1. 財政規模および実質収支の状況
大阪府内市町村はバブル前、昭和59年度(23億円)、60年度(26億円)、87年度(44億円)と3年連続して単年度収支の赤字が続き、昭和61年度は実質収支が37億円の赤字という状態であった。赤字団体も61年度43団体中15団体と3分の1強の団体が赤字団体で赤字団体の赤字総額は162億円にもなった。
その後、バブル経済で税収が増加したが、歳出の抑制を図りながら実質収支の改善、将来に予測される財政需要に対応するために積極的に積み立てを行ってきた。しかし、バブル崩壊後は税収の落込み、阪神淡路大震災、国民体育大会の開催、一部市町村のバブル対応へのミスリードなどで再び財政危機に陥っている。
平成10年度決算での大阪府内市町村の財政規模は1兆9千億であるが、平成8年以後3年間は歳入でマイナス、歳出もマイナスとなっている。ピーク時(平成2年)250億円の実質収支の黒字が47億円と激減している。単年度収支は2年連続の赤字、実質単年度収支も平成10年度は2年連続の赤字で125億円の赤字となっている。実質収支の赤字団体は8団体で、赤字団体の赤字総額は、450億円になっている。今後、税収の伸びが期待できないなか、さらに財政危機は深刻になると予測される。
赤字団体の特徴は必ずしも財政力の弱い団体でなく、比較的財政力が高い団体、豊中市、枚方市、池田市など名前を連ねており、事態の深刻さをあらわしている。
決算規模及び決算収支の推移、黒字団体・赤字団体の推移
2. 歳入面からみた財政危機
歳入の状況は、バブル当時は地方税が5-6%の伸びを示していたが、その後平成5年、6年、10年とマイナスの伸びとなっている。法人事業税に依存する割合が高い都道府県に比較して市町村は固定資産税が安定的に確保されるために景気の動向の影響力が少ないといわれてきたが、税制改正や特別減税などで財政力の高い自治体が打撃をこうむっているといえる。
平成10年度の地方税は1兆104億円で、対前年比マイナス3.9%となっている。その原因は、前年度の消費税率の引き上げによるかけこみ需要の反動による景気低迷、特別減税や土地の下落や株の低迷で分離譲渡益の減少で市町村所得割が8.9%の減となったこと、又法人割も景気の悪化で実に23.4%の減となった。
平成10年度の市町村民税はバブル期のピーク時、9,114億円に比較すると実に2,000億円の減収となっている。
一方、一般財源の不足をカバーする地方交付税は税収の落ち込みでここ数年高い伸びを示している。平成6年以降、毎年増となっており、平成10年度で歳入に占める構成比も1,479億円で7.3%となっている。大阪府内市町村の不交付団体も増加してきている。箕面市、豊中市、池田市など、従来不交付団体であった市が交付団体になっている。最近では関西新空港で潤ってきた泉佐野市も不交付団体となった。
地方交付税の伸びにもかかわらず一般財源の総額は、必ずしも十分に確保されているとはいいがたい。財源不足を補うために地方債と繰入金で収支をあわせるのが通例であるが、大阪府内市町村の場合、70年代に多額の借金をして財政硬直化をもたらした反省にたって、地方債抑制し、積立金の取り崩しによって収支均衡を図ってきたが、積立金も底をついている現状である。
歳入決算額の対前年度増減率の推移、歳入決算額の構成比の推移
3. 歳出面からみた財政危機
義務的経費と投資的経費に焦点をあててみると「人件費は」、低率な人事院勧告によってここ数年抑制されている。増加要因は退職金である。平成10年度、退職金を除く職員給の伸びはわずか0.3%に過ぎない。人件費の歳出構成比は、税収の伸びで財政規模が膨らんだバブル期には25-26%まで低下したが、最近では歳出抑制で再び構成比率が高まり27%台となっている。「扶助費」の伸び率も生活保護費の抑制でバブル期マイナスを記録したがその後、高齢者福祉の強化などでわずかながら上昇し、構成比率も7%台となっている。「公債費」は、80年代の財政悪化の影響で低下をしていたが最近では伸び率、構成比率とも上昇している。
