1. はじめに
長引く不況による日本経済の低迷は、自治体財政にとって税収の悪化を深刻化させている。特に大都市圏では深刻なものとなっており、税収の再配分という地方交付税制度の基本理念そのものにゆらぎが生じてきている。
しかし、バブル以前でも地方交付税の不交付団体は、九州ではわずか(原子力発電施設立地団体等)であった。不交付団体の分布をみると首都圏を中心に新幹線と高速道路の周辺に多くあり、遠く離れた九州、しかも高速道路も新幹線もなく平野のない谷と山の山間地域には、企業誘致を進めてもなかなかうまくいかず、過疎化と少子高齢化に歯止めがかからない状況から地方交付税に依存するところは大きい。
都会に住んでいようが田舎に住んでいようが住民への行政サービスを低下させるわけにはいかないのである。地方交付税制度に地方分権にかかる修正は必要だとしても、その基本理念は転換させるべきではない。
2. 人口のうごき
多くの自治体が少子高齢化という課題に直面している。日本の人口は、2007年をピークに減少に転じ、2010年には65歳以上の人口が3,000万人を越え超高齢化社会が到来するという。
竹田市は、昭和29年に10町村の合併により発足した。人口は、昭和32年の38,505人をピークに減少を続け、平成11年3月末には18,199人となりピーク時の半分となってしまった。平成11年度における竹田市の高齢化率は、32.8%と日本一の高齢化都市となった。住民の3分の1がお年寄りである。15年後には、高齢化率が40%に達するとみられており、全国平均よりも50年早いペースで超高齢化が進んでいる。このため、介護保険での要介護認定者は1,054人と人口の約6%にものぼっている。ちなみに日本一高齢化率の低いのが、大企業の社宅やマンションが林立し、東京ディズニーランドのある千葉県浦安市である。
過疎化・少子高齢化による人口の減少とそれに伴う各種産業への就業者をはじめとする担い手の確保が大きな課題となっている。
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昭和35年 |
40年 |
45年 |
50年 |
55年 |
60年 |
平成2年 |
7年 |
人 口 |
34,911 |
30,866 |
27,128 |
24,203 |
22,767 |
21,954 |
20,164 |
18,746 |
増 減 |
△ 1,697 |
△ 4,045 |
△ 3,738 |
△ 2,925 |
△ 1,436 |
△ 813 |
△ 1,790 |
△ 1,418 |
3. 財政収支
① 実質収支
実質収支とは、単年度の現金収支から翌年度へ繰り越すべき財源を差し引いたものであるが、これが赤字となり標準財政規模の20%を越えると、地方財政再建促進特別措置法を準用して、財政再建計画を立てないと起債が認められない。いわゆる赤字再建団体であるが、竹田市は過去にその経験をしていることから、常に厳しい目で財政状況を把握する必要がある。
平成10年度実質収支は、449,255千円で、平成6年度449,098千円・平成7年度350,289千円・平成8年度283,649千円・平成9年度249,135千円で推移しており、バラツキはあるものの5ヵ年平均356,285千円でおおむね良好と判断する。
② 単年度収支
単年度収支は、当該年度の実質収支から前年度の実質収支を差し引いた額で、この単年度収支は3~5年黒字が続き、その累積を住民に還元することによっていったん赤字になるのが普通であるが、竹田市の実質収支は、平成7年から平成9年の3年間赤字が続いた。このように赤字が3年も続くのは、財政の安定性や均衡面において危険度が増しているということになる。
平成10年度は黒字となったが、これは消費税が3%から5%になったことに伴う地方消費税交付金の伸びが大きな要因と思われる。通常、赤字が続いた場合の対策は、歳出のコントロールをするものであるので、平成10年度の黒字を健全性の回復傾向とはいちがいに判断できない。
本格的な地方分権と市町村合併を視野に入れた国の動向(地方交付税への影響)、あるいは国の財政破綻による国庫補助事業の減等により、将来的には実質収支の赤字を避けるため財政調整基金等基金の取り崩しによる苦しい財政運営が予想されるため、綿密な中期財政計画並びに公共施設整備計画を作成するとともに、実施に当たっては最小限の経費で最大限の成果を得るよう努力していく必要がある。
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6年度 |
7年度 |
8年度 |
9年度 |
10年度 |
実質収支 |
449,098 |
350,289 |
283,649 |
249,135 |
449,255 |
実質収支比率 |
8.4 |
6.3 |
5.1 |
4.4 |
7.8 |
単 年 度 収 支 |
269,816 |
△ 98,809 |
△ 66,640 |
△ 34,514 |
200,120 |
実質単年度収支 |
99,552 |
81,396 |
△ 263,689 |
△ 34,319 |
146,423 |
