1. はじめに
筑後市は面積41.85k㎡と比較的小さく、人口は平成12年3月末現在47,173人で平成4年ごろから微増し続けています。年齢構成は20歳前後での流出が激しく高齢化も着実に進行し、高齢化率(65歳以上)は18.7%となっています。就業者生産額でみる筑後市の産業構成は、第三次産業の比重が高まりつつありますが、周辺他都市などに比べると第二次産業、特に製造業の割合が高い数字を示しています。
第二次産業は、比較的少数の事業所数で多くの従業員を抱え、相対的な強さを発揮していますが、反面、第三次産業の事業所数は多いものの、その規模は小さく、市の経済活動は全体に製造業に依存する度合が強い構造であります。
筑後市の平成12年度の予算規模は146億円、一般財源は90億円となっています。最近の財政状況は全国的な地方財政危機の様相と同じように、バブル経済崩壊による平成不況の煽りを受けて歳入が一時伸び悩み、歳出においては起債に頼った普通建設事業等による公債費が増加するなど、きびしい財政運営が続いています。また、平成11年8月に市立病院の改築、平成12年4月に一部事務組合による焼却炉の改築、さらには、2市4町の区域での流域下水道の整備が進められていること等、今後さらに財政負担を伴う事業が立て続けに計画実施され、将来の財政運営が危惧されます。
2. 筑後市財政の現状分析
筑後市の歳入・歳出の推移[グラフ1]を見ると、平成5、6年度に多額の起債を発行した生涯学習センター建設で急激に歳出が伸びたことを除いても、年々増加傾向にあります。一方、収支決算[グラフ2]は、実施実質収支、実質単年度収支とも黒字で、実質収支比率もおおむね3%~4%を推移していて幾分余裕が見られる水準にあります。
しかし、筑後市の財政運営が硬直化した歳出構造になっているのではないかと窺えはじめたのは、経常収支比率が平成6年度に78.4から85.6へと著しく上昇した時点からです。その後、平成9年度の90.8をピークとした後下降していますがまだまだ高い比率を推移しています。この推移は経常経費充当一般財源の構成比が高い人件費及び公債費の推移による影響が大きいものと思われますが、[グラフ3]からも最近の経常収支比率の高い比率での推移は、高い比率ながら横ばいに推移している人件費率よりも、特に公債費率の上昇に大きな要因があるのではないかと考えられます。
筑後市歳入の推移[グラフ4]を見ると、地方税は平成9年度の53億4千万をピークに横ばいに推移していますが、一方で基準財政需要額が年々増えつづけています。その結果、当然ながら地方交付税が大きく伸びたことで一般財源は順調に増えつづけ、平成11年度には100億を超えています。起債は平成5、6年度に生涯学習センターの建設、平成8、9年度に景気対策等に伴う道路整備等で膨らんでいます。次に平成10年度を類似団体と比較することによって、全国レベルでみた筑後市の歳入状況の特徴点を明らかにします。[グラフ5]
筑後市は人口と産業構造から「Ⅰ―3」に該当しますが、人口規模については、平成11年3月31日の人口でみてみると類似団体を3.6%上回っていますが、面積では類似団体の30%に満たない狭隘さです。その結果人口密度は類似団体の4倍近くなっています。ただし、人口密度が高い割には、第3次産業の比率は類似団体を約6ポイント下回っています。
筑後市の基準財政収入額はほとんど類似団体と変わりありませんが、他方でその基準財政需要額は類似団体の89%に留まっています。これは、上述した筑後市の面積の狭隘さが影響しているものと考えられます。この結果、市税は類似団体とほぼ同じ水準にあるが、地方交付税は類似団体の78%に過ぎず、それに伴い一般財源も抑制されています。現制度上、類似団体と比較して歳入確保の点で不利な状況にあるといえます。また国庫支出金は83%であり、依存財源の一人当り額が特に低い点が注目されます。また、地方債も平成9年度の公債費上昇もあってか類団比較で70%と抑え気味となっています。
次に性質別歳出状況[グラフ6]をみてみます。
歳出項目の中でも支出が多いのは人件費でその歳出額の推移は、昭和61年度から平成5年度にかけて順調に伸びていますが、ここ最近の人事院による低率勧告の影響からか、平成6年度以降はほぼ横ばいに推移しています。公債費は生涯学習センター建設の元利償還開始等から、平成9年度以降歳出額が20億を超えて推移しています。扶助費も平成10年度に20億を超えて伸び率も増しています。その他、補助費等、繰出金も年々が増えていく傾向にあります。
平成10年度性質別歳出類団比較[グラフ7]をみると、人件費・扶助費・公債費といった義務的経費に関しては、類似団体とほぼ同じかあるいは幾分上回る水準にあり、他方で、投資的経費が59%と政策的経費が抑制されています。構成比では、義務的経費が53%となっており、類似団体を10%上回っている点が注目されます。
経常収支比率の推移を見てみます。
