風を起こそう 新生福岡への道
― 私たちからのメッセージ ―

福岡県本部/福岡県職員労働組合


1. 基本姿勢

(1) はじめに
  1999年3月県当局は「緊急財政改革本部」を設置し、①事務事業についての歳出削減、②各種の建設事業の規模の抑制、③人件費の総額抑制、④財政収入の増加の確保の4つの柱を基調に、県財政の体質転換を図ることを提案しました。
  県職労は、地公労副知事交渉・職員長交渉・知事交渉を行い、地方財政危機をもたらした当局の責任を追及するとともに、県財政運営のしわ寄せが職員の人件費に極力及ばないように取り組んできました。当局の当初提案よりも職員負担を軽減させたものの、「平成12年4月から給料月額3%の2年間削減、また成績特昇については平成11年度から3年間抑制される」という、いまだかつてない厳しい結果となりました。
  平成14年度以降、二度と人件費に影響させないために、この3年間で行財政改革を達成するため、抜本的に歳入歳出構造を見直し、健全な県財政を作り上げていかなければなりません。具体的には、四本柱の1つである建設事業についても、県単・補助事業の区別を設けず見直し、規模の抑制等をしていくことになりましたが、当局が本当に補助事業まで踏み込んで見直しをするのか、財政再建の名の下に福祉施策の切り捨てなど県民生活に支障を来さないか、県職労として検証しなければなりません。公共事業については、景気対策の意義はあるものの、国の政策に安易に追随することなく、事業の必要性・財源措置の内容・費用対効果等を十分検討し対応していくことを県当局と確認しました。しかし、現時点での到達点として、建設事業の抑制と事務事業の見直しについては、基本的な考え方とスケジュールをある程度明らかにさせたものの、県職労が要求していた具体的な内容は示されていません。
  「旅費問題」を受けて県職労としても1997年度より行財政システムについて、「36項目の要求」を作成し改善に取り組んできましたが、当面する時間外、旅費制度の是正までに留まっています。また、本年は財政分析に基づく「財政構造改革に対する県職労としての考え方」を提起しました。
  今回の緊急財政改革で、人件費カットまで踏み込んだ以上、他の三本柱の改革についても具体的な内容を追求していかなければなりません。

36項目の要求
 1996年に発生した旅費問題を契機に、福岡県職労として当局に行財政システムの改善を求めたもの。時間外勤務の縮減・手当の完全支給等36項目からなる。

(2) いまなぜ提言なのか
 ① 情勢の特徴=時代認識
   21世紀を目前にして、少子・高齢化、国際化、価値観の多様化、環境問題など社会経済情勢が大きく変化しつつある中で、地方分権の推進が実施の段階に入り、地方自治は新しい時代を迎えようとしています。これからは、地方自治の主体性を確保し、行政サービスの向上、公正の確保と透明性の向上のために、職員参加の促進、市民への説明責任の徹底、情報公開の拡充を実現していかなければなりません。
 ② 地方財政の構造的問題
  ア 税財源配分の問題
    法改正まで県の事業の85%は機関委任事務であったといわれています。このため税収が減ったからといって、すぐには事業の縮減はできない構造となっていました。不況に伴う税収減が直接地財危機につながったのは、税財源配分問題がベ-スにあります。事業支出の割合は「国4:地方6」であるのに対して、税財源割合は「国6:地方4」といわれ、収入と支出が逆転した地方財政の構造に原因があるといわざるをえません。
    「3割自治」といわれてきたように、自主財源は3割程度に過ぎず、実質的には、この逆転状況を地方交付税や補助金で補填しているのが現状だといっても過言ではありませんし、このことで、国と地方との上下関係が形成されているといえます。
    そして、国の補助事業も、あくまでも『補助』であり、当然県の負担が伴います。この負担分についても県債の発行が認められ、場合によっては元利償還金まで「基準財政需要額」に算入され、後に地方交付税として国が面倒をみること等によって、公債発行の誘導が行われ、結果として地方の公債発行残高の増大をもたらしています。
    地方が公共事業を行えば必然的に赤字にならざるをえない構造こそが地方財政の問題なのだといえます。この構造を充分承知しているからこそ、国も特例交付金、交付税率の引き上げ、財源特例債の発行認可等で、地方の歳入不足をなんとか乗り切ろうと当面の対応を図ってきました。こうして、この危機の中で、不交付団体は減り続けていますが、結果としてみれば、一層自治省への権限の集中が進んだことも見逃してはなりません。
    また、いわゆる公共事業の補助金では、事務費等の間接経費の額が、工事費や用地費等の直接経費の総額の一定割合で決められています。このため補助金の総額が増えれば増えるほど、事務費等県として自由に使える額も増える仕組みとなっています。これが『官官接待』をもたらした原因でもあり、借金をしてまで公共事業を行う、もう1つの理由でもあります。単独事業と比べると補助事業では、工事金額によっては事務費の割合で50倍もの差が生じる場合もあるといわれています。


※早瀬流二氏・「月刊自治研」97・5月号より

 公共事業に特有の点が事務費の存在で、経費内訳は次のように区分される。
 ● 公共事業費
  工事費<直接的経費> ― 本工事費、用地費、測量試験費等
  事務費<間接的経費> ― 人件費、普通旅費、庁費(事務費の3/4)、日額旅費、工事雑費(事務費の1/4)
 ● 人件費としてとることのできる額は、人件費、普通旅費、庁費の計上可能額の80%を原則とする。
 ● 事務費制限比率(算出基準)は次のとおりである。

