人と自然の共生による多自然居住地域の創造と活性化~蘇陽風[そよかぜ]のメッセージ~
九州の分水嶺である蘇陽町は、水源地域として豊かで美しい自然環境を守りながら、下流域の人々と親しく交流し新しい地域づくりを目指している。
また、世界最大級のカルデラ火山や雄大な草原など世界遺産に匹敵する豊かで多彩な自然を有する阿蘇に位置しており、自然と人間との共生をテーマに、都市と農山村の多様な連携による新しい地域空間の創出と魅力ある地域づくりに取り組み、町の活性化に繋げていく道を模索している。
高齢過疎化が進み、地域の活力が失われている現状の中で、公設民営による物産館や宿泊施設等の運営により起業化を推進し、地域活性化の起爆剤とする取り組みを続けている。
1. 阿蘇及び蘇陽町の現状
中山間地域と呼ばれる町や村は、もともと水源地域として豊かで美しい自然環境を持っていて当たり前だった。しかし、そうした当たり前のはずだった自然や地域環境が近年、たくさん失われつつある。
阿蘇は、世界最大級のカルデラ火山や雄大な草原など世界遺産に匹敵する豊かな自然を持っている。全国にはたくさんの国立公園があるが、この阿蘇くじゅう国立公園には8万人もの人々が生活しており、人と自然を基本的には区別して保護していく他の国立公園と大きく異なる点である。
古来より阿蘇の人々は、活火山という厳しい自然と伴に生き、草原をつくり、独自の歴史や文化を育んできた。
そうした意味から人と自然との共生をテーマに、自然と人間がどう向き合って生きていけば、よりよい環境が保てるのかを考え、そして下流域に住む都市住民の人々との連携による新しい地域づくり及び振興に取り組んでいる。
(1) 阿蘇全体の地形や人口産業構造
阿蘇は熊本県北東部に位置し、東西47キロ・南北59キロの楕円型で面積1,198平方キロに77,000人の人々が生活している。標高は、400~800メートルの高原地帯で中央に阿蘇山がそびえ立ちその周囲に外輪山をめぐらし、世界最大級のカルデラ地帯を形成している。
気候は高地性で、平均気温13度から15度で、年間雨量は2,300~2,900ミリ。人口は昭和30年をピークに減少し高齢化率も25.7%と高い水準で推移している。
〔産業構造〕
第一次産業 27%
第二次産業 24%
第三次産業 49%
全国的な傾向と同じく第2次・第3次産業の就業人口が増加傾向にあり、主要農産物は米、肉用牛、大根キャベツといった高冷地野菜などである。世界の阿蘇ということで観光には力を入れており、年間1,400万人もの人々が訪れている。
(2) 蘇陽町の現状(蘇陽町の地形や人口産業構造)
蘇陽町は阿蘇外輪山の南の裾野に広がる高原地帯で、面積が118.92平方キロ、人口4,985人。
農業が中心で米を主体に畜産、たばこ、高冷地野菜、施設園芸などの複合経営が行われている。特産品のブルーベリーは、昭和57年から栽培に取り組み46戸の農家で7.2ヘクタール、23トンを生産しており全国有数の生産地である。
高齢化率29.6%の過疎の町で、町民みんなが健康で明るく暮らせる町にしようと、昭和63年から健康と福祉の町づくりに取り組んでいる。
日頃、酒ばかり飲んで健康に無関心な家庭の男達に健康意識を持たせようと、「健康むら長制度」というユニークな制度を導入し、夜の健康学習会や住民検診活動などに参加を促す地道な努力を続け、その結果医療費の抑制など様々な効果を上げており全国的にも注目されている。
21世紀の阿蘇における新しい生活空間づくりもまた、人と自然が共生し一体となって活動を展開していかなければならないと考える。
そのためには、人がそこで生活していける環境でなければ、土地は荒れ自然もまた同時に破壊されていくのではないだろうか。過疎に歯止めをかけ人々が心豊かに生活できる環境を整えていくには、農山村自体の様々な取り組みは勿論のことながら、都市住民との交流から生まれる交流人口をプラスしながら農山村の活性化を図っていくことが不可欠であると考える。
[蘇陽編]
① 蘇陽峡
U字型渓谷 延長14キロ 深さ200メートル
九州のグランドキャニオンと呼ばれ四季折々の美しさが魅力。
② 阿蘇五岳
蘇陽高原から阿蘇五岳を一望できる。
③ 舟の口水源
岩の割れ目から水が噴き出し、五ヶ瀬川へと注ぎヤマメつりなどが楽しめる。
④ 五ヶ瀬川
源流を宮崎県五ヶ瀬町に発し蘇陽から太平洋へ注ぐ。
⑤ 幣立神宮
樹齢数百年の杉や檜の古木が立ち並ぶ由緒ある神宮。
2. 中山間地域における新たな起業化
阿蘇及び蘇陽にはこうした素晴らしい自然が数多く残されている。
