函館市の財政状況


北海道本部/函館市職員労働組合連合会・地方財政対策委員会


1. はじめに

(1) 地方財政は、長引く不況による税収不足と景気対策による公共事業の推進などの影響を受けて危機的な状況となっている。多くの自治体では、公共事業中心の景気対策による地方債の発行や歳入不足を埋めるための減収補填債の増発などにより、借金依存体質を強めており、自治体財政の弾力牲を示す指標である「経常収支比率」が上昇し、財政の硬直化がさらに進んでいる。経常収支比率は、従来、自治省の指導で市町村で75%を上回らないことが望ましいとされていたが、ほとんどの市町村がこの比率を上回っており、財政の弾力性が低下し、政策選択の幅が小さくなっていることが言える。
   一方では、少子・高齢社会を迎えて、福祉型・環境型行政への転換が求められているほか、地方分権が2000年4月に実施段階に移され、自治体の力量が問われるとともに、国主導から地域主導への社会を構築していくため、分権時代に対応した地域経営を行うための自治体改革と財政構造改革を自らの責任で進めていく必要がある。
(2) 函館市の財政状況は、昭和61年度当時の危機的状況から、特に行財政健全化推進要綱の推進等の内部努力に加え、バブル期の増収などから昭和63年度から黒字に転じるとともに、積立金についても、財政調整基金や減債基金、公共施設整備基金を中心に一定額を確保してきたことなど、比較的順調に推移をしてきてた。
   しかし、全国的な状況と同様に、バブル崩壊後の景気の低迷による税収の不足に加え、景気対策による公共事業や老朽化した施設の建て替えの推進など、公債費に依存した財政体質による公債費負担比率の上昇もあり、決して楽観できる状況にはなく、市の中期財政試算においても、当分は厳しい財政運営を強いられる見通しとなっている。
   特に、公立大学や市立病院、駅周辺整備の市3大プロジェクトの推進に加え、競輪場や総合保建センター、さらに中央図書館構想など、今後においても大型施設の建設が計画されていることからすれば、現状を的確に捉えるとともに、将来にわたる財政負担について見極めていく必要がある。
(3) 財政危機(悪化)の影響をまず受けるのは、地域住民であり、自治体に働く労働者であるということをしっかりと認識し、政策や事業を含めた行財政全般について、評価をしながら、再構築していかなければならない。
   そのため、現在の財政状況を把握するとともに、地域の現状や将来像をつかみ、各種施策に対する財政面との結びつき等についても把握しておく必要がある。
   こうした観点から、まずはその前提となる財政分析を充実させ、中期的な財政展望も明らかにしながら、最終的には、自治体改革を進めるためにも、現在の政策や事業の評価を行い、政策提言を行うことができる基盤づくりを進めていこうとするものである。
  本編は、その取り組みの第1部としての、普通会計決算に基づく財政状況をまとめたものである。

2. 決算収支の状況

(1) 1998(H10)年度における普通会計の決算規模は、歳入総額で122,273百万円(対前年度比1.5%増、対1993(H5)年度比8.8%)、歳出総額では120,323百万円(対前年度比0.6%、対1993年度比7.5%)となっている。財政規模が拡大してきた要因としては、後述の歳入、歳出でも触れるが、この5年間で扶助費(20.4%増)や物件費(11.1%増)、投資・出資・貸付金(43.1%増)が挙げられ、人件費(5%増)、公債費(1.2%増)については微増にとどまっている。一方で、普通建設事業費は1996(H8)年度から3年連続してマイナスとなり、対1993年度比9.9%減となった。それは単独事業費が33.4%減となったことが大きな要因であり、補助事業費は2.7%増、直轄事業負担金は64.3%の増となっている。
   歳入面では、地方交付税が1993年度比10.4%増加したことや地方消費税交付金の平年度化に伴う増加のほか、分担金・負担金(33.2%増)、道支出金(64.8%増)、諸収入(27.8%増)の増加がある。一方では、寄付金や財産収入が大幅に減少している。また、繰入金は1997(H9)年度から大幅に増加しており、公立大学の建設に伴う公共施設整備基金や財源対策による減債基金の取り崩しが大きな要因となっている。
(2) 実質収支を見ると、1998年度では688百万円となり、1993年度から56.2%増えるなど、比較的順調に推移してきていると言える。
   1998年度で形式収支が大幅に増加したのは、地域振興券に伴う補助であり、これを除けば大きな変化はない。ただし、唯一、1998年度において、単年度収支は赤字となっているものの、通常は毎年度増加した黒字の累積を適切に取り崩し、住民サービス等に還元すべきものであり、3~4年おきには赤字となるのが普通である。