 事務費算出基準

    この間、福岡県でもマイナス・シーリング設定による経費削減が行われてきましたが、補助事業を行う所属と単独事業を行う所属間での事務経費『物件費』の配分の差が明確になってきています。ここにこそ中央集権の問題点があり、地方分権の必要性がはっきりと現れているといえます。
  イ 交付税の矛盾
    本来、地方交付税制度は戦後団体間の調整財源として整備されたもので、その団体にとって使途を制限されない一般財源であるはずです。
    ところが、昭和50年代後半から、地域総合整備事業債(特別分)等、地方債を使って単独事業を実施した場合に、一定の額を交付税に算入するという方式がとられるようになりました。
    この地域総合整備事業債は、公共施設の整備に幅広く活用することが可能であり、事業を実施すればするほどその団体の交付税の額が増えることになります。
    ところが、交付税全体のパイの大きさは変わっていないのに、特定の事業を行う団体に交付税が傾斜配分されるのは、交付税が本来の趣旨を損ない、特定事業に対する補助金的に使われるようになり、交付税の目的化が進んできています。
 ③ 県職労としての財政危機への対応
   1998年の夏頃から、地方税の減収が顕著となり、大都市圏の都道府県を中心に財政赤字が叫ばれるようになりました。
   福岡県においても経常収支比率が平成9年度決算で97.6%(平成10年度決算99.0%)になるに至って、否応なく財政危機への対応が迫られました。
   緊急財政改革本部の決定した四つの柱では、人件費削減だけが現実的な数字となって具体化されています。職員の意識としては、これまでもかなり無理な歳出削減の努力を重ねてきました。しかし、その努力にもかかわらず、財政状況は好転するどころかむしろ悪化をしてきていると言われます。素朴な疑問として「なぜ県の財政は厳しいのか」というところから出発して財政分析に取り組みました。
   県職労も労働組合として、人件費抑制攻撃に対しては当然「反対」の立場で臨んできましたが、反対だけでは乗り越えられない、次のような情勢も認識しなければなりませんでした。
  ア 財政分析に取り組む中で、財政危機の原因が、国と地方の上下関係、景気が回復しなければ税収も伸びない中で借金をしてまでも国の景気対策に追随せざるを得なかったことにあり、税財源の問題も含めて福岡県の労使関係だけで解決できる課題ではないこと。
  イ また、地方財政危機が先行した都道府県において、すでに人件費抑制に踏み込んでいること。
  ウ 民間では不況で企業倒産がある中、「赤字であれば、賃金合理化はやむを得ない。賃金よりも雇用だ。」という風潮の中で、公務員労働組合の"絶対反対"が理解される状況にないこと。
    これらの情勢判断から、私たちは、この財政危機の原因と責任を明らかにし、福岡県の将来への明るい展望が持てる改革案とさせていくために提言を行っていくことを決意しました。
 ④ 県行財政改革の必要性
   国・地方自治体は、深刻な「財政危機」に直面しています。この事態は経済不況のみが原因ではなく、この国の中央集権的システムとそれに基づく公共事業をはじめとした経済政策景気対策、その背景をなす税・財政制度の歴史的限界が露呈したものです。したがって、「財政危機」は一過性のものではなく、これを乗り越えるためには、地方分権の推進と抜本的な税・財政改革が必要であり、労働組合にとっても避けて通れない課題となっています。
   この改革を、対症療法的に乗り切るだけの改革で終わらせれば、県行政の主体性を喪失しかねません。分権時代にふさわしい地方自治の確立を目指して、「改革の方策」を提言していきたいと考えます。

2. 福岡県の現状と課題

(1) 全国的な地方財政危機の状況と傾向
 1998年の夏から、大都市圏の都道府県を中心に財政状況の悪化が顕著になって表れてきました。これは、長引く不況を背景に、法人関係税収がバブル期に比べ極端に落ちてきたこと、県民税利子割の減少による県民税収の低落、景気対策として行われてきた減税による地方税収の激減が根本的な原因としてあります。
 こうした中、多くの都道府県で歳入が減少傾向にありながら、歳出構造の見直しを行わず、県債発行や基金取り崩しで右肩上がりの予算編成を行ってきました。
 さらに景気対策として地方へ発動された大型補正予算による公共事業等の歳出増加要因が重なり、地方交付税の依存率の低い都府県が財政危機宣言をせざるを得ない状況に追い込まれてきました。
 その結果、都道府県に限らず地方自治体の財政危機が全国各地で広がってきています。

(2) 緊急財政改革本部による福岡県の財政分析


福岡県の財政事情(平成11年7月22日付)

1. 財政悪化の原因
 ① 経済状況
   バブル経済崩壊以降、我が国の経済成長率は極度に低下しており、特に平成9年度・10年度は戦後初めての2年連続マイナスの経済成長となっています。
   今日の財政悪化は、一義的には、この経済の低迷に伴う税収の不振が最大の要因であります。
 ② 地方行財政制度上の要因
   政令市を抱える大都市部の府県は、歳入面で景気変動の影響を受けやすい法人2税(法人事業税・法人県民税)への依存度が高いことに加え、歳出面では、人件費等の義務的経費が高くならざるを得ない財政構造となっており、今日の景気後退局面の影響を大きく受けることとなっています。
 ③ 右肩上がりの歳出構造
   人件費、社会保障費、行政施策費は、高齢化の進展や行政ニーズの多様化などにより増加していく傾向があり、また、景気対策としての公共事業等の拡大や税収不振に対応するために発行した県債の償還金(公債費)の増加などにより歳出は右肩上がりの構造となっています。
   これに対応するため、特に平成8年の財政健全化指針策定以降、相当程度の歳出の節減合理化努力を行っているものの、歳出面での改革措置が歳入構造の変化に未だ追いついていない状況にあります。
   このため、県税収入が伸び悩む一方、義務的経費は年々増嵩し、大幅な財源不足状態が続いています。
   この財源不足を県債の増発と県の貯金である「基金」の取り崩しで穴埋めしてきました。
   この結果、県債の残高は年間の財政規模を上回る1兆8千億円に達する一方で、基金残高は激減し、県財政は危機的状況を迎えつつあります。
   (バブル経済絶頂期の平成3年度と11年度を比べてみると……)

