1. はじめに
数年来地方財政の危機が叫ばれ、多くの新聞紙上を賑わせ幾多の機関紙等でその分析や解決方策が論じられてきた。最近、あまりそのような記事を見かけることが少なくなったのは気のせいであろうか。
2、3年前は、日本経済がどん底で立ち直ることができるかできないかの瀬戸際であり、それに伴う税収不足が都市部の自治体を直撃するなどオイルショック以来の財政危機に直面していた。財政当局も自信喪失をしていた時期であった。
それに対し、小渕前首相の「景気回復優先・財政拡大」路線によって、今年に入ってようやく経済の先行きに明るさが見えてきたと言われている。財政危機の論調が鳴りをひそめたのはそのせいであろうか。それとも、のど元過ぎれば熱さ忘れるで、飽きがきて話題性に乏しくなったからであろうか。
しかしながら、国地方を合わせて600兆円を超える空前の借金を抱えるなかで、お世辞にも財政状況が好転したといえる状況にはないことは明らかである。国が「財政再建」路線に転換したとき、再び三たび慌てふためく地方自治体がどのような方策をとるのであろうか。
こう考えるとき、組合として継続性をもって財政をチェックし監視しておくことは、何よりも今日的な労働運動の最重要課題といえる。すなわち、現状の分析にとどまることなく、情報を共有し、その能力をもった人材を育成することが大切になってくる。
2. 町職の取り組みと経過
このような状況において大栄町職として、はじめて財政問題に取り組んだのは'98年であった。県本部の指導を受け、執行委員会で必要性・方向性・方法論などを論議し、その年の11月にプロジェクトチームを立ち上げることができた。
この取り組みにあたって留意した点は次のとおりである。
① 財政問題は当局の責任にとどまらず、行政を担う職員としての責任問題でもあるとの認識のもとに、町職として財政分析を行う。
② 分析にとどまらず、解決策を示すとともに政策形成能力を身につける。
③ 分析結果等を組合員に報告し、学習会等を通じて財政状況を判断する能力を養うとともに人材の育成に努める。
④ 財政危機を招いた原因を明らかにし、安易な合理化攻撃を許さない。
⑤ その結果をもとに当局と交渉を行い、財政の健全化を基盤に据え、優先順位を明確にした政策の遂行を行わせる。
組織編成としては青年部・女性部から若い組合員を加えた構成を行うことに留意した。以下はその取り組みの経過である。
'98.11 |
第1次財政分析部会発足
数回にわたる財政分析作業(基礎データ収集、財政チェック表)
赤碕町職から講師を迎えて学習会 |
'99.2 |
中間報告(宿泊学習会で組合員に対し)
財政分析作業(検討及び修正) |
3 |
町長選立候補者に対し「財政運営」に関する質問書を提出 |
4 |
吉田新町政が誕生 |
7 |
新町長と財政問題について交渉(財政状況の見通し) |
8 |
プロジェクト報告集会(組合員に対し「財政状況検討報告書」を提示) |
'99.10 |
第2次財政分析部会発足
財政分析作業(県本部の助言を受けながら、検討及び修正) |
'00.1 |
別添「平成12年度予算編成に対する緊急提言」を当局に提出 |
'00.2 |
宿泊学習会において財政分析学習会を開催
財政分析作業(検討及び修正) |
これらの取り組みをとおして本町の置かれている財政状況が明らかになるとともに、これまでの町政の遂行過程において、平成3年度から下水道事業に取り組んでいるにもかかわらず、起債を財源とした大型公共事業が数多く実施されてきたことが明らかになった。
このことを組合員が学んだことの意義は大きく、行政全体の立場から自らの置かれている立場を認識することに役立つとともに、町政に対する批判能力の向上に役立つものであると考えている。また、財政分析における専門用語、各種指標・統計表などを繰り返し学び、議論したことによって、難解と思われている財政問題が一部専門職の独占事項ではなく、広くみんなのものになり、身近に感じられるようになったことは大きな成果である。
3. 当局との交渉
この間、28年間続いた前田町政が退陣を表明する中、'99.4に三つ巴による激しい町長選の結果、吉田新町長が誕生した。組合としては、財政運営を重用課題として位置づけ、3人の候補者に財政再建をはじめとする質問書を提出し回答をもらったが、模範解答ばかりで政策の優先順位も明確になっておらず不満を残すものであった。ただし、「大栄町の財政は危機的な状況にある」という認識を促す程度の効果はあったと認識している。
