(c)各種許認可52件、(d)補助金等交付・決定112件、(e)事業執行権限の拡大106件など、計355件の権限委譲が行われることになった。
    また、工事請負契約締結に係る決裁権限を1億円から3億円に(土木工事等の場合)引き上げることになった。このことにより、従来、県庁の部長決裁や副知事決裁が必要であった工事の大部分が総合支庁や分庁舎の課で決裁・執行することができるようになり、早期発注が可能となる。
  イ 縦割り行政の弊害解消と総合行政の展開
   a 企画調整機能
     本庁で担当すべき企画調整機能を限定し、総合出先機関の企画調整機能を充実する。総合的な地域振興計画(地域のグランドデザイン)を策定する。策定にあたっては、市町村や地域の有識者等による議論・協議の場を設ける。
   b 施策調整機能
     調整会議等を設置し、地域内事業の調整、市町村からの各種要望事業等の調整、優先順位設定などを行う。また、総合出先機関の長は、本庁における重要施策調整会議等に出席する。
   c 情報相談機能
     広報公聴機能、情報公開機能、申請・相談・照会などに対応する総合案内機能、総合出先機関内情報及び本庁と総合出先機関相互の情報の共有化システムを構築する。
   d 予算調整機能
     県全域にわたる大規模プロジェクト等は従前どおり本庁で予算要求するが、総合出先機関が実施主体となる事業については、基本的に総合出先機関が予算要求する。予算要求のシステムは、財政課に直接要求する「直接要求予算」(ブロック単位で事業選定・実施の可能な県単独事業など)、所管部と調整し所管部が財政課に要求する「所管部経由予算」(国庫補助事業、地域間調整を必要とする起債事業、全県調整の必要な県単独事業など)、地域ビジョン予算とする。
     また、地域全体の振興ビジョンを達成するためのテーマを設定し、そのテーマに係る事業推進のための予算を「地域ビジョン予算」とする。この「地域ビジョン予算」要求は、内容により「直接要求予算」と「所管部経由予算」に振り分ける。
     バラマキ予算を避けるとともに効果的な予算執行を図るため、一定の枠で総合出先機関に自由に使える予算を与えるという考え方は取らなかった。
  ウ 市町村との協働作業システムの確立
    総合的な地域振興計画の策定にあたっては、市町村や地域の有識者等による議論・協議の場を設ける。
    なお、この提言に係る具体的なシステムづくりは今後の課題である。地域ビジョン予算のテーマ設定や各部門の事業に係る予算要求や事業執行などに市町村の意見を反映できるシステムづくりが必要である。
  エ 新たな地域振興事業の創設
    新たに、予算調整機能(直接要求予算、所管部経由予算、地域ビジョン予算)を総合出先機関に付与する。

(4) 総合出先機関の組織体制の特徴
 ① 統合する出先機関
   地方事務所、福祉事務所、保健所、労政事務所(地方事務所の商工労政係)、農業改良普及センター、土地改良事務所、家畜保健衛生所、建設事務所、ダム管理事務所を統合することになった。なお、庄内地域においては、港湾事務所、水産事務所、空港事務所も対象となっている。
 ② 広域化(4ブロック化)と住民サービスの確保のための「分庁舎方式」
  ア 4つの総合出先機関と3つの分庁舎
    当局の当初方針は7ブロックを4ブロックに統合するというものであったが、ブロックが統合される、村山、置賜地区においては、「分庁舎」を設置することになった。予算調整や地域政策の企画立案・調整、補助金の交付・決定、事業の箇所づけなど地域全体で調整が必要なものなどについては、4ブロック体制とし、事業実施又は現場事務所的な機能については、住民サービス等の確保を考え、「3つの分庁舎」も含めた7ブロック体制とするというものである。
  イ 分庁舎において決裁が完結するしくみ
    この「分庁舎」は、権限のない支所・出張所ではないと位置づけ、分庁舎においても、現地即決体制を確立するため、分庁舎の課長に決裁権限(専決権もしくは代決権)を与え、分庁舎において決裁が完結するしくみを創った。
 ③ 地域振興の拠点とするための4部門体制

総務企画部

(総務課、企画振興課、税務課)

保健福祉環境部

(福祉課、環境課、保健企画課、検査課、衛生課、地域保健予防課)

産業経済部

(産業経済総務課、産業企画室、商工労働観光課、農業振興課、農業普及課、森林整備課、農村計画課、農村整備課、水産課、家畜保健衛生課)

建 設 部

(建設総務課、都市計画課、道路課、河川砂防課、用地課、建築課、港湾課、空港事務所)