(普通会計) 平成3年度 平成11年度 比   較
県税収入※ 4,814億円 3,899億円 △ 915億円      (△ 19.0%)
人 件 費 4,822億円 5,495億円 673億円       (  14.0%)
社会保障費 1,067億円 1,348億円 281億円       (  26.3%)
公 債 費 936億円 1,469億円 533億円       (  56.9%)
※ 県税収入には、同じ税目で比較するため、地方消費税を除く。

普通会計の財政規模と県債および基金残高の推移

2. これまでの財政健全化の取り組み
  バブル崩壊後の厳しい財政状況に対応するため、平成8年10月に「財政健全化指針」を策定し、サマーレビュー(夏季における事務事業の再点検)や行政改革などを実施しているところであり、平成9年~11年度の3年間で合わせて約800億円の効果を有する歳出の削減合理化を図ったところです。

財政健全化の取り組み状況(平成9~11年度)

区     分

事業費ベース

事務事業の見直し 367億円
人件費の削減 161億円
建設事業の規模抑制 237億円
財政収入の確保 38億円
803億円

3. 今後の収支見通し
  財政健全化の取り組みにもかかわらず、予想以上の景気(税収)の低迷により財源不足は拡大しており、今後の財源不足額は、単年度で660億円程度と見込まれます。これに対し、財政調整基金等三基金の残高は本年度末には、431億円にまで減少する見込みであり、このまま何も措置を講じなければ、平成12年度に赤字決算となり、13年度には赤字がさらに累積する恐れがあります。
4. 財政構造改革の考え方
 (1) 財政改革の基本的な考え方
   今後見込まれる660億円程度の財源不足を極力圧縮し、財政収支の均衡を図るため、県民や職員の理解を得て、平成11年度から3年程度の期間で集中的な財政改革措置に取り組みます。

中期収支見通し(平成11年6月)

 (単位:億円)
  H9年度 H10年度 H11年度 H12年度 H13年度
歳 出 A 14,886 15,690 15,704 15,919 16,044
歳 入 B 14,368 15,040 15,081 15,253 15,384
財源不足額A-B △ 518 △ 650 △ 623 △ 666 △ 660
県 債(特例分) 0 0 180    
基 金 取 崩 518 650 443    

 (2) 財政改革の具体的方策
   これまでの事務事業の見直しを中心とした財政健全化の取り組みから、歳出全般について一層踏み込んだ見直しを行い、財政収支の均衡を図るため、次の4つの視点から総合的かつ計画的な構造改革を進めることとしています。
  ① 事務事業の見直し
    あらゆる事務事業について、今日的必要性や費用対効果などを厳しく洗い直し、更に踏み込んだ見直しを進める。
  ② 人件費総額の抑制
    職員定数の削減及び職員給与についても色々な角度から検討を行い、その総額を抑制。
  ③ 建設事業の抑制
    県債の増発により将来の財政負担をもたらすものについては、事業規模の抑制を図る。
  ④ 収入の確保
    県税収入の増加努力や県有財産の利活用などにより、財政収入の増額を図る。
 (3) 国との関係
  ① 国の取り組みに呼応して景気の回復を図る。
  ② 国に対し地方税財源の充実確保を強く働きかける。

(3) 緊急財政改革本部による財政分析に対する県職労の考え方
 ① 財政危機の原因は公債費負担増
   これまで、知事の議会答弁やマスコミ発表を見る限りでは、財政危機の原因は、「景気の後退に伴う税収減」にあり、暗に「県行政としての直接的な責任はない」との姿勢が見えます。唯一、公債費の伸びに触れたのは、前掲の「本県の財政事情」ですが、これは内部それも各所属長にのみ配付された資料です。それも、人件費・社会保障費の増加と同列で触れられているにすぎません。
   しかし、他の大都市を抱えた都道府県ほど税収減は顕著ではなく、歳入そのものも落ち込んでいません。むしろ歳出で投資的経費は、バブル崩壊後に急速に上昇し、平成10年度決算では、3,610億円になり、平成3年度比では26%増となっています。もちろん人件費も14%程度上昇していますが、公債費は49%程上昇しています。地方債残高は、平成3年度以降、国の景気対策に動員された結果として膨らみ続け、平成8年には、その年の歳出総額を超え、平成10年には17,842億円と、僅か7年間で倍増しています。その中で、マイナスシーリングの手法を用いながら、歳出抑制を図ってきましたが、投資的経費総枠の削減にはなかなか踏み込んできませんでした。
   また、歳入を見るとB2グループの中でも交付税への依存が高く、全国9位という歳出規模の割には、これまで身の丈を越えた施策展開を行ってきたといえます。
   このことから、福岡県の財政危機の原因は、国の景気対策に追随して、行ってきた公共事業のための県債の発行とその将来にわたる公債費負担にあるといえます。このため、景気回復が進んでも、大都市圏ほど税収増は期待できないばかりか、中長期的に見れば公債費負担の大きな増加のために今後厳しい財政運営を続けていかざるを得ません。
 ② なぜ経常収支比率が高いのか
   緊急財政改革本部は、県財政の危機的状況の説明として「経常収支比率の悪化」を強調しています。確かに平成10年度決算で99.0%と平成3年度と比べ18.7ポイントも悪化し、全国ワースト5位です。しかし、これまでも経常収支比率は、常に全国平均を8ポイント近く上回り、都道府県順位もほとんどこのような位置でした。
   福岡県は、福岡市・北九州市の2つの政令市を抱えています。両政令市における小中学校教職員・警察職員の人件費を県が負担している一方で、道路・港湾等の建設事業を政令市で実施していることが、県の経常収支比率を高くしていることの大きな要因となっています。
   また、これに加えて全国の自治体と同様、公債費負担の増加と併せ、税収の減収による経常一般財源の落ち込みが経常収支比率を悪化させた最大の原因です。
 ③ 歳入の状況と特徴
   歳入総額で見ると、15,963億円(平成10年度)で全国8位となっているものの、自主財源の柱である地方税の占める割合は28.6%、地方交付税は18.4%となっており、従来から財政規模に比べると自主財源比率は低い状態が続いてきています。
   地方税の中でも比較的安定的な収入が見込める個人県民税が14.7%、景気の動向に左右されやすい事業税が25.7%となっているため、今回のような長期的な不況になると税収の悪化はさけられないといえます。しかし、交付税に頼る部分が大きいため、大阪・神奈川といった大都市圏ほど税収減の影響は顕著に現れていません。また、県税収入と県債を合わせた額を見るとむしろバブル崩壊後も増え続け、県税の落ち込みを県債で補ってきた状況が明らかです。
   個人県民税も、1人当たりの額になるとB2グループの中で最も低い位置にあり、事業税で見てもB2グループの低位にあります。

