PFIは行政にどのように影響するのか

 

東京都本部/自治労都庁職員労働組合・副委員長 石田  誠


はじめに

 99年7月23日、先の通常国会においてPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ、Private Finance Initiativeの略で「公共サービスを民間資金主導で行う」こと)推進法が成立、同年9月24日施行しました。その後、本年3月10日にPFI基本方針が策定され、さらにPFIガイドラインが今秋作成される予定になっています。
 これより前に、昨年4月、石原慎太郎氏は都知事選挙に立候補する時にも、行革のためにPFI導入することを主張していました。
 そして東京都は、昨年7月、金町浄水場常用発電施設の建設と維持管理について、PFI導入を決定=業者選定しました。
 また、昨年より進められた建設局における、特定建築者制度による再開発事業については「日本版のPFI事業」とすることを、本年3月、建設省PFIワーキンググループが遡って認めました。
 本年7月には、都教育庁は、江東区夢の島の都立体育館に隣接して建てられる文化・スポーツ型施設と、八王子市川町の都立高校跡地に建てられる野外活動型施設についても、PFI方式の導入を含めて検討すると発表しました。
 このように、今後、さらに石原都政をはじめとして、全国の自治体においてもこれまで以上に、いっそうPFIが推進されることになっています。
 自治労都庁職は、こうしたPFIに関する状況が急速に進んでいるため、行政評価やPFIについての学習会の開催、「行政評価・PFI資料集」№1~23の発行(本年8月末現在)などを行い、8月23日付で自治労都庁職としてのPFIについての見解をまとめたところです。
 この自治労都庁職としての見解を踏まえながら、あらためて、PFI推進法及びPFI事業が行政にどのような影響をもたらすか、そして私たちが当面どのように取り組むべきかについての私の見解を、以下述べてみたいと考えます。

1. PFIの狙いは、国・地方自治体行政の全面的な委託を推進・合法化することにあるのではないでしょうか。
 (1) この法の第1条(目的)や第2条(定義)では、「民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用」して「道路、鉄道、港湾、空港、河川、公園、水道、下水道……市街地再開発事業、土地区画整理事業……準ずる施設」等の「建設、維持管理及び運営の促進を図る」ことが明記されています。
 (2) そして、企業の利益を上げさせるために、第16条(無利子貸付)で、国は「選定業者に対し、……係わる資金について無利子で貸し付けることができる」としています。
 (3) さらに、第20条(規制緩和)では、「国及び地方公共団体は、特定事業の実施を促進するため、民間事業者の技術の活用及び創意工夫の十分な発揮を妨げるような規制の撤廃又は緩和を促進する」ことが義務づけられています。
   つまり、ほとんどの行政を民間業者が行い、そのことを規制するような法や条例、規則などを撤廃されることも規定されているのであります。
   このことは、PFI推進者が「公共サービスが公務員によって行われる時代は終わった」「行政のやることは、監視と徴税ぐらいでよい。残り全ては民間で良い」「公務員は政策立案と監視だけやれればよい」等と述べていることからも明らかであります。