   なお、3つの分庁舎には、総務課、福祉課(福祉現業部門のみ)、税務課、農業普及課、農村整備課、森林整備課、建設部各課(すべての課)が設置される。
 ④ 地域振興・産業振興のためのしくみ
  ア 地域振興担当の創設
    グランドデザイン策定と社会資本調整などを担当する部門として、企画振興課を設置する。
  イ 産業企画担当の創設
    商工業、広域観光、農林業の振興のための地域産業振興ビジョンの策定、それぞれの産業の連携強化による新たな産業創出や雇用創出の検討などを行う部門として、産業企画室を設置する。
  ウ 商工労働観光担当の強化
    商工振興、雇用対策、観光振興部門の対策強化のため、商工労働観光課を独立・設置する。
  エ 予算調整機能の付与
    地域振興と総合行政展開のため、直接要求予算、所管部経由予算、地域ビジョン予算という予算調整機能を付与する。
  オ 総合支庁長は部長級
    総合支庁長は部長級(これまでの地方事務所長は次長級)とし、本庁部長会議や県議会に出席しなければならない(出席は県議会の要請による)。庄内支庁長は部長級であったが、予算調整機能を持たなかったため、本庁部長会議への出席のみに止まっていた。
 ⑤ 総合行政・企画調整のしくみ
  ア 4部門の主幹課への企画調整担当の配置
    他県のシステムを見ると、どうしても総務部門の企画調整担当の権限が大きくなり、事業執行部門の効率的な事業執行にマイナスになりがちなことから、他の3部門(事業実施部門)にも企画調整担当を配置するとともに、総務企画部の企画調整担当と他の3部門の企画調整担当との関係は上下関係ではなく横の連携・調整の関係とすることとした。この点については上下関係にならないように監視していく必要がある。
  イ 企画部門への技術職の配置
    地域振興の計画づくりや社会資本調整には、事務職の視点・経験と技術職の視点・経験の双方が重要であり、企画振興課に土木職と農業土木職を、産業企画室に一般農業職を配置することとした。
  ウ 環境問題への対応
    これまで、環境問題は、地方事務所において自然保護関係業務を、保健所において廃棄物、大気・水質規制業務等を担当していたが、環境問題への総合的対応を図るため、保健所から独立した環境課を設置することとした。
  エ 保健所と福祉事務所の統合問題
    全国的には、保健所と福祉事務所の統合が進んでいるが、その内実を踏まえ、部は同じとするが、課としてそれぞれが独立し、連携強化を図ることとした。
  オ 庶務経理担当の一元化問題
    当局の当初方針は完全一元化であったが、他県では、極端な庶務経理担当の一元化により、業務のスムーズな執行が妨げられている例があることから、4部門に庶務経理担当を配置することとした。また、分庁舎にも庶務経理担当及び出納担当を配置することとした。

 

 

5. 終わりに

 

