4 地方分権時代の市民自治と自治体行政

  高崎経済大学 大 宮   登

 

 地方分権の時代、私たちがアクティブな市民社会をつくるためには、住民参画型システムを構築していくことが基本条件となる。 地方分権が進み、価値が多様化し、ボーダレス状況が日常化する成熟社会は、住民全員が共通に必要とする事柄も少なくなり共同作業に必要な 「暗黙の了解」 ができる領域も減少する。 一人ひとりの価値観やニーズが異なる成熟社会が到来している。
 こうした成熟社会に適応する地域社会システムを再構築していく必要性が生まれている。 高度成長期における政治や行政のように、右肩上がりの経済状況に乗っかってできるだけ多くの補助金を獲得し、道路や箱ものをつくることが住民満足とつながっていく社会は終わりを告げている。 財源が限られて多くの補助金獲得が不可能になりつつある現在、そしてまた個人志向がますます強まり、一人ひとりが自己実現を目指す成熟社会では、住民自らが意見を出して参画することが住民満足度を高める基礎的な条件となる。
 しかし、私たちは現実的には、いまだ 「お上」 志向から抜け出していない。 トップダウン方式の行政手法に慣れていて、陳情と文句の繰り返しという現状であるとも言える。 最近、盛んに試みられている住民参画型プロジェクトも成果をあげているとは言いがたい。 それは何故なのだろうか。 成果をあげるためには何が必要なのだろうか。 分権時代における参画型システムの基礎とも言えるプロジェクト運営をめぐって、具体的に提案したい。

1. プロジェクト・マネジメントとは
 分権が進む地域行政の現場において、地域住民参画型のシステムを築くために地域住民を巻き込んだプロジェクト・チームの立ち上げが盛んである。 ここではまず、プロジェクト・チーム運営の考え方とプロジェクト・マネジメント能力の開発について確認する。
1. プロジェクト・マネジメントの考え方
(1) プロジェクト・マネジメントとは
 ① プロジェクト・マネジメント
    「プロジェクトとは、特定の品質、スケジュール、コストの目標を満足するために期間を限定して行う一連の作業」 である。
  「プロジェクト・マネジメントを通じて、個人やチームの技術、スキル、協力体制、設備、装置、道具、情報、資金などをできるだけ有効に活用して、目標の達成を目指す。」
→期間限定で、資源を一時期に集中して投入
マリオン・E・ヘインズ 「プロジェクト・マネジメント入門」 日本能率協会マネジメントセンター、1999年
(2) 地方行政におけるプロジェクト・マネジメントの現状と展開
 ① 委員会・審議会…関係諸団体の代表、学識経験者、住民代表、利用者 +行政
 ② 住民参加型組織…住民公募、モニター、人材ネットワーク +行政
 ③ イベント開催…コンサルタント、市民 (実行委員会) +行政
  ・記念大会、祭り、~周年記念イベント
  ・シンポジウム、パネルディスカッション
  ・ワークショップ
 ④ 課題…参画システムを運営するノウハウがない、メンバーの能力を引き出す仕掛けがない、たくさんあつめたものの何が生まれたの?
2. プロジェクト・マネジメント能力の開発
(1) プロジェクトを創り運営する能力
   多様な経験、個性、ニーズ、動機を持つメンバーを組織し運営するコーディネート能力の開発が必要になる。
(2) プロジェクト運営のノウハウ
   単なるマニュアルではない、実践的で効果的なプロジェクト運営のノウハウを開発する必要がある。
(3) プロジェクト・マネージャーの自己評価
   プロジェクト・マネージャーに必要なスキル

□プロジェクトの開始から終了までの計画を立てる。
□プレッシャーがかかっても維持できる計画を立てる。
□他の人に自分の計画を説明し、合意・支援してもらう。
□測定可能な目標を設定する。
□チームのメンバーを動機づける。
□チームのメンバーの問題解決を手助けする。
□資源を有効に活用する。
□時間・資源をムダにしない。
□プロジェクトの進捗をモニターする。
□必要な情報システムを利用する。
マリオン・E・ヘインズ 「プロジェクト・マネジメント入門」 p21

2. プロジェクト・マネジメントの必要性
 プロジェクト・マネジメントはなぜ今日盛んになっているのだろうか。 プロジェクト・マネジメントの必要性とプロジェクト運営の課題についてとらえてみよう。
1. 成熟社会と住民満足度
 <成熟社会は住民満足度こそが勝負、住民満足度は住民参画度に比例する?>
 ① 生活の豊かさが保証され、安定成長の中で、自己実現欲求が高まっている成熟社会・選択縁社会では、住民のニーズは多様化してくる。
 ② 成熟社会における地域行政は分権がますます進み、それぞれの地域に住んでいる住民の満足度を、如何に高めることができるかが求められることになる。 多様化するニーズの中から、一部の施策を選び住民の満足を得る仕掛けを作り出さなければならない。 そのためにはアカウンタビリティ (説明責任) が必要となる。
 ③ 自己実現欲求の強い指向性を持つ住民に対して満足度を高めるためには、モノを増やすことよりも参画のシステムづくりを行うことが大切である。
 ④ 成熟社会では、住民満足度を高めるために、市民参画型プロジェクトが盛んになり、その効果的な運営手腕が自治体職員にも求められることになる。
2. プロジェクト・マネジメント   参画型事業への期待
(1) 参画型事業が主役に!
  行政が住民満足度を高めようとすれば、参画型事業が主役になる。 少なくとも多様なニーズを吸収するためのプロジェクト・チームの導入が盛んになる。
(2) プロジェクト・マネジメント能力が求められる
  市民参画型のプロジェクトやネットワークが増えれば増えるほど、自治体職員各自がプロジェクト・マネジメント能力を開発することが求められる。
(3) コンサルティング・コーディネーティングの役割を担う組織と人材が必要!
  住民と行政の利害や理念の調整役としての機関・組織・人材の需要が高まる。
3. 経験のない領域
(1) トップダウン型からボトムアップ型へ、ピラミッド型からネットワーク型へ
 ① プロジェクト・マネジメント、住民参画型事業はフラットで対等な組織形態。
 ② 縦割り行政になじんできた自治体がボトムアップやネットワーク型の組織を創り運営することが可能なのか。 意識やワークスタイルの転換が必要である。
(2) 理想;多中心主義的で誰もが主役 (自己管理・自己責任)
 ① ネットワーク組織や住民参画型組織は、多中心主義的で誰もが主役になる。
 ② 自立型組織には、自己管理・自己責任能力を持つ自立的な人材が必要となる。
(3) 現実;それほど成熟していない (「お上」 志向、陳情と苦情、甘え)
 ① 「お上」 志向の強い、共依存型の社会環境が残存する中で、自立型組織のネットワーク組織・住民参画型組織・プロジェクト組織を担う人材は少ない。
4. ケースの積み上げと基本マニュアルづくり
(1) 試行錯誤の開始…ケーススタディの必要性
  情報開示、情報交換、情報交流を実践しケースを積み上げることが大切。
(2) 基本マニュアルづくり
 ① ケーススタディを中心とするプロジェクト運営基本マニュアルづくりが必要。
 ② 固定的にならないリソースとしてのマニュアルづくり。
 ③ 地域の実情に合わせて創造するための基礎的考え方やパターンを提示する。