経常収支比率が良好だった平成4年度(75.3)と比較すると、平成11年度の経常収支比率は82.4で7.1ポイント上昇しています。その内訳を見てみると、人件費△ 4.5ポイント、公債費6.0ポイント、物件費1.6ポイント、維持補修費△ 0.3ポイント、扶助費2.0ポイント、補助費等0.7ポイント、繰出金1.6ポイントであり、経常収支比率を引き上げている主な項目は公債費であることがわかります。また、平成10年度の類似団体比較をみると、経常収支比率は全国水準並みですが公債費比率(1.11倍)と人件費比率(1.08倍)が全国水準を上回っているのがわかります。
さて、人件費について調べてみると、平成10年度における筑後市の人口1人当りの経常的な人件費充当一般財源は71,173円で、類似団体の73,761円を2,588円下回っています。また一般職員の平均給料月額を見ても、筑後市が335,319円に対して類似団体は344,430円で9,111円下回っています。それにも拘わらず、上述したように経常収支比率における人件費の割合を悪化させている要因として、次のことが考えられます。
一つは、経常収支比率の分母である経常一般財源の人口1人当りの額において、筑後市では193,829円なのに対して類似団体は217,678円であり、23,849円も不足していること。また、当初より、一部事務組合負担金が低い点を考慮すると、一部事務組合で対応可能な事務・事業を、単独で処理する傾向にあり、このため一部事務組合負担金で対応し得る分を人件費に抱え込んでいること。
さらに公債費について調べてみると、公債費比率は平成6年度から上昇し現在20%前後を推移しています。また、起債制限比率についても同様に平成6年度から上昇し、平成9年度には14.6%(3ヵ年平均)、単年度では15.5%となっています。なお、単年度で見た起債制限比率と公債費比率の差は平成4年度の2.8ポイントから、平成11年度の7.0ポイントまで拡大しています。このことは、その開きが大きくなった分、事業費補正として公債費負担分が基準財政需要額に組み込まれる程度が増大していることを意味しているといえます。
公債費比率等の推移[グラフ8]
地方債現在高倍率の推移を見ると、筑後市は従来から比較的高い水準にあるといえます。しかも平成5、6年度で多額の起債をしたため地方債現在高倍率は、1.44倍から2.13倍へと増大し、その後も2.0倍を超えたまま推移しています。
また、平成10年度を類似団体と比較してみても、公債費比率1.25、起債制限比率1.20、地方債現在高倍率1.19と借金関係の指標はいずれも上回っています。
筑後市の借金残高の推移[グラフ9]
3. 労使による財政検討委員会の発足
オイルショックによる地方財政危機が表面化した1975年、筑後市職員労働組合は、地方自治を守る立場から今日の財政悪化の主要な原因の明確化と原因克服(解消)を追求することを基本に自主再建闘争を方針化しました。しかし、議会で保守系を中心に賃金合理化や「財政再建団体指定促進決議」を強行可決したため、4ヵ月におよぶ抵抗闘争を実施し、あわせて自主再建闘争路線を鮮明にするため、財政診断にもとづく運動の具体化を推進しました。この結果、一定の妥協は強いられたものの、条例の白紙撤回、損失保障などを合意し、市当局は労使関係の信頼回復に向けて、労働組合法にもとづく対等関係の樹立と地公法上の管理運営事項は本質的に存在しないことを表明しました。しかし、議会は保守系が強く、すべて大衆団交の議題とすれば、市当局も政治的に追い込まれる恐れもあるため、労使(当局5名、組合5名)による行財政確立委員会を設立して審議することとしました。また、行財政確立委員会の基本原則として次の4点を確認しました。
(1) 自主再建路線は単に収支の均衡を図ることを目的とせず、行政水準の向上を図ることを目標に設定し、それを裏付ける財政基盤の確立をめざす。
(2) 自主再建の原則(①労働条件に関することは団体事項、②労働基本権の確立、③管理運営事項は協議事項)。
(3) 推進委員会の運営の原則(①労使対等の原則、②満場一致制、③職員参加の追求)
(4) 議論の骨子を、①労働条件の切捨て機関としない、②現行制度における行政・財政の矛盾解消と今日までの財政運営の欠陥解消
したがって予算編成方針、重要な政策課題、財政試算、計画などは「行財政確立委員会(助役を会長に労使同数)」で審議することとし、その結論は当然のことながら市長も尊重し執行しました。
審議における骨子は、新たな超過負担を作り出さないことを基本に、①国・県・市の財源事務配分、縦割り行政の非効率、無駄の排除と総合的、計画的行政の推進、②住民ニーズにもとづく行政、仕事のあり方等の改革とし、古川教授の財政診断等も参考にしながら、計画的財政運営を基本に審議し、職場における日常業務改革の提起、委員(労使)による職場討議、点検を実施しながら職員の重点配置案づくりの参考としてきました。しかし、財政が好転するにつれ、職場全体討議も進展せず、単に職場の定数を守る姿勢、保守的体質が強まりました。
4. 行財政確立委員会の機能化を求めて