2. PFIがこれまでの第3セクター(1986年に制定された民活法)と「違う点」が強調されていますが、このことについて次のように整理すべきだと考えます。
 (1) 根本的には、PFIは「民活」の延長であって、根本的に異なるものではありません。
   「PFI法は本来民活法なのですが、民間活力という言葉が手垢どころか、不良債権にまみれて、ネガティブな響きを与えてしまうため、PFIという輸入概念に頼らざるをえなかった」等と記述されている(「PFI政府のアウトソーシング」)ことに注目すべきであります。
   つまり、PFIが「民活」「3セクター」とは、根本的なレベルにおいて全く別のものであるかのようにとらえることは、PFIの本質を歪曲することになります。
   また、「契約とルールの明確化」によって官民双方が、経済的なリスクの回避、分担をすることになったという「説明」もありますが、これについても否定せざるを得ません。
   なぜなら、第3セクターでも、入札時に定款などで明記さえすれば「契約とルールの明確化」を行うことはできるし、PFIでないとできないという根拠はありません。
 (2) PFIは、VE(ヴァリュー・エンジニアリング、民間事業者から設計や工法を受け入れる方式)システムを中心にして、進められようとしています。
   このVEの考え方は、設計、企画立案等のイニシアティブを民間コンサルタントなどに渡し、結果として、行政側の「政策立案、指導・監督、監視等」の能力と権限を奪い取るものであります。
   このことが、理念なき、行政の全面的な委託への道につながると危惧するところです。
 (3) PFIの契約期間が、維持管理(収束期)までの長期間参入することによって、一端落札した企業は、長期安定事業という、美味しい「市場経済」活動を行うことになります。
   なぜなら、PFIの契約は、20~30年という期間を想定しており、その3分の2以上は維持管理・運営であることも、忘れてはいけません。
3. また、PFIが「サッチャーリズム」「規制緩和」「グローバリゼーション」などの考え方を無条件に是として捉えられていますが、今日これらについて多くの問題が生じています。
  特にあらためて分権・行革・行政評価、金融ビッグバン・会計制度の大幅改正、セーフティネットなどとの関連で、組合や国民の中でもっと積極的に討議をされ、合意形成されるべきではないでしょうか。
4. PFI導入が必要だ、と叫ばれる背景として、財政・経済・金融という情勢に関わる問題があります。
  特に、金融ビッグバンによって、2000年3月決算期には、新会計基準が初めて適用され、2001年3月期からは、販売用不動産の評価減、有価証券の時価会計、退職給付会計が導入され、2002年3月期には持ち合い株の時価評価が、そして2005年までに上場企業に国際会計基準採用を義務づける方向に進む、という国際的なレベルでスケジュールが決まっています。
  こうした民間企業ベースの問題を、行政やPFIの問題に直接結びつけることに無理があります。
  また、こうした動きに対応すべく、その1つとして東京都などでは、バランスシート(中間報告)などを発表しました。この内容については、特に、人件費の削減、PFI等の委託による職員の削減、給料・退職手当・年金の削減の正当化=口実化していくことになり、自治労都庁職として批判的見解を表明したところです。
  このことを「行政評価」制度との関連でももっと追求しなければなりません。
5. PFI事業が本格化、全面的に発展すれば、現在の公務員・職員が定数として「余剰」になり、SPC(特別目的会社)に「出向」ないし「派遣」を強いられるであろうし、それにともなう労働条件・雇用条件は当然改悪されるのは明らかです。
  こうしたことについて、PFI推進者は、「組合のエゴだ」「首長がリーダーシップを発揮して(管理運営事項として)乗り切るしかない」等と述べています。
  また、こうした一連の動きを容認すべく、この1~2年公務員法・労働法、商法などの改悪が進められています。
  私たちは、PFI法が国会内においてほとんど論議されないまま、成立した経過を反省し、この法の具体的な実施については、全国の仲間との交流・調査・点検を十分に行っていかなければならないと考えます。
6. PFIは、国や自治体の行政の進め方を変える1つの手法として位置づけられているというよりも、その域を超えて「国のかたち、地方のかたち」を決めかねない重大な問題ではないでしょうか。
  特にPFIは、「許可、認可、承認、認定、確認、承諾、指定、証明」等々の行政エリアをことごとく潰して、「公共性、公益性、公務、公正」という壁を破り、「公務・公共サービスの場」をあらたに巨大な「市場」「投資の場」に化してしまうのではないでしょうか?
  そして、結果として、公務員が激減するばかりか、行政の基本が、PFI事業に参入する企業・資本に振り回されてしまうのではないでしょうか。
7. 組合としての今後の取り組みとして
 (1) 自治労都庁職としてこの1年間、学習会、関係資料の配付、当局の担当者らとの話し合いなどを積み上げてきましたが、今後、当局にPFIを一方的に導入させることはなく、上記1から6まで述べたような諸問題についてさらに突っ込んで話し合う(協議する)ことがまず第1に必要だと考えます。
 (2) 民間資本の活用がやむをえない場合は、第3セクター方式の導入がやむをえないと考えますが、第3セクター方式の従来の誤り、弱さ、問題点を総括したうえで、その改善のために、当局との話し合いを行いながら、住民(団体)にも積極的に参加してもらうべきでしょう。
   特に安易にゼネコンに依存することではなく、地域社会に密着した産業の育成を配慮しながら、市民が参加したものでなくてはなりません。そのために情報の公開、市民の意見や要望が反映できるようなシステムが定着できるようにしなければなりません。
 (3) 現在、政府、自治体、金融界、学会、マスコミなどで大きく取り上げられているグローバリゼーション、規制緩和、金融ビッグバン(会計制度の国際標準化)等々の問題を国民・市民のセイフティーネットとの関連からも十分な分析・調査をし、全国の行政に関わる人達や学者、NPOを始めとする多くの市民との交流を行っていきます。