H10歳入状況

  ア 税収の推移
    税収の推移を見ると、類似県並で東京、大阪、神奈川、愛知ほど落ち込んではいません。バブル期と比べて法人2税は半分近くに落ち込んだものの、県税収入全体でみれば平成3年度と比較しても、大都市圏のように極端に落ち込んではいません。このことからすれば、大都市を抱えた都府県のように税収の悪化が財政事情悪化の直接的な原因ではないと考えられます。

H10地方税の内訳、人口10万人当たり職員数

  イ 歳入決算額の推移
    歳入総額を見れば県債費及び国庫支出金が増えたためにバブル崩壊後も伸び続けていますし、平成9年度からは消費税からの交付措置があり、歳入全体としては、伸びています。
 ④ 歳出の状況と特徴
   一般会計の歳出では、これといった大規模プロジェクトや極端な財政支出はありません。支出はどれをとってみてもB2グループ平均で『特色がない』というのが特色といえるかもしれません。これは行政と議会の力関係の反映と思えます。このことは他県と比べて公共事業の1件当たりの事業費が極端に少ないことにもうかがえることができます。
   しかし、本県の平成10年度重点事業のうち、10億円以上の事業を拾ってみると、農業関係も含めた土木建設関係の事業費が1,493億円(28%)、融資事業784億円(14%)で、圧倒的に重点事業は土木建設費に集中しています。分権の時代といいながらも、「21世紀をめざした地方分権の推進」に関しては、10億円を超える事業は全くありません。

福岡県歳出決算額の推移、人口10万人当たりの歳出、福岡県歳出決算額の推移

  ア 人件費
    B2グループとの比較ではマスコミが報道するほど福岡県の人件費が高いわけではありません。確かに歳出の最大のシェアを占めるのは人件費ですが歳出に占める人件費のシェアは平成元年から見ても、常に36~37%台で推移しており、当局が言う「増嵩」にはあたりません。
    また、人口10万人当たりの職員数をみても、B2グループで政令指定都市を抱える府県と比べても平均的な数値になっています。
    また、職員の給料(1人当たり平均)の額も、B2グループの中では平均的なものです。人件費の構成は、知事部局(各種委員会含む)14%、警察関係21%、教育関係65%となっています。
    職員定数の推移を見ると、平成3年から10年までの間に、2,232名もの削減が行われてきています。(知事部局:△ 302、警察:+206、教育庁:△ 2,136)このように警察職員を除いて職員数も減少傾向にあり、歳出のシェアにも変化がないことからすれば、財政悪化の原因は人件費ではないといえます。
  イ 投資的経費
    普通建設事業費(総額)は、B2グループでは平均的なものであり、むしろ政令指定都市を抱えた府県の中でも、低い部類に入ります。また、人口1人当たりの金額でもB2グループの中では低位になっています。
    普通建設事業費の構成では、県及び諸団体で行うもののうち、農林水産費(農業農村基盤整備)及び土木費(道路・河川)が突出しています。
    また、特別会計で、財政資料上、一般会計からの繰入も単年度ではそれほど目につきにくいのですが、河川開発(ダム建設)や、流域下水道事業は、竣工までに20年以上もかかる事業であり、事業全体では大きな金額にのぼってきます。
  ウ 扶助費
    財政課は歳出面での特徴の1つとして、扶助費が高いことをあげていますが、確かに指摘のとおり、生活保護の状況では、県内の被保護実人員数は全国3位(郡部では全国1位=全国平均の8.4倍)にのぼっています。
    しかし、生活保護費のうち約70%が国庫支出金であり、一般会計からの持ち出しは115億円で、歳出総額からみればわずかな数字にすぎません。財政課は、この扶助費の高さを意識的に強調していますが、「事務事業の見直し」が、県民福祉の後退へとつながらないよう注目していく必要があります。
  エ 公債費
    公債費は、年々増加していますが、バブル崩壊までは公債費負担比率は、B2グループの中でも、必ずしも高い方ではありませんでした。この主な要因としては、自主財源比率に示されるように財政規模と歳入のミスマッチを自覚して起債を控えてきたためと思われます。
    しかし、バブル崩壊後、急速に増加し続けてきた県債の償還は、緊急財政改革本部の「緊急アピール」の中長期的財政収支見通しによれば、平成12年度には前年比で100億円増加し、平成2年度の倍額に、さらに平成14年度からは、平成10年度起債分の償還が始まるため、約160億円以上の増加が見込まれています。

3. 県政の改革に向けて ― 未来に展望が持てる改革へ ―

 財政悪化の要因分析に基づき、県民や県職員の積極的な参画を図りながら福岡県の未来に展望が持てるための改革を行わなければなりません。

(1) 財政悪化の要因分析と責任の明確化 ― 県民の信頼を得るために ―

 県民・職員に対して、財政悪化の要因分析を踏まえ、なぜ財政構造の硬直が進んで来たのか、客観的に評価できる情報を公開し、県民や県職員の積極的な参画を計りながら福岡県の未来に展望が持てるための改革を行わなければなりません。