③ 歳入構造
財政力指数は0.257となっており、ここ数年0.3を切っている。このことは、竹田市が自主財源に乏しく(自主財源比率21.4%)地方交付税に頼っていることを示している。過疎化・少子高齢化の進行と産業基盤の弱体化に伴う地域経済の停滞及び特別減税により税収が伸び悩んだ結果である。
国庫支出金のウエイトも大きく、生活保護費負担金や老人保護費負担金・児童保護費負担金といった福祉関係の国庫補助費負担金が多いためであるが、平成10年度は地域振興券交付事業を実施したにもかかわらず前年度に比較すると△25,281千円、また県支出金についても△45,638千円であるのは、災害復旧費の減と交付金事業の減が主な理由と思われる。
地方債については、将来の健全性を確保するため、計画的な借入額の設定をし実施している。平成5年度は17億、6年度は12億であったが、平成7年度以降は7億から9億の範囲で起債の制限をしていることは評価できる。
地 方 税 |
13.9(類団15.7) |
国・県支出金 |
19.4(類団18.0) |
交 付 税 |
46.3(類団36.1) |
地 方 債 |
8.6(類団11.7) |
|
事 業 費 |
国 庫 |
県 費 |
分 担 金 |
市 債 |
一般財源 |
平成9年度 |
538,098 |
61,725 |
380,155 |
4,204 |
39,900 |
52,114 |
平成10年度 |
373,639 |
20,186 |
290,687 |
6,991 |
13,500 |
42,275 |
増 減 |
△ 164,459 |
△ 41,539 |
△ 89,468 |
2,787 |
△ 26,400 |
△ 9,839 |
5年度 |
6年度 |
7年度 |
8年度 |
9年度 |
10年度 |
1,731,000 |
1,222,100 |
913,200 |
885,100 |
759,100 |
841,200 |
④ 歳出構造
性質別にみると、人件費は類似団体に比較して割高となっている。人口の減少に応じて職員数を減員するわけにはいかないこと、職員の年齢構成が高齢化していることによる。
補助費等では、一部事務組合等の負担金が年々増加している。これは、一部事務組合等の職員の高齢化や環境問題の複雑化による。
扶助費は、高齢者人口が多いことに加え、核家族化の傾向を受け、老人保護費を中心に類団より多いと思われる。
公債費は、ここ数年、類団比較でかなり多くなっているが、これは過去の借り入れに対する償還が、ここ2~3年でピークとなるためである。借り入れ自体を抑えているとともに、繰り上げ償還を実施し、今後の公債費の伸びに対する対策を講じているので特に心配はない。
上記の義務的な経費が類団に比べ多額であるのに対し、その分を投資的経費で抑えている状態にあることは、財政的に非弾力的であり、都市基盤整備の立ち遅れの要因と考えられる。
人 件 費 |
125(類団103) |
扶 助 費 |
55(類団 49) |
公 債 費 |
68(類団 60) |
物 件 費 |
45(類団 46) |
補助費等 |
54(類団 43) |
積 立 金 |
9(類団 15) |
繰 出 金 |
23(類団 25) |
投資的経費 |
119(類団156) |
4. 財政構造の弾力性
経常的経費には経常的な特定財源が充当されるほか、その未充当部分は経常一般財源が充てられる。したがって経常的経費に充当した経常一般財源が小さいほど臨時の財政需要に充当できる余剰の経常一般財源が大きくなり財政構造が弾力的であるといわれる。
財政運営上経常収支は、常に余剰を持たねばならない。しかも、税や交付税等の経常一般財源収入は、景気の好不況や地域社会の変化等の外的要因に左右されるとともに自己調整能力に乏しい。また、人件費等の経常経費は、収入の減少に弾力的に対応できない。
都市の場合、経常収支比率は80%程度が適正とされる。しかし、竹田市の場合平成10年度87.7%で、平成9年度90.78%、平成8年度92.6%に比較すると好転しているものの90%に近い数値で推移しており、また好転の要因は地方消費税交付金の影響が大きいことから、今後は徐々に増加すると考えられる。また、類似団体との比較でも2%程度高く、弾力性には乏しい。
人件費をみると34.3%で類似団体よりやや高い。人件費の大きさを決定する要因は、第1に給与水準、第2に職員数、第3に年齢構成である。竹田市の場合年齢構成がかなり高く、今後定年退職者の数が多い年が続くことが予がある。また、貧弱な財政構造であるため、定年退職者数の数の動向により、経常収支に大きな影想されるため、基金への積み立てを計画的に実施する必要響がでる恐れがあり、先を見越した分析が必要である。
財政健全化を考えるとき、現在のように財政構造が硬直化してくると、これからの少子高齢化対策や環境問題対策といった住民ニーズに十分に答えていくことができなくなり、自治体としての存在が問われることにもなる。
人 件費 |
34.3(類団33.3) |
扶 助 費 |
6.2(類団 6.2) |
公 債 費 |
20.1(類団20.4) |
義務的経費 |