しかしながら、人口の減少による過疎化が進み、農地を耕し森林を守っていく人々も少なくなり、農地や山林の荒廃が進行し、企業誘致などによる産業の振興もままならず地域は衰退の一途を辿っている。
阿蘇の場合は、やはり地域に人がいて人々の営みの中ではじめて地域が活かされ自然もまた保全されていくのだと考えておりそのためには、地域の起業化が必要不可欠になってくる。
企業誘致が難しければ自ら企業を興すことを考えなければならない。
阿蘇郡12町村には幸い、温泉・水源・草原・風など豊かな自然が残されており、それらを活かして宿泊施設をはじめ温泉、物産館、美術館、博物館、キャンプ場など様々な施設を作ってきた。
赤字を出す企業もあり賛否議論を呼んでいるが、それらの施設で働く従業員の数や農産物の生産販売、商品流通等の経済波及効果や交流人口波及効果などを考えると多大なものがある。
そうした施設のより有効な利活用により、町の活性化が図られ都市の人々がそこを訪れることにより交流も生まれる。
たとえば、極端な言い方をすれば、人口5,000人の町で、従業員20人のレストランや物産館などの施設があれば、人口50万人の都市に従業員2,000人の大企業があることに等しいわけであり、こうした施設のより有効な利活用により、町の活性化が図られ都市の人々がそこを訪れることにより交流も生まれ、大変な波及効果があると考えられる。
そうした意味から阿蘇郡内の12町村では連携をしながら、様々な取り組みが展開されている。
[阿蘇の各施設を紹介]
(開業年月日平成11年度の入り込み客数)
① アゼリア (一の宮町) 平成7年 119千人
ドーム状の建物の内部に50メートルの公認屋内温水プール
トレーニング施設、ウォータースライダー、温泉、物産館
② はな阿蘇美 (阿蘇町) 平成11年 310千人
ドーム型温室、バラを中心にローズガーデン、レストラン、食品加工所
③ 木魂館 (小国町) 昭和63年 46千人
農村と都市との交流や学習を行う施設の先駆的なもので、宿泊施設、レストランなどがあり、農村ツーリズムの拠点施設
④ きよらカアサ (南小国町) 平成4年 50千人
小国杉をふんだんに使った、ピラミット型の物産館でジャージー牛乳のアイスクリーム、手作りパンなどを販売
⑤ うぶやま牧場 (産山村) 平成8年 80千人
乳製品加工場、レストラン、観光牧場などがあり施設内に、風力発電施設を建設予定
⑥ 神楽苑 (波野村) 平成3年 200千人
阿蘇にはたくさんの神楽が伝承されており、波野村に古くから伝わる神楽を鑑賞し、特産のそばを賞味できる施設。 建設省の道の駅にも登録されている。
⑦ そよ風パーク (蘇陽町) 平成8年 179千人
都市と農村交流施設で、宿泊施設、ジャム・木工体験工房、浴場、物産館、レストラン、農園などを整備
⑧ 湧水館 (高森町) 平成7年 200千人
白川の源流地 毎分32トン
トンネルの中を散策、水源の資料などが展示されている。
⑨ 瑠璃 (白水村) 平成7年 231千人
温泉、宿泊、レストラン施設の施設
瑠璃という名前は、全国で阿蘇谷と白水にだけ生息するといわれている、大瑠璃シジミという貴重な蝶の名前から取った。ユニークなデザイン注目されている。
⑩ 四季の森 (久木野) 平成7年 85千人
そば道場で有名な久木野村、温泉、レストラン、体験工房などを併設
⑪ ウィナス (長陽村) 平成5年 176千人
南阿蘇の公営温泉ブームの先駆的施設。
温泉施設、トレーニング室、屋内ゲートボール場を併設
⑫ 萌の里 (西原村) 平成11年 184千人
俵山の稜線をイメージした建物 物産館
新鮮な野菜と加工品が並び、田舎料理の食堂を併設、俵山の山歩きの拠点として多くの人に親しまれている。
3. そよ風パークの役割と現状
農山村地域では、多くの従業員を有する企業は少なくこうした施設により、地域住民の雇用確保及び農産物を中心とした商品の販売など波及効果は絶大である。農山村で農業や商業が営まれることが農山村の維持にも繋がると考えられ、観光においても同様のことがいえる。
平成4年に策定した基本構想書「そよトピア構想」は、明るく豊かな地域社会の創造に向けて、健康と福祉を基本軸として活動を展開することとされた。以後、この健康と福祉をテーマにしたさまざまな取り組みが、官民一体となって行われその中心的役割りを担う、農村と都市との交流による新しい地域づくりと地域振興の拠点施設として「そよ風パーク」が建設された。
そよ風パークの概要
1. 設置目的 |
