尼崎市の現状と組合の動き

兵庫県本部/尼崎市職員労働組合

 

はじめに

 20世紀の最後の年の自治研集会にむけた文書の作成にあたり、21世紀を予想すると、少子高齢社会の到来は誰しも認識するところである。そして、国をはじめ自治体財政の赤字財政がさらに続くことも大いに予想される。
 右肩あがりの経済の終焉、国をはじめとする地方自治体財政の緊迫、20世紀末における「財政構造改革法」が実行されようとする今後が大いに危惧される。
 しかし21世紀に向けて、新たな動きもみられる。それは北朝鮮にみられる韓国との話し合いに象徴される動きである。国家なき社会への動き。
 20世紀の強力な国家の時代から経済の国際化と地域の統合の動きがあらわれ、国家の枠組みが次第に崩れはじめた。小さな政府への第一歩がすでに始まった。
 つづいて今後の自治体に大きな変化が生まれるもととなる「地方分権」である。それは、90年代初頭における冷戦体制の崩壊、ボーダレス化のなかで、中央集権化された巨大化した中央政府機構と大型財政・高負担を維持できなくなった。すなわち分権化への動きは、中央集権の崩壊である。
 少子高齢社会はより一層高福祉を必要とする。現行年金制度では支給額に対して拠出金が相対的に小さくなり、そして過去の積立金さえ不良債権となっている現状、老人医療費の増大など高負担の限界がすぐそこにせまっている。
 しかし今までの地方行財政は地方自治体の自主性による運営ではなく、中央からの統制と許認可等を必要とし、税財源からも統制と制約のもとにおかれてきた。今後はこの税財源の委譲が求められる。そして自治体の責任はさらに大きなものとなる。
 労働組合も今以上に大きな責任を担わねばならない。市民・住民に対する責任とそこに働く組合員への責任である。
 まだまだ分権化基盤ができずにいる尼崎市職員労働組合であるが、その重要性を認識し、自治研集会で学習し、そして今後の運動としたい。

1. 尼崎の地勢と沿革

(1) 位置及び面積
 阪神都市圏に属する本市は、大阪平野の西部にあって、兵庫県の南東部に位置し東西8.4キロメートル、南北11.1キロメートル、総面積49.69平方キロメートルの都市である。市域の東は神崎川、左門殿川を隔てて大阪市と、猪名川を挟んで豊中市と接し、北は伊丹市と、西は武庫川を境に西宮市と接し、南は大阪湾に面している。市域の約30パーセントにあたる地域が海水面(0.P+2.10メートル)以下となっている。

(2) 尼崎の歴史
 明治維新に際し、尼崎は廃藩置県、廃城令等のため、かつての城下町としての活気を失ったが、明治中期には紡績業を中心として近代工業都市への脱皮が始まり、大正・昭和初期にかけて重化学工業が発展し、昭和18年には人口33万を超える工業都市を実現するに至った。なお、この間、大正5年には尼崎町を中心に尼崎市が誕生。昭和11年には小田村と、続いて大庄・立花・武庫・園田の各村を相次いで合併して現市域が形成した。

(3) 推計人口

世帯数、人口

尼崎市の統計 人口推移

年・月 世帯数(1) 対前年・月増加数 人 口 対前年・月増加数
平成9年 192,456 1,214 484,724 △ 2,941 239,852 244,872
平成10年 193,246 790 480,382 △ 4,342 237,644 242,738
平成11年 194,739 1,493 478,000 △ 2,382 236,333 241,667
平成12年2月 195,293 △ 186 474,459 △ 514 233,952 240,507
平成12年3月 195,209 △ 84 474,104 △ 355 233,702 240,402
平成12年4月 195,184 △ 25 472,945 △ 1,159 233,045 239,900

 先に月間自治研に登載していただいているが、この間の財政状況と組合に対する合理化などを説明し、今後の組合の活動の方向性を「案」として指し示すこととする。

(4) 歳入構造
 地方税については震災以降、97年に少し上昇したものの景気の低迷による減少が見られ、99年に40億、2000年には60億近い歳入不足が予想されている。

(千円)

  1995 1996 1997 1998
歳入総額 210,975,403 225,346,785 227,376,883 213,784,606
地 方 税 80,835,066 87,142,856 90,523,622 86,915,745
地 方 債 32,372,870 34,014,400 29,307,000 24,780,900

