県債から見た県財政
― 身の丈にあった財政運営と職員の意識改革 ―

香川県本部/香川県職員労働組合・財政分析会議

 

1. 県債の現状分析

 一般会計県債残高は、1997年(平成9)年度末で507,252百万円、1998(平成10)年度末で563,730百万円、1999(平成11)年度末見込みでは597,832百万円となり、12年度当初予算総額505,478百万円を優に超えることとなった(図3)。単年度の一般会計県債発行額は、バブル期前の1988(昭和63)年度は24,760百万円(歳入総額の7.1%)であったが、1998(平成10)年度には89,841百万円(同15.9%)となり65,081百万円(362.8%の伸び)の増加となっている(図)。
 同期間の歳入総額は219,367百万円増加しているが、そのうち県債は65,081百万円(29.7%)を占めている。特に、1992(平成4)年度から急激に県債発行額(41,163百万円)が増加(対前年度比152.1%)しており、1988(昭和63)年度に比べて16,403百万円の増加(166.2%の伸び)となっている(図1)
 一方、歳出面でも、普通建設事業費が1992(平成4)年度に急激に増加しており、1991(平成3)年度に比べ24,929百万円(121.4%の伸び)の増加となっている。この年度は、国体関連や国の総合経済対策に伴う公共事業の追加措置等により、21,781百万円の追加補正を行った。特に単独事業は前年58,830百万円(構成比49.7%)から16,355百万円増加の75,185百万円(構成比51.0%)となり、以後箍を緩めたように急激に伸びていき、1996(平成8)年度には、100億円を超えることとなる(図)。普通建設事業費全体では、1988(昭和63)年度(98,075百万円)から1998(平成10)年度(176,171百万円)までに78,096百万円(179.6%の伸び)の増加となっている(図4)
 次に、普通建設事業費の内訳をみると、1988(昭和63)年度は、補助事業費46,450百万円(46.8%)、単独事業費48,582百万円(43.9%)に対して、1998(平成10)年度は補助事業費64,546百万円(35.7%)、単独事業費104,873百万円(58.0%)となっており、その割合が逆転している。特に単独事業費は、同期間で61,291百万円(240.6%の伸び)と大きく増加しており、1998(平成10)年度歳出額の約2割を占め、県債発行額の大きな要因の一つとなっている(図4)。理由としては、1985(昭和60)年度から始まった補助率削減、度重なる公共事業による国の景気対策に地方財政が動員されたこと、特に国の財政悪化に伴い単独事業へ公共事業の比重がシフトしてきたこと等があげられる。
 これを物語るものとして、県債発行残高の目的別内訳では、1998(平成10)年度(9月補正後)末で、一般単独事業債338,944百万円(60.0%)、一般公共事業債54,351百万円(9.6%)、臨時公共事業債69,906百万円(12.4%)となっており、公共事業関連の県債残高は約85%と極めて高い割合となっている(図3)。この割合は、全国平均(約65%)を大幅に上回っている。伸び率でみても、臨時公共事業債及び一般単独事業債は高い伸び率を示している(図3)
 1998(平成10)年度普通会計の各種財政指標は、公債費比率16.7%、公債費負担比率16.8%、起債制限比率12.2%であり、全国平均(公債費負担比率15.6%、起債制限比率10.6%)を上回っている。全国的にも悪化の傾向ではあるが、香川県財政も正に黄色信号から赤信号に変わろうとしている。