(1) 市町村(職員)から県(職員)への期待
  地元研究発表を行うに当たって、自治労本部の担当者と県本部の担当者、最上地区市町村職員も含め、山形県最上地域全体として推進してきた「最上エコポリス構想」(地域振興計画)の実施経過における県と市町村のかかわりかた及び総合出先機関に期待すること等について共同討議を行った。討議の中で、総合出先機関の考え方や県(職員)に対する多くの意見が出されたので、ここに主なものを記しておきたい。
 ① 意識改革
   第一に、県は、国の事業を押し付ける、いらない事業を押し付ける、県民・市町村が必要とする事業や何で悩んでいるかをつかんでいない(不十分)ということである。国からの事業・情報を県の立場で市町村に流すのではなく、もっと市町村の実情を掴み、市町村を支援し、市町村のための事業を考えてほしいということである。県(職員)も一生懸命頑張っているのは事実であるし、逆に市町村(職員)に言いたいこともあると考えられるが、県民・市町村の目の高さで仕事をすることが求められている。
 ② 人事異動(システム)改革
   第二に、県民・市町村の目の高さで仕事をする際、県職員の人事異動サイクルがネックになっていることも指摘された。市町村職員は地元に根を張ることができるが、県職員は3年毎の、しかも広域人事異動によってなかなか地域に根を張ることができない。幅広い視点とともに市町村(職員)とともに一緒に悩み考える「現場の視点」を重視する意識改革とともに、そのための人事異動(システム)の改革が必要である。
 ③ 機能強化への期待
   第三に、「最上地区の市町村は財政基盤が弱く、県に対する期待が大きい。人員増ができない中で財源の裏付けのない権限委譲は困る。県は、広域課題についての調整、先導的役割、専門的な指導・支援の役割を積極的に行ってほしい。」という指摘があった。
   さらに、総合出先機関に期待する市町村支援機能として、今回の考え方では不十分な(まだ具体化されていない)情報センター機能、全く付与されていない法務政策能力機能なども指摘された。
 ④ 組織機構は管理運営事項ならず
   総合出先機関に係る取り組みには県職労以外の多くの団体のご支援・ご協力をいただいた。自治労県本部や連合山形(地域協議会含む)、社会民主党には地域運動、市町村議会・県議会での取り組みで大きな力を発揮してもらった。
   さらに、県当局の対応があった。「職員に理解されない改革は成功しない。仏つくって魂入れずにならないようにしなければならない。21世紀に向けてより良いものを創りたい気持ちは県職労も組合員も同じ。」という私たちの主張に理解を示し、県当局が機構改革としての総合出先機関問題を従来のように単純に「組織機構は管理運営事項」とせず、話し合い重視の姿勢を取ったことである。
   この背景には8年前の知事選挙で自民党候補との一騎打ちで社会党推薦の高橋知事が誕生したことがある。行革懇話会、行革大綱策定に係る話し合いやその後の話し合いは、回数も時間もかつて経験したことのないものであったが、総合出先機関の機能や組織の内容は、特に、窓口となった地方分権・行財政改革推進室の膨大な作業があったから到達したものでもある。
 ⑤ 国の縦割り行政の壁
   総合出先機関について論議すると真っ先に出てくるのは「総合行政の展開と言っても、国からの予算は縦割りで本庁の各課が取ってくる。事業予算は圧倒的に補助金であるという現状を見たとき、本庁でもできない総合行政を出先機関でできるのか。」という意見である。全国の総合出先機関には様々な形態があるが、必ずしも成功しているとは言いきれない面がある。総合行政を展開しようとするとき、国の縦割り行政や補助金行政、3割自治という行財政システムが大きな壁として立ちはだかっている。
   しかし、だからといって、今のままでいいのか、県民や市町村からの意見や批判を放置して許されるのか、今のシステムで地域の過疎化や地域産業の衰退に歯止めをかけることができるのか。全国の現状を踏まえつつ、一歩踏み出すべきという結論が、総合出先機関の設置ということになったのだと考えている。
   まだ改革はスタート地点に立ったばかりであり、総合出先機関設置が改革となるかどうかは、職員の意識改革と業務量に見合う人員配置、そして失敗を恐れない積極的な取り組み如何にかかっている。

《資料》

 

総合出先機関設置に向けた運動の経過

 

1. 県民運動、地域運動、政治闘争、職場闘争の結合
  ○ 到達点としての「4つの総合出先機関と3つの分庁舎」

1998/1 行革懇話会が再開
    3 行革懇話会第一次提言
    3 県職労地方分権・地方行革対策委員会を設置
1998/9 ブロック別討論集会(マスコミ公開)
    9 行革懇話会部会への意見書提出
    10 地方分権シンポジウム(マスコミ公開)
行革懇話会全体会への意見書提出
    11 行革懇話会第二次(最終)提言
    12 県議会決議(総合出先機関問題、定員管理問題、民間委託問題)
行財政改革大綱(改定)発表
1999/7~8 総合出先機関問題特集記事連載(地元新聞)
    8~9 県民の会結成(3地区)
署名運動(個人70,000筆、350団体)、市民集会(2地区)、チラシ新聞折り込み(74,000枚)、街頭ポスター(2,000枚)、街頭宣伝、市町村議会請願、
市長会長・町村会長要請行動など
    9 5市6町議会で請願採択(2町不採択)・知事への意見書提出
西村山・北村山県議会議員連盟(超党派)結成
    11 県が総合出先機関の設置に係る「中間報告」
2000/1 社会民主党、自民党、議員連盟が意見書提出
    3 春闘チラシ配布
県が総合出先機関の設置に係る「基本的な考え方」決定

2. 組織機構検討にあたっての要求書提出と事前協議
  ○ 副知事回答「人員削減を目的とするものではない」

1998/10

地方事務所長等への質問書提出と交渉

    11

「県庁改革(組織機構・事務事業等)に向けた要求と提言」提出と交渉

副知事交渉と回答

(大規模プロジェクトの見直しと一律人員削減への歯止め)

1999/7~8

上申闘争

    9

事前協議スケジュールの提示

    11

副知事交渉と回答(2時間ストライキは延期)

総合出先機関の設置について「中間報告」発表

2000/3

副知事交渉と回答(1時間ストライキは中止)

(99/11副知事回答を担保する内容の具体化)

県が総合出先機関の設置について「決定」

「人員配置に係る基本要求書」提出
    5~9 総合支庁人員配置交渉

 

総合出先機関の設置について