歳入総額とその内訳

  なるほど地方債の発行が減じられているが、収益事業収入の落ち込みが大きく、99年の決算状況が明白ではないが、歳入総額が大きく減少した模様である。

年   度

95

96

97

98

歳入に占める地方債構成比率

15.3%

15.1%

12.9%

11.6%

収益事業収入

 尼崎市における収益事業収入とは競馬・競艇における収入である。特に競艇収入は過去一般会計に大きな財源を繰り入れてきた。今までも収益事業収入をあてにした財政運営は景気に大きく左右されるため、経常経費への支出を問題とされてきた。しかし、93年94年バブル崩壊にも関わらず一般会計への繰入れ額を大きく見積もり大きな投資事業を行い、財政調整基金を使いはたした苦い経験がある。
 国・県の支出金については大きな変動は見当たらない。

国・県支出金推移

(5) 歳出構造
 人件費については95年以降も職員の削減による減少が見られる。しかし、人員削減がされるものの今後、毎年200人近い職員の退職が予定されている。1人当たり退職金を2,500万とすると、毎年退職金だけで50億円を必要とする。10年で500億円が必要となる。人件費については今後はさらに増大することとなる。早期に退職準備引当金的特別会計の創設が必要である。

人件費、職員数、定年退職予定者数

 歳出合計は95年の2,070億円から97年の2,200億を最大とし、98年には2,090億に減少し99年以降はさらに減少が予想されている。

歳出合計と公債費

 公債費は年々増加し、99年以降も増えつづけている。
 その結果、歳出において公債費の支出比率が増加し、一層の財政硬直となっている。

歳出に占める公債費

 歳出の中身を目的別に類似都市比較を行うこととする。
 民生費では住民1人当たりで98年度35,000円多い。その中身をより詳しく調べてみるために、2000年度予算を引用することとする。
 民生費の20%を占める児童福祉費は6割が人件費で児童措置費(保育所運営)が残りである。尼崎市には公立保育所が45ヵ所あったが、98年から毎年2ヵ所ずつ、民間に移管されており、児童福祉費から拠出されている。

類似都市との差額、2000年度民生費の内訳、民生費

2000年度予算 

(千円)

款 項 目

構成率

民生費

60,089,630

 

 

 

 社会福祉費

 

31,191,907

 

51.9%

  社会福祉総務費

 

 

14,884,369

47.7%

  身体障害者福祉費

 

 

769,829

2.5%

  知的障害者福祉費

 

 

1,689,521

5.4%

  老人福祉費

 

 

4,956,950

15.9%

  長安寮費

 

 

77,652

0.2%

  老人福祉センター費

 

 

348,892

1.1%

  授産所費

 

 

30,726

0.1%

  年金費

 

 

8,238,458

26.4%

  総合センター費

 

 

109,335

0.4%

  同和対策費

 

 

106,768

0.3%

 児童福祉費

 

12,267,848

 

20.4%

  児童福祉総務費

 

 

7,921,163

64.6%

  児童措置費

 

 

3,350,957

27.3%

  母子福祉費

 

 

5,405

0.0%

  保育所費

 

 

566,508

4.6%

  母子生活支援施設費

 

 

32,711

0.3%

  尼崎学園費

 

 

246,817

2.0%

  あこや学園費

 

 

18,887

0.2%

  たじかの園費

 

 

125,400

1.0%

 生活保護費

 

16,412,329

 

27.3%

  生活保護総務費

 

 

1,162,189

7.1%

  扶助費

 

 

15,250,140

92.9%

 地区会館費

 

199,969

 

0.3%

  地区会館費

 

 

199,969

100.0%

 災害救助費

 

17,577

 

0.029%

  災害救助費

 

 

17,577

100.0%

衛生費
 類似都市との差額では住民1人当たり18,000円多く支出されている。この内訳についても2000年度予算から推測することとする。
 清掃費が57%を占め、衛生費が34%を占めている。清掃費の内人件費等が72%を。クリーンセンター費は焼却工場等の運営費である。ただし2000年度予算には、焼却工場建設費として土地代金の61億円が含まれています。(2000年度予算)
 人件費が多い理由は、定期収集で週に3回可燃ごみ収集が行われており、焼却工場についても直営3交代勤務で運転しているためである。

衛生費、衛生費の内訳、清掃費の内訳

保健衛生費
 尼崎市は6支所があり、各支所に保健所が設置されている(4保健所2出張所)。そのため各保健所での事業の運営上多くの人員が必要とされてきた。
 99年には地域保健福祉計画に伴い1保健所6保健センターに機構改革が行われた。
 保健所費については4保健所2出張所の合計6ヵ所で市民検診業務をはじめとし、一般健康相談・成人保健関係検診(健康審査・胃がん・婦人がん・肺がん・大腸がん)・壮年人間ドック・精神保健相談業務・保健所デイ・ケアー教室・家族心の健康の集いを開催している。母子保健・母体保護・保健婦活動(家庭訪問・所内面接指導)衛生教育(老人・主婦・家庭看護)等を対象者ごとにきめ細かな事業が実施されてきた。