「投資的事業」は、補助事業のウエイトが低く、地域総合整備事業債などを利用した単独事業が積極的に行われた。バブル期に人件費に匹敵する構成比率をしめていたが財政危機のもとで最近では伸び率では前年比マイナス、構成比率も10%台に落ち込んでいる。財政硬直化が起債する余裕を失っているということである。
「物件費」は、伸び率、構成比率とも他の項目に比較してウエイトが高くなっている。構成比率では、10%台になっている。物件費の内訳は50%以上が委託費で事務事業の委託がすすんでいることが財政的にも裏づけされている。物件費とともに高い伸びをしめしているのが「繰出し金」である。伸び率には、その時々の財政状況を反映してバラツキがあるものの構成比は着実に高まっており、平成10年度では8%台になった。主な繰出し先は、下水道会計である。また、この間、病院の立替えが行われて補助金、貸付金も普通会計を圧迫した。
性質別歳出決算額の対前年度増減率の推移、性質別歳出決算額の構成比の推移
4. 財政指標から大阪府内市町村の特徴
① 100%を超える経常収支比率
財政危機を象徴的にあらわしているのが財政の弾力性を示す経常収支比率である。大阪府内市町村の経常収支比率は全国と比較すると異常に高いと指摘されてきたが、平成10年度は実に府内平均で98.9%となり、経常一般財源を投資的事業に充当することが、全くできないという厳しい状態となっている。市町村別の経常収支比率は別表のとおりであるが、90%以上の団体は34団体、100以上を超える団体は15団体となっている。
財政の硬直化は、分母になる経常一般財源が十分確保されていないか、分子である経常的経費に充当される一般財源が増加した場合が考えられる。
大阪府内の場合、双方の要因がマイナス要因として働いているといえる。経常一般財源等の収入の増減率をみると平成9年度以降低い伸び率となっており、平成10年度もマイナスとなっている。
一方、経常経費充当一般財源は3%から4%の伸びを示している。人件費の伸びは1%台の低い伸びであるが、扶助費、公債費、繰出し金の伸びが高い。扶助費は、高齢者の施設入所、公債費は、総合整備事業債などの元利償還が影響している。繰出し金は、下水道会計への繰出しで、大阪府内市町村は、この間、積極的に下水道建設を推進してきた結果が、扶助費を上回る比率となっている。
財政硬直化の原因は、市町村別にみると異なる、人件費、公債費、繰出金が主要な要因となっている。
経常経費充当一般財源等の増減率、経常収支比率の内訳
② 公債費負担比率の増加
全国的にみると財政危機の原因は、公債費ということになるが大阪府内市町村の場合、公債費負担比率は、ここ10年間のタームでみると全国平均以下の10%台で推移してきたが、平成4年以降、上昇傾向にあり平成10年度においては、13.6%となっている。15%以上の団体も増加して15団体となっている。
公債費負担比率の推移、地方債現在高の標準財政規模に対する比率の推移
③ 将来の財政負担と積立金
景気低迷による税収の落ちこみ、財源対策が交付税の増額という方法で対処されてきた結果、財政力が比較的豊かな大阪府内市町村は、国の財源対策が有効に機能しなかった。しかし、バブル期に蓄えた積立金を取り崩すことによって財政収支を合わせてきたが、積立金も底を尽き、将来の見通しが建てられないのが現状である。
積立金は、バブル期の積立てで平成3年度標準材規模の53.2%で、全国の45.7%を上回っていたが、税収不足を補うために年々取り崩しを行い、平成10年度で33.8%と低下している。平成11年度は、さらに取り崩しを行っているので現在では、さらに低下している。
一方、地方債残高は平成3年度は標準財政規模の1.08倍であったが、その後上昇し平成10年度で1.52倍となっている。さらに、将来の財政負担となる債務負担行為をプラスすると1.7倍になっている。しかし、これは大阪府内市町村の平均であり、個別自治体を詳細に検討すると標準材規模の2-3倍に達する自治体も存在する。
積立金の減少、税収の伸び悩みという、今後、退職者が増加するという人件費圧力のもとで財政危機はさらに深まっていくと考えられる。
将来にわたる財政負担
H10経常収支比率
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