  福岡県の財政状況の悪化の原因は、まさに地方財政の構造的な問題のためであり、戦後第2の地方財政危機をきっちりと総括しないまま、国と地方の財政構造の改革に取り組んでこなかったためといえます。「福岡県財政もバブルにおぼれてきた」と言わざるを得ません。歳出削減にむけて、事業の縮小を企画するのではなく、逆に公債発行を続け、また、それらを含めて職員や県民の合意形成の方法を模索してこなかった責任を明らかにしなければなりません。
  確かに、財政当局も平成8年10月「財政健全化指針」策定を行いましたが、県民や一般職員には財政状況は一切説明されず、歳出削減の方途としては、一律のマイナスシーリングばかりが強制されてきました。
  私たち県職員は、仕事をする必要があるのに昼休みになれば消灯される等我慢に我慢を重ねてきましたが、それでも人件費抑制を含む財政構造改革を行わなければならなくなった理由とはなんだったのかを、明らかにすべきではないかという意識があります。それは「税収の見通しが甘かった」ですまされる問題ではありません。財政悪化の要因をはっきりと分析し、その責任を明らかにすることが、県民や職員の信頼を得る道であり、このことがあってはじめて財政構造改革が進められるといえます。

(2) マイナスシーリングより緊急性の低い事業の中止・延期へ

 理念のない一律的なコスト削減は、単なる「行政サービスの質の低下」をもたらすだけです。「我慢の策」=マイナスシーリングより緊急性の低い事業の中止・延期へ

  財政課から「トイレットペーパーの1人当たりの必要量」の資料までが求められているといいます。財政課の仕事が、県政全般を見渡した財政方針の策定ではなく、「シーリングと資料要求ばかり」とやゆされるように、一般の職員には「予算要求の削減を進めるための査定を行うセクション」と認識されています。
  平成8年度以降「健全化指針」に基づき職員は歳出削減に努めてきました。これ以上のシーリング設定による歳出削減は、財政課自身も認めるようにもはや限界にきています。県単独事業では、事業そのものの削減が行われてきましたが、補助事業はむしろ増加傾向にあります。サマーレビュー(財政改革事業再点検)も事務経費の削減が行われるばかりで、事業の抜本的見直しを行うまでには至っていません。
  しかも、知事部局では行革大綱で示された目標(5%=562人)を大幅に超えて人員削減が進められようとしています。職員数は減少しながらも一方で事業は増え続けてきているという状況で、この面でも県民サービスの維持には限界が近づいてきています。緊急性の低い事業の中止によって、予算や職員定数の見直しを図っていかなければならないと思います。
  また、事業の見直しでは、将来の生活不安を引き起こさないように、県民の合意を前提に、行政サービスの低下につながらないものとしていかなければなりません。

(3) 県民への情報公開と説明責任の徹底=政策評価制度の確立

 県民への情報公開と説明を徹底し、県民参加型の政策評価制度の確立をめざさなければなりません。

 県職員が、財政状況も踏まえた政策決定にかかわっていけば、県民に対して政策立案から決定過程までの説明が可能になります。
 そして、この説明を徹底することで、計画中もしくは実行中の事務事業であっても、財政面からではなく、本当に県民にとって必要性があるか、県民の生活への影響はどうなのか、県民の判断が可能となり、事業についても大胆に見直すことが可能となります。そのためには、福岡県にも政策評価制度を導入し、その審議過程・結果を公表し、職員と県民との間で情報が共有できる体制作りを進めていかなければならないと思います。
 しかし、県民参加の仕組みをつくるということは、職員自らが「自分の仕事が何をめざしているのか」県民に対して説明する責任を求められることになります。その結果、当然のこととして、行政と職員に対してサービス水準の向上と効率化が求められます。

(4) 職員への情報公開の推進

 全職員に財政情報を公開し、積極的な職員参加を図りながら、将来への見通しを持った改革としていかなければなりません。

  予算編成方針は各職員に示されることなく、査定という手法によって予算編成が行われてきました。これは、政策施策の優先度ではなく、各事業課からの要求額を財政課の基準で削減していくという手法のため、職員は予算獲得のためのかけひきに終始させられ、県民のための県政運営、政策方針と連動した予算要求という本来の目的を見失わせてきた原因であると思います。
  個々の職員は、日々の業務を通じ県行政の運営に携わっているものの、県財政の状況、予算編成方針やその理由が示されないままでは、それぞれの立場で県政を見直すことはほとんど不可能と思えます。
  このように職員にすら情報は公開しないという福岡県の体質を改善し、財政についての情報も県民や職員に明らかにし、将来への見通しをしっかり持った改革方策を確立することが今問われているのです。

(5) 職員の県政参加の推進

 職員の知恵と工夫、積極的な県政運営への参画によって、福岡県の政策形成能力の向上と職場の活性化を図り、内外を取り巻く情勢や県民ニーズに的確に対応した施策の展開を行っていかなければなりません。

