鈴 鹿 市 の 財 政 分 析

三重県本部/鈴鹿市職員労働組合

 

1. 財政分析の必要性について

 近年、東京・神奈川・大阪・岡山といった都府県や川崎市、神戸市、名古屋市などの大都市を中心に財政状態の悪化が顕著になり、戦後3回目の地方財政危機の様相が深まってきました。
 政府は、財政構造改革会議を発足し財政構造改革法に沿った改革を始めました。さらに地方分権一括法も成立し、地方自治体を取り巻く環境は急激な変化を遂げようとしています。
 一方、景気低迷により業績不振に陥った民間企業は、まず最初に賃金抑制を実施し、次にリストラ(企業再構築)の名のもとに人員整理を断行しています。
 また、経済状況も好転の兆しは見られず、雇用不安や収入不安により個人消費は依然低迷したままであり、消費・所得・雇用のサイクルの悪循環(デフレ・スパイラル)からの脱却が急務となっています。
 このような社会情勢のなか、私たち職員労働組合(以下市職労と略)では、今後の組合活動の一助とするため労働組合の立場から鈴鹿市の財政分析の実施の至りました。

2. 労働組合が行う財政分析について

 今回の財政分析では以下のことに留意しました。

(1) 分析対象は普通会計の決算額にしました。
  公営事業会計は除く(普通会計からの繰り出し金は判る)

(2) 誰iもが入手可能な資料を使用しました。
  地方財政状況調査表から決算状況報告書(決算状況カード)を利用(98年度別紙3に掲載)

(3) 過去を分析することにより今後の対策を講じました。
  景気等の未来予測は一切考慮しない

(4) 自治労の運動方針に則った検討方法を採用しました。
  巻末に掲載

(5) 最終的な分析は各組合員に委ねることとしました。
  日常組合員が携わることの少ない財政の一端を身近なものにすることにより、各公務における財政支出の妥当性を一考するための動機づけになれば幸いと考える

(6) その他
  今回の分析にあたり、三重県地方自治研究センター(以下自治研センターと略)1999年度総会資料と財地方自治総合研究所研究員高木健二氏の講義を参照した。また、今回の分析を実施した市職労役員は、県本部主催の地方財政分析関連集会に数回に渡り集中的に参加したものであり、分析に際しては自治研センターの研究員の助言を受けた。

3. 地方財政危機について

(1) 戦後3回目の地財危機

1954年 第1期地財危機(朝鮮戦争特需後の不況)
高度経済成長により解消
1975年 第2期地財危機(第2次石油ショック)
中曾根臨調行革を経てバブル経済で解消
1990年 赤字国債発行脱却
表面上赤字国債の発行がなくなる
国債発行額    7兆3,120億円
国債発行残額  166兆3,379億円
1995年 竹村蔵相事実上の財政危機宣言(11月閣僚懇談会)
地方分権推進法成立
1996年 赤字国債発行(当初予算12兆円、国債発行残額年度末241兆円)
住専(住宅金融専門会社)不良債権処理公的資金注入  6,850億円
住専処理機構債権国庫負担  6,100億円
1997年 財政構造改革法成立
消費税率5%へ引き上げ
1998年 緊急経済対策(事業規模17兆円)
金融再生法・早期健全化法(総額60兆円の公的資金枠)
第3期地財危機発覚(東京都、神奈川県、大阪府等財政危機宣言)
1999年 減税政策(所得税、法人税等)
地域振興券交付
地方分権推進関連一括法成立

(2) 今次の地方財政危機の特徴
 ① 長期的な不況に伴う地方税の減収(99年度予算)
   法人事業税前年度当初予算見込みより1兆1,484億円減収
   都道府県民税前年度当初予算見込みより法人税割りで1,539億円の減収
 ② 減税政策による所得税と法人税の減収(99年度予算)
   法人事業税前年度当初予算見込みより1,194億円減収
   都道府県民税前年度当初予算見込みより法人税割りで169億円の減収
  *①②により東京都、大阪府、神奈川県、愛知県等比較的裕福な地方自治体の財政危機が一挙に表面化した
   今後経済が回復をしたとしても、税率引き下げのため今後の減収は必至
 ③ 経済情勢の不透明さ
   99年度経済見通し政府0.6%成長、民間シンクタンクマイナス成長
   経済潜在成長力5%から2%へと低下
 ④ 公共事業による景気対策
   国策による公共事業の奨励(バブル崩壊後100兆円規模)
     補 助 事 業  原則として事業費総額に対し国1/2、県1/4、市町村1/4(大半は地方債)
     地方単独事業
     地域総合整備事業債事業  地方債の元利償還金の約半分を交付税に算入
  *2000年度中央財政と地方財政の関係別紙2に掲載