表1 決算規模および決算収支の状況、グラフ1

(3) 財政力指数は、特に大きな増減はないものの、類団平均が0.79であるのに対し、当市は0.55、また、基準財政需要額が類団比較で約108%であるのに対し、基準準財政収入額は、類団比較で約78%となっている。このことは地方交付税への依存度が高く、自主財源比率が低い自治体であると言える。

表2 財政力状況、グラフ2

(4) 一方、経常収支比率は、減税補填債を考慮すれば1998年度で84.9%と1993年度の84.1%と比較して若干の伸びで推移しているが、その内訳を見れば、人件費比率は37.8%(1.0ポイント減)に対し、扶助費比率は12.4%(1.2ポイント増)、公債費比率は18.4%(3.8ポイント増)となり、特に公債費(借金)の増加などが経常収支比率の改善されない大きな要因となっている。
   また、公債発行による投資的経費が増大することによって必然的に物件費の増加にもつながっていくということも考慮していく必要がある。

表3 経常収支比率の状況、グラフ3

(5) 地方債については、1998年度現在高が119,954百万円と1993年度の80,585百万円から約49%増加しており、地方債現在高比率も1.919となり財政運営が厳しくなるといわれる2.0に近づいている状況にある。今後、さらに景気対策や大型プロジェクト等の推進に伴ってさらに公債費の増加していくことから、その負担が重荷となり財政の弾力牲はさらに低下していくものと言える。
   また、地方債現在高に債務負担行為を加えた長期債務は123,910百万円となり、初めて決算規模を上回る結果となったことも認識しておく必要がある。

表4 長期債務の状況、グラフ4

(6) 総体的に見れば、この不況下で多くの自治体で厳しい財政状況を強いられていることからすれば、1998年度までは、比較的、順調には推移してきていると言える。
   しかし、自主財源の比率が低いことから地方交付税への依存度が高いことや、増え続ける公債費の推移などをしっかりと見極めていく必要がある。そして、今後、予定されている多くの施策等についても、緊急牲や重要性など総体的に判断して、再評価を行うとともに、将来の財政負担を見据えながら優先順位づけをして進めていくことが重要である。

3. 歳入の状況

1998年度の歳入決算の状況は、主な内訳では次のとおりとなっている。
● 地 方 税  33,567百万円(構成比27.5%)(対前年度 4.3%減、対1993年度比 1.2%減)
● 地方交付税  24,676百万円(構成比20.2%)(対前年度 8.6%増、対1993年度比10.4%増)
● 国庫支出金  20,648百万円(構成比16.9%)(対前年度 8.9%増、対1993年度比 4.1%増)
● 地 方 債  13,680百万円(構成比11.2%)(対前年度15.9%減、対1993年度比 4.3%増)
● そ の 他  29,702百万円(構成比24.3%)(対前年度 8.9%増、対1993年度比29.8%増)
● 計  122,273百万円(構成比 100%)(対前年度 1.5%減、対1993年度比 8.8%増)

グラフ5、6

(1) 地方税
   地方税は、対1993年度比で、固定資産税12.0%増、たばこ税18.8%増、都市計画税11.4%増と順調に伸びているもの、長引く不況や減税等により、個人市民税が12.7%減と大幅に減少しているほか、1994(H6)年度末に人口30万人を割ったことによる事業所税への影響等により、全体では33,567百万円、対1993年度比1.2%減(対前年度比では4.3%減)となった。また、決算構成比でも、1993年度30.1%に対し、2.6ポイント減の27.5%となった。
   類団平均では、決算構成比が40.5%と非常に高いのに加え、歳入全体の規模では、人口1人当たりの歳入総額が当市では約63千円高いものの、地方税では、約30千円低い状況にあり、これを函館市の人口に置き換えれば、実に8,580百万円に値する。北海道という地域性もあるものの、自主財源比率の低さを表している。

表5 地方税の状況、グラフ7

(2) 地方交村税
   地方交付税は、対1993年度比で10.4%増加し、特に対前年度比で8.6%増と大きく増加した。これは、1998年度に地方交付税の算出に用いられる種地区分が変更になったこともあるが、景気低迷によって法人市民税が落ち込んだこともあって、基準財政収入額がほぼ横這いであったのに対し、基準財政需要額が対前年度比4.0%増加したことが大きく影響したものである。
   類団平均との比較では、前述のとおり自主財源比率が低いことから、人口1人当たりで44千円高くなっており、決算構成比においても、類団平均が11.4%に対し、当市は20.2%と地方交付税に対する依存度が高くなっている。