2. 課 題

 近年、少子化で結婚してからも親掛かりの生活をするケースがある。例えば、次のようなケースを考えてみよう。
 結婚して数年後に、家を建てたとしよう(もちろんマンション購入でも良いのだが)。その際、自己資金だけでは足りないので、住宅金融公庫か銀行で住宅ローンを組む。この際、保証契約をするケースが多いが、当然親にも相談するだろうから、その後金銭的な支援がなされる場合も少なくないであろう。例えば、毎月の生活費の一部援助や親の近くや場合によっては同じ敷地内に住む場合も結構あるので、何かの生活支援がなされているケースが多いだろう。
 さて、そこまでは良いのだが、この子どもが一般的なサラリーマンで金銭的にあまり余裕がなく、また物心とも親から独り立ちできず、また親もなかなか子離れできずいつまでも「子どもは子ども」とパターナリズム(父権的温情主義)的な関係でお互いに生活している場合はどうなるだろう。
 子どもは、「親が支援してくれるのなら、結構美味しい。じゃあ、次は車を買い換えようかな、そして別荘も欲しいし…」と自らの身の丈を考えず、次から次へと親の支援を当てに投資をしていく。親も可愛い子どものためだから、できるだけのことはしようとするが、親の財布も決して無尽蔵ではなく、とうとう自らも借金をして投資をし、子どもへの支援も一部借金をする羽目になってしまった。そして、親子共々自己破産…なんてことはないだろうか。
 このケース、「子ども」を「自治体」、「親」を「国」、「家、車、別荘」を「公共事業・ハコ物」、「自己資金」を「自主財源・税金」、「ローン」を「県債」、「金銭的支援」を「国庫支出金・地方交付税」、「独り立ち」を「地方分権」、「パターナリズム」「中央集権」、親の「借金」を「国債」、子どもへの支援のための「借金」を「地方交付税特会の借入金」にそれぞれ置き換えれば、今の国と地方の財政関係をそのまま言い表せるのではないだろうか。
 第一の課題は、親の支援を当てに借金を重ねてきた「甘えの体質と構造」である。
 つまり、地方債と地方交付税が共に補助金化し、国の政策誘導に使われているということである。一言で言えば「交付税措置されることにより起債の認識が甘くなる」ということである。「国が優遇する起債には交付税措置があるから、自治体の目には、あたかも補助負担金と同様、「国からくる財源」と映るほどである。(1)
 これが、地方交付税の補助金化といわれるゆえんである。その他にも、交付税には補正係数の不明確さや交付税特別会計の借入金など様々な問題が存在するが、1997(平成9)年度の全国の基準財政需要総額444,847億円のうち45,425億円(10.2%)が、地方債の元利子償還金分として算定されている。(2)
 そのうえ、「交付税に算入される地方債は、償還時において地方公共団体共通の財源である地方交付税が充当されるものであって、地方財政全体からみれば、公債費の削減に直接つながるものではない。…交付税総額が加算されない限り、すべての団体が同じように交付税措置のある地方債を発行すれば、だれも「面倒をみて」もらえないのと同じになる。(3)
 地方債のなかでも、先に述べたとおり特に一般会計債の一般単独事業債の割合が高いところが根本的な課題である。
 一般単独事業債が多い要因の一つに、地域総合整備事業債があげられる。まちづくり特別対策事業、ふるさとづくり事業などについては、元利償還金の一部を事業費補正によって地方交付税の基準財政需要額に算入することによって、地域活性化という名目の下に地方単独事業を積極的に推進してきたことも指摘しておかなければならない。
 第二の課題は、先のことを考えずひたすら「家、車、別荘」等の投資に励み、身の丈に合わない生活を続けてきた「自律性の欠如」である。
 「国庫補助負担金や地方債制度は、個別施策の財源保障ともいうべき機能を果たしている。」「この特定財源システムにおいて、自治体は必ずしも被害者ではなく受益者であった。…これらの財源は自治体にとって施策を財源つきで与えてくれるものであり、また自治体内部では「補助事業であれば、あるいは適債事業であれば」優先的に予算配分が認められるという守護神の役割を果たしてきた。そして、一般財源が所与であるとすれば、こと特定財源の選択こそが、自治体の政策形成の場であったといえる。(4)