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そよ風パークは、蘇陽町の基本計画である「そよトピア」構想の一環として、爽やかなそよ風の中に宿泊交流施設を整備するもので、町の地域資源を活用するため、町の森林、土地の特性を反映させるよう配慮し、都市で享受することのできない山村が持つ四季様々の風土や自然条件を活用した多自然居住空間の創造を図るものである。
事業の実施により、交流人口の増大、地場産業への経済効果等を通じて若者の定住促進を目指すものである。 |
2. 設置場所 |
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熊本県阿蘇郡蘇陽町大字今297 |
3. 面 積 |
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約15ha |
4. 事業主体 |
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蘇陽町 |
5. 運営主体 |
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(有)そよ風遊学協会 |
6. 対象補助事業 |
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① 農山漁村活性化定住圏創造事業
② 地域農業基盤確立農業構造改善事業
③ 林業地域総合整備事業
④ 熊本県地域総合整備事業
⑤ 人が輝き地域が輝く熊本づくり推進事業
⑥ 若者定住促進緊急プロジェクト事業 |
7. 事業年度 |
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平成5~10年度 |
8. 入場者数 |
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約18万人 |
9. 従業員数 |
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45名16 31 |
10.年間売上高 |
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約3億2千万円程度 |
11.施設内容 |
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そよ風広場 (運動公園・サッカーコート)
そよ風浴場 (浴場・サウナ・レストラン)
そよ風森林公園(アスレチック・植栽公園)
ブルーベリー館(レストラン・展望台)
宿泊交流施設 (本館・洋室・和室・コテージ・山荘)
ふれあい農園 (体験農園・ブルーベリー園)
体験学習施設 (木工・竹細工・農産加工)
多目的広場 (テニスコート・ゲートボール)
交流広場
そよ風物産館 (農産加工・販売所) |
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4. 地域活性化における「そよ風パーク」の効果と課題
農村定住促進事業により建設された施設であり、行政主導で事業が進みオープン後も役場職員の出向により運営を行っていたが、民間企業のノウハウを導入するために大手企業から人材を登用し有限会社への移行を図った。
蘇陽町には、40人以上の従業員を有する企業はなく、こうした施設により地域住民の雇用確保及び地場産品の消費や物産館での農産物を中心とした商品の販売など波及効果は絶大である。また、農山村で農業や商業が営まれることが農山村の維持にも繋がっている。
また、そよ風パークのオープンにより、都市部へ就職していた若者が帰って来るなどUJIターン現象が顕著になり、町に活気が沸き都市からの来訪者との交流も生まれ地域振興にも効果が現れている。
今後の課題として、経営的には、年間1,500万円程度の赤字を計上しており今後、こうした経営面の改善と地域交流の充実を図っていく必要がある。
蘇陽町の基本構想では、農村定住促進事業の理念である、長期滞在型の農村交流拠点施設を中心として地域住民と都市住民との交流による多自然居住地域の創造を図り、蘇陽で暮らす人々も都市に住む人々も美しい自然と共に心豊かに過ごせる安らぎの空間を創出していくとある。
今後、広く情報発信を行い町全体での取り組みを推進し、都市住民との交流を一層深め多自然居住の理想を追求し、地域活性化に取り組んで行かなければならない。
平成11年熊本県観光統計表(表1)
平成11年熊本県観光統計表(表2-1、2)
平成11年熊本県観光統計表(表3)
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