解決のためのワン・ストップ・サービスをめざして

神奈川労働相談ネットワーク


1. 神奈川労働相談ネットワーク設立の経過

 1980年代後半以降、集団的労使紛争が激減し個別的労使紛争が増大した。その背景や要因は、バブル経済の崩壊後に急テンポで進められた市場原理主義による労働法制の規制緩和やリストラ促進策で、労働者の個別紛争が増大した。
 これらによって労働者は雇用問題わけても紙切れ一枚で解雇・退職強要・賃金・退職金未払い、労働条件切り下げ等、不利益行為が強行され、それら相談は行政の労政関係、各種ユニオン、弁護団のNPOによって対処されてきた。
 年々労働相談件数は増大の一途を辿り、日本労働弁護団の定例全国一斉労働相談を各県域で実施された労働相談は、悲鳴を上げる労働者の声が集中し、組織的対応が求められた。
 特に、神奈川県は県内の労働(商工)センターには1999年度1万件を越える労働相談(内82%が労働者相談)が寄せられ、解雇関連(20%)賃金遅配・未払い(12%)で「斡旋解決64%」とは言え、行政の制約もあり解雇問題等に関しては訴訟か個人加盟組合などに持ちこまざるを得ないが、未組織労働者相談が圧倒的に多い中、たらい回し的対応にならざるを得ない現状にあった。
 相談者が法的な情報提供から現実的解決を求める中で、企業内での紛争解決が期待できない状況。従って相談窓口が解決に乗り出さざるを得ないが、それにも限界がある。
 そうした中で、日本労働弁護団は労働者の相談で泣き寝入りや相談のたらい回しをせずに、総合的労働相談案内(ワン・ストップ・サービス)を設立し、行政・ユニオン・労災センター・労基署・弁護士等と有機的に連携し、相談の具体的解決促進を図ることを提言されてきました。
 これに応え神奈川県で心有る労働組合・学者・弁護士・各ユニオンが共同で呼びかけ、昨年の11月29日に神奈川労働相談ネットワークが発足しました。

 

2. 発足以降の活動状況

 本格的に活動を開始したのは事務所整備、財政基盤確立活動と併行し、2月以降からとなりました。
 労働相談件数は、発足に際しマスコミの報道は一度だったことからか、まだ決して多いと言う状況では有りません。相談の多くは行政の労働センターを経由したものが多くを占めています。
 7月現在41件で、相談内容は以下の通りです。(解雇14件・賃金未払い・不利益変更6件・退職強要・勧奨4件 労災2件・セクハラ2件・組合づくり1件・その他12件)
 この相談内容の特徴は、大手電気メーカーの福利厚生施設費削減に伴う10年勤続の女性テニスインストラクターの雇い止め解雇、新卒女子大卒の3ヵ月での「試用期間」終了後の解雇、幼稚園の先生の超勤未払いなど、女性の相談が多いことです。
 また、大手商事会社の管理職課長の退職勧奨による組合加入相談など多種に亘っています。
 JR関連の売店でおきた青年社員2名の解雇と賃金未払いは1ヵ月で解雇撤回させ、不況下の不動産・会計事務所員の解雇問題では労働センター立会いで円満に金銭解決した例もあります。
 労働者が不利益行為を受けたときに、まず労働基準監督署に相談しますが「期待に応えてくれない」の不満のある中で、そうした問題点が出るのはなぜか考えるために、労働基準監督署関係者・県労働相談センター担当者・各ユニオン・弁護士との合同シンポもネットワーク主催で開催しました。
 さらに、各ユニオンと自治労県職の労働相談センター担当者の実務学習意見交換会も盛会に実施され、参加者から定期交流も求められているのが実情です。
 今後の具体的取り組みとして相談されているのは新卒高卒・専門・大卒者の就職後の権利実態、労働契約の履行状況・定着状況等などの追跡調査を教育現場の先生などと連携し対処を試みようと考えています。
 神奈川ユニオン協議会が実施する障害者労働相談や自治労県本部の介護労働者の電話相談などに可能な限り協力体制をとっています。
 また、会員・協力組合を通じ、組合員家族や友人・知人からのパート・アルバイト労働などの各種問題の相談活動を強化し、組合員・組織の権利意識の向上をもめざそうとしています。
 また、日本労働弁護団の取り組む、各種シンポ・学習会の呼びかけに応え、県内労働組合・団体に参加働きかけを行い権利意識の啓蒙活動も行っています。

 

3. 今後の展望と取り組みについて

 現下の経済情勢は、IT革命に見られるように、経営者は一層の企業再構築(リストラ)攻勢を強めることは必至です。
 そのしわ寄せが、必然にして労働者に転化されてくることはこれまでの労働相談活動の事例が示す通りです。相談者は増大の一途を辿ることは必至と言えます。
 日本労働弁護団を中心とする地道な相談活動の取り組みが反映してか、労働省をして「個別紛争解決システム」づくりを提唱し法案化の準備が開始されたことが報道されています。また、連合からは個別紛争の解決に向けて労働委員会制度の活用が提言されています。
 このことが示すように、個別労使紛争問題が共通の認識として、現下の社会問題であることが意識されたことの反映と言っても過言でないと言えます。
 公的相談活動のルートが確立されることを大いに歓迎しつつも、これまでの相談者の何とか解決して欲しいと言う思いが「相談の範囲」にとどまり、たらい回しされ、結果として泣き寝入りしてしまう現実をどう脱却するのか、具体的に問題の早期解決ができる体制確立が求められています。
 その意味で労働相談ネットワークは、行政(商工労働センター)・労働基準局や監督署・シティユニオン・労災職業病センターなどと連携し具体的解決まで取り組みが追求できています。
 また、少子高齢化社会の進展は外国人・移住労働者を増大させ、新たな権利問題を派生させていますが、シティユニオンや各種ボランティア団体と行政が連携し、不当・不法な労働強制、権利侵害を許さない具体的救済と、防止に向けた啓蒙活動も着実に前進しています。
 これらの問題が、神奈川県域だけの問題ではなく都市部、地方の区別なく全国にネットワークを形成することが緊急の課題と言えます。
 それには、何よりも集団的労使関係にある労働組合が企業内にとどまることなく、労働組合の社会的責務として、共に考え自主的な相談・解決システムを作ることが求められています。特に緊急の課題として各自治体市町村に労働者が気軽に相談できる窓口の開設を切望します。
 さらに、労働者の解雇問題で司法当局はこれまでに確立されてきた「解雇四要件」などで安易な首切りを規制してきましたが、最近連続して反動的な「解雇自由」判決が打ち出される危険な兆候が見受けられます。
 労働者の権利と民主主義を守り育て拡充をするためにも、これまでに遅れをとってきた労働相談ネットワーク運動の全国化が未組織労働者の組織化を加速化されると確信します。それらを展望し、具体的活動の取り組みを強化するためにも、全国最大組織である自治体労働運動の発展を切望します。

【参考1】 困ったときにまず神奈川労働相談ネットワーク