当局に対しては、'99.7に吉田町長出席のもと、「①組合活動に対する姿勢、②地方分権における住民本位の政策展開について、③財政の健全化について」を柱に考えを問いただした。特に①と③を重点項目として時間を割いた。財政チェック表をもとに、公債費比率・経常収支比率の上昇など過去10年間の経過をふまえ、丁寧に説明し、H13年度以降財政運営が非常に厳しくなることを指摘した。また、ひも付き財源による公共事業、一般財源とはいえ地域総合整備事業債を活用した公共事業、下水道事業への繰出金の増加がいかに財政を圧迫しているかということについても説明を行い、「財政適正化計画」の策定を含めた当局の対応をただした。
これに対して、「財政の厳しさは承知しており、①肥大化した財政規模を縮小の方向にもっていかざるを得ないこと、②下水道事業は計画期間を延長する方向で検討していくこと、③現在の職員待遇は維持していくものの、今後職員の採用を手控えざるを得ない状況にあり職員の質的向上をもってカバーしていきたい」旨の回答を得た。ただし、適正化計画の策定には言及されず、これからの事業展開をにらみ、あまり手足を縛られたくないという思惑が感じられた。
4. 財政分析結果と今後の対応
財政分析結果については、別紙「平成12年度予算編成に対する緊急提言」にまとめており、そちらをご覧いただきたい。現7月段階における分析については、11年度決算統計資料を入手したばかりであり、現在作業を進めているところである。
その後の当局の対応であるが、本当に危機感をいだいているのかどうか疑問である。
下水道事業の期間延長については、いまだはっきりとした見直し案は提示されておらず、単年度の予算削減という場当たり的な手法にとどまっている。投資的経費については、今年度新規の大型事業を組んでいないので削減されているものの、来年度以降、数本の新規道路整備が計画されているとの情報もあり、事業の必要性と財政運営の整合性においてどのような検討がなされているのか、疑問が残るところである。反面、職員待遇の面においては、特殊勤務手当ての全廃、旅費規程の見直し・削減などが組合との協議を打ち切る形で強行されるなど、財政危機を口実とした合理化攻撃の意図が見え隠れしており、今後より一層警戒を強める必要がある。
しかしながら、組合側から財政の適正化を求めている手前、職員待遇の削減について何でも反対の立場をとるわけにもいかず、ジレンマを抱えた闘争となっているのが現状である。
組合としてきちんとした理論と方向性をもって、当局の意図をはねかえし、本当の意味での財政の健全化を目指してたたかっていかなければならない。
平成12年度予算編成に対する緊急提言
平 成 12 年 1 月
大栄町職員労働組合
平成12年度予算編成にあたって
はじめに
現在の地方財政は、戦後3回目の財政危機に直面していると言われる。先日の日本海新聞(1月16日付)でも'98年度・全国都道府県の決算において実質収支が20年ぶりに赤字に転落したことが報じられた。地方税収の落ち込みと公債費比率の上昇が主な要因であるとの指摘であった。
本町もその例外ではないとの認識のうえから、財政分析部会において以下の検討を行ってきた。未だ分析の途上ではあるが、12年度の予算編成に際し、その要旨を汲み取っていただければ幸いである。
[現状と今後の見通し]
1. 将来推計(17年までのシミュレーション)
(収 入)
地方税、地方交付税、国県支出金等基本的に12年度以降伸び率0と想定
地方債は投資的経費の約7割として、12年度以降3億5,000万円
繰入金は12年度で約3億3,000万円、全額基金を取り崩したと想定
(支 出)
人件費、物件費、扶助費等基本的に11年度対比伸び率0
公債費、繰出金は現在の計画を元にした今後の推計数値
投資的経費は12年度以降約5億円に縮小
(推計結果)
13年度決算から約2億円の赤字を生じ、償還のピークを迎える16年度決算では約15億円の累積赤字となり、財政再建準用団体の基準となる赤字額(標準財政規模の20%)を上回ってしまう。シミュレーションの一つとはいえ、なぜ、こんな心配をしなければならないような状況になってしまったのであろうか。
2. 現状の分析
① 収支均衡の原則
平成10年度まで実質収支が赤字になっている年度はない。通常の財政運営を心がけていれば当然のことである。
単年度実質収支は赤字になったり黒字に転じたりしているが、税収や交付税の伸び、収入実績等に左右されると考えられる。赤字といっても小幅にとどまっており問題視するほどの状況ではない。
② 財政構造の弾力性の確保(経常収支比率)
財政の弾力性を示す「経常収支比率」は平成元年度で71.8%、5年度で74.7%、9年度で要注意ラインの80%を超え81.2%、10年度で80.9%となり、着実に硬直化が進んでいる。
内訳をみると、人件費比率は元年度35.7%、5年度33.8%、10年度29.2%と低下傾向にある。