  地方分権の潮流は、確実に地方自治体の政策形成能力の向上を求めているといえます。特に、福岡県の厳しい財政事情からも、内外を取り巻く情勢や県民ニーズに的確に対応できる、施策の展開を行っていく必要があります。
  しかし、現在の県政運営は、まだまだ過去の経験主義や前年度踏襲主義に陥りがちであり、施策決定にあたっても従来のトップダウンに偏重したものから脱却できているとはいいがたい状況です。このことは、現状との整合性や的確性を欠く県政運営へと繋がりかねず、その結果、県民・職員への情報公開が進まず、真の意味での県民参加型の県政運営が出来ないという悪循環を招いてるのではないでしょうか。
  福岡県では、7割近くの職員が出先機関に勤務しているにもかかわらず、主要な権限や情報は本庁に集中しています。そのため、「職員の県政参加意欲の減退」「把握できる情報量の差による本庁と出先職員の意識のズレ」等が生じ、県庁全体では職員の政策能力の有効活用ができていない実態があります。県庁の活性化には、出先機関の約7,000人の職員を含めた積極的な県政運営への参画可能なシステムづくりが必要です。
  そのためには、まず管理職職員の意識改革が問われています。従来の指示・命令に終始する立場から、必要な情報や県政の課題等を、正確かつタイムリーに職員に伝達し、日常的な対話(コミュニケーション)によって、職員の県政参画意欲を引き出すような「コーディネーター型管理職」が求められます。同時に、職員の政策形成能力も問われています。積極的な職員の県政参加を実現するためには、上位に集中しがちな各種権限の委譲と情報公開が必要です。
  これらの前提に立って、職員一人ひとりが、仕事の意味や必要性を認識した業務遂行を目指し、管理職職員は、職員の業務遂行にあたっての日常的な支援と協力を行っていかねばなりません。
  こうした県政運営システムの改革によって、政策形成能力の向上と組織、職場の活性化が期待できることとなり、これまでの慣行とされていた行政・財政運営のルールまで、職員の知恵と工夫と参画によって改善することが出来ると考えます。

(6) 国に対する税財政制度改善要請
  税財政制度について、次のとおり国へ改善要請を行うよう知事に要求し、自治労としても取り組んでいきます。
 ① 行財政システムの改善
  ア 単年度主義を改め、翌年度への繰り越しを行える等行財政システムの改善
  イ 国庫補助・負担金の申請・交付手続きの簡素化
  ウ 国の関与の縮減・廃止、係争処理機関の独立性確保
 ② 景気回復と雇用対策の積極化
  ア 景気対策にかかる事業については、国の責任と負担による財源確保
  イ 保険・医療・福祉や環境対策など地域公共サービス分野をはじめ、具体的目標値を示した雇用創出・安定対策の推進
 ③ 地方税財源の拡充 ― 地方財政の確立
  ア 安定した地方税の確保と税の公平化の観点から法人事業税の外形標準課税を早期に実現すること。
  イ 消費税の内の地方消費税の税率を2%に引き上げること。
  ウ 奨励的補助金は基本的に廃止し、一般財源化を図ること。また統合補助金等を行い、自治体の裁量権の拡大を図ること。
  エ 従来型の公共事業を見直し、福祉・環境・都市基盤整備等の分野への重点配分と効果的執行を行うこと。また、国直轄事業を限定し、公共事業にかかる権限と財源を自治体に委譲すること。
  オ 自治体の課税自主権、地方交付税算定における自治体の参画体制の確立、地方債許可制度の廃止等地方財政制度の改革を進めること。
  カ 公債費負担についても地方交付税の算定基礎に加えること。

4. 県庁改革への提言

(1) 定数管理の抜本的な改革
  県は、今回の緊急財政改革において、職員定数の5%削減を打ち出しました。これは「単に人員削減により義務的経費を圧縮し財政建て直しを図る」という安直な発想であり、財政支出の削減方法と全く同じやり方です。
  抜本的な県行政改革がさけばれている中で、今、県に求められているのは、県民に責任を持った県政運営と事務事業を行う上で必要な人員を配置する「定数管理」の確立ではないでしょうか。
  現在の定数管理は、全て人事課が行っているため、各部、各課は自らの責任で業務量に見合った人員を配置する権限を有していません。その結果、業務量に大きなアンバランスが生じ、必要な人員が配置されていないために本来行わなければならない業務が滞留する、あるいは、責任ある執行が出来ないケースも生じています。
  このことの改善のためには、定数管理の権限を、より現場実態に近い部へ下ろす必要があります。そのことで、各部においては、業務量に見合った定数管理の自覚も生まれ、現場実態を踏まえた上で、本当のスクラップアンドビルド=業務の再構築が図られていくことにつながると思われます。
  また、現行の人事課の定数査定のために費やす無駄な時間と労力がなくなることは効率的行政運営の面からも大きなプラスです。
  人事課については、県全体の配置定数(条例定数)や知事の重点施策による機構改革などを所管するように改めるべきです。
  その場合、県職労のこれまでの定数闘争の改革も必要です。職場、支部、職能は単に自分のところの定数維持のみを追求するのではなく、部全体、県全体を見据えた上で、各部、各課と責任を持って、行政運営のあり方、必要人員についてどうあるべきかを念頭に定数闘争を行っていくことが必要です。また、県職労本部は、県全体の機構や定数配置について人事当局と協議していくこととなります。

(2) 管理職の資質向上と職員の意識改革
  県職労は、旅費問題の時から指摘し続けてきましたが、依然として管理職員の自覚が不足しています。今回の問題についても、「緊急財政改革本部」の方針を職員に説明し、職員の理解を求めなければならないと認識した管理職員が何人いたでしょうか。確かに出先の管理職員に情報が不足していることはあるにしても、「人件費カット」という前代未聞の負担を職員に強いているのに、職員への説明責任を放棄したような対応しか行わない管理職員があまりにも多く見受けられました。「今回の責任は財政課にある。自分には権限も責任もない。それなのに何故自分が3%カットなのか」という意識しかありません。
  管理職員が、県の方針を認識し、今後の県政のあり方について主体的に考え県行政に反映させて、職員とコミュニケーションを図り、職員の意見を当局に伝えていこうとする気概が全くといっていいほど感じられませんでした。「財政危機の責任は自分にはない」「自分も被害者だ」という感覚の管理職員では本当の意味での県庁改革は不可能です。
  行政ルートでの正確な情報の伝達という初歩的なことが未だにできていないことも明らかになりました。今回の財政危機を乗り越えて、展望の持てる県政をつくり上げていくためには管理職員の意識改革を行う必要があります。
  そのためには、過去の経験主義や前年度踏襲主義の指示・命令に終始する管理職から、必要な情報や県政の課題等を正確かつタイムリーに職員に伝達し、日常的なコミュニケーションによって職員の県政参加意欲を引き出すようなコーディネータ型の管理職が求められます。また、職員も仕事の意味や必要性を認識した業務遂行を目指し、積極的に県政運営へ参画していかねばなりません。