60.6(類団59.9) |
物 件費 |
8.1(類団 9.3) |
補助費等 |
13.1(類団 9.7) |
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6 年 度 |
7 年 度 |
8 年 度 |
9 年 度 |
10 年 度 |
財政調整基金 |
514,701 |
603,478 |
499,429 |
505,524 |
504,827 |
減債基金 |
135,760 |
282,026 |
374,187 |
377,504 |
449,012 |
その他の目的基金 |
950,427 |
854,320 |
831,733 |
850,613 |
929,551 |
計 |
1,600,888 |
1,739,824 |
1,705,349 |
1,733,641 |
1,883,390 |
5. 行政水準の確保と向上
竹田市の行政活動を通じて住民の要求をどの程度満たしているのかを検討してみた。
公共投資については、公共施設整備計画に基づき社会資本の整備を推進してきた。しかし、竹田市は、起伏の多い複雑な地形のため(トンネル・橋が多い)多額の経費を必要とし、都市整備は立ち遅れている。
施設の維持補修については、たび重なる災害復旧事業を最優先に実施してきたことから、保留している箇所が多く、財政的に大きな課題となっている(図書館・市営住宅等)。また、老朽化した公共施設の建て替えについては、市町村合併の問題と併せて慎重に対応していく必要がある。
幼稚園・小学校については、年々子供の数が減少していることから施設の統合等を進めているが、地域の問題や跡地利用の問題などクリアされてない課題があり予定通りに進んでいない。
観光面においては、「竹田市観光振興計画」を策定し、農業・商業・観光の三位一体の振興、発展を基本に各種施策を実施している。特に、中心市街地再生に向けた拠点施設となる温泉施設の建設に取り組んでいる。
6. 財政運営の効率化と公正
財政運営の効率化を図るためには、各課の連携を強化するとともに、住民ニーズにあった事業投資を行うことに加え、公民協働の事業展開を実施することが重要である。竹田市では、予算の執行方針を定め、計画的執行に努めているが、中には補助事業等で恒常的になっているケースもあるため、効果等再検討をしていく必要がある。
7. 財政運営の長期安定性
財政運営が健全であるためには、予算の編成及び執行を通じて長期的な安定を思考し、財政収支の均衡を保持することが重要である。このためには、各年度の予算の編成及び執行が後年度の財政運営にどのような影響を与えるかを十分考慮し常にチェックする必要がある。特に、地方債の発行と債務負担行為については、後年度の財政の見通しや財政負担の限度等を考慮し、慎重に期すことが重要である。
8. まとめ
過疎化と少子高齢化により超高齢都市となった竹田市では、医療機関は老人ばかりが目立ち、小児科と産婦人科はなくなってしまった。若者がいない町・若者が住みにくい町は、産業構造も農業主体で稲作中心形態から改善できていない。平地が少ないことやほ場整備の遅れにより、施設園芸への移行・大規模化等がなされないまま農家は高齢化している。商店街も同様で、後継者不足と経営形態の改善・改良がなされていない。企業においては、地形的用件・道路交通網整備の遅れ等により投資されない状態であるし、現在の景気の状態では、新たな企業誘致を模索するのも難しい。また、近年続いた大規模な災害復旧事業や箱物建設にたいし、多くの市債を発行したため、ここ数年間市債の借り入れを抑制してきたことは、投資的経費の抑制にもつながっているといえる。
竹田市では、現在第4次総合計画を策定中であるが、過疎化や少子高齢化の進行は、大きな課題として取り上げられている。その中でも特に検討課題とされていることは、それぞれの産業や文化継承等における担い手の問題と若者の定住である。このような課題に対する解決に向け、公債費の平準化への目途がついた現在、財政の許容範囲ではあるが、定住人口の拡大と産業の再生に向け、思い切った投資を実施したいところである。超高齢化社会をただマイナス要因としてのみとらえるのではなく、美しい自然・おいしい水と空気の中で、楽しく働きながら老いを迎えられる長寿のまちとして、また介護保険のスタートにも鑑み竹田市の新たな産業振興を図っていきたい。
しかしながら、依然として経済の先行きは不透明感があり、景気の回復も地方ではずれ込むことや、交付税特別会計の破綻による地方交付税の減額が予想されることから綿密な中期財政計画のもと、義務的経費を確保するとともに限られた財源で最大限の効果を得られるよう優先度を勘案した投資を実施し、地域の活性化、定住の促進と文化の発展的継承を目指していかなければならない。
いずれにしても、我々自治体行政に携わる職員としては、継続した財政分析において、常に地域住民の視点を考慮しながら、財政の健全度と事業効果を正確に把握する必要がある。
財政調査基本表(普通会計)
類似団体との比較表
人口
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