1. 開かれた京都市会へ
京都市会情報公開条例が、この5月定例会で全会派一致、出席したすべての議員が賛成して可決された。施行は、2001年4月からである。市民に開かれた市会の実現に向けて大きな前進である。
5月市会本会議で、川中市会運営委員長が代表して、その趣旨を説明した。長くなるが議事録から引用する。
「21世紀を目前に控えた今日、わが国は、内外ともに多くの課題に直面し、大きな転換期を迎えている。そのような中、この4月1日から地方分権推進一括法が施行され、本格的な地方分権の時代が幕を開けることになった。この地方分権の具体化に伴い、地方自治体が自主的、自律的に行うことができる施策や事業が拡大することから、今後、市会の果たす役割と責任はますます大きなものとなる。
このため、最も身近なところに位置する市会議員から構成される市会は、市民を代表する議事機関として、より一層市民の意思を反映した活動を積極的に推進することが求められている。市会が市民の負託にこたえて活動するためには、本会議や委員会をはじめ、市会に関する情報について、市民に積極的に公開し、提供することを通じて、市民の市会への理解と参加を一層促進することが極めて重要である。
本市会においては、以上の認識に基づき、地方分権時代にふさわしい「開かれた市会」の実現を図るため、昨年6月以来「京都市会情報公開検討小委員会」を設置し、今日まで情報公開の在り方について検討を行ってきた。この小委員会では、東京都や仙台市等を視察した調査結果や学識経験者から聴取した意見なども参考にして、協議を重ねた結果、市会は執行機関とは独立した議事機関であり、自らの責任による独自の情報公開制度を設けるべきであるとの結論に達した。その後、この方針のもとに、より具体的な条例案の内容について検討を進め、「市会における情報公開の在り方について」の報告書案をとりまとめ、各会派において検討のうえ、条例案を作成し市会に上程する運びとなった。
本条例は、その目的として地方自治の本旨に即した市政の実現に向けて、市会の諸活動についての「市民の知る権利の尊重」と「市会の説明責任」を条例に明記し、これによって「開かれた市会」の実現を図ることを制度の理念として掲げている。
また制度全体の骨組みとして、請求にもとづく公文書の公開制度を導入することと併せて、今後、より一層会議の公開に努めることと、多様な広報媒体を活用して、市会に関する情報を市民に積極的に提供していくことを三つの柱とした総合的な情報公開を推進することとしている。
次に、公開の対象となる公文書の範囲には、通常の文書や図画等だけでなく、フロッピーディスクなどの電磁的記録についてもその対象に加えている。また請求権者については「何人も」公文書の公開を請求することができることとした。
また、市会に関する情報については、個人情報等を除いて、公開することを原則として、非公開とする情報の範囲は、国の情報公開法を基本として定め、最小限にとどめている。
最後に、不服申し立てに対する審査機関の設置については、非公開の決定等がなされた場合における不服申し立てを審査する機関については、市会の独立性、自主性にかんがみ、市会独自の情報公開審査会を設置することとし、またその委員は、外部の有識者のみで構成することにより、審査における客観性を確保することとした。
本条例の制定は、「開かれた市会」の実現に向けて大きな一歩を踏み出すものであり、ひいてはより一層市民から信頼される新しい時代の議会を構築することに寄与するものして、極めて重要な意義を持つものであると確信している。」
以上、議事録からの引用が長くなったが、京都市会情報公開条例が制定されるにあたり、その経過と理念、そして、その特徴が端的にこの提案説明にあらわされている。
2. 市民に開かれた市会を!