(3) 県議会の改革
  県議会の責任が明確にされなければなりません。未曾有の財政危機を迎えた責任は、執行部と同様に県議会にもあると考えます。しかし、この間の議論のなかで、議員報酬についての議会での議論はありませんでした。議員報酬が何年も引き上げられていないというのが理由のようですが、給与条例で制定されている職員の賃金をカットするという異例の条例案を審議するならば、当然のこととして議員報酬についてもカットすべきと考えます。
  21世紀を迎え、社会構造全体の改革が問われるなかで、県議会における改革や情報公開の徹底を図る必要があります。たとえば、古い派閥慣行としてある「議長・副議長のタライ廻し」は到底、県民の理解を得られるものではありません。早急に改善すべきです。
  職員組合活動への過度の干渉や職員の定数削減・賃金カットを強要する前に、県議会として本来行われるべき議論の充実や体質改善・情報公開を積極的に行うべきだと考えます。

(4) 知事と職員の信頼関係の構築
  県庁改革の実現にはまず知事のリーダーシップが問われます。知事のリーダーシップとはまず管理職員と十分意見交換を行い、信頼関係の上に立って、県政の課題を共有しその方向性を職員に指し示すことだといえます。
  知事の基本政策をまず管理職員が理解し、福岡県をどのように変革していこうとしているのかの意志統一が必要です。そのうえで各部が基本政策に基づいた行政方針を打ち出していかなければなりません。まず、「庁議」の改善が必要です。知事を始めとする三役と各部長のコミュニケーションが不足していると思われます。「庁議」の形骸化を改善すべきと考えます。そして、その内容を可能な限り職員に情報公開し、それぞれの部や課で「基本政策に基づく行政方針の確立」を実現していくことが求められています。
  そのためには、知事と職員の対話を可能な限り実施していく「場」の設定が必要です。
  今回の「緊急財政改革本部の設置」についても、トップダウン方式となっています。管理職員ですら地方財政危機に陥った原因と責任を共有できていません。少なくとも、管理職員がまず自覚し、今後の県政の展望を職員に問いかけ理解と協力を求めていく必要があります。

庁 議
 県政の重要事項を審議するとともに、諸施策の総合企画調整を行い、県政の効果的な遂行を図るために行われる会議。庁議は、知事が主宰し、構成メンバーとしては副知事、出納長、教育長、警察本部長及び企業管理者並びに土木審議監、各部長及び出納事務局長からなる。

(5) 分権型行財政システムの確立
  地方分権の時代には、行政の持つサービスの提供や問題解決の役割がますます重要となってきます。従来は国の施策の下請けで良かったものが、これからは県としての施策の立案・実施・管理に主体性と総合性・合理性が求められます。地域に密着した施策を展開するためには、県と市町村の対等平等の新たな関係構築が不可欠です。そのためには県の行政機構の改革、県と市町村の信頼関係の確立、広域的な総合計画・調整の必要性が求められています。
  福岡県の場合は、従来から本庁に権限が集中し過ぎており、出先においては市町村との調整を行う権限をもたされていないシステムとなっています。たとえば、地域において問題が生じた時に、住民や市町村が県に対して要望等を行った場合には、現在、地域における県の総合窓口がないため、結果としてたらい回しにされるケースが発生したり、県の出先機関には調整機能がないため、本庁の了解を待たないと何も回答ができない状況となっています。これでは、市町村や住民との信頼関係は構築できません。
  縦割り行政によって制度的疲労を来たしている行政組織を地域レベルで総合調整できるような「地域総合事務所」を設置し、同時に本庁と出先機関が連携できるような権限の委譲と情報の公開が必要となっています。

地域総合事務所
 県職労の自治研活動方針として、地域政策の策定や実施について、縦割り行政の弊害を是正するために、広域的な総合計画・調整機能を持った出先機関体制の改革の1つとして提起したもの。

(6) 新たな人事政策の確立
  県職労は、これまで人事異動闘争や差別人事反対闘争などを通じ、組合員の生活と権利を守るたたかいを組織を挙げて取り組んできました。その結果、今日では、昇任において男女間、職種間や、採用区分による格差は残っているものの、差別的人事については、ほぼ解消されています。一方で、県の行政運営や職員個人個人の働く意欲の観点から人事はどうあるべきかという議論を県職労として行ってきませんでした。
  本来、人事政策は、職員の「働き方」の問題であるとともに、行政への職員参画をどうすすめるかという点では、県政運営の根幹をなすものと言えます。今後、県職労が人事政策について、職員の県政参画や人材育成、さらには、「働き甲斐」の問題を含めて県当局に対し、問題提起していくことが必要になってきています。今の人事異動のあり方、新採職員、管理職を含めた職員の人事配置のあり方、さらには、派遣・出向問題など人事政策全般にわたりどうあるべきなのかということを、組合としても議論し、提案していかなければなりません。

(7) 公共事業の見直し
  土木建設事業の公共事業を担当している部署では、国の景気対策により年々事業量が増大し続け、人事配置が追いつかず現職死亡まで出るような過酷な労働を強いられています。公共事業推進のための公債費負担増が地材危機の原因になったということに、現場の組合員はやりきれない思いです。
  そして、緊急財政改革の一環として県単独事業、国の補助事業の区別なく見直しが行われることになりました。ところが、見直しにあたっては、一般財源からの持ち出しを極力抑え、県にとって有利な事業(補助事業)を実施し、総事業費としては抑制せずに実施していこうとしています。
  また、国の直轄事業に対する負担金については何ら明言されていません。県民にとっての必要性、地域の要望とその効果など検証したうえで、疑問がある事業については、国に対し強く見直しを要求する必要があります。
  公共事業に関しては、次の点で問題があります。
 ① 公平な立場での事業選定が難しいことです。事業そのものが政治的圧力に影響されやすいため、事業選定にあたっては優先順位の決定などルール作りが必要です。
 ② 地域の実情を勘案した事業の適正規模の問題です。地元企業の育成のためという名目のもと、工区を分割して発注する方法がとられています。これにより、職員への負担と諸経費が増加しています。
 ③ 財政状況が悪化している他県では見直しを検討しているなか、当県は陳情団まで出して事業を要請していることです。当局は「くれるものは全部もらう」という発想で、右肩上がりの財政運営で国の政策に追随しているのが現状です。