3. 方向性

 第一に、議会による起債総枠規制の強化である。(5)
 議会の現状については、あらためて言及はしないが、より一層のチェック機能を果たすことが望まれる。具体的には、単年度の予算において起債額の総枠(上限)を設定する方法、利子支払年額を過去数カ年の平均予算の一定比率内に制限する方法、(6)中期的な財政計画のなかで単年度及び全体の起債総額を設定する方法、また大規模事業については、単年度の財源だけでなく将来的な元利償還金や収支見通し等を立てたうえで予算化する方法(7)など、議会による統制と行政の自律性を高める方策を検討していく必要がある。
 大分県竹田市では歳入歳出年次総合計画(中期財政計画)のなかで1998年度以降起債限度額を7億円に設定し、自律的に起債を抑制している。(8)
 なお、起債の規制については、まず財政運営を担当する自治体自らが自己規制をすべきことはもちろんのことであり、その上で議会のチェックを求めるものである。
 第二、住民投票による直接的規制である。(9)
 アメリカでは、32州で公立学校の建設費用を賄うために公債を発行するには住民投票が必要とされている。また、コロラド州ボルダー市では、税目や税率は全て住民投票で決めるうえ、起債についても起債目的と元利償還財源を明示して住民投票で決定している。(10)「これまでの日本のシステムを国がモニターする自治と形容すれば、先のアメリカの市のシステムは住民がモニターする自治である。(11)
 このような住民投票を条例で制度化することの適否については、首長や議会の権限を侵すものでない限り、つまり法的拘束力をもたない参考的・尊重的なものであれば適法であり、住民自治を育てていくためにも、非常に大きな意義をもつものと思われる。(12)
 地方分権の目的を、自治体と住民の自己決定と自己責任による自主的・自律的な地方自治の実現と位置づけるなら、起債の自主的・自律的運営についても、住民に対して事業とその起債に関する具体的な情報を提供・公開していく必要がある。

4. まとめ

 この分析をとおして、①三大プロジェクト(瀬戸大橋、新高松空港、四国横断自動車道)を推進している時期は、「箱もの」事業が抑制されていたため、近年(主に1991年度以降)になり、その後れを取り戻そうと、国の景気対策(主に単独事業)に乗り、身の丈以上の財政運営を行ってきたこと、②その財源は補助金ではなく、交付税に反映される「有利な起債」で賄ってきたことが分かった。
 これまでの反省に立ち、分権型社会の県財政のあり方を考えるならば、まず第一は、国から地方への財源移譲を実現する必要がある。第二は、開発志向型の公共事業優先の行政から環境保全・セイフティーネット整備型の行政への転換を図る必要がある。第三は、国への依存体質を改め、「自分のことは自分で決める」という、財源(コスト)問題も含めた職員の意識改革が必要である。
 しかし、これらの前提として、住民・職員に情報を公開し、行財政全般について議論できる場を設ける必要がある。そういう場を通し、職員が自らに足元を見つめ直し、自らの仕事だけでなく、県行政を客観的に分析することによって、県行政全体の中での自分達の位置づけや事業の必要性・プライオリティーを考えることが重要であり、今後求められていることではないだろうか。

*参考文献
(1) 木村武司「税財政と分権改革」月刊自治研4月号第41巻通巻475号16頁(自治研中央推進委員会事務局、1999)
(2) 地方交付税制度研究会「平成10年度地方交付税のあらまし 1.地方財政と地方交付税制度 2.地方財政の現状と課題」43頁(地方財務協会、1998)
(3) 池上岳彦「第2章 一般財源主義の限界と新たな一般税源主義の課題」神野直彦・金子勝ほか『地方に税源を』122頁(東洋経済新報社、1998)
(4) 木村、前掲書17、18頁
(5) 澤井勝「分権改革時代の地方財政 ― 起債許可制度の廃止の向こうに見えるもの ―」月刊自治研3月号第40巻通巻462号23、24頁(自治研中央推進委員会事務局、1998)
(6) 鈴木茂「地方債と地域金融政策」、「シャウプ使節団日本税制報告書」池上淳ほか『地方財政論』164、237頁(有斐閣、1990)
(7) 「地方財政赤字と公共事業 ― 96年度地方財政白書から ―」自治研情報 THE 分権№7、4頁(自治労香川県本部、1998)
(8) 澤井、前掲書(6) 23頁
(9) 澤井、前掲書(7) 24頁
(10) 木村、前掲書21頁
(11) 兼子仁・関哲夫編『自治体行政法辞典』79頁(北樹出版、1987)
(12) 澤井、前掲書(7) 25、26頁