Ⅰ 第28回自治研全国集会・基本的考え方

 

1. はじめに

 21世紀を目前にした今日、国際化・情報化・技術革新、急速な少子高齢化の進展などによる社会構造の変化にともない、日本社会はかつてない転換期を迎えています。また、環境問題の深刻化など、既存のフレームでは解決のできない課題が山積しており、今日の社会制度全体を改革していかなければならない時代が到来しています。
 このような政治・経済・社会全般にわたる変化と改革が進行するなか、自治体にも改革が迫られています。地域公共サービスの供給主体が多様化する中で、あらためて自治体が果たすべきセイフティネットの役割が問われています。同時に、市民自治を基本に、地域の政策や事業選択の優先順位を示しながら、産業優先から生活者優先の社会への政策転換、福祉や環境などを中心にした生活者優先の施策をつくりあげることが求められています。私たちは、公共サービスを担う労働者の組合として、地域の人的・社会的リソースと自治体の可能性を再発見し、市民自治の確立につなげていくための取り組みを早急に開始しなければなりません。

 

2. 創ろう、市民自治のゆたかな社会

 市民自治の確立のために必須の条件である地方分権改革は、いまや構想の段階から、実行の段階に入っています。2000年4月には、地方分権改革の第一段階として地方分権一括法が施行されました。そこでは、国・自治体関係の改革が中心課題とされ、機関委任事務制度の廃止による国・自治体間の「対等・協力関係」の実現がめざされています。
 この地方分権改革は、自治体自身の改革を迫るものでもあります。これまで多くの自治体は、行政サービスを国が制定した法律の執行であると考えてきました。しかし、分権改革によって自治体の事務・権限が増え、条例制定権を始めとした自治体の自主決定の範囲が拡大することにより、自治体は、国の法律や施策の代行者から、自ら企画を立て、計画をつくり、政策を実行する主体として責任を有するものへと脱皮することが求められることになります。そのために、自治体が地域のコーディネーターとしての役割を果たすことが出来るかどうか、地方分権の時代にあって、自治体はその根本から地域における存在意義を問われています。
 一方では、地方財政の危機が大きな課題となっています。現在国・地方の債務残高は645兆円にものぼっていますが、財政構造改革の見通しは全くたっていません。私たちは、財政自主権の拡大による財政分権システムの確立こそ、この危機を乗り越える基本的な改革課題であることを再確認する必要があります。財政自主権を確立し、財政分権システムを構築することによって、はじめて自治体は、地域の政策や事業選択の優先順位を示しながら、「責任ある自治体」となることが可能となるでしょう。
 今回の山形自治研集会では、全体テーマとして、「創ろう、市民自治のゆたかな社会」を掲げています。「市民自治のゆたかな社会」をつくりあげるためには、この地方分権という大きな枠組みの改革を活用して、市民の知恵と創意を結集し、各地域から新たな価値を発信することが必要です。地域に生まれ、育ち、学び、働き、住まい、くらし、様々な活動を営む、多様な立場多様な価値観を持っている市民(社会を構成する自立した個人)が、共に生き、生活し続けることのできるための新たな関係を、地域からつくりだしていかなければなりません。集会では、このために「多文化共生」という手法が参考になると考え、これをテーマにシンポジウムを行います。シンポジウムでは、多様な市民がともに生活し続けられる地域社会を再創造するため「多文化共生」を切り口に、新たな価値について議論を行い、「市民自治のゆたかな社会」づくりを現実のものとするための素材を提供したいと考えています。

 