土木費
 土木費用については類似都市比較において98年度においても31,754円も多く支出されている。
 これは阪神・淡路大震災以降も区画整理事業や阪神尼崎駅周辺・JR尼崎駅北の開発事業が続いており、結果大きく投資事業が継続されている。

土木費(住民1人当たり類似都市との差額)、土木費、投資事業費

 平成12年度予算は367億円と減額はされた。住民1人当たり7万円前後となるだろう。類似都市比較でも27,000円のマイナスと想像するが、財政規模縮小の中では当然の予算であると考える。
 投資事業費からみても95年以降大きな伸びがあり、国・県からの補助を受けるといえども、ウラ負担による起債発行が続いた。平成12年度予算では47億円の市債が予定されている。
 このような財政構造のもとで、投資事業、特に土木事業の縮小が大きな課題である。
なぜなら震災復興事業の消滅以降、新たな事業として市は更なる開発を実行し続けている。そして何年もの継続事業としてこの土木事業が続けられれば、益々財政悪化が続くこととなる。標準財政規模の何%と、限定できればいいのだが。
 歳入・歳出規模の縮小が今後進めば公債費比率は上昇することとなる。すなわち財政構造はさらに悪化する。債務負担行為額や公債費率からみても市税収入の落ち込みを原因とはするが、悪化原因(バランス不良)としては土木事業等の投資事業にあることは明白である。
 公債費比率は他の自治体に比較すると低いが過去、競艇事業収入などにより、起債制限がされていたためである。

公債費比率

 この様に尼崎市の財政状況は年々硬直状況にあり、財政の健全化に向けた取り組みが必要である。しかし市当局は、財政の悪化理由の根本的対策(取り合えずは土木事業が縮小されたのだが)を後回しにして、そしてこの財政状況をつくった責任を回避し「金がない」を理由に人件費の削減のため96年から2000年まで450人の削減を行った。特に2000年4月においては、予算定数をも確保せず、アルバイト配置を行うなど無謀ともいえる職員配置となった。
 この間の尼崎市における対策をいま少し述べることとする。

2. 尼崎市の財政健全化攻撃と組合の運動

(1) 尼崎市行政改革推進計画
  95年9月1日、尼崎市は「行政改革第一次推進計画」を発表した。9月26日には「行政改革第一次推進計画」に伴う7項目の合理化提案が示された。
  組合は、①市民や職員にしわ寄せする行政改革に反対である。②現に仕事があるのに民間委託や統廃合するのは反対である。という基本的態度を明らかにし、さまざまな取り組みを行ってきた。結果的には当局の提案どおり4月1日からの強行実施となった。この年当局は財政収支見通しを出し96年2月に「5ヵ年の財政再建計画」を発表した。
  当局は財政再建計画期間中における「賃金抑制」「定数削減」「欠員不補充」等の攻撃をかけた。
  組合は尼崎市の今日の財政悪化に至った原因やその責任問題を曖昧にしたままで職員にしわ寄せするのではなく、原因の分析と検証を行うべきであるという立場から一定の財政分析に取り組んだ。
  97年には退職手当削減提案が出された。そして「行政改革第2年次の合理化」として土地境界明示業務の見直し、ホームヘルプ事業の民間委託、計量検査所業務、防疫所業務の見直し、公用自動車運転業務の見直しが行われ、定年退職等に伴う欠員に対しては、臨時職員や嘱託職員が配置され、多くの職場で欠員が生じた。
  この間97年度までに現業職員が126名削減された。もちろん組合はこの間多種多様な戦術を行い全ての「合理化項目」にわたって提案を修正・撤回させた。
  98年には尼崎臨時職員労働組合が結成され自治労加盟をはたした。
  同じく98年11月、市長選挙では三単組(市職労・水道労組・交通労組)で現宮田市長と政策協定を締結し推薦を行い、再選をはたした。
  99年の確定闘争ではラスパイレスが高いという理由で全職員の1年間の昇給停止が行われ、58歳昇給停止が実施されることとなった。
  しかし、尼崎市の財政状況は改善されず、益々硬直化している。市職労は限られた予算で市民サービスを行うため、外部監査の必要を説いた。