5. 平成11年度決算見込みを受けて

(1) 緊急財政改革の進捗状況
  経常収支比率が平成10年度決算で99%となり、緊急財政改革本部を設置し、ⅰ)事務事業の見直し、ⅱ)建設事業の抑制、ⅲ)人件費の総額抑制、ⅳ)収入の確保という4本の柱を基本に改善計画を立てました。平成11年度決算見込みでは、交付税の増額による影響もあり、92.7%となっています。
  事務事業の見直しでは、平成9年度より予算編成に先立ち、既存の事務事業を廃止・休止・縮小等再点検する「サマーレビュー」が行われています。多くは事務経費の削減ばかりで、抜本的な業務の見直しが行われないため、現場では不満が多く出ています。また、「サマーレビュー」で削減された後に予算査定時期に再度削られることもあり、事務経費が不足している職場も出てきている状態になっています。
  建設事業の抑制では、平成10年度に比べ216億円の減額となっているものの、公債費は、66億円の増加となっています。人件費の抑制では、昨年の人勧による一時金の引き下げ等により、昨年度よりも49億円の減額となっています。
  一方、地方税では、昨年度よりも67億円の減額となったものの、地方交付税が535億円の増額となっています。
  現在、決算見込みの概要が示された段階であり、詳細が示された段階で、全国情勢とも比較し、県の財政運営について財政分析をさらに進めながら、監視していく必要があります。

(2) 政策評価制度の導入
  福岡県は、昨年12月に行政評価システムに関する研究会を設置し、今年8月に行政評価システムの考え方を明らかにしました。福岡県の行政評価システムは、事務事業の企画立案・実施・終了の各段階において、中期的な視点に立って検証し、総合性の確保と成果重視の行政への転換を図ることを主目的としています。
  評価手法としては、行政の特殊性から定量的手法がなじまないものが多いので、その場合は定性的評価とされています。
  また、公共事業は既に再評価システムが導入されていること等から対象とされず、単年度事業や内部管理業務・ルーチン業務は除く事務事業について事務事業群評価(複数の部にまたがって構成される事務事業の集合体)と事業評価(事前・中間・事後…個別事務事業、既存の事業については中間評価から実施)を行うとされています。評価方法は、自己評価を行った後、行政評価会議(内部組織)で総合的な評価を行い、評価結果については予算編成・組織定数管理に反映させるとともに、今後の施策や事務事業の企画立案に活用するとされています。最終的には、評価会議での評価結果を年次レポート(白書方式)として、年度終了後にまとめて公表するとされています。
  ところが、既存の評価システムとの調整が十分に機能しないと、業務量が増大するばかりで形骸化してしまう可能性もあります。また、既存の評価システムが十分に機能していると過大評価されている傾向があります。このため、試行を重ねながら、問題点を改善しよりよい制度にしていく必要があります。


既存の行政評価システム

1)サマーレビュー(財政改革事業再点検)
  平成9年度から予算編成作業に先立って、歳出全般を厳しく抑制するために、既存の全事務事業の再点検を行う。
  事業予算の一定割合を削減することにより、事務事業の廃止・縮小、内容の見直しは進んだが、事務事業の効率性や有効性を精査する点では不十分。また、社会経済情勢の変化に対応した見直しには限界がある。
2)重点施策制度
  「福岡新世紀計画(長期計画)」及び同実施計画を点検するとともに、これらの計画の中で各年度に重点的に取り組むべき事務事業(重点施策)を明確にすることを目的とする。
3)予算編成
  各部各課の予算要求書に対して、県の収支の状況や国の予算措置等を踏まえ、事務事業の必要性・優先性・効率性・既存の事務事業との関連等を検討して、事務事業の絞込みと予算額の査定が行われる。
  限られた短い時間で全ての事務事業について検討されるため、重要課題にかかる事務事業についての検討が不十分であるとともに、単年度単位や個々の事業の査定なので、事務事業相互の関連づけや査定結果の企画立案へのフィードバックが難しい。
4)組織・定数管理
  組織管理は、行政ニーズに的確に対応できる体制を整備するため、県行政の総合性や一体性の確保、簡素効率化の追求等の観点から、毎年度組織の見直しを行う。
  定数管理は、事務事業や組織機構の見直し結果、新規行政需要に係る要員等を適正に職員定数に反映させるもの。
5)公共事業の再評価「公共事業再評価委員会」
  公共事業の効率性及びその実施過程の透明性の向上を図るため、事業の継続にあたり、必要に応じその見直しを行うほか、事業の継続が適当と認められない場合には事業を休止又は中止する。
  次のような国庫補助事業等について評価を行う。
 ● 事業採択後5年間を経過した後も未着工である事業
 ● 着工後10年間経過している事業
 ● 事業採択前の準備計画段階で5年間経過している事業
  また、新規の事業採択の段階において、「新規事業採択時評価実施要領」に基づき、費用対効果分析等による総合的な評価が実施されているほか、更に事前にアセスメントも実施されている。
6)目標による行政運営
  長期計画等の上位方針等を踏まえながら、所属長と職員が協力して達成すべき目標を明らかにし、事務事業終了後に達成又は未達成の原因や改善策を検討し、その成果を評価し、次年度の計画に反映させていく行政運営を毎年繰り返すもの。平成10年度から試行。