振り返れば、長い道のりであった。私は、1987年に市民派議員として社会党の推薦を得て3度目の挑戦で京都市会議員に初当選したのだが、そのときのスローガンは「密室市政に風穴を!」、「市民に開かれた市政を!」であった。
当時、京都市政は、全国にその騒動を知らしめた「古都税紛争」で、仏教会と激突をしていたときであったが、そのやりとりが、まさに密室でされていて、京都市政は市民の信頼を失い、また京都市会もその機能が低下しているときであった。いわゆる情報公開制度、「京都市公文書公開条例」が制定されたのは1991年のことで、全国の政令指定都市で最も遅れた。もっともその情報公開は、京都市会は、対象になっていなかった。
当時、私は、委員会の傍聴などについて、市民に公開すべきだと意見を述べてきたが、モニターテレビによる委員会の傍聴が1999年秋からは予算決算特別委員会のすべての質疑をモニターテレビで見ることができるようになった。常任委員会や他の特別委員会の傍聴はこれからの課題である。また、今まで市会独自の「市会だより」は発行されていなかったが、1997年5月市会から各定例会ごとに発行されるようになり「市民しんぶん」と共に各戸配布されている。
このように、京都市会は、徐々にではあるが議会の情報公開に向けての改革がなされてきたが、議会の総合的な情報公開も必要になってきた。時代の流れである。
3. 市会の情報公開に向けて検討された課題
京都市会としても、こうした状況のもとで1999年の統一地方選後に情報公開に向けて重い腰をようやくあげたのである。
同年6月に市会運営委員会が開催され、市会の情報公開に向けて京都市会情報公開検討小委員会が設置された。その委員長は自民党、委員は自民党1人、共産党2人、民主・都みらい1人、公明党1人で、各会派の理事がその役についた。
検討小委員会では、東京都、仙台市、川崎市などの視察結果や京都大学法学部の村松岐夫教授と錦織成史教授の講演なども参考にしながら、精力的に条例の素案作りに向けて検討をしてきた。
議論が進められていく中で、概ね次のような事項が検討課題とされた。
① 市会の独自条例をつくるのか。市の公文書公開条例の実施機関となるのか。
② 以下、独自条例を制定する場合には、「市民の知る権利」や「市民に対する市会の説明責任」を条例上どのように取り扱うのか。
③ 対象情報の範囲をどうするのか。会派の文書や電磁的記録情報を含めるのかどうか。
④ 条例の実施時期とそれ以前の文書の取扱いをどうするのか。
⑤ 請求者の範囲をどうするのか。
⑥ プライバシー情報など非公開情報をどうするのか。
⑦ 不服申立てに対する救済措置、すなわち審査機関の設置をどうするのか。
⑧ 請求者の費用負担をどうするのか。
14回に及ぶ検討小委員会では、これらの課題を適宜精査し、検討を重ねるとともに、また各会派内の意見調整が図られる中で、「市会における情報公開の在り方について」と題した報告書がまとめられ、各会派で更に検討が加えられた後、5月定例会で議員提出議案である京都市会情報公開条例は全会派一致で可決されたのである。
「市民に開かれた市政」と「市民に開かれた市会」を目標にしていた私としては,
感慨無量。大きな前進をしたと思っている。
4. 条例の実施に向けてのその他の留意点や今後の課題
検討小委員会がまとめた「市会における情報公開の在り方について」の「報告書」では、結びの中で、検討小委員会は執行機関のものとは別個の条例によって制度化することを提言した。その上で、制度の運用については、今後、執行機関と十分な調整を行う必要があることや市民から寄せられる意見を検討し、時代の変化にも的確に対応しながら、より一層市民が利用しやすい制度に改善していくことも留意点に加えている。更に、この4月から「文書公開係」が市会事務局に設置されたが、今後、文書管理、公開窓口、審査会の運営、及び訴訟などの事務を担当する事務局の体制強化についても十分検討を行い、本制度の円滑な運営に努める必要があると提起している。
以上、京都市会の情報公開条例の制定までの過程と検討小委員会での検討課題と、今後の留意点について述べてきた。
5. 更なる議会の改革に向けて
京都市会においては、この情報公開条例の制定と共に、幾つかの改革案が提起され実施されようとしている。
一つは、市民からの請願には、これまで請願者の押印が必要であったが、署名による提出も可能になった。また、常任委員会及び特別委員会のモニターテレビによる傍聴は、すでに予算決算委員会では行われているから、実現は困難ではない。早急に実現する方向で動くであろう。また委員会の記録は、今まで摘録の作成は行われていたものの、公開はされていなかったところであるが、今年度分から委員会記録を作成することとしており,来年4月以降には公開されることになるであろう。そして、この6月から常任委員会と特別委員会を定例化することを取り決めた。日程の調整が困難なこともあって、特に特別委員会の開催回数が少なかったのだが、これも改善されて、議会の活性化が図れるようになる。また、今までも重要議案はもちろん委員会に付託され審議されてきたが、議案の多くは即決されるケースも多々あった。しかし今後は原則的にいかなる議案も委員会に付託をして審議する方向で取り扱いをすることになる。議員にとっては、議案の勉強も必要になってくるし、理事者にとっては、委員会で答弁をしなければならなくなるのでたいへんであろうが、議会との緊張関係の中で、審議され政策決定がされていくことが、これからの自治体にとって当然である。