4. 財政分析実施のための基礎知識

 (財政分析の実施に必要な指数等を重点に補足説明をしました)

(1) 歳入について
 ① 地方交付税制度
   国が、所得税・法人税・酒税の32%、消費税の29.5%、たばこ税の25%と運用部(財投や地方債または民間資金)からの借入金を財源とし各地方自治体へ交付する。(法人税は、1999年度から32.5%、2000年度から35.8%に引き上げ)
 ② 普通交付税
   基準財政収入額(75%算入される市町村の普通税、利子割交付金消費譲与税の金額に、消費譲与税を除く地方譲与税の100%を加算したもの)から基準財政需要額([測定単位の数値×最終補正係数]×単位費用)を差し引いたもの=一般財源不足の額を国から交付される
 ③ 特別交付税
   地方交付税の総額の6%を特別交付税の枠として別途配分
 ④ 地方特別交付金
   政策減税(恒久的減税)の補填
 ⑤ 地方債
   地方公共団体が借りる借入金で年度をまたがるもの
   起債制限比率により発行の制限を受ける

(2) 歳出について
 ① 経常収支比率
   自治体財政の硬直性をはかる重要な指標 適正数値75%程度 90%厳しい
    経常一般財源の額に対する経常経費充当一般財源の額の割合
     経常的な経費に一般財源からどれくらい充当されているかを判断
   人件費では40%を公債費では20%を超えると財政の硬直化(経験則)
 ② 実質収支
   形式収支(歳入総額から歳出総額を差し引いたもの;歳入歳出差引)から翌年度へ繰り越すべき財源を差し引いた額
 ③ 実質収支比率
   実質収支の経常一般財源に対する比率
   実質収支額を標準財政規模で割ったもの
   経験則で3~5%が望ましい、-20%で赤字再建団体
 ④ 単年度収支
   連続3年して赤字が続けば要注意
 ⑤ 実質単年度収支
   単年度収支から、積立金・繰上償還金(いずれも黒字要素)を加え、積立金の取り崩し額(赤字要素)を差し引いたもの
  *④⑤ともに3~4年の周期で赤字になることは健全(首長選挙対策)
 ⑥ 起債制限比率
   18%以上  公債費負担適正化計画の提出、計画認められれば特別地方交付税より利子補給を受けられる
   20%以上  単独事業に対する起債が認められなくなる
   30%以上  国の補助事業の起債不許可

    公債費比率の計算から事業補正分を除いた数値(過去3年間の平均)
 ⑦ 公債費負担比率
   15%以上 警戒ライン、20%以上 危険ライン
    公債費に充当された一般財源の一般財源総額に占める割合
 ⑧ 公債費比率
   10%程度望ましい、20%以上厳しい
   公債費の一般財源に占める割合
 ⑨ 投資的経費
   普通建設事業費
   災害復旧費
   失業対策費
 ⑩ 経常的経費
   人件費、扶助費、公債費、物件費(民間委託費はここに含まれる)、維持補修費、補助費等、積立金
 ⑪ 前年度繰上充用
   赤字決算を避ける非常手段。前年度の歳入が歳出に不足する場合、今年度の歳入を繰り上げて前年度の歳入に充てること

(3) その他

標準財政規模
財政力指数
経常一般財源比率


  

5. 鈴鹿市の財政分析

(1) 歳入について
  当市の97年度歳入のうち地方税は、前年度よりも58億円増額の304億円であり、地方交付税交付額は43億円でありました。しかし、98年度は地方税収が平年並の283億円に落ち込んだにもかかわらず、地方交付税交付額は前年度の地方税の増収を反映して17億円になりました。
  このことは、地方税歳入が増加すると、増加にみあっただけ翌年度の地方交付税交付額が減額されるというように、地方交付税交付団体である以上、ある一定の歳入基準より極端な増加を期待することはできないということの裏付けであると考えます。
  従いまして、歳入についてはいわゆる“パイの大きさは同じ”という立場をとって歳入面の分析は差し控えたいと考えます。
  本年3月になって東京都が、外形標準課税の導入で各方面から脚光を浴びていますが、このようなことは他の自治体では安易に導入できることではなく、地方交付税交付団体がもしもこのような特別課税を導入すれば、国の地方交付税による制裁が十分に考えられます。また、このような法人所得に対する地方自治体独自の課税は、国の法人税歳入の減額、すなわち地方交付税に充てられる財源の減額となり、最終的には交付団体へ影響を及ぼしていくような悪循環の一途を辿ることになります。
  東京都のような地方交付税不交付団体が、交付税交付による国の指導(介入)を避けるために、独自の財源を求めることは否定できるようなことではありませんし、むしろ地方分権ひいては地方自治の本旨に則れば当然の流れといえると思います。
  3割自治、4割自治と呼ばれるような国と地方の関係は、現在の税体系が今後も続く限り、地方自治体は国からの制約から逃れられることは多分不可能になるでしょう。
  以上のことを考えていくと、地方分権は、財源移譲(税制の根本的な見直し)が行われない限り真の地方自治の実現が困難なことは想像に難しくないことです。