長期債務比率

市町村のラスパイレス指数上位団体

団 体 名

平成11年指数

国 分 寺 市

    107.4

武 蔵 野 市

    107.3

福  生  市

    107.2

浦  安  市

    107.0

三  鷹  市

    106.7

尼  崎  市

    106.7

八 王 子 市

    106.6

小 金 井 市

    106.6

日  野  市

    106.6

東 村 山 市

    106.6

3. 尼崎市の新たなる動きと組合の展望

 このような状況で尼崎市当局は、市の外郭団体である未来協会を中心に「事務事業評価システム研究会」を発足した。この研究会は関西学院大学産業研究所助教授石原俊彦先生をアドバイザーに企画財政企画部長・財政部長・人事部長・行政改革推進室長等の部課長がメンバーとなりスタートした。
 目的は、「長期にわたる景気低迷の影響を受けて市税収入の落ち込みや公債費などの義務的経費の増加により尼崎市の財政構造は悪化し今後の財政見通しにおいても収支不足が見込まれることから抜本的に財政構造の改善に着手しなければならない状況となっている。限られた資源で多様化する市民ニーズに的確に対応していくには、新たな視点から事務事業を見直し再構築していかねばならない。
 また、行政サービスの受益者である住民の意識は大きく変化してきており、価値あるサービスを行政から提供されているかどうか税金の使われ方が問われるようになってきている。そうした住民の納税意識の変化は、行政運営に関する情報開示の要請となって近年非常に高まってきており、事業の成果に係る行政の説明責任の重要度は、今後ますます高くなっていくものと考えられる。
 こうした状況を踏まえ、尼崎市では11年度から「尼崎市事務事業評価システム研究会」を発足させると共に監査法人トーマスの協力・支援を受け、新たな行政運営システムの構築に向けて、事務事業評価システムの調査・研究を進めてきた。11年度においては、モデル事業を評価することによって検討の成果の検証を行った。本報告書では、事務事業評価システムの導入にあたり基本的な視点と方向性を示すと共にモデル事業評価の調査結果内容と12年度以降に向けた課題等の整理を行っている。」としている。この事務事業評価システム研究会作業部会には現市職労執行委員の益田昭男氏も参加している。今回はこの事務事業評価システムの内容を記載することはしないが、一部実施された評価結果報告を行うことする。

4. おわりに

 先般、月刊自治研に登載された文書を読んだ組合に近い市会議員は、「記載した課題については、組合内の自治研究会で研究するべきだ」とアドバイスをくれた。また無所属議員も私の書いた文書を読んで内容のレクチャーをと望まれた。組合活動の繁忙さに自治研究会の開催ができずにいるが、(但し、尼崎市の事務事業評価システムのアドバイザーをされている関西学院大学の石原先生においでいただき、組合員を対象とした学集会を2度開催してきた。)私たちの思いと同じくする議員や組合員が多くいることは大いに励みとなる。
 市当局は交渉の中で、たびたび「赤字準用団体」という言葉を発している。もちろん赤字準用団体に陥ることには問題であるが、この赤字準用団体となるには、市民(議会)の承認が必要とされる。議会対策(議員の圧力)に抗じ切れなくなるなら別であるが、自助努力で再興が可能と思うがゆえにこの「事務事業評価システム」に期待をかけているものである。
 これが市民や組合員にとってベターなものかは別としても、市民に多くの情報の公開が、結果、「市民が選択する尼崎市」に生まれ変わると期待する。
 運営・実施・中傷等多くの課題もあろうが、地方分権の一助になることを期待している。
 私はこの間、尼崎市の財政分析にあたり悩むことがいくつかある。それは自分の属する自治体の財政が「いいのか・悪いのか」ではなく、例えば人件費が高い場合、なぜ高いのかを調べると、ハコモノが多いとか市民サービス内容に違いがあったりする。しかしそのことが市民には知られていない。時々耳にすることは「尼崎市から引越しをして初めて知ったのは、それは下水道代が非常に安かった。支所・出張所が近くにあって便利だった。図書館や児童館そして会館が沢山あって便利だったことが分かった」と。なるほど自治体財政は膠直状況にあるが、その原因が知られていないことには大いに残念でならない。もっともっと尼崎のよさ(良い点)を市民に、そして他の自治体に宣伝したいものである。国道43号線公害問題は多くの自治体職員をはじめ多くの国民の知るものとなっているのだが。そして財政健全化には市民負担が増大することになる。一方の結果(市民サービス)ともう一方の支出をハカリにかけて市民に判断を願う以外に方法はないように思えてならない。
 労働組合が勝ち取った既得権はすでにないものとなった。すべての情報が市民の前に開示される今日である。職員の中には多くの組合員が未だに過去の遺物に執着する者も多いことも事実だが、すでに後戻りはできない。これからの道のりの困難さは十分想像できる。すでに錨は上げられ、帆も上がっている。組合幹部の指導が今後、組合員の行く末を良きにも悪しきにもするものと認識をしてさらに汗をかかねばならない。

モデル事業一覧表

モデル事業評価一覧表