さらに京都市会においては、今のところインターネットによるホームページはまだ開設されていないが、今後は、インターネットを大いに活用し、本会議はもとより、委員会などの市会の活動についての総合的な情報が提供されることになるであろう。それから、蛇足ではあるが、委員会での喫煙は認められてきたが、この9月からは、すべての委員会で禁煙になる。愛煙家の私にとっては、苦しいが、時代の流れだ。あきらめることにした。
さて、「報告書」では、「地方分権の時代を迎え、市会において、市民生活に影響を及ぼす重要な決定が行われる機会はますます増加していくことが予想され、市民が市会の動向を正確に理解し、選挙や請願等をはじめ、様々な場面を通して、市政に積極的に参加していくことが一層必要になる。一般に、「情報なくして参加なし」と言われるが、市民の主体的な市政への参加を促すためには、市会が市民への説明責任を果たし、その諸活動の状況を明らかにすることが極めて大切であり、常に市会に関する必要な情報が公開されている「開かれた市会」の実現が重要課題となっている。」と、情報公開の理念が掲げられている。
まさに、この理念に向けて、私たち京都市会は、一歩前進したのである。条例を制定したから、すべて終わったのではない。これからが本当の始まりである。
私は、この4月から「民主・都みらい京都市会議員団」の理事として、また京都市会運営委員会副委員長として、京都市会情報公開条例の策定に大きく関わり、また今後もその立場で、議会の在り方についての様々な課題について議論を尽くし、また各会派との意見調整をしていくことになる。容易ではあるまいが、「市民に開かれた」議会の改革に向けて、今後も全力を挙げていく決意をしている。
― 京都市会情報公開条例の概要
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京都市会情報公開条例に則して、説明をしておく。
第1章は、総則で第1条から第4条、第2章は公文書の公開について第5条から第18条まで、第3章は「京都市会情報公開審査会」について第19条から第26条まで、そして、第4章では、雑則として第27条から第31条までの条文になっている。
第1条(目的)は、「京都市会がその諸活動を市民に説明する責務を全うすることが重要であるとの認識に立ち、市民の知る権利を尊重し、公文書の公開を請求する権利等について必要な事項を定めることにより、市民の市会への理解及び市政への参加を一層促進し、もって広く開かれた市会を実現することを目的とする」とその理念を掲げている。この理念こそ、議員は、肝に銘ずるべきであろう。
第2条は、公開対象となる公文書について、文書、図画、写真、電磁的記録などであって市会事務局職員が職務上作成し、又は取得したもので、同職員が組織的に用いるものとして、議長が管理しているものとするとの定義を記す。なお、議員個人や会派が作成し、又は取得した情報については、市会事務局の職員が取得し、議長が管理するもの以外は対象文書とはしていない。
第3条には、常任委員会など会議の公開の推進、第4条は、「多様な広報媒体による情報の提供の充実を図るなど、情報公開の積極的な推進」として、インターネットの活用も視野等に入れている。
第5条、第6条は、条例の運用と適正な使用についてで、議長は、請求者の権利を十分に尊重するとともに、個人に関する情報がみだりに公にされることのないように最大限の配慮をしなければならないこととした。
第7条では、「何人」も公文書の公開を請求することができると明記した。
第8条では、公開請求の手続、
第9条では、個人情報などの非公開情報について規定しており、非公開情報の範囲については、国の情報公開法の規定を基本として定めることとした。
第10条は、部分公開、
第11条は、公益上の理由による裁量的公開、
第12条は、公文書の存否に関する情報、
第13条は、公開請求に対する公開決定等を行う期限を通常14日以内,最長44日以内と定めた。
第14条は、第三者に対する意見書提出の機会の付与、
第15条は、公文書の公開の実施方法を定めることとした。
第16条は、不服申立てがあった場合の手続として、議長は審査会に諮問し、その答申を尊重するものとした。
第17条は、審査会に諮問した旨の不服申立人等への通知、
第18条は、第三者からの不服申立てを棄却する場合の手続、
第19条は、情報公開審査会の設置を定め、議会の自律性、自主性を確保する観点から独自の審査会を設置することにした。
第20条は、審査会の委員を5人以内とした。委員に議員も含むべきであるとの意見もあったが、審査の中立性、客観性を担保するために外部の有識者のみで構成することとした。
第21条は、委員の任期を2年とし、
第22条は、委員の秘密を守る義務を定め、
第23条は、審査会の調査権限、
第24条から第26条は、意見の陳述、意見書などの提出や提出資料の閲覧など審査会における不服申立人等の権限について定めている。
第27条は、費用の負担について定めた。手数料は無料で徴収しない。ただし、公文書の写しの交付などには実費負担が必要とし、減免規定は設けていない。
第28条は、他の制度との調整、
第29条は、公文書の検索資料の作成、
第30条は、実施状況の公表、
第31条は、この条例の施行等に必要な事項を定めることについて議長に委任することとしている。
附則では、この条例の施行日を平成13年4月1日とすることとし、施行日以降に市会事務局職員が作成し、又は取得した公文書について適用することを明記した。
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