(2) 歳出について
  当市の歳出の特徴的なことは、2月22日開催しました職場委員会で地方自治研究センターから招いた講師の報告にありましたように、90年前半に非常に大きな投資がなされ、大幅な地方債の発行や財政調整基金の取り崩しが見られます。このことは、いろいろな公共サービスを行ったものの結果であり、当時必然性を伴ったものに相違ないと考えられます。しかし、今日、時のアセスメントや再評価システムの導入が求められているように、公共事業に対する意識は千差万別となっていることは言うまでもありません。
  また、年度ごとの積立金額が比較的に少ないのも特徴と言えます。一般的にその年度の歳入は、その年度の納税者に還元するという原則はありますが、不測の事態あるいは将来十分に予想される事象に対して備えを怠らないのも不可欠なことであります。公共事業を行う際に「公共事業の支払いは世代間で分担をする」との常套句のもとに地方債(借金)が認められるのなら、『将来に備えるための世代間の分担』を求めるのも決して穿った考え方ではないと思います。
  次に、もう少し踏み込んだ分析を行ってみます。
  まず、市職員にとって、なにより市民にとって最大の不幸となる自治体破産・財政再建団体への危険性について検証していきます。
  そもそも赤字再建団体とは、いうまでもなく収支のバランスを著しく欠いた行政体であり、そのような状況での悲劇は、新聞記事(98年3月産経新聞別紙1に掲載)を一読すれば明らかになります。
  この財政再建団体への転落の指標は、前述のように実質収支比率がマイナス20%以上で財政再建団体になると言われます。(鈴鹿市0.5%  98年度)
  また、その他に地方自治体の財政分析を行ううえで重要な指標となる数値を確認してみると(数値はいずれも98年度、以後指定がない限り数値は98年度鈴鹿市)
   ○経常収支比率  87.5%
    うち人件費32.3%  公債費20.7%
   ○起債制限比率  10.6%
   ○公債費負担比率  17.9%
   ○公債費比率  16.1%
   ○単年度収支  98年度赤字  97年度黒字  96年度黒字
  このように当市の財政は、現時点において警戒こそ必要ではあるが決して悲観的になるような状況ではないと判断できます。
  それでは、現状維持あるいはより財政の健全化をすすめるために、もう少し分析を進めていきます。
  財政の硬直化を示す指標が経常収支比率(87.5%=経常的経費)で表される理由は、経常収支比率の残りの数値に見合う予算が政策的に自由に使える投資的経費に充てることができるからです。したがって、経常収支比率が下がるように財政の柔軟化(健全化)を促進していく手法を考えていかなければなりません。
  まず、投資的経費を増加させることにより経常収支比率を下げることができます。仮に経常収支比率が現在の比率のまま変わらないとすれば、予算の枠を大きく(歳入増)することにより歳入増額分が投資的経費に充てることができるので、結果的に経常収支比率は下がることになります。しかし、このことは今回の財政分析を実施する大前提としています。パイ(歳入)の大きさを変えることになりますので除外します。
  歳出面を工夫して経常収支比率を下げる方法は、経常的経費を下げその分の経費を投資的経費に充てる手法です。
  この方法では、経常的経費の区分の決算額の詳細を触れなければなりませんが、今回の資料では歳出項目の詳細に立ち入ることはできませんので、各区分の概要で検討をしていきます。
   ○人件費について
     人件費は、行財政改革を検討する場合、その削減対象として最前面に位置し、かつ私たちにとって最も重要な要素です。私たち地方公務員の給与は、今さら言うまでもなく鈴鹿市職員給与条例、鈴鹿市職員の初任給、昇格、昇給等の基準に関する規則により定められています。この条例・規則は、上位の法である地方公務員法に則ったものであり(地方公務員法第24条第6項)、地方公務員法は国家公務員法を踏襲(地方公務員法第24条第3項)しています。この一連のなかでの国家公務員の給与は、人事院勧告制度(人勧)で決められています(国家公務員法第28条、第63条、第67条)。また、自治省は、各地方公共団体の職員の給与が国家公務員の給与に比較して、一定の水準を保っているか否かの判断をラスパイレス指数で判定しています(98年度鈴鹿市103.2%、県内13市平均101.1%)。(ラスパイレス指数 …… 自治体の一般行政職の構成を学歴別、経験年数別など国家公務員の構成と同一置き換え、自治体ごとの平均給与額を算出し、国家公務員の平均給与額を100として対比した指数。諸手当や賞与は含まれない。)争議権の代償として認められている人事院勧告制度を地方自治体の判断で否定することが可能であれば、その決断力を持ってすれば地方交付税制度を拒否することもまた可能になるのではないでしょうか。
     一方、職員数も各自治体で仕事量に応じた職員定数条例で管理されています。一般的に退職職員と新規採用職員との給与月額を比較してみますと、退職職員の給与月額のほうが高額なことはあきらかなことです。当市の最近数年間の職員採用数は、非現業職で退職者の2分の1補充を原則としていましたので、年間給与面だけを比較すると歳出は下がることになります。しかし、退職職員に支給される退職金も人件費に含まれるため実質的に人件費が下がることは困難になります。団塊の世代が50歳代後半になり、また、当市の職員構成は、40歳後半の職員数が多いこともあり、十数年後には定年退職者(再任用制度は考慮しない)のピークを迎えることになります。そのときのために、今から基金の積み立てなどによる退職金のための財源確保を行う必要があります。民間企業では、新規従業員を雇用すると、その従業員が退職する際に支払う退職金に対応するための一定の金額を「退職給与引当金」や「年金積立金」として準備しています(課税対策含む)し、四日市市でも平成12年度予算から退職金のため目的別積立金を計上したようです。
     以上のことを勘案してみますと、現在の鈴鹿市の人件費はラスパイレス指数からも経常収支比率(職員給では23.2%)からも、歳出全体の割合(20.7%、職員給15.6%)からも全く問題がないと言えます。
   ○物件費について
     行財政改革を検討するときに必ず民間委託議論が行われますが、委託に関する費用は物件費で賄われます。当市は、歴史的経緯によりごみ・し尿収集が民営となっていますので比較的高い率になっています。学校給食が民間委託された自治体の物件費をみてみますと、委託当初は余り多くない委託費が数年後に急騰する場合がよくあるようです。
   ○公債費について
     地方債(借金)の元利償還金にあてられます。いわゆるハコモノ建設の際に国・県から得られる補助金の不足分は、自治体が負担することになりますがその費用は地方債発行で賄われることが多いです。
   ○維持補修費について
     公共施設の維持管理費にあたります。
   ○投資・出資・貸付金、繰出金について
     公営事業会計への出資や繰り出し金、公社や地方公営企業に対する貸付金に充てられます。
  *公債費、維持補修費、投資・出資・貸付金、繰出金は、ある種の相関関係のようなものを有し、公債費を増やし公共事業を促進した結果、維持管理費の高騰や企業会計への補填のための繰出金の増額による経常収支比率の上昇という形であらわされる財政の硬直化を招くことになります。

