インターネット社会における自治体情報政策の課題

九州大学教授 時永 祥三


 

 ここでは、主としてネットワークのオープン化を、どのように自治体情報政策にとりいれるかに集中して述べます。

 

1. 情報公開とアカウンタビリティ

 これまで、自治体の情報公開に関しては、適切でない経費の流用など、あるいは教育現場での個人の知る権利の実現などに話題が集まってきました。しかし、情報公開の本来の趣旨は自治体行政を外部から評価する、問題を指摘する材料を入手する方法を提供することにあります。最近、このような自治体労働者という立場に関する要求とは異なる側面からの情報公開の進展の方向性が見いだされています。言葉としては、アカウンタビリティ(accountability)の追求として整理されています。アカウンタビリティとは、本来は私企業の経営方針などに関して外部の説明するべき義務(説明責任)として定義された概念で、米国で、1990年代における国防予算のカットにともない、その財政支出の効率性を比較する方法として用いられてから、行政においても注目されるようになっています。一方では、アカウンタビリティの本来の目的を重視すべきです。米国で実施された行政(具体的には国防予算)では、航空機などの購入、メンテナンスなどのサービスにおいて、適正な価格が提示されているか、入札価格と最終納入価格に大きな開きはないかを検討します。更には、事業の遅れの原因の明確化、その損失の見積もり、遅れをカバーする手段などを明示することを求めています。

 

2. インターネット調達

 インターネットを通じた商品の流通に関しては、個人の取引が話題としてよくとりあげられますが、実際には企業間の取引への影響の方が大きいと言えます。トヨタなど日本のメーカーもこれに合流する計画です。また、日本の大手電機メーカーは、インターネットで部品を調達する計画を進めており、1~2年の間に90%以上の割合とする計画です。このような、インターネットを通じて資材を調達する前提や、これを推進する要因としていくつか存在するが、その主要なものはオープン化であると言えます。従来は、メーカーの系列企業からの調達に限定されていたが、インターネットの登場により、より広い範囲で部品供給に応じる企業を求めることができること、これに伴って価格を抑制することができるなど、個別企業の枠を越えた行動を誘発する要因となっています。日本の自治体における入札や事業の実施が、全面的にインターネットを通じて行われるかは明確ではないが、やがては現在のワープロ規格による申請形式がインターネット経由でも可能となるであろうし、自治体が示す各種の事業の条件などもインターネットで公開されることになるでしょう。更に、自治体に対する情報公開の要求の進展にともない、自治体の事業の詳細情報の公開、入札実態の公開などが進められると、インターネットは単なる情報交換の媒体ではなく、事業の計画、進行管理と密接に結びつきます。

 

3. インターネットと信用保証制度

 暗号による通信とならんで重視されているものが、常用保証制度です。これを認証局(CA:Certificate Authentificationと略称する)といいます。例えば、インターネットで買い物をする場合、商品を提供する企業が不正を働く目的を持ち消費者が商品を入手できない可能性があります。同様に、不正を働く消費者がいれば、企業は代金を回収できません。このような場合、取引を円滑に進めるため、いわゆる身元を保証する機関が存在し、取引を実施する前に確認の問い合わせへの回答をするサービスを実現するものがCAです。このことより分かるように、自治体が発行するICカードは、1つの身元確認、身分証明の機能を持たせることが計画に組み入れられています。CAを公の機関が保証する意味は重大です。

 

4. ネットワーク事業と自治体

 最近注目されるようになっているものがCATV回線を用いたインターネット接続、データの送信です。CATVはテレビ画像を送信する同軸ケーブルによりセンターと家庭を結んでいるが、テレビ信号を妨害しない範囲でコンピュータデータを流すことができます。同軸ケーブルで送信できる速度、量は電話回線より格段に大きく、しかも常時接続されています。CATVの回線の先にパソコンを接続することにより、高速でデータ送信ができるインターネットサービスを実現することができます。CATV事業と競合する関係にある衛星放送に関しては、デジタル化など大きな変化が見られるが、コスト問題などで大きな進展は見られません。従って、CATVを選択するのか、衛星放送を利用するかといった状況に関しては、今後とも大きな進展は見られないと思われるが、CATVによるインターネットサービスの拡張など、少なくとも現在のCATV事業を改善するきっかけにはなると言えます。

 

5. 地域情報化とインターネット

 ネットワークを用いた事業展開の成功例としてパソコン業界の米国のデルコンピュータがあります。この会社では、注文から、生産の指示や配送計画などをすべてインターネットで実現し、顧客の細かい要求にこたえることにより急成長しています。日本のデル社の場合には、生産をマレーシアの基地で行っており、顧客、生産、そのための部品の調達、流通のそれぞれの局面はインターネットで結ばれています。製品生産のための部品の供給会社(メーカー)への連絡、製品の配送のための運送会社への予約も自動的に行われます。この事例は、単にネットワークが異なる産業を結びつけるだけではビジネスは成功しないこと、顧客がもとめる要求やその満足のために何をすべきかが明確であった結果であると言われています。従来より、情報化の進展により地域的なハンデはなくなる、あくまでも企業の能力が問題であることは指摘されたが、日本では、果して魅力的な企業が地方に立地したと言えるでしょうか。情報化の進展は、一面では集中化、一面化を促進することにもなる。地域情報化政策の課題について、インターネットという新しい媒体は発展の可能性を与えてくれるが、あくまでもユーザー(ビジネスなら顧客、自治体なら住民)が求める、満足するものであることが重要で、そのための情報の収集、事業の展開においては、よほどのリサーチが必要です。