3. 分権でえがこう 21世紀のグランドデザイン

 今回の地方分権改革は、国・自治体間の「対等・協力関係」の実現をめざしたものであり、地方の側から積極的に改革の意義を理解し使いこなしていかなければ、従来となんら変わるところはありません。機関委任事務の廃止によって、自治体の事務については、自治事務・法定受託事務に再区分されるとともに、自治事務・法定受託事務とも、自治体が条例を制定することができるようになりました。条例制定権が拡大したことにより、今後、自治体職員にはさまざまな課題を実現可能な政策としてコーディネートする能力を身につけることが必要となってきます。私たちが、地域の福祉や環境などに価値を置いた生活者優先の施策を確立する運動を展開するためには、地方分権一括法の施行により拡大された地方の自己決定権を最大限に活用して、それぞれの地域で「わがまちの自治の姿」を描き、実現していくことが求められてくるでしょう。
 このための前提条件となる基本的課題について議論するために、今回の山形自治研集会では、①基礎的自治体のあり方を問う、②都道府県の未来像をさぐる、③2010年:アクティブな市民社会をつくる、3つの特別分科会を設置しました。
 「①基礎的自治体のあり方を問う」では、地方分権を実現するための基礎自治体の機能や役割について討議し、特に、市町村合併推進の背景、施策の特徴、合併推進地域の実態など市町村合併問題の論点を明らかにしながら、市町村合併問題を切り口に、市町村のあり方について広域連合や都道府県との関係も含めて考えます。また、「②都道府県の未来像をさぐる」では、国の強い指揮監督を受けながら事務事業を実施してきた県が、条例制定権をはじめとして幅の広い自己決定権を獲得した今日、県の行政が国指向から地域指向へとシフトすることが求められている状況を踏まえて、今後県がどのような公共サービスを担うべきなのかについて議論します。さらに、「③2010年:アクティブな市民社会」では、分権時代においては、市民が自治体の意思決定に直接的な影響力を行使する時代となること、情報公開と市民参加の拡大によって地域づくりへの関心が高まること、公共サービスの担い手が広がりその協働・分担が新たな課題になることを前提にして、意思決定過程への市民参画のあり方、具体的な変革プロセス、手法などを議論します。
 地方分権時代の到来とは、市民自治を確立し、地域の独自性を活かして、自己決定・自己責任による自治体の改革を進めるビックチャンスの到来を意味しています。今回の山形自治研集会では、この思いを込め、サブテーマとして、「分権でえがこう 21世紀のグランドデザイン」を掲げています。このチャンスを有効に活かし、それぞれの「わがまち」のグランドデザインを描くためのヒントを、特別分科会の議論のなかで見つけていきたいと思います。

 

4. 人と知恵が出会い育つ場としての自治研活動

 自治研活動は、労働組合としての取り組みや仕事、地域とのかかわりを通してつちかった“人と知恵”をつなぎ、育て合い、市民との協働を通して、地方分権改革の成果を活用して新しい「地方主権」の時代をつくりあげるのに最適かつ重要な活動です。成功例、失敗例など具体的な実践のなかにこそすばらしい知恵やアイデアがつまっています。経験を報告しあい、本音の意見をたたかわせることでよりよいアイデアが生まれてきます。
 自治研活動は、1955年に誕生し、1957年にはじめて甲府市において自治研全国集会を開催しました。以来、職場、地域をつなぐ様々な活動を蓄積してきています。私たちは、このような特性を持った自治研活動という自治労の財産を引き継ぎ、活動をより活性化させていかなければなりません。
 とりわけ、「地方主権」という新しいステージに立った自治研活動は、市民と結びつくこと、協働に、より意識的・積極的になる必要があります。地域の問題を自ら主体的に考えて参加し、そしてその結果に責任を負うことが求められています。今日ほど、自治研活動と市民が結びつくことが求められている時代はありません。私たちはこれまでの成果を踏まえ、意識的に「役所の外に出る」活動を強化し、自治体職員・市民・労働組合というスタンスを活かして、地域の多様なスタンスの人々と協働作業のパートナーとしての関係をつくっていく必要があります。
 地域性や取り組みの進展によって、地域レベルにおいてそれぞれ違った方法が考え出されてくるでしょう。自治研活動においては様々な試みやそれぞれの地域における多様性を認めあいながら、その成果を交換し、ネットワークを確立していくことが重要です。そのことがひいては自治労運動の社会的役割を高め、組合員が誇りを持って仕事に取り組める職場をつくりあげることにつながっていくでしょう。
 山形自治研集会では、全国からさまざまな取り組みの報告を行い、自治研活動のネットワークづくりを進めるために、財政、情報、福祉、まちづくり、地域経済・雇用、農業、環境、教育、平和、人権、男女平等など、11の分科会を設け、議論を行います。自治研活動の集約点であるこの分科会において、具体的な取り組みについて情報交換し、今後の自治研活動の活性化につなげていきましょう。
 市民自治の確立に向けた私たちの取り組みを、全国のあらゆる地域で進め、新たな時代を切り拓いていきましょう。
 山形自治研全国集会の場をとおして、自治研活動と政策活動を有機的に結合し、自治体改革につなげていきましょう。今後の分権の実践と自治労運動の深化と拡大に向けた飛躍点とするため、すべての皆さんの奮起を期待してやみません。

  2000年10月

自治労自治研中央推進委員会