(3) 総 括

  今までに考察してきたように、地方と国を繋ぐ税制はまさに「狡猾巧妙」「複雑怪奇」という表現があてはまる制度です。地方交付税制度は、1936年の臨時町村財政補給金に始まり、1949年の「シャウプ勧告」により現在の形式の原型が確立され、以後、紆余曲折を経て今日にいたっています。冒頭に触れましたように、今次の地方財政危機は大きな自治体から顕著になりましたが、多少のタイムラグはあるものの税制の構造上必ず全国の各自治体に降りかかってきます。
  「日本の破滅への道は公共事業によって舗装されている」と外国の新聞で揶揄されたようですが、私たち自治体職員は、自分自身や家族の生活を守り、市民や地域の発展のために公務を執行しています。
  公共サービスは、市民への税金の還元であり本来的には税金で賄うことになりますが、大規模サービスでは借金(起債)を伴う可能性(危険)があることを市民に認知してもらい、場合によっては応分の負担を求めるような情報開示を行う必要があります。また、その負担方法も受益者によるのか、全体で応じるのか、あるいは行政の責任で応じるのか等を市民が取捨選択し、そのことにより市民が公共サービスへの責任の一端を担うことを求めていくことで、より健全な市民サービスと真の地方自治が確立されるものと考えます。
  今回の財政危機を乗り越えて、成熟した都市『鈴鹿市』構築のため、職員一人ひとりの今後のより一層の自助努力と使命・任務の再確認を行うことを喚起して、この分析を終えさせていただきます。

別紙4~7