(3) 国庫支出金
   国庫支出金は、対1993年度比では4.1%増となっているが、対前年度比では、国の緊急経済対策等による国庫補助事業の増加により8.9%増、また道支出金も7.0%の増加となった。
   しかし、歳出でも触れるが普通建設事業費では、対1993年度比で9.9%減少しており、国庫支出金が増加したのは、単独事業費が33.4%減となり、補助事業費が2.7%増、直轄事業負担金が64.3%増加したことが大きな要因である。

(4) 地方債
   地方債は、補助事業は増加しているものの、単独事業の減少等により、対1993年度比では2.7%増にとどまり、特に対前年度比では15.9%減となった。決算構成比でも11.2%と類団平均の12.5%を1.3ポイント下回っている。

(5) 一般財源
   地方税や地方交付税、地方譲与税等を合算した一般財源(どの経費にも自由に充当できる財源)は、63,524百万円となり、1993年度比4.8%増加したものの、決算構成比では、1993年度53.8%に対し52.0%となった。また、自主財源の中心となる地方税の割合が低く、脆弱な財政状況となっている。

表6 地方税の状況

4. 歳出の状況


(1) 性質別歳出の状況
   1998年度の性質別歳出決算の状況は、図のとおりであるが、主な内訳では次のとおりとなっており、義務的経費が大きく増加をしている。
  ● 義務的経費 62,250百万円(構成比51.7%)(対前年度比2.3%増、対1993年度比 9.9%増)
  ● 投資的経費 22,771百万円(構成比18.9%)(対前年度比3.9%減、対1993年度比13.0%減)
  ● その他経費 35,302百万円(構成比29.3%)(対前年度比0.7%増、対1993年度比17.7%減)
  ● 計 120,323百万円(構成比 100%)(対前年度比0.6%増、対1993年度比 7.5%増)

グラフ8、9


 ① 義務的経費
   義務的経費は、1993年度との比較では、人件費が5.3%増、扶助費20.4%増、公債費1.2%増となっており、扶助費が大幅に伸びている。決算構成比を見ても、人件費21.5%(0.4%減)、公債費10.0%(0.5%減)に対し、扶助費は、20.3%(2.3%増)となった。不況による失業者の増加等もあり、生活保護費の増加が大きな要因である。
   類団平均との決算構成比の比較では、類団が45.8%に対し、当市は51.7%と5.9ポイント上回っており、これは扶助費が類団より6.3%も高いことが影響している。

表7 義務的経費の状況

 ② 投資的経費
   投資的経費では、1998年度は災害復旧事業費と失業対策事業費はなく、普通建設事業費のみとなったが、1996年度から3年続けてマイナスとなり、22,771百万円で対1993年度比13.0%減(普通建設事業費だけでは9.9%減)となり、決算構成比でも4.5ポイント減の18.9%となった。
   これは、補助事業が微増、直轄事業等が64.4%増加しているものの、単独事業が33.5%と減少しているためである。
   類団平均との決算構成比の比較でも、全体で類団が23.8%に対し当市は18.9%と4.9ポイント下回っているが、補助事業では、逆に1.5ポイント上回っている。
   しかし、投資的経費については、各年度における政策選訳に大きく係わるものであり、補助・単独の比率は制度の有無によって変化してくる。
   ただし、前述したとおり、長期債務が1998年度で123,909百万円と年度予算を初めて上回ったこと、さらに地方債現在高比率が1.919となり、危険と言われる2.0に近づいていることなどを念頭においた運営が必要である。

表8 投資的経費の状況

 ③ その他経費
   その他の経費では、補助費等で1994年度に大きく伸びているが、下水道の水道局への移管に伴うものであり、また、投資・出資・貸付金が大きく増えているのは、不況に伴う中小企業への貸付が増えたものである。
   しかし、今後、補助費等については、公立はこだて未来大学の開学に伴って、増加していることもおさえておく必要がある。

表9 その他経費の状況

(2) 目的別歳出の状況
 1998年度の目的別歳出決算の状況は、図のとおりであるが、高い順の主な内訳では次のとおりとなっている。
 ● 民 生 費 34,593百万円(構成比28.8%)(対前年度比 4.8%増、対1993年度比11.3%増)
 ● 土 木 費 26,044百万円(構成比21.6%)(対前年度比10.0%増、対1993年度比25.1%増)
 ● 公 債 費 11,976百万円(構成比10.0%)(対前年度比 5.9%増、対1993年度比 1.1%増)
 ● 商 工 費 11,965百万円(構成比 9.9%)(対前年度比 3.5%増、対1993年度比29.7%増)
 ● 教 育 費 10,376百万円(構成比 8.6%)(対前年度比27.9%減、対1993年度比25.8%減)
 ● 総 務 費 9,539百万円(構成比 7.9%)(対前年度比 2.8%増、対1993年度比 1.3%増)
 ● 衛 生 費 8,915百万円(構成比 7.4%)(対前年度比 2.3%減、対1993年度比12.2%増)
 ● 計 120,323百万円(構成比 100%)(対前年度比 0.6%増、対1993年度比 7.5%増)
  特徴的には、土木費については、千代台陸上競技場の建設に伴う増が大きく、商工費については、前述のとおり中小企業への貸付金の増、民生費については、不況による失業者の増加等もあり、生活保護費が増加したことによるものである。また、教育費が大きく減少しているが、これは義務教育施設整備計画に基づく小中学校の建替の終了に伴うものが大きい。