これに対し明らかに増加傾向が顕著なのは公債費比率である。元年度13.0%、5年度で要注意ラインの15.0%、9年度で危険ラインの20%を超え10年度で22.8%、今後さらに伸び続け、償還ピークの16年度は26.5%と予想される。本町の標準財政規模の肥大化(分母が大きくなっているにもかかわらず)を合わせて考えるとき、明らかに異常なまでの借金体質が浮き上がってくる。
最後の繰出金であるが、元年度1.1%、5年度3.1%、10年度4.1%となっており、公債費ほどではないが財政規模の拡大を合わせて考えると、比率以上に金額の増加がみられる。
③ 長期的財政安定の原則(起債制限比率)
意外にも本町は低い水準で推移している。元年度12.5%、5年度11.8%、10年度12.3%、16年度推計でも13.4%であり、警戒ラインの15%にも届かない。公債費比率は高いのに、起債制限比率は低いという一見相矛盾した現象が生じている。詳しい考察は今後にゆだねるとしても、公債費のなかに「基準財政需要額に算入される公債費(事業費補正分)」が3億円以上もあり、これが起債制限比率を押し下げている大きな要因であると思われる。
以上3つの指標を概観したが、今日の財政事情の逼迫は、明らかに中長期の財政見通しを軽視した起債の乱発(借金に頼った)による事業のやり過ぎであるという他はない。これは全国的な傾向であり、地域総合整備事業債など借金返済の一部を交付税で補填するというアメ(麻薬?)に群がって、国の景気対策に追随する形で公共事業を行ってきた放漫経営の結果である。
近年をみれば、平成4年度から地方債の額が一気に増大し、7年度には15億円もの地方債が増発され、借金を主要財源とした事業が展開されていることがわかる。
下水道事業はさておいて、特に平成6年、7年度から大型事業が目白押しである。
以下は10年度までの実績数値である。
歴史文化学習館 |
3億8,000万円(うち地方債2億7,000万円) |
TCB |
18億7,000万円(うち地方債7億7,000万円) |
西高尾ダム周辺整備 |
7億8,000万円(うち地方債6億4,000万円) |
ふるさと林道 |
4億3,000万円(うち地方債4億3,000万円) |
東園日本隠線道路改良 |
5億3,000万円(うち地方債4億1,000万円) |
等々である。その他、図書館、健康増進センター、史跡調査など大型事業は枚挙にいとまがない。
もちろん、借金をして事業を行うことが悪いというわけではない。教育施設の充実、地域環境の整備など、将来の世代も恩恵を被る事業は、起債を財源として行って当然だともいえる。
ただし、近年は財政見通しをおろそかにして、主要財源を借金に求めた財政運営を行ってきたことに大きな問題があると言わざるを得ない。
[今後の取り組み及び方向]
本稿の冒頭において、将来推計を立てたが、あくまでさまざまな考え方における推計の一つということであって、必ずしも悲観的になる必要はないと思われるが、最悪の場合、あのようなケースもあり得るということを念頭に置いて今後の財政運営に当たられたい。
今後、取り組むべき課題としては中長期の財政適正化計画の確立である。具体的には「公債費適正化計画」や「経常経費の削減計画」、「事業の見直し」などである。
① 公債費は過去に行った事業費の返済という性格をもつ以上、支出予定額は確定的なものであるが、金利の低いものへの借り換え、繰上償還等実現可能かどうか検討の余地があると思われる。
② 経費の削減であるが、「無駄なものは省く」という大原則にたって経費の洗い直しを行うべきである。ただし安易な人件費の削減には反対である。なぜならば、今日の財政危機は事業のやり過ぎに伴う公債費の増大に伴うものであることは明らかであり、その尻ぬぐいを安易に職員に押しつけることは論理的な整合性を欠くからである。
③ また、事業の見直しも不可欠であるが、前述と同様これまた安易に住民に不利益をもたらすことは避けなければならない。公共性・緊急性・必要性の観点から事業の優先順位を明確にし、町民に説明し、理解を求めるなかで見直しを行わなければならない。
補助事業の精査を(新規事業には慎重であるべき)行い、財源をいたずらに地方債に依存しないよう心がけるべきである。
おわりに
このように財政の適正化といっても、非常に困難を伴うことは想像にかたくない。あちらを立てればこちらが立たず、といったようなジレンマを抱えながらの難作業である。しかし、手をこまねいていては、財政破綻の危機は刻々と近づいてきている。早期発見、早期治療の時期ではないかと思われる。
町当局におかれては、この提言の趣旨をご理解いただき、内容を真摯に受け止め、改善に向けた総合的な取り組みを行われる責務があることを申し上げ、間近の12年度予算編成に取り組まれることを要望するものである。
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