その後の行財政確立委員会は、①財政状況の現状と見通し、②比較的規模が大きい新規事業や事業拡大の概要説明、③各種手数料の決定等を主な議題として開催されてはいましたが、その開催は定期的ではなく、次第に開催回数も減少してきました。また、委員 (助役、全部長[6人]、企画課長、総務課長、組合役員9人)が様変わりしてきたことで、設立当時の委員会の基本原則や運営の原則が薄れ、さらに、財政の好転に伴い、財政的な将来見通しの判断が甘くなってきたことなどから、委員会は形骸化しはじめました。
しかし、財政状況が次第に悪化してきたこともさることながら、筑後市生涯学習センター建設(45億円)、筑後市立病院増改築計画(60億)、一部事務組合清掃工場改築計画(100億)につづき、広域下水道(建設費+30年間の維持管理費で645億円)の計画が具体化されたことにより、私たち組合の意識が変わりはじめました。市当局の下水道事業に対しての考え方は、平成6年度に公園下水道係を新設した時に初めて示されました。その際は「下水道事業は慎重に検討した上で実施する。」と明言したにもかかわらず、その後、当局は強引に計画を進めました。
筑後市職労としても、下水環境整備を目的とした下水道事業を全面否定はしないものの、なぜビッグプロジェクトが集中するこの時期に実施するのか? なぜ事業規模が巨大化する流域下水道でなければならないのか? 十分な検討(特に財政面)を加える必要があると考え、他市の実態調査等も行いました。
平成8年の2月の行財政確立委員会で、流域下水道計画の提示を受け、筑後市職労は「流域下水にも欠点がないとは言えない。流域下水のみならず他の方法(単独公共下水、農業集落排水、合併浄化槽など)との組み合わせなど総合的に判断すべき」と指摘し、行財政確立委員会で議論を継続していくことを確認しました。しかし、行財政確立委員会での意見はほとんどといっていいほど考慮されず、市当局は流域下水道計画をさらに推し進めました。
このように、行財政確立委員会は財政好転時の間に発足当時の精神が薄れて、ほとんど機能化していないことを痛感しました。あらためて私たちは、各種事業の将来にわたる財政負担の問題について、政治的な圧力に流されることなく、十分な議論、検討を行う必要があることを認識し、行財政確立委員会の正常化に向け、まず委員会の位置付けを整理しようと労使協議をおこないました。しかし、組合の主張に市当局も難色を示し協議は難航しました。各闘争期の団体交渉でも再三にわたり賃金合理化、人件費削除の提案をする前に、まず行財政確立にむけての議論を労使できちんとすべきであり、現状の財政分析と経常収支比率や公債費比率の数値目標を掲げ、事務事業の見直しを行い、その過程で人件費の議論をすることも拒まないと主張してきました。それに対して、市当局は行財政確立の必要性は否定できず、平成10年12月に委員会の目的、運営及び役割等について意見の一致をみました。
一致した意見の内容は次のとおりです。
● 目 的
事務事業の点検により、経費の効率的な執行及び行政水準の向上を図ることを目標に、行政基盤の確立をめざす。
● 開催及び位置づけ
労使双方の申し出により随時開催し、市長は行財政確立委員会の意見を尊重するものとする。
● 運営と役割
① 労使対等の原則
② 政策判断の基礎となる行政情報の提供(十分な調査、論議を行ったもの)
その後今日まで、行財政確立委員会は予算編成と今後の財政運営のあり方を大きな議題として、数回にわたり議論してきました。その間、久留米大学の世利教授に財政分析を依頼し、平成11年7月に中間報告もいただきました。その結果、①起債の抑制、②財政指標の目標数値の設定(平成11年9月策定の「筑後市行政改革大綱実施計画」の中で、経常収支比率80%、起債制限比率12%を明記)、③団塊世代の退職金対策(積立等)等、一定の成果が見え始めましたが、議論の中心は一般会計にとどまり、他の特別会計等までにはいたっていないという課題があります。
5. 行財政確立委員会の課題
行財政確立委員会の機能化とは、
① 現在の財政状況を把握し、中期的な財政展望をあきらかにすること
② 地域の現状と将来像をつかみ、財政面での制約条件を克服する行財政の改革方向を検討する
ことだと考えます。
今日の財政危機を背景に、行財政確立委員会に課せられた役割は、必然的に重要性が増してきています。しかし、その意義を確認し再開された委員会もまだまだ十分に機能化しているとは言えません。それは、まだまだ市当局内部における委員会の認知度が薄いことにもありますが、職員側も財政や事業評価に関して論議する知識や力量が不足していることが最大の課題となっています。そのような課題を克服すべく、現在、単組内に財政プロジェクトチームを発足させ、内部の資料を基に学習や研究を重ね、さらに福岡県本部が主催する財政セミナー(計9回)へ積極的に参加するなど、自治体の財政を見る目を組織的に養うための取り組みを行っています。
自治体財政に関する取り組みは、景気が好転するとその意義が薄れ、おろそかになりがちです。しかし、継続的に取り組んでいかないと、財政悪化が明らかになったころは修復が困難なケースが多く、時すでに遅しの傾向が見受けられます。今後も行財政確立委員会の機能化とあわせて継続化を求めて取り組みの強化を図っていきます。
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