グラフ10、11

5. 基金の状況

 1998年度末の積立金現在高は15,720百万円で、対前年比で8.5%減、1993年度比3.2%減と減少してきている。
 積立金現在高の内訳は、年度間の財源調整を行うために積み立てられている財政調整基金が2,026百万円(対1993年度比91.2%増)、地方債の償還費に充てるために積み立てられている減債基金が4,212百万円(対1993年度比39.8%減)、また、公共施設の整備に充てるために積み立てられた公共施設整備基金が7,160百万円(対1993年度比17.7%増)、そして特定の財政需要に備えて積み立てられているその他特定目的基金が8つの基金があり2,322百万円(対1993年度比10.8%増)となっている。
 しかし、1998年度以降、公立はこだて未来大学の建設に伴って、公共施設整備基金を取り崩しているほか、中期財政試算でも示されたように、財源不足を埋めるために減債基金を取り崩していくことなど、おさえておかなければならない。
 ただし、類団平均との比較では、積立金全体で類団平均の約113%、人口1人当たりでも16,062円高くなっており、行財政改革の内部努力の成果があったことも事実である。

表10 その他経費の状況、グラフ12

6. おわりに

 この報告では、市の財政についての全体的な状況を把握するにとどまっており、前述で示したように、①地域の現状や将来像の把握、②各種施策に対する財政面との結びつき等を把握していくためには、さらに、各種計画や施策等について見極めながら細部にわたる分析をしていくことが必要である。
 そして何よりも大切なことは、職員が市の財政状況をきっちりと把握し、自らの業務と財政状況をリンクさせたなかで、いかに市民に対して効率的で効果的なサービスを提供できるのかを考えていく必要がある。
 そのためには、現在の事業や政策をいま一度、見つめ直し、市としていま何が重要であるのか、いま本当に必要なものは何なのか、部局内だけの議論にとどまらず、横断的に議論する中で、事業や政策を順位づけて進めていくことが大切である。
 そして、その議論には、管理職にとどまらず、実際に業務にあたっている職員が積極的に係わっていくべきである。
 今回の財政分析の取り組みは、こうした基盤を創り上げることを大きな目的としており、この報告では、まだ不十分ではあるが、組合員の意見等ももらいながら、創り上げたいものです。

○ 今後の取り組み
 1. 各種施策の細部にわたる分析、評価
 2. 中長期的な財政の見通しについての検討
  ① 中期財政試算の評価
  ② 将来の財政構造の見通し ~ 分権時代(国、地方の税財源問題)
                       経済動向(景気回復、雇用問題、地場産業)
                       基金と公債費
 3. 政策・事業・行財政に対する評価
  ① 現在の政策・事業に対する評価
  ② 行財政の方向牲の検討
  ③ 職員の横断的な意見交流の促進
 4. 政策提言

○ 地方財政対策委員会
 委     員     長  小山内   実(市職労執行委員長)
 副 委 員 長 道 畑 克 雄(   〃 副執行委員長)
     〃     藤 盛 敏 弘(  〃 書記長)
     〃     佐 竹 克 司( 〃 書記次長)
 事 務 局 長 長谷川 義 樹( 〃 副執行委員長)   専門部会
 事務局次長   平 沢 浩 樹( 〃 書記次長)   専門部会
 委       員 栗 谷 正 尚( 〃 執行委員)   専門部会
     〃     熊 谷   正( 〃 〃 )   専門部会
     〃     小 松   浩( 〃 〃 )
      〃     瀬 田   勝( 〃 〃 )
      〃     舩 水 さかえ( 〃 〃 )
      〃     宮 田   至( 〃 〃 )
      〃     阿 部 義 人( 〃 特別執行委員)   専門部会
      〃     高 橋   亨( 〃 〃 )   専門部会
       〃     東海林   力(総務支部)   専門部会
      〃     小山内 千 晴(財務支部)   専門部会
      〃     長谷山 裕 一(都市建設支部)   専門部会
 特 別 委 員  澤 井    勝(奈良女子大学教授)   専門部会
      〃     辻 道 雅 宣(北海道地方